Seminar Paper 99

Mika Okubo

First Created on January 9, 2001
Last revised on January 9, 2001

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The Great GatsbyとAmerican Dream」
Gatsbyの果たせなかった夢

    The Great Gatsbyの中でGatsbyは“He(Gatsby) was at present a penniless young man without a past, and at any moment the invisible cloak of his uniform might slip from his shoulder.”(p156) とあるように、一文なしから何の不自由のない裕福な暮らしができるようになるというAmerican Dreamを叶えている。Gatsbyはかなり裕福な生活をしているので普通の人ならば十分満足してしまいそうなものなのに、彼が望んでいたものは“裕福で豪華な暮らし”ではなかった。この本の中でGatsbyがどうしても手に入れたいと思って望んでいたたった一つのものは昔の恋人Daisyと昔のように元通りになって一緒になるということであった。一般的に言うAmerican Dreamは「アメリカに行くと全ての夢が叶う、または全ての夢が叶うアメリカの生活」という意味である。具体的に言うと「有名になりたい」、「成功したい」、「お金持ちになって裕福な生活ができるようになりたい」などのようなものである。それに対して、Gatsbyの場合は違ったのである。

    彼は多くの人が羨むような“裕福で豪華な暮らし”を手に入れたのに彼の目的はそんな生活をすることではなかった。彼の目的は裕福な生活を手に入れ、そしてDaisyの前に堂々と胸を張って現れ彼女をもう一度振り向かせるということだった。彼がなぜここまでしてDaisyに固執するのかということを説明するのに彼の理想によって作られたGatsby≠ナはなく、ごくまれに垣間見ることの出来る本当のGatsbyをまず説明することにする。

    彼は非常に無邪気な一面があり、Daisyの前にでると平常心が保てなくなり、落ち着きがなくなるのである。Nickの家にDaisyが遊びに来る際に少しでもよく見せようと入念な支度をしているところや、待ちに待ったDaisyとの約5年ぶりの再会の場面でも、彼の無邪気な面を著している。

Gatsby, his hand still in his pockets, was reclining against the mantelpiece in a strained counterfeit of perfect ease, even of boredom. His head leaned back so far that it rested against the face of defunct mantelpiece clock and from this position his distraught eyes stared down at Daisy who was sitting frightened but graceful on the edge of a stiff chair. "We've met before," muttered Gatsby. His eyes glanced momentarily at me and his lip parted with an abortive attempt at a laugh. Luckily the clock took this moment to tilt dangerously at the pressure of his head, whereupon he turned and caught it with trembling fingers and set it back in place. Then he sat down, rigidly, his elbow on the arm of the sofa and his chin in his hand. (p91)

    そして1人の女性を5年もの間ずっと思い続けることができるなど、とても純粋な心を持っているとも言えるのであろう。

    それとは反対に、中西部の出身と言いつつ、出身はサンフランシスコだと答えたのは単なる無知なのか、本当に何も考えていないのか良くわからないところもある。

    それらとは逆に彼は周りの人間に影では謎の多い人物と見られているようだ。Gatsby宅でのパーティである女性が言っている。“Somebody told me that they thought he(Gatsby) killed a man once.”(p48) この噂はよく立てられていた。これは彼が自分の過去を隠すために本当の事を語らないことから、こういう噂がでてきたのだろう。NickがGatsby本人から聞いた事を次のように語っている。“So he(Gatsby) made the most of his time. He took what he could get, ravenously and unscrupulously.”(p156) このように一時期は手段を選ばずに様々なことをしてきたのだろう。その結果として、現在のような裕福な生活を手に入れるようになったのだ。

    GatsbyがDaisyの身代わりになってひき逃げの犯人になろうというのは、一見するととても男らしい行動のように見えるが、これもDaisyの様子を見るとGatsbyの単たる自己満足に終わってしまったように読める。しかしこの行動は、自分の愛している人のために何かの役に立ちたい、何かをしたい、というGatsbyの気持ちの表れだったのだ。

    そして彼はお金もあり、自由も手に入れ本当に何の不自由もない暮らしをしているが、実際はとても淋しかったのではないのだろうか。お金や地位は手に入れたが彼が心から望んでいるもの、Daisyは最終的にも手に入らないし、“His parents were shiftless and unsuccessful farm people―his imagination had never really accepted them as his parents at all.”(p104) とあるように両親とは彼が自分の体面を守るために公では受け入れたくないだろうし、本当の彼を知っている人が周りにいなくて、彼には心休まる時がなかったのだ。パーティなどを開いている時は多くの人が招待されなくてもやって来て親しいか親しくないかは別としても一応周りには人がいたのだ。しかし、結局こうした人たちはGatsby本人自身には関心を持っていなかったのだ。だから彼が亡くなった時にもお葬式に参列してくれるような人がいなかったのだ。そういう彼だから過去に自分のことを思っていてくれたDaisyがすごく大切だったのだろう。人から思われる事があまりなかったので自分のことを大切にしてくれる人のことを彼は本当に大切にしたかったのだ。そしていつまでも彼女は変わっていないと信じ込み、過去のDaisyを現在も追い求め続けるようになってしまったのだろう。

    American Dreamを一応ではあるがかなえた彼がなぜ最終的に死に至ってしまうようになったのかというのは彼に問題点がいくつかある。

    まずは相手の立場や相手のことを考えない自己中心的なところがあったことである。N.Y.でのホテルでの会話である。“"Your wife(Daisy) doesn't love you(Tom)," said Gatsby quietly. "She's never loved you. She loves me(Gatsby)"”(p137) これはGatsbyがTomにいった言葉である。さらに彼はDaisyに向かって“Just tell him(Tom) the truth―that you(Daisy) never loved him―and it's wiped out forever.”(p139)と言い、Daisyに“"I(Daisy) never loved you(Tom)" she said, with perceptible reluctance.”(p139)と言わせたのだ。ここでのGatsbyはためらいながらこの言葉を言っているDaisyの気持ちを少しも考えていない。“He(Gatsby) wanted nothing less of Daisy than that she should go to Tom and say: "I never loved you"”(p116) とあるように、GatsbyはDaisyに“"I(Daisy) never loved you(Tom)."”という言葉さえ言ってもらえれば今までの苦労を清算できると、自分の事しか考えていないのである。Daisyが結婚した当初にTomを愛していたということさえも認めたくない、ずっと自分のことだけを思い続けていたのだと言ってもらえなければ気がすまないと言うのはとても自分勝手である。これはDaisyの気持ちが5年前と変わっていないと信じて込んでいるGatsbyの思い込み、勘違いが原因なのである。しかしこの思い込みはきっと彼にとっては一種の自己暗示で、彼の人生の中で1つの大きな支えになっていたことなのであろう。

    次のGatsbyの問題点は、Nickに“"You can't repeat the past."”(p117)と言われた時に、“"Can't repeat the past?" he(Gatsby) cried incredulously. "Why of course you can!"”(p117)と答えたこの言葉が1つの大きな原因となっているのであろう。「過去は繰り返すことができる。」と言い切ったGatsbyの信念は彼を破滅へと導いた大きな要因であろう。しかも“"I'm going to fix everything just the way it was before." he said, nodding determinedly. "She'll see."”「何もかも元通りにする」と言っている。過去は全く同じようには繰り返せないのである。過去を繰り返すことができるのならば、誰でも自分が幸せであった時、充実していた時に戻りたいと願うだろう。そうすればどんな人でも幸せに生きていくことができる。しかし、それが出来ないからこそ人は前に進んで行くことができるのだ。都合の良い時期に戻りたいと思って戻っていては成長も出来ないし、困難を打破する力を得ることができなくなる。辛い経験、嫌な経験を乗り越えてこそ、人の痛みがわかるようになり、成長し人にやさしく接する事ができるようになるのだ。現実味のない考えをいつまでも持っている事が彼の間違えなのだ。

    最後に原因と考えられるのは、GatsbyにとってDaisyを手に入れることが目標になってしまったことである。確かにDaisyが自分の家のパーティに姿を現すことはないかと待っていた頃や、彼女をNickの家に招待してもらった頃は、GatsbyはDaisyを愛していたのだろう。しかしN.Y.のホテルでTomと言い争いをしている場面では、GatsbyにとってDaisyは目的になってしまっているように読める。Tomは自分の妻を取られそうになったためにむきになってGatsbyの正体を暴いてやろうとでもいうように、GatsbyはTomに過去のことを探らればかにされたことを、彼女をTomから奪い取ることで彼に仕返しが出来るかのように、つまりは彼女が2人にとって争いの賞品のようになってしまったのだ。TomもGatsbyもDaisyを愛していると言うよりも、彼女を手に入れることで相手に敗北感を与えてやりたいと思っていたのだろう。

    以上に挙げた、GatsbyのDaisyの気持ちを考えない行動、彼の過去でも元どおりに繰り返すことが出来るという信念、そしてDaisyの事を愛していると言うよりも結果的にはTomとの争いの賞品のように考えてしまっている、これらの3点がGatsbyのAmerican Dreamを手に入れることは出来ても、幸せになれなかった原因であろう。

    前にも述べてきたようにGatsbyはAmerican Dreamのおかげでお金、自由、名誉そして何の不自由のない生活を手に入れることができた。これらは誰もが望んで得られるものではなく、これらを獲得できるのは、ほんの一握りの人たちだけなのである。これらを手に入れる事ができたGatsbyはかなりの強運の持ち主と言えるだろう、しかしその裏で彼が本当に望んでいたもの、Daisyは彼のものにはならなかったのである。お金、自由、名誉、そして何の不自由のない生活を手に入れることができていてもGatsbyは幸せであったとはいえないだろう。


    この小説の中では人間の無情さも表している。TomがMyrtleをひき逃げしたのはGatsbyだとWilsonにたきつけ、WilsonがGatsbyに復讐しようとしているのを知っていながら、それが当然のことかのようにしていたのはとても残忍な行動であったと言えるだろう。また、Gatsbyの家のパ−ティに招待されているわけでもないのに来ていた人たちは、自分達だけ楽しんでホストのGatsbyの存在さえも気にしていないような人々であった。しかも遊びに来て楽しんでおきながらGatsbyの葬儀には参列しようとはしないのである。彼の葬儀に参列したのはあれだけの人がいながら、ほんの一握りの人しかいないというのは、これも自己中心的であり、自分勝手で卑劣な行動だろう。Fitzgeraldはこの作品の中で、人間の嫌な部分を著している。綺麗事だけではなく、こうした人間のいやらしい部分を隠さずに書くというのはこの作品の良い所である。


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