Seminar Paper 2002

Yoko Komagata

First Created on January 29, 2003
Last revised on January 29, 2003

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Adventures of Huckleberry Finnと人種差別問題」
〜自由な生き方をするHuckはどう変わったか〜

    Twainは文明化に染められていないHuckの黒人への態度の変化・成長を描いた。
    Huckは一見、黒人奴隷賛成者に見えるかもしれない。しかし、それはHuckがそういう時代に生きた人間の一人だということだけである。HuckはJimと一緒に旅をすることでJimを一人の人間として、友人としてみることができるようになった。Jimをただのゲームの駒としてみるTomとは違い。実際、Huckもこの本のその他の登場人物と同様にJimを黒人奴隷としてみていただろう。しかし、その他の登場人物とHuckの違う点は、旅を通して、Jimを人間として見ることができたことだ。HuckがJimを一人の人間としてみることができたのは、Huckがcivilizeされていない“nature”だからだと、私は思う。もちろんHuckは他の人間同様、最初はJimのことを黒人奴隷としてみていただろうし、そういう概念はなかなか捨てることができなかった。しかし、"I'll go to hell."といってJimを助けることを決意したときには、少なくともJimを一人の友人としてみており、明らかにHuckのJimへの見方に変化が見られる。TwainはこのようにJimを奴隷でなく友人としてみることのできた、成長したHuckを描いたように思う。 また、Mark Twainはハックとトムを対象的に描くことで文明(civilize)と自然(nature)を対象的に描いた。
    ハックは自然・自由な人間で、教養を植えつけられることを嫌うため、黒人奴隷に対する概念はあっても、結局それを捨て、ジムを助けよう(黒人奴隷の概念を捨てる)という考えを持つことのできる人間である。(=nature) ハックは、civilizeされてない人間だからこそ、自由な人間だからこそ、そのような、ジムを助けようという、反黒人奴隷制度的な考え(本人はそのような英雄的な考えも持ってないが)を考えることができたのではないか。
    一方、トムはcivilizeされた人間(文明人)である。教養を植えつけられており、盗賊ごっこなどのゲームでは「これはこういうもの」というルールを作りたがる。そのため、黒人とはこういうもの、という概念も捨てられない。だから、トムの中には黒人は働いて白人はただ監視するだけ(38章)、という概念は残る。トムが、" 'I'll help you steal him! ' " (p. 248) といったのも実はジムを助けたいためではなく、自分が面白いゲームをこれからするため、名誉を得るため、という理由だった。そして、その中でも面倒な計画を立て、「これでなくてはいけない」、というルールのもと救出作戦を実行する。それもこれも、自分の名誉を得るためであり、これこそ文明人なのではないか。このように、筆者はトムとハックを対象的に描くことで、文明人と自由人を対照的に描き、"sivilization"と書くことによって、文明化を批判的に描いたのではないか。

    この二人の違いが、黒人奴隷という考えを捨てられるかどうかにつながると私は考え、Huckは自由人であったからこそ、黒人奴隷という概念をまったく捨てることができたとは言わないまでも、少なくともJimを一人の人間として、友人としてみることができたのではないかと、考える。 You can't learn a nigger to ague. "(p. 88) Huckが言ったこの言葉はあきらかにJimを“黒人”としてばかにした言い方だ。しかし、15章に入り、Huckは気楽な気持ちで黒人をからかうつもりで(ここでもHuckはJimをただの黒人としてみている)、ジムをからかったが、"En all you wuz thinking 'bout wuz how you could make a fool uv ole Jim wid a lie. Dat truck dah is trash; en trash is what people is dat puts dirt on de head er dey fren's en makes 'em ashamed. "(p. 95) とJimに言われ、自分の中にJimを人間としてではなく“黒人”として扱っていたことに気づき、恥じる。そこで、"It was fifteen minutes before I could work myself up to go and humble myself to a nigger. " (p. 95) とJimに誤る。ハックの中に黒人に対する奴隷制度の概念はあるが、それをハックは乗り越えジムを本当の友達としてみることができた。(謝っても後悔しなかったといっている)確かに、ジムを馬鹿にしていた部分だが、明らかに違うのは、ジムに申し訳ない気持ちが芽生え、謝りにいたったことにハックは後悔しなかった。まったく黒人奴隷に対する意識がなくなったとはいえなくとも、ここを境に、ハックのジムに対する見方は変化をしている。
    "He's white. " (p. 99) 黒人を奴隷から解放する行為など神にそむく行為だと悩み、ジムを密告することを決意したが、できなかった。ハックにとって、ジムを助け出すことより、密告しジムを奴隷制の元へ返すことのほうが勇気のいることだった。ハックはジムを逃がすことは悪い行為だと思いつつ、ジムを密告することができなかった。それはハックの中にジムへの友情が芽生えたからだ。
    Twainは、Huckがこの冒険を通して人間的に成長していく姿を描いた。
    "I do believe he cared just as much for his people as white folks does for their'n. It doesn't natural, but I reckon it's so. "(p. 170) Huckは、Jimの家族観について聞き、Huckは黒人も白人と変わらず、家族を思う気持ちは一緒だと感じる。Dukeとkingが出てきた場面については"I'm a nigger. It was enough to make a body ashamed of the human race. "(p. 178) と、この詐欺師達と同列に思われるくらいなら、自分はniggerのほうがましだ、といっている。この二つの言葉から、Huckは黒人でも人を思う気持ちは一緒だし、白人でも下劣なやつはいることを悟り、人種差別の無意味さを感じたのではないか。
    そして、Huckは "I'll go to hell." とJimを助け出すことを決意したのだろう。

    一方、TomはnatureなHuckと違い、civilizeされた文明人であるといえる。Tomが"I'll help you steal hem!"などと言ったときは、Tomはやっぱり英雄的存在なのか、と思った。が、まったくJimを助けたいため、反黒人奴隷主義者とかそういう考えではなく、ただ面白そうなゲームだから、名声を得たいから、という理由だった。そして、ジムの救出を難しいものにし、「こんな面白い仕事(ジムの救出劇)はない、この仕事を一生やっていたい。」などといったり、自分が言い出したのにもかかわらずジムに働かせたりして、Jimの上に立って黒人を支配している。また、"Tom said all women was just so. "(p. 291) などといい、黒人に対してだけでなく、女性に対しても支配的な考えを代弁している。(Huckはこの言葉に疑問を抱いている=反文明的)このようなTomの考えは白人男性が支配するこの時代の南部の象徴であり、civilizeの象徴である。このような人たちは、Huckのように黒人奴隷の概念を超えることができない。
    これが、natureとcivilizeの違いである。

    それではTwain自身は黒人奴隷賛成者なのか?この本の中にはたくさんの黒人奴隷概念が植えつけられた人物が登場するが、Twainはどういう意図でこれらの人物を描いたのか。

"'Good gracious! Anybody hurt? ' 'No'm. Killed a nigger. ' 'Well, it's lucky; because sometimes people do get hurt. "(p. 243) "I tell you, gentleman, a nigger like that is worth a thousand dollars" (p. 313)

など、niggerはpeopleでないような発言や、一見黒人をかばっている医者でさえ、Jimに値打ちをつけている。黒人奴隷制度に対しての考えが染み付いた市民の言葉があちこちに出てくるが、これは一般的な市民の言葉であって、これが南部での考えなのだと、Twainは言っているのであり、少なくともTwain自身はこのことに対して賛成意見なのではなく、皮肉、批判として使っているのではないか。
    先に出したHuckの言葉で"You can't learn a nigger to ague. "(p. 88) とあり、これは一見人種差別的な言葉とも読めるが、じっくり読むとこのシーンは、Jimは自分の意見をはっきり言い、説明していることに説得力がある一方で、Huckは"miss the point"としか言っておらず、自分の意見を言っていない。自分の意見をはっきり述べているJimは知的に描かれており、civilizationに必要な人物として描かれている。にもかかわらず、最後にハックの言った言葉は"you can't learn a nigger to ague"。これは逆に黒人を賢く見せて、白人にこの言葉をわざと言わせた皮肉と取れる。
    "Jim he couldn't see no sense in the most of it, but he allowed we was white folks and knowed better than him; so he was satisfied, and said he would do it all just as Tom said" (p273) これは、一見JimがTomの支配下でTomのいいように使われているだけの黒人ともとれるが、逆にJimが白人に受けのいい黒人になりすまし、Tomの遊びに付き合ってあげているようにも見える。TwainはTomに理不尽な行動をさせ、読者にTomの行動はばかげている、と意識的に描くことによって、逆に黒人に操られている白人を表現している。白人が黒人を支配しているように見せて、実は白人が黒人に踊らされていて、しかも白人はわけのわからぬゲームに夢中で、馬鹿さをアピールしている、Twainの、黒人を支配する白人へのユーモアある皮肉である。
    このようにTwainは、確かに多くの黒人奴隷主義者的な発言を登場人物たちにさせているが、これはこの時代の南部の象徴であり、Twainが皮肉として使っているもので、賛成ではなく批判である。Twainは南部の人たちの一般の考え方を代弁して(批判して)いるだけであって、決して賛成者とはいえない。

    そのほかにも南部の意見を代弁している箇所はいくつかある。
    "He said it was the best fun he ever had in his life, and the most intellectual; and said if he only could see his way to it we would keep it up all the rest of our of lives and leaves Jim to our children to get out; " (p. 273-274) と、TomはJimを助けている最中にこんなことを言っている。TomがJimを助けるために救出作戦を行っているわけでなく、自分の名誉のため、ゲームのために言っている発言でcivilizeされた人間の言っているシーンであるが、これも南部の人たちが、「黒人を解放するのは子供たちの世代でいいのではないか」という意見をcivilizeされたTomが代弁している。

"Your mistake is, that you didn't bring a man with you; that's one mistake, and the other is that you didn't come in the dark, and fetch your mistakes. ~ The pitifulest thing out is a mob; that's what an army is - a mob ~ If any real lynching's going to be done, it will be done in the dark, Southern fashion; and when they come they'll bring their masks, and fetch a man along. "(p. 161-162)

    このアーカンソー事件いついてもシャーバンが言っていることにTwainも共感していて、南部で始まった特有の悪習"lynch law"を「リンチするものは臆病だ」といって批判している箇所である。また、ジムがリンチに合いそうになった場面でも"because the people that's always the most anxious for to hang a nigger that hain't done just right, is always the very ones that ain't the most anxious to pay for him when they've got their satisfaction out of him. " といっていて、無責任な人に対する批判である。

     このように、一見、人種差別主義に見えるこの本も、Twainが南部の人の意見を代弁し、皮肉を言うことで、この黒人奴隷制度を批判しているのである。Twainは最後の章でもHuckに"sivilize"と言わせたことで文明人を批判すると同時に、その人の中に植えつけられた黒人奴隷制度、lynch lawなどを批判していたのではないだろうか。  最初に述べたように、確かにTwainは一見黒人奴隷賛成者かと思う。しかし、Twainがあからさまに黒人奴隷に対する概念を植え付けられた人々にこの本の中でそのような発言をさせたのは、この時代の象徴を表に出すことが目的だったのではないかと思う。そして、civilizeされた人間とそうでない人間を対象的に表すことで、civilizeされていないHuckは黒人奴隷に対する概念を乗り越えることができる、ということを表したかったのだと、私は思いたい。Twainが黒人奴隷賛成者か否かという疑問は、このような点から、Twainが黒人奴隷の概念を表現したのは、この時代の一般市民の概念を代弁したかったため、natureであるHuckが黒人奴隷の概念をこえるため、であり、Twainは黒人奴隷賛成者ではない、といえる。


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