犬井 正の環境学 4 
 森林と市民を結ぶ全国の集い

森林の恵み  「みんなが支える森づくりをめざして」をテーマに、第4回「森林と市民を結ぶ全国の集い」が、 1998年12月5・6日、宮城県大和町の宮城大学を主会場に行われた。全国から400人余りの市民が参加し、 13の分科会と9のワークショップが行われた。ただし、埼玉県からの参加者が少なかったのが残念であった。 私は分科会「新しい森林政策を考える」のコメンテーターと、ワークショップ「落ち葉掃きから土を考える」に関わってきたので、 この集いの中で考えたことや学んだことを述べてみたい。

今まで存在しなかった「緑政」

 森林は単に林産物といった物質財を生産する場だけではなく、 環境的機能(公益的機能)をあわせもっていることは今や周知のことである。 しかし、これまで林業を主体とする「林政」はあったが、環境財であることを視野に入れた「緑政(森林政策)」は存在しなかったのではないだろうか。 政府が発行する白書の中にも、「林業白書」はあっても「森林白書」がないように。 従来、林政は森林所有者と行政にお任せしてきた観が強いが、市民とより強く関わる緑政は、市民が積極的に政策提言などにも関わっていく必要があろう。 林業地域では、林家をはじめとした林業経営体も、従来の木材生産一辺倒ではなく、環境保全型の人工林経営を行うことが要求されよう。

緑をみんなで保全していく努力が必要

 しかし、環境に配慮した経営はコストが高くつく。 こうした環境保全のためのコストを、林家にのみに押し付けるのではなく、国民全体が負担するような社会的支出を検討する必要があろう。 また、なによりも、国民一人ひとりが森林の環境機能を強く意識し、それに貢献する国産材を長く大切に利用していく意識改革が必要である。 私たちは、環境保全のためのコストを外部経済化した安価な木材の利用を差し控え、多少高くても環境保全に寄与している木材を選ぶ勇気を持つべきである。 里山林や平地林は落葉広葉樹林を主体とするため、より環境財としての機能が強くなるので、そのためのコストを国民全体で支出する仕組みを考えなければならない。 すなわち、今や、道路や電気や上下水道と同じように森林を社会資本として考え、それを政策として具体化していく必要があろう。生産者、流通業者、消費者、NGO、行政、企業などがパートナーシップを組み、 緑をみんなの力で保全する仕組みを創る時である。更新性である森林資源を適切な管理の下で、有効に利・活用することを各自が示し、森林資源の意義を強く訴えていく取り組みが、ますます重要になってくるであろう。

(この文章は、『埼玉新聞』1998年12月13日付「月曜放談」に掲載されたものを、インターネット用に編集したものです)