Seminar Paper 2000

Takako Yamaoka

First Created on January 9, 2001
Last revised on January 9, 2001

Back to: Seminar Paper Home

「The Great Gatsby の女性達 」
彼女たちの物語

              

The Great Gatsby にはDaisy, Jordan, Myrtleという三人の女性たちが登場している。Gatsbyが愛するDaisy、彼女の友人で、Nickの恋人となるJordan、そしてTomの不倫相手であるMyrtle Wilsonである。作品中の彼女達の描写を分析し、The Great Gatsbyに現れる女性観について述べてみたい。この作品のなかで女性達はどのように認識され、表現されているのだろうか。               

まず、Daisyについて述べてみよう。彼女はこの作品のなかでGatsbyの理想の女性として描かれている。DaisyはかつてGatsbyの恋人であったがその後、Tom Buchananという富豪と結婚している。しかしこの結婚は彼女にとって幸福をもたらす物ではなかった。夫のTomは浮気を繰り返していた。そこへかつて恋人であったGatsbyと再会する。彼の変わらぬ熱烈な愛情に、Daisyは心を動かされる。Daisyは結婚している身でありながらGatsbyに心を動かし、彼を破滅へ導くことになってしまう。                

DaisyはGatsbyにとって“the first "nice" girl he had ever known”(p,155)と描かれているように、理想の女性であり続けた。彼女の愛を手に入れるために、彼は財産をつくりあげた。彼の人生の目標はDaisyであったといえるだろう。二人は、Daisyが18歳の時、Louisvilleで最初の出会いをしている。このとき二人は恋人同士であったが、Gatsbyが戦争に行ってしまい、とり残されてしまったDaisyはTomと結婚をする。これはGatsbyにとっては裏切りである。

He came down with a hundred people in four private cars and hired a whole floor of the Seelbach Hotel , and the day before the wedding he gave her a string of pearl valued at three hundred and fifty thousand dollars.(p,80)
とあるように、Tomは相当な富豪である。彼女が彼と結婚したのも、彼が富豪であったからと考えられる。彼女はTomとの結婚を決意したが、結婚式の前日になり、泥酔した彼女は気が変わったと言い出す。  
She groped around in a waste-basket she had with her on the bed and pulled out the string pearls. " Take 'em downstairs and give 'em back to whoever they belong to. Tell 'em all Daisy's change' her mine. Say 'Daisy 's change' her mine !' " (p,81)
彼女は、恐らくGatsbyからのものと思われる手紙を読んで、このような動揺した状態になってしまう。しかし結婚式は、無事に行われて彼女はTomの妻となった。二人は式の後、旅行に出かけている。その旅行から帰ってきたDaisyの態度はまた、以前とは違ったものであった。Jordanによると“ I thought I'd never seen a girl so mad about her husband ”(p,81)というように、彼女はいつでもTomの所在を気にしていた。しかしその後、Tomは愛人を作るようになり、二人の関係は悪化していった。そこに、Gatsbyがふたたび現れた。                

二人はNickの協力で、再会を果たした。初めは、久しぶりの再会にGatsbyもDaisyも動揺していたようだったが、Daisyはまた、昔の感情を思い出し、“Daisy's face was smeared with tears and when I came in she jumped up and begun wiping at it with her handkerchief before a mirror."(p,94)というように感激の涙を流している。彼女はその後もGatsbyの家に来たり彼の主催するパーティーに来たりと、彼との関係を保っている。しかし、Gatsbyが“I feel far away from her . It's hard to make her understand.”(p,116)と語っているように、彼女が以前の気持ちをまったく思い出して、Tomとの結婚を清算し、Gatsbyの元へ戻ってきたわけではない。彼女は自分の生活を壊さないようにしながら、Gatsbyとの関係も続けている。彼女は自分で決断を下そうとはせず、事態が進んで行くのに身を任せたままである。                

二人の関係が破綻するのは、Daisy、Gatsby、Nick、Jordan、Tomの五人での昼食会のときである。彼女は、Gatsbyに対する気持ちを夫であるTomの前でも、隠そうとはしない。彼女は、自分のそのときの感情のままに行動してしまう。その結果、二人の関係がTomの知るところとなってしまった。    

Their eyes met , and they stared together at each other, alone in space. With an effort she glanced down at the table. "You look so cool," she repeated. She told him that she loved him, and Tom Buchanan saw. He was astonished. (p,125)
五人はそれからニューヨークのPlaza Hotelの一室に移り、そこでDaisyをめぐってGatsbyとTomが言い争いを始める。Gatsbyは次のように言って、二人の結婚と彼女のTomへの愛情を激しく否定する。
“She never love you, do you hear ? ”he cried. “She only married you because I was poor and she was tired of waiting for me. It was a terrible mistake, but in her heart she never loved anyone except me !" (p,137)
   しかしDaisyが実際、彼が考えるような気持ちになったことはなかった。彼女は、Gatsbyと同じようにTomのこともかつては愛したことがあった。しかし、Gatsbyはその事実を認めようとせずに彼女を責めた。そして彼女は“Her eyes fell on Jordan and me with a sort of appeal, as though she realized at least what she was doing−and as though she had never, all along, intended doing anything at all”(p,139)という態度をとる。これは彼女が、自分の行動に対する無責任さの現れである。彼女は自分の行動が、どのような結果をもたらすかということを考えてはいないし、自分が招いた事態であるのにNickやJordanに助けを求めるような視線を送っている。彼女がTomとの生活を続けながらもGatsbyとの関係も持ち続けようという、自己中心的で感情的な行動をしたために、Gatsbyを深く傷つけることになった。               

 それから彼女はホテルからの帰り道、事故を起こしてしまう。Gatsbyの車で、道路に飛び出してきたTomの愛人であるMyrtleをひき殺してしまう。その事故を自分が起こしたことにしようとするGatsbyに連絡もせずに、次の日には逃げるように旅行に行ってしまう。この事件が原因となり、Gatsbyは激情にかられたMyrtleの夫、Wilsonに殺されてしまうがそれでもDaisyは何も言ってこない。Daisyは最後までGatsbyを翻弄しつづけた。

Jordan BakerはDaisyの古くからの友人で、語り手Nickの恋人になった女性だ。彼女とNickはDaisyを介して出会う。二人が最初に会ったのは、Tomの家での夕食会だった。彼女はプロ・ゴルファーで活発な女性である。彼女の容姿については “She was a slender, small breast girl with an erect carriage which she accentuated by throwing her body backward at the shoulders like a young cadet.”(p,15)と描写されていて、これは、彼女の勝気さを表している。彼女はまた、その食事の席で初対面のNickに対して“Tom' got some woman in New York”(p,19)と他人の家庭の問題について発言し、“She might have the decency not to telephone him at dinner-time. Don't you think?”(p,20)と皮肉を言っている。                

また、彼女の性格の特徴について、Nickが次のように述べている。

 Jordan Baker instinctively avoided clever shrewd men and now I saw that this was because she felt safer on a plane where any divergence from a code would be thought impossible. She was incurably dishonest. She wasn't able to endure being at a disadvantage, and given this unwillingness.....(p,63)
また、それに続くJordanとNickの車の運転に関する会話も彼女の性格を表している。
"You're a rotten driver," I protested. "Either you ought to be more careful or you oughtn't to drive at all." " I'm careful" " No, you're not." "Well, other people are," she said lightly. " What's that got to do with it ? " "They'll keep out of my way," she insisted ."It takes two to make an accident " "Suppose you met somebody just as careless as yourself " "I hope I never will"(p,63)
この二つの描写から分かるのは、彼女が自己中心的な考え方をしているということだ。Nickの語る彼女の姿は、自分に有利な事だけを選んで、不利なこと・嫌なことを避けて行動している。彼女はそれを本能的に(instinctively)行っている。彼女は頭で考えて、計算してそのような行動をとっている訳ではなく、自然と身についたものとして行っているのだ。また、運転に関する会話から読み取れることは、自分が乱暴な運転をしていても周りに人が気を使ってくれる、という自分勝手な、楽観的な考え方である。彼女の発言には、また、自分の行動に対する責任感が感じられない。                

JordanとNickは、DaisyをめぐるGatsbyとTomの言い争いに立ち会っていた。その後、Daisyは交通事故を起こし、動揺して家に帰ってくる。JordanもDaisyの家にいたのだが、彼女はその次の日にNickに電話をかけてきた。その電話のなかで“‘I've left Daisy' house,' she said. 'I'm going down to Southampton this afternoon’”(p,162)といっている。この発言にNickは戸惑っている。Daisyを心配して一睡もしないでいるGatsbyを気にかけて彼は、眠れない夜を過ごした。それに対してJordanは、Daisyの友人でありながら、彼女を気遣う様子も無く、逃げるように遠くへ行ってしまおうとしている。彼女は面倒に巻き込まれて、責任を負いたくないのだ。それに続く会話では、“‘You weren't so nice to me last night.’‘How could it have mattered then?’Silence for a moment. Then−‘However-I want to see you.’”(p,163)と、彼女は昨日の騒ぎのことは触れずに、彼が自分に冷たかったことを責めたり、会いたいと言ったりしている。この言動にNickは嫌気が差し電話を切ってしまう。彼女の行動は配慮に欠け、自分の事しか考えていないように見える。彼はこれがきっかけで彼女に対する気持ちが変わってしまう。彼女はその後すぐに、他の男性と婚約をすることとなる。               

 DaisyとJordanは性格や結末が同じような描かれ方をしている。彼女達は二人とも、自己中心的な考え方と行動をとる人間であると描かれ、そしてその結果として最終的に何かを失うという結末を迎えている。Daisyの行動はGatsbyを傷つけ、裏切り、彼の愛情を失ってしまった。さらに、彼が殺される原因を作ったのも彼女だ。一方、Jordanもまた自分の事しか考えていない行動をとり、そんな彼女に愛想をつかしたNickは彼女の元を去っていき、彼女は彼の愛情を失ってしまう。彼女達の自己中心的な行動は、結局自分達の不利益を招く結果に描かれている。                

Tomの愛人であるMyrtle Wilsonは最も悲劇的な女性だ。彼女は愛人のTomといずれは結婚できるものと信じているが、彼にそんな気などまったく無い。彼に嘘をつかれていることにも気がつかないでいる。Tomにひどい扱いを受けながらも彼の言葉を信じている。しかし浮気に気がついた夫に部屋に幽閉され、そこから逃げ出したところDaisyが運転する車にはねられて死んでしまう。  

彼女は「女性的」な特徴をもった女性として描かれている。彼女はTomの愛人という肉体的な存在として登場し、また肉感的な描写をされている。    

She was in the middle thirties, and faintly stout, but she carried her surplus flesh sensuously as some women can. Her face, above a spotted dress of dark blue crepe-de-chine, contained no facet or gleam of beauty but there was an immediately perceptible vitality about her as if the nerves of her body were continually smouldering.(p,29.30)
彼女はまた、自分の感情を上手く抑えられない。Tomと言い争いをして、感情的になって思わず彼の前でDaisyの名前を連呼して、彼の機嫌を損ねて殴られてしまう。 Some time toward midnight Tom Buchanan and Mrs. Wilson stood face to face discussing in impressing voice whether Mrs. Wilson had any right to mention Daisy's name . "Daisy ! Daisy! Daisy!" shouted Mrs. Wilson. "I'll say it whether I want to! Daisy Dai−"                

そして、その後妻の浮気に気がついた夫のWilsonに自宅の二階に閉じ込められてしまう。夫のWilsonはもう、その土地から離れようと決心していてその日まで彼女を外に出さないことにしていた。彼女は、二階の窓から立ち寄ったTomたちの姿をみた。彼女はTomの車に乗っていたJordanをTomの妻Daisyと勘違いし、彼女に嫉妬の眼差しをむける。その表情は、激しい感情で我を忘れ、放心状態になっていた。

So engross was she that she had no consciousness of being observed and one emotion after another crept into her face like object into a slowly developing picture. Her expression was curiously familiar−it was an expression I had often seen on women's face but Myrtle Wilson's face it seemed purposeless and inexplicable until I realized that her eyes, wide with jealous terror .....(p,131)
                  Myrtleは激情にかられて、自ら命を落としてしまう。彼女は夫Wilsonとの言い争いの後、道路に飛び出している。“A moment later she rushed out into the dusk, waving her hand shouting”(p,144)とあるように彼女は、何かを伝えようとして車に近づいていった。Gatsbyの車をTomのものと勘違いしていた彼女は、Tomに助けを求めて飛び出していったのではないか。しかし、実際はDaisyが運転していた車にはねられて死んでしまった。感情の赴くままに道路へと飛び出して事故に遭ってしまう。  

このようなMyrtleの描写は、一般的に「女性的」であるといわれるイメージを持っている。女性は精神的であるより身体的存在であり、理性的ではなく感情的に物事を判断する、というイメージによってMyrtle は描かれている。その例として、Nickは嫉妬に身を震わせている彼女の様子を、“it was an expression I had often seen on women's face”(p,131)と表現している。彼の目には、女性はいつも嫉妬をしている存在のように映っている。              

Daisy, Jordan, Myrtleという三人の女性の姿を見てきたが、その特徴をまとめてみよう。一つは、自己中心的であること、もう一つは自分が起こした問題に対する責任能力がないこと、そして感情的であることの三つが挙げられる。言い換えれば、彼女達はわがままで、向こう見ずで気ままな存在として描かれている。

わがままで向こう見ずであるということは、周りのことは気にとめずに自分の欲求に従って行動するということである。つまり彼女達は他人からは予測できない行動をとるということである。彼女達の気ままな行動は、誰にも予想がつがず、また思い通りに動かすこともできない。これは運命や現実と同じ性質のものである。運命や現実もまた人の予測や意志を裏切るものである。この作品はGatsbyが現実や運命を自分の意志で、思い通りに動かそうとするが、結局は実現しないまま身を滅ぼすことになってしまう物語である。DaisyのGatsbyに対する行動も、いつも彼の期待を裏切り、彼を傷つける結果になった。他の登場人物たちも運命や現実の翻弄されている。彼女達の気ままな行動は、運命や現実と同様にドラマを動かしている。DaisyがGatsbyを裏切りTomと結婚したために、Gatsbyは財産を作ろうとし、二人が再会し結婚している身でありながらDaisyが心を動かしたために、Gatsbyは身を滅ぼすことになった。

この作品のなかで描かれるわがままで、気ままに行動する女性達は、現実や運命といった人の思うに任せないものの象徴として描かれていると思われる。作者は女性を理性では理解しきれないもの、意志では制御できないものと認識していて、このように運命や現実と近い存在として描いたのであろう。


Back to: Seminar Paper Home