犬井 正の環境学 2 
 農業政策と環境政策の一体化を

談笑しながらのウォーキング  10月24日、小雨が降る中、宮代町の東武動物公園駅から、埼玉合口二期事業の騎西領・中島用水路、 見沼代用水路沿いに菖蒲町の見沼管理所までの約15kmを歩いた。 埼玉県庁をはじめ農水省、水資源開発公団、関東農政局など、日頃、農業用排水を中心にした農村と農業の整備に携わっている 行政関係者によるウォークラリーに参加させていただいた。

住民の目線で見ようとする姿勢

 一般に県や国で行う事業などは、多額の資金を要するが、実施したことに意義があり、 その後のフォローアップには余り熱心ではないのではという先入観にとらわれていたが、 事業実施後も自分の目と足でそれを確かめたり、この経験を次の事業にどのように生かすかを考えている職員がいることを知って心強く思えた。 ウォークラリーそっちのけで、水の流れ具合や水路改修で生じた余剰地を整備してつくられた小径が歩き易いか、 周辺の耕地の利用状況、この事業が周辺農家にどのように受容されているだろうかなど、 すぐ討論の輪ができていたのが印象的であった。 自分たちが携わった事業を、職務としてではなく自らが楽しみながら利用者や住民の目線で見ようとする姿勢が感じられた。

用排水路合理化の功罪

用水路沿いを歩く参加者  この地域は先人の手により古くから河川改修や用排水路の整備が行われ、埼玉平野の美田地帯が形成されてきた。 そして、第二次世界大戦後は一俵でも多くの米がとれるよう用排水路の整備、 大規模区画による圃場整備など農村基盤の整備がなされてきた。 都市化・工業化により都市用水の需要も増大すると、農業用だけでなく都市用水の機能を併せ持つ用水路にしなければならなくなってきた。 それには漏水がある素掘りの水路を、三面コンクリート張りの直線用水路に改修したり、パイプライン化などが進められてきた。 その結果、効率化は果たせたものの農地空間は極度に人工的で単調になり、農地の生態系が破壊され、 生物の多様性が失われたのも事実である。一方で、農用地の近代化や生産性の向上を目指してきたのとは対照的に、 耕作放棄地や土盛りがされ宅地や土石置き場、廃棄物処理場などへ無秩序に転用されたスプロール化した姿も目についた。 農用地や森林は農林産物を生産する場であると同時に、表土の保全、水源涵養、 大気浄化さらに多様な生物の生息地であるように生命生存の基盤となる健全な生態系を維持する公益的で多様な価値を持っている。 しかし、農村基盤の近代化や効率化は、スプロール化とともに、生物の多様性の保全などの公益的な価値を失わせてしまったのも確かである。

環境に調和した農業政策の実現へ

 雨に煙る埼玉平野の一画を歩きながら何人かの参加者と討論し、これからは食料自給率の向上をはかると同時に、 環境と調和した「農業政策と環境政策の一体化」が大きな課題であることを実感した。

(この文章は、『埼玉新聞』1998年11月8日付「月曜放談」に掲載されたものを、インターネット用に編集したものです)