Seminar Paper 2004

Teruyo Koyama

First Created on January 28, 2005
Last revised on January 30, 2005

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LevinとGilley
--二人の生きる道--

 A New Lifeは大酒のみであった主人公Levinが改心し、新たな人生を歩もうとニューヨークから地方の大学へ教師としてやってくるというシーンから始まる。そしてその新たな地で様々な人と出会い刺激を受け、更には自分の上司の奥さんと不倫をしてしまい、その町から追い出される、という主人公の第二の人生の始まりから転落までを描いている物語である。私は、主人公とその上司のGilleyの関係というのは最初から最後まで解り合うことなく終わったような気がした。故に私はLevinとGilleyの二人に焦点をあてて論じていきたいと思う。

<出会い>

   まず、二人が出会うのは八月の夕方、Marathonのとある錆びれた駅である。ギリー夫妻はレヴィンを迎えに来たのだが、積極的でやや強引なギリー夫妻のペースに巻き込まれてしまう。ギリーは車中、ゴルフはするかい等と話しかけてレヴィンを和ませようとしている。しかし、“Levin, out of the corner of his eye, watched the man watching him. ”(p. 7) とあるようにギリーはさりげなくレヴィンを観察?しているのだ。私は当初、ギリーがレヴィンを観察するのは都会から田舎に来る人間は珍しいからなのかと思っていたのだが、最後までこの小説を読んだ今となっては、ギリーはこの時すでに学科長選挙の事が頭にあったからなのかもしれない、と思う。レヴィンを味方にするのに信頼がおける奴なのかどうかじっくり様子を伺っていたのではないだろうか。
   また、“Gilley seemed to be considering…”(p. 8)と、ポウリンが親切であるのに対してギリーは少し警戒しているのが読み取れる。そしてそんなギリーの態度にレヴィンは気づいているようで戸惑いが感じられ、レヴィンも常にギリーの顔色を伺っているのだ。ここでギリーが警戒する理由は、レヴィンは元々雇う予定になかった人なのだけれど、ポウリンがレヴィンの履歴書の写真を見て雇うようギリーに頼んだものだから(後々判明する)ギリーはレヴィンに興味津々なポウリンが不安であったのだと思う。そしてある時は“― and so, incidentally, does Pauline ― ”(p. 37)と、いきなりポウリンの話を出すことでレヴィンのポウリンに対する気持ちを探っている。男の割には女々しい一面があるように思われる。

<価値観の違い>

   さて、レヴィンが大学で教えるようになると徐々に二人の考え方の違いが露呈してくるのがわかる。
   @レヴィンは学生に対し内容のある授業を行い、何人も落第させるなど常に厳しい。故にギリーに頼んで他のクラスに移った学生までいるのである。レヴィンは教師になって早く学生に授業をしたいと願っていたため、気合が入りすぎていたのではないかと思う。教え方に不満を持ち、教授要綱に反する授業をするのは自分の思い描いていた理想を求めすぎて自虐しているような気もする。思い切った事をやった後に後悔するのはレヴィンの性格の欠点であろう。一方でギリーは規則をきちんと守るタイプであり、全体を管理しようとしている。これはやはり経験・年齢の差であろう。

   Aそして二人の関係が壊れた決定的なきっかけはレヴィンのクラスの学生Albert O. Birdlessの盗作問題である。アルバートが盗作をしたということは明らかだったのだがレヴィンは決定的な証拠を見つけることは出来なかった。そして彼と一対一で話したときに、彼の表情は今にも泣き出しそうで後ろめたく、暗かった。レヴィンはそんな彼を見て“When I saw how he was beginning to look, ”Levin said,“I said to myself a good teacher is a liberator. ”(p. 177)と考え、アルバートを無罪にすると決めたのであった。それを聞いたギリーは気が狂っているのか、と非難する。ギリーの考えはこうである。

“He said to avoid false pity and stamp this thing out. You and I know that boy is guilty. He should have been nailed or he’ll do it again. I wonder if you have any idea what we’re up against in cheating these days? Not cribbed papers but all kinds of cheating....They keep notes in their cuffs and socks. One kid even had a kind of invisible ink he used to write with on his shirt cuffs, and a pair of dark glasses he could see the writing with. It’s a regular industry and the only way to lick it is to stamp it out without mercy wherever we find it. ”(p. 176)

   レヴィンもギリーの意見に納得はするのだけれど、我々にも罪があるのでは?と前々から気に入らなかった評価方法について追求する。しかしギリーは、基準を作らない限りどうにもならないと主張し二人は自分の意見を主張するだけで解り合えてはいない。頑固でプライドが高く我を張るというのは共通の性格かもしれない。故にぶつかりあうのではないだろうか。
   そしてこの問題は結末を迎える。ギリーはレヴィンに何も言わず、勝手にアルバートを別のクラスに移すのだ。それを聞いたレヴィンは“you are destroying my authority? ”(p.178)と言い“This man is my enemy,”(p. 178)とゆう結論に達した。ギリーはこの時はまだレヴィンが自分を敵だとは思っていなかっただろう。しかしレヴィンはもはやギリーにはついていけないと心の中では事実上突き放すことになったのである。
   少し嫌なことがあっただけでこいつは敵だ、と考えるのはやや極端すぎる考えであると思う。レヴィンには相手を理解して円滑に進めていこうという社会的スキルが欠けているように感じられる。また、ギリーはギリーでいくら上司といえど勝手すぎるとは思う。アルバートを他のクラスに移したことで上機嫌でいるというのは気がしれない。

   B次に生徒の保護者から「十人のインディアン」の教科書は使うべきでない、との苦情が来たときの両者の考え方。ギリーはこの本を選集からはずすべきだと言ったのだが、レヴィンの言い分はこうである。

“You can’t do that. Didn’t you tell the man what literature is, why we study it? ”
“Maybe you should have asked him to leave?”
“Fine-but-er-censorship is dangerous business.”
“A college is no place to show contempt for art or intellect. If you drop the book, you’ll be making cowards of us all. ”(pp. 225-226)
   検閲につながる・もしその本を捨てたら我々皆を臆病者にするなどと少々過激な発言をし、レヴィンは学問の自由だけを主張している。バードレスの事を根に持っているからこそギリーに突っかかってやりたい、という気持ちが入っていると思う。それに対するギリーの言い分はこうである。
“The townspeople are just as good as we are, Sy. ”
“My policy with complaints is to hear them out, not antagonize anybody further. ”
“I’m not sure I’d call it censorship.”
“I’d like to ask you what kind of budget you think this college would rate if this man’s complaint reached the legislature? It’s more than likely they’d see it pretty much as he does. We have to watch our step nowadays, or the next thing you know they’d be accusing us of something a lot worse than teaching sexy stories. ”(pp. 225-226)
   町の住人も我々と同じで意見する権利がある。私のポリシーは全て聞き入れ対立を避けることだ、とギリーは言い切っている。慎重というか保守的な考えである。しかし私がここで引っかかるのは、対立は避けると言っているにもかかわらず上記のAではレヴィンと対立するような行動をとっているし意見を全て聞き入れていない。どこか矛盾が感じられ、言っている事とやっている事が一致していない気がする。ただこの場合、ギリーの立場としては大学を守るために選択肢はないのかもしれないが。

<決別>

   いよいよ学科長選挙が始まるとなると、ギリーはレヴィンを研究室に招き直球で誰を支持するのかと問う。レヴィンは言うはずではなかったのだが勢いに任せて“I’m thinking of supporting CD, ”(p.285)と言ってしまう。まさか予想もしていなかったことを言われたギリーは唖然とする。ギリーはレヴィンに一人部屋を与える等いろいろ世話してやったのだから自分に票を入れると信じて疑っていなかったのである。ここから歯車はさらに狂ってゆき、冷戦状態が続く。そして極めつけのギリーの言葉、“We’ll get rid of you just as we did him. ”(p. 310)このhimとはLeo Duffyの事である。ギリーは科長になったら必ず大学から追い出してやるとレヴィンに言い放つ。焦ったレヴィンは何としても科長をギリーにさせまいと奔走する。けれどもその努力の甲斐なく次第にレヴィンは学科内で孤立していくこととなる。選挙の結果はやはりギリーに決まった。レヴィンの所にはギリーからの手紙“I am willing to let you stay on for one last year, provided you promise not to see my wife again, or otherwise interfere in our lives. G. Gilley,…”(p.346)が届く。なぜギリーはもう一年だけとどまることを許したのか。それはレヴィンに対する情けもあるだろうけどやはりレヴィンの態度を正すため、レヴィンに自分の正当性を見せ付ける・思い知らせるためではないだろうか。

<別れ>

   レヴィンはギリーの(元)妻ポウリンと他の土地へ行くことに決めた。そして子供の親権の事でギリーのもとへ話をしに行く。ギリーは意外と快く迎え入れてくれたのだがなかなか親権についての話は進まず、ポウリンと生活をするということはすごく大変なのだぞ、と彼女の欠点を次から次へと挙げて言った。ギリーはまだポウリンに未練があったのだろう。故にレヴィンには到底世話が出来ないことを主張し、妻と子供を返してもらおうと思っていたのだ。また、ギリーは世間体のことも考えていたのかもしれない。自分の部下に妻をとられるということはプライドが許さなかったのだろう。あるいは例えば元々自分の所持品だったものなのだけれど急に誰かにとられるとなるとそれが惜しくなる、という傾向にある人は多いのではないだろうか。ギリーもそれと同じであると思う。
   この場面でレヴィンはいたって冷静に子供たちの話を進めようとする。そんなレヴィンの態度にギリーの怒りは爆発する。“Are you willing to give me your promise you will give up college teaching? ”“And what is it when you steal a man’s wife and children from him? ”“Is that so g.d. moral, since you use the word so much? ”(p. 357)この言い分は誰が聞いても非道徳的である。ギリーは自分を見失っていると思う。これを聞いたレヴィンももちろん気でも狂ったかと怒る。しかしその後ポウリンと話し、ポウリンのためにギリーの条件を承諾する。レヴィンのギリーに向けての最後の言葉は“Because I can, you son of a bitch. ”(p.360)である。今まで曖昧に生きてきた人生の中でレヴィンはここではっきりと宣言する。これは彼が大きく成長をとげたときかもしれない。レヴィンのしたことは正当とは言えないがギリーよりは何倍も潔くて男らしいと思う。
   ギリーはレヴィン達の車が去っていくときにカメラを構え、写真を撮る。そして“Got your picture!”(p.367)と書いた紙をふりかざすのだ。この部分、ギリーは前もって紙を用意していたということになる。ポウリンとレオ・ダフィの時も彼は二人の情事を写真におさめている。ギリーは相手の弱みを握ることが大好きなのかもしれない。最後にレヴィンとポウリンの写真を撮ったことで、彼の気持ちもおさまったのではないだろうか。私はまるでギリーはレヴィンに勝ったぞ!と自慢をしているかのように感じた。  
   対照的なレヴィンとギリー。理想主義者と現実主義者という事が、二人が相容れない理由であると私は思う。A New Lifeを読み終えた今、あの続きはどうなるのだろうと私はいろいろ思いを巡らせたりした。曖昧のまま終わっているのは、読んだ人それぞれの考えでいいという作者の意図なのかもしれない。故に、結局レヴィンが始めた第二の人生とは失敗に終わったわけであるが、私は第三の人生においてはレヴィンが幸せになっていることを願う。


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