Seminar Paper 2004

Miho Arakawa

First Created on January 27, 2005
Last revised on January 27, 2005

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Levinの多面性
〜絶望の中の一筋の光〜

              

     この物語の主人公であるLevinは、非常にアンバランスな男であると言えよう。しっかりと自分の理想と信念を貫く事のできる男性かと思いきや、意志薄弱な面もあり、ドジで格好悪い所もある。また、本人の力ではどうにもならない事で不幸を背負ってしまう時さえあるのだ。数度に渡る「ズボンの悲劇」がまさにこれを暗示していて、宿命としか言いようがない。しかし、この本を読み終えたとき、Levinという男性は‘憎めない男性’であると思った。その理由を、大学を舞台とする様々なシーンで見せるLevinの多面的な性格に重点をおいて、論じていきたいと思う。  

    物語はLevinがCaskadia州という新たな土地に下り立つシーンから始まる。過去を断ち切り、「New Life」を求めての、希望に満ちた新たなLevinのスタートであったが、すぐに、思っていた文科系の単科大学ではなく、理工系の単科大学に赴任してきてしまった事に気付く。“Why am I always committing myself before I know what it’s all about? What’s my fantastic big hurry?”(p.30)と自分のドジさ加減を嘆く。「出鼻をくじかれる」とは、まさにこの事であるが、すぐに、“Anyway, It’s a start.”と思い直せる点は、大変プラス志向であると言えよう。

     また、威厳を持って臨んだはずの授業においても、ズボンのチャックが開けっ放しというおっちょこちょいをやらかし、生徒の嘲笑をあびる事となる。どうやらLevinはやる気を持って臨んだ時に限って、失敗を犯す性分らしい。  さらに、女学生などと関係を持ち、あげくの果てには、ついに作文主任Gillyの妻、Paulineと愛し合うようになってしまう。新たな希望と決意を胸にやってきたLevinだが、自らを窮地に立たせてしまう事になる。悩んで悩んだあげく、ずっと止めていたはずのお酒に手を出してしまうという、意志薄弱で情けない一面も見せる。また、自らの顔をひげで隠し、仮面をかぶる事によって、偽りの自分で接し、本来の自分を出せていない、という臆病な面も読み取れる。

     さて、これまでLevinのドジで情けない面ばかりを紹介してきたが、彼はこれまで紹介してきたような性格からでは考えられないような大胆な行動に踏み出す事もある。それは、Bullockが企てている計画に腹を立て、そっくりそのまま証拠となる手紙とリストをコピーし、選挙前にばら撒いて公表した事である。前もって、Bullockの名前を切り取っておくなど、用意周到で賢い事に加え、臆病なLevinもやる時はやるのだ!という所を見せられたように感じた。

     また、新人であるがために、最初は教育に対して不満を持ちながらも、なかなか自分の意見を声を大にして言えなかったものの、大学教育に対する意見は、他人に流される事なく、自分の意志を貫いていたように思う。ここで、LevinがLeo Duffyという男性に興味を持つ。Leoは大学教育に関して、Levinと同じ様な考えをもっていた人物であり、Leoは改革に生きようとして、追放されてしまった人物である。大学教育に疑問を持ちながらも、何もする事なく生活しているLevinにとってLeoが、他の人がどれだけ悪く言おうとも、敬意を示す、気になる存在となったのも当然のことである。Levinの大学教育に関する理想は、次の様に述べられている。

‘The way the world is now,’ Levin said, ‘ I sometimes feel I’m engaged in a great irrelevancy, teaching people how to write who don’t know what to write. I can give them subjects but not subject matter. I worry I’m not teaching how to keep civilization from destroying itself.’ The instructor laughed embarrassedly. ‘Imagine that, Bucket, I know it sounds ridiculous, pretentious. I’m not particularly gifted−ordinary if the truth be told−with a not very talented intellect, and how much good would I do, if any? Still, I have the strongest urge to say they must understand what humanism means or they won’t know when freedom no longer exists. And that they must either be the best− masters of ideas and of themselves −or choose the best to lead them; in either case democracy wins. I have the strongest compulsion to be involved with such thoughts in the classroom, if you know what I mean.’(p.115)

    Levinが大学や学生の事を本当に考えていて腐敗した大学教育に不満を持ち、改革を望んでいることが分かる。こんな考えをもっているLevinだからこそ、学科長選挙に関しては、自分の理想を実現してくれる人を!とGillyとFabricant、両候補者を鋭い目で見極めようと慎重に行動する。普段はせっかちでドジなLevinが新たな一面を見せるのだ。

    こういった、人に流されず、理想を追い続け、自分の意志を貫くLevinにPaulineも惹かれていったのではないか、と思う。もちろん、最初はLeo Duffyに似ていたために、Levinに関心を持ったという事実は否めない。だが、Leoのコピーとして、Levinを愛したのではない、と思う。Leoのことを皆が皆、変わり者だ!大学の恥だ!と否定的な考えを持つ中で、Pauline一人が事流れ主義ではない、Leoの魅力を次のように語っている。

“Leo was different and not the slightest bit fake under any circumstances. He was serious about ideas and should have been given a fair chance to defend his. People were irritated with him because he challenged their premises.”(p.190)
LeoとLevinの考え方には共通している点もある事から、PaulineはLeoにもLevinにも体裁にとらわれず、周囲に流される事のない一貫とした信念の強い性格に愛情を覚えたのであろう。

    また、Levinの温かさという点もこの物語では幾度となく読み取る事ができる。彼は、自然の美しさに非常に敏感である。一月の雪の下で強く生きるクロッカスに目を止めたり、季節の変わり目、自然の変化、天気に自らの心情を表現する時さえある。忙しく生活する中で、普段は気付かないような自然の起こす小さな変化、土に根をはって、頑張って生きる植物に注目する事のできるLevinは心の優しい人なのであろう。

    加えて、Fairchild教授に、“I spent to you as a father to son.”(p.303)と言われ、涙ぐむシーンがある。腐敗した大学教育を作っている張本人にもかかわらず、彼から向けられた温かい言葉に胸を熱くするLevinはまさに感情豊かで人間らしい一面を読者に見せる。 そして、ついにLevinの謎に包まれていた過去について明かされる。

“The emotion of my youth was humiliation. That wasn’t only because we were poor. My father was continuously a thief. Always thieving, always caught, he finally died in prison. My mother went crazy and killed herself. One night I came home and found her sitting on the kitchen floor looking at a bloody bread knife. I mourned them but it was a lie. I was in love with an unhappy, embittered woman who had just got rid of me. I mourned the loss of her more than I did them. I was mourning myself. I became a drunk. It was the only fate that satisfied me. I drank, I stank. I was filthy, skin on bone, maybe a hundred ten pounds. My eyes looked as though they had been pisses on. I saw the world in yellow light. For two years I lived in self-hatred, willing to part with life. I won’t tell you what I had come to. But one morning in somebody’s filthy cellar, I awoke under burlap bags and saw my rotting shoes on a broken chair. They were lit in dim sunlight from a shaft or window. I stare at the chair; it looked like a painting, a thing with a value of its own. I squeezed what was left of my brain to understand why this should move me so deeply, why I was crying. Then I thought, Levin, if you were dead there would be no light on your shoes in this cellar. I came to believe that I had often wanted to, that life is holy. I then became a man of principle.”(pp.200-01)

    Levinの痛ましい過去を聞いて、Paulineは涙を流す。確かにPaulineは、策略家で狡賢い面もあると言えるが、心の底は純粋な女性なのだと思う。心からLevinの話に美しい涙を流し、絶望の中から光を見出すことのできた彼をピュアな心で愛していたのだと確信している。授業中に説明があったように、最後にPaulineは黄色い服ではなく、真っ白い服を着て、車に乗車している。名作「カラーパープル」においても、暴力を振るう悪い夫が、最後に天使の象徴である白い服を着て現れる。この物語においても、白を身にまとうと言う事は、愛する人の子供を神様から授かり、心から安らいだ、穏やかな気持ちでLevinと新たな出発を迎えているPaulineの姿を描き出しているのではないだろうか。数々の不信な行動により、誤解を受けやすいキャラクターのPaulineであるが、自分に正直に生き、ドジで情けないLevinの中に、強さと温かさを見出した彼女は、もしかしたら、見る目のある女性なのかもしれない。Gillyに我が子でもない2人の子供を、自分の犠牲を払ってでも、取り戻したいと述べるLevinは勇敢であるし、“Because I can, you son of a bitch.”(p. 360)と言い切るLevinは、男らしい。

    以上の様に、Levinという男性は、勇敢で強い信念と理想をしっかり持っているが、おっちょこちょいで、意志が弱い所もある。だが、人間、常に格好の良い事ばかりではない。ドジもするし、情けない事だってある。作者はこの小説を通して、読者に格好つける事のない、ありのままの人間を表現してくれているのだと思う。駄目な所もあるし、自分のせいではないのに、運が悪い事に遭遇する事もある。愛する者を守るために強くなったり、これだけは、譲れない!という信念を持っていたり…。Levinという男性は、とても人間らしい。だからこそ、憎めないキャラクターなのだと私は思う。また、暗い過去を持ち、絶望から希望を見出し、新たな土地にやってきたものの、Levinはまたしても仕事を失い、舞台となった土地を出て行くはめとなるが、かれには、新しい命という希望の光がさしているのだ。自分は駄目な人間だと思っていたLevinは、Gillyにも、Leoにもできなかった、新たな命を授かるという神様からの贈り物を受け取ったのだ。Levinは不幸ではないだろう。生命という新たな希望を手にし、そして、彼自信、30年も続いた、くだらない文法の教科書を廃止したり、Gillyに文法の講座を増やしてもらう事に成功している。Fabricantが髭を生やし始めたのも、Levinの影響かもしれない。

    A New Life のテーマは、人間はいつだって完璧じゃない、毎日生きていく中では、苦しい事もあるが、生きていれば、皆、誰かに影響を与え、そして、どんなに絶望に満ちた世界においても、かすかな光を見出せるのだ、と私たちに伝えているように感じた。 LevinとPaulineの新たな旅立ち、"A New Life"に、‘お幸せに!’と私は大きく手を振って見送りたい。


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