美術と翻訳—印象派絵画の日本における受容

阿部明日香

獨協大学外国語学部フランス語学科

ある文化圏の産物が、別の文化圏において受容される際、それは多かれ少なかれ元の文化的歴史的文脈から引き離され、受け手側の条件に合わせて変化します。アフリカやオセアニアの仮面が「彫刻」として近代西欧の芸術家たちに受容されたことや、浮世絵が19世紀ヨーロッパにおいて「日本美術」として受け入れられ、ジャポニスムという流行をつくりだしたことはよく知られますが、これらは非西洋の産物が、西洋の「美術」という文脈に合わせて受容されたことを示す例といえます。

一方、非西洋において西洋の「美術」はどのように受容されてきたのでしょうか。「美術」を受容するためには、それを成立させる一連のシステム¾美術館、展覧会、画商、批評など¾を共有する必要があります。日本において、「美術」という言葉は明治期に翻訳語として出現し、それと同時に、「美術」はひとつの制度としてそのかたちを整えていきました。そして、戦後は「文化立国」の旗印とともに「美術」という制度はより整っていったかのように見えます。

この発表では、日本における美術受容の例を示すものとして、今日広く一般の人気を集めるかに見える印象派絵画に着目します。印象派はどのようにして、日本で普及したのでしょうか。印象派受容を支える、日本における「美術」とはどのようなものなのでしょうか。印象派絵画がどのように日本独自の美術システムのなかで受容されていったのか、その一端を明らかにしたいと考えています。

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