Seminar Paper 2003

Natsuko Saito

First Created on January 28, 2004
Last revised on January 28, 2004

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「FrankとHelen」
〜はがゆい二人の恋愛を通して〜

    私の考えるところでは、ヘレンは初めナット・パ−ルに恋をしていたのだと思う。それは、ナットから暫く連絡がこない時期にヘレンが落ち込んでいたということからも感じることができるだろう。しかし、最初に二人が肉体関係を持ったとき、ナットが自分に対して本気ではないということを悟って以来、ナットとの付き合いを続けても幸せにはなれないと考えるようになった。ヘレンの様な受身型の女性は相手がヘレンを愛して二人の恋愛を発展させてくれるような男性でないと、結ばれるのは難しいのではないかということを、このアシスタントを通して私は感じた。女性は(全員がそうとは限らないが)常に自分の気持ち、相手を好きか好きでないかということと同時に、相手が自分を本当に愛しているのか、幸せにしてくれるのだろうか、この人と一緒にいても良いのだろうかと、客観的に一人の男性として見て試行錯誤を繰り返すものだと思う。特にヘレンの様な若くて人生経験の浅い女の子は、自分自身よりも、相手がどれだけ愛してくれるかということに重点を置く傾向があると思う。ナットと電車で一緒になる場面で、レンはナットに異様に冷たく接している。

Helen Bober squeezed into a subway seat between two women and was on the last page of a chapter when a man dissolved in front of her and another appeared; she knew without looking that Nat Peal was standing there. She thought she would go on reading, but couldn’t, and shut her book. “Hello, Helen.”Nat touched a gloved hand to a new hat. He was cordial but as usual held back something−his future. He carried a fat law book, so she was glad to be protected with a book of her own. But not enough protected, for her hat and coat felt suddenly shabby, a trick of the mind, because on her they would still do.(p. 11)

   この様なヘレンの態度から、ナットに対して気はあるが、私にただからかい半分で付きまとってくるだけだ、避けなければならない、好きになってはならないと意地になっていることが伝わってくる。本文では、自分もナットも良い恋愛に発展させる気は無いとヘレンの気持ちが表現されているが、本当はその気が無いのはナットの方で、ナットの軽い気持ちにヘレンは気付き、身を引こうとしているのではないだろうか。ヘレンに何の気も無ければここまでかたくなにナットを避けようとはしないはずだ。お互いが本気でなければ、冷たく接しなくても自然と関係は終わるものではないだろうか。そしてナットに気が無いと悟ったヘレンは、ますます客観的にナットを見るようになって行く。

“So what's the score?” Nat’s voice was low, his gray eyes annoyed. “No score, ” She murmured. “How so?” “You’ re you, I’ m me.”(p. 11)

    ナットの両親はギャンブルでの成功と客商売の上手さが効して、ナットを何とか大学へ行かせることができ、ナットは将来弁護士を目指している。一方、モ−リスはそのような要領の良い生き方はできず、ヘレンを大学へ行かせることもできなかった。ヘレンは自分の父親は正直者でずるはできない性格のため、金持ちには縁が無いと考えている。そんな、親も立場も違う男性と自分が付き合ってもきっとうまくはいかないだろうと、ヘレンは現実的に考えるようになり、むしろ考え過ぎな程自分とナットの差を意識してしまう。この二人の会話は、ヘレンが二人の違いを気にしているということをはっきり表現している。 ナットに対しては消極的に見ているヘレンでも、父親であるモ−リスに対しては自分の優しさを素直に見せている。

He reached into his pants pocket and took out a five-dollar bill. “Take,”he said, rising and embarrassedly handing her the money. “You will need for shoes.” “You just gave me five dollars downstairs.” “Here is five more.” “Wednesday was the first of the month, Pa.” “I can’t take away from you all your pay.” “You’re not taking, I’m giving.” She made him put the five away. He did, with renewed shame. “What did I ever give you? Even your college education I took away.” “It was my own decision not to go, yet maybe I will yet. You can never tell.”(p. 18)

    ヘレンの父親は要領が悪い上に運にも見放されてはいるが、一人の人間としても父親としてもヘレンのお気に入りであり、彼をよく理解している。母親であるアイダは人を物(IとItの関係)として見る傾向が強く、人と関わることで自分にどんな利益があるかということを重点に置いて生きてきた。ヘレンについてのアイダとモ−リスの会話からもそのようなアイダの性格を読み取ることができる。

“If she will only get married,”Ida murmured. “She will get.” “Soon.”She was on the verge of tears. He grunted. “I don’t understand why she don’t see Nat Pearl anymore. All summer they went together like lovers.” “A show off.” “He’ll be someday a rich lawyer.” “I don’t like him.” “Louis Karp also likes her. I wish she will give him a chance.” “A stupe,”Morris said, “like the father.” “Everybody is a stupe but not Morris Bober.” He was staring out at the buck yards. “Eat already and go to sleep,” she said impatiently. (p. 8)
ヘレンはアイダと一緒に映画を観に行くなどして仲の良い母と子と感じる場面はいくつかあるが、精神的な面や人生観に関しては圧倒的にモ−リスの影響を受けているのではないだろうか。だからこそ、ヘレンはナットが弁護士を目指していることを自分の利益に結び付けようとするどころか、逆に消極的にとらえるのだと思う。 

    一方、フランクの恋愛に対する姿勢はヘレンとは違う。もちろん相手が(ヘレンが)自分をどう思っているのか気にしている様子を見せる場面もあるが、おそらくそれよりも、ヘレンが可愛らしく愛しくて仕方が無いという自分自身の恋心の方がはるかにフランクの内面を占めている。

Frank cracked his knuckles one by one. He turned to her. “Look, Helen, maybe I try to work too fast. If so, I’m sorry. I am the type of a person, who if he likes somebody, has to show it. I like to give her things, if you understand that, though I do know that not everybody likes to take. That’s their business. My nature is to give and I couldn’t change it even if I wanted. So okay, I am also sorry I got sore and dumped your presents in the can and you had to take them out. But I want to say is this. Why don’t you just go ahead and keep one of those things that I got for you? Let it be a little money of a guy you once knew that wants to thank you for the good books you told him to read. You don’t have to worry that I expect anything for what I give you.” (p. 113)
この場面ではヘレンを喜ばせようと心はずませて、スカ−フと本の二つをプレゼントに選んだフランクの気持ちがよく伝わってくる。私の見解では、フランクが一番プレゼントしたかったのはスカ−フではないかと思う。男性が女性に贈り物をするとき、まず想像するのはプレゼントを受け取ってそれを身に付けている彼女の姿ではないだろうか。プレゼントした物を身に付けてもらえることは、男性にとってこの上ないことであるはずだ。フランクの性格を考えるとそう考えるタイプのように思える。しかし、ヘレンは彼の意表をついたように(フランクは予想していたのかもしれないが)まんまと本の方を選んだ。そのような、他の女の子とは少し違う魅力が、フランクの恋心をますます盛り上げたように感じる。 読者の立場から客観的に考えると、二十代の若い男性が何もさえない食料品店を継がなくても、他にもっと生甲斐のある人生を選択できるだろうにと思うことも多かった。その上、ヘレンはナットのような気の軽い男に思いをよせていることも知りつつ、フランクはヘレンに惹かれて行く。しかし、私はそれこそ本当の恋というものではないかと思う。相手の反応や状態ばかり気にして自分を押し殺すのではなく、どれだけ自分が相手を大切に思っているかを重要とすることが。ヘレンに対する恋心を軸に、フランクは次第に更生し、恋が愛へとすこしずつ変化して行った。ヘレンのフランクに対する気持ちも最終的には前向きに変化したが、それ以上に、フランクは人としても一人の男性としても確実に大きな成長を遂げたのではないだろうか。 

    私の推測に過ぎないかもしれないが、フランクがヘレンの注意を惹こうと大学への入学をほのめかしたあたりから、おそらくヘレンはフランクに魅力を感じはじめたのだと思う。ナットとは違い、両親の財力もない中で、自ら努力して夢を叶えようとする強い人間としてフランクをとらえるようになった。ヘレン自身があきらめたことを自力で手に入れようとする人間を見て、そのような人と出会うのは初めてだという驚きの入り混じったフランクに対する興味が湧いてきたように思える。フランクの大学入学に関しては、ヘレンの勘違いではあったが、実際にフランクは積極的に食料品店を持続させ、ヘレンを学校に通わせるまでになった。ある意味、大学へ行くことよりもよっぽど努力の必要なことをフランクは成し遂げたのである。まさに、様々な面で彼はヘレンにとって初めて出会った人間だったのだ。 

    The Assistantは全体として、人生の暗く厳しい面にスポットを当てて書かれた小説だという印象を受けたが、ささやかな明るさを残しつつ、人の一生とはこういうものなのかもしれないと感じた。ただその苦悩を覆い隠そうとするがために、人間は明るく楽しいことを追い求めているに過ぎない。しかし、苦悩を真っ向から受けとめて、悲しい中にも小さな幸せがあるということを、この小説の登場人物達は教えてくれたように思う。


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