Seminar Paper 2004

Risako Nawata

First Created on January 27, 2005
Last revised on January 27, 2005

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Levinの多面性
理想と現実のはざまで

   A New Lifeは、主人公S. Levinが、大学での複雑な人間関係、権力抗争、上司の妻との不倫を経験し、苦悩と挫折を繰り返しながら、新しい生き方を模索していく物語である。Levinの多面的な性格は、非常につかみにくい所があるが、今回は大学におけるLevinと女性に対するLevinを検討していきたいと思う。

   この物語の主人公Levinは、New York出身の30歳独身で、悲惨な家庭環境で育った。父親は盗み癖がひどく、年中捕まっては盗みを繰り返し、あげくの果て監獄で死亡した。母親は父親が原因で気が狂い、自ら命を絶ってしまう。Levin自身も酒びたりとなり、目も当てられないほどひどい生活を送っていた。そんなLevinはある日、地下室で椅子の上にある汚れた自分の靴に日が差し込み、照らし出されるのを見て、なぜだか分からないが無性に心を打たれる。生きることは神聖なものだと信じられるようになり、principleを持つ人間になれたと感じる。そして、Levinは読書に唯一の心の安らぎを覚え、文学の素晴らしさを知る。文学がLevinを正常な日常へ戻すきっかけとなる。Levinは過去を封印し、これまでの自分とは違う自分を生きるために、ひげをはやし、アメリカ西部の自然の豊かなCascadia州へ大学講師として赴任する。

   LevinのNew Lifeが始まろうとするCascadiaに来た初日、Levinは職にありつけたことに喜びを感じる反面、不吉な夢を見る。

He dreamed he had caught an enormous salmon by the tail and was hanging on for dear life but the furious fish, threshing the bleeding water, broke free:  “Levin, go home.  ” He woke in a sweat.
   “I can’t,”he whispered to himself.   “I can’t fail again.  ”(p. 24) 
“bleeding water”はこれからLevinに起きる過酷な状況を指し、“an enormous salmon”は目の前にあるチャンスをあらわしている。新しいチャンスをしっかりつかまえて自分のものにしようとするが、逃してしまう。LevinのNew Lifeに対する気負い、再び失敗してしまうかもしれないという不安、過去の自分を何とか軌道修正しようとする焦り、様々なものをLevinは感じるのである。

   Levinが赴任してきたCascadia大学は、Levinの思い描いていたものとは異なるものだった。主に職業教育に力を入れており、liberal artsが充実していない理工系の大学であった。大学の経営ばかりに重点を置き、授業に対しておざなりな考えの現学科長Fairchild Fairchildの後継者をねらい、学科長選挙のことで頭がいっぱいの、Levinを大学に招いたGerald Gilley、Gilleyと同じく学科長の座をねらうが、人付き合いが悪く、自分の研究にしか興味の無いC.D.Fabrikantと本気で大学の改革を求める教師は見当たらなかった。1950年代、マッカーシズムが繁栄し、democracyが危機に瀕している時代に、教養を高めるためのliberal artsを重要視しているLevinにとって、liberal artsに力をいれず、あまりためになると思えない文法の教科書を使い続けるCascadia大学の体制は、生ぬるく不満に感じるのであった。Gilleyらのうわべだけの改革論や、環境や状況にうまくあわせる教育を目指す現実主義の教育観に対し、Levinは同僚のBucketに自らの教育論を語る。

“The way the world is now,”Levin said, “I sometimes feel I’m engaged in a great irrelevancy, teaching people how to write who don’t know what to write. I can give them subjects but not subject matter. I worry I’m not teaching how to keep civilization from destroying itself.”The instructor laughed embarrassedly. “Imagine that, Bucket, I know it sounds ridiculous, pretentious. I’m not particularly gifted−ordinary if the truth be told‐with a not very talented intellect, and how much good would I do, if any? Still, I have the strongest urge to say they must understand what humanism means or they won’t know when freedom no longer exists. And that they must either be the best−masters of ideas and of themselves−or choose the best to lead them; in either case democracy wins. I have the strongest compulsion to be involved with such thoughts in classroom, if you know what I mean.”(p. 115)
Levinは学問や教育に対し、信念のようなものを持っており、学生を主体とする理想の教育論を持っている。しかし、Levinは自分の実力以上のものを求めるあまり、何をどうしてよいかわからず、理想との矛盾に苦悩する。Levinには理想を実践する能力も勇気も持ち合わせていない。新参者のLevinにとって、体制に抵抗するということは、前任のLeo Duffyのように大学を追放される危険が伴うのである。Duffyのように改革を求めるか、せっかく手に入れた職をおしんで、事なかれ主義の体制順応型の人間になるか、理想と現実のはざまでLevinは葛藤する。

   あるとき、LevinはPaulineとの関係を振り切るため、仕事に没頭し、勢いで論文を書き上げる。FabrikantとBucketに批評を求めるが、何も感想を言ってこないBucketに対しLevinは激しい怒りを覚える。しかし、よくよく読み返してみると、取るに足りない実につまらない論文であることに愕然とするのであった。Levinは自分の論文を読んで返事をもらえることが当然だと思っていた自分のプライドの高さに気づき、嫌気がさす。Levinのおごり高ぶった部分が消え、謙虚であることの重要性を知る。また謙虚になることにより、“a teacher’s job was patiently to teach them(students). It was the nature of the profession: respect those who seek learning and help them lean what they must know.”(p. 274)という教師としての本分を取り戻す。Levinは研究室を開放し、学生たちにliberal artsの重要性を説く。本来、学生本位のLevinの理想は、昨年のThe Assistantでも扱ったマーティン・ブーバーの、人を人としてみるI とYouの関係を学生の間に築くことにあったように思われる。実用的な知識を過大評価し、どれだけ技術的な能力を身につけるよりも、人としてどれだけliberal artsを身につけることが出来るか、人間性を育てることが出来るかが重要であることをLevinは学生に伝えようとするのである。これは、大学で教鞭を振るっていたことのある作者マラマッド自身の理想が反映されているのかもしれない。

   次に女性に対するLevinを見て生きたいと思う。LevinはCascadiaに赴任して一年あまりのうちに、酒場のウェイトレスのLaverne、Gilleyの秘書のAvis、Levinの生徒のNadalee、そしてGilleyの妻のPaulineと4人の女性と親密な関係を持ちそうになる。NadaleeとPaulineに関しては本当に性的関係を持ってしまう。Levinには少々自制心が足りず、一時的な欲求やその場の雰囲気で女性に手を出してしまう傾向があり、田舎での一人身の寂しさ、孤独を女性で満たそうとし、女性に逃げ場所を求めようとする部分がある。母親から充分な愛情が与えられなかった反動から来るものかもしれない。Levinは常に春を求めさまよう。そして最後にたどり着いたのが人妻のPaulineであった。Paulineは、Levinの上司のGilleyの妻であり、二児の母親である。それでもLevinは、妻でも母親でもない一人の女性としてPaulineにひかれていく。Paulineと一緒になり、自分のつらい過去を共有することで心が休まることを知る。しかし不倫という不道徳な行為に陥ってしまったLevinは、Paulineを手に入れることの出来た喜びと、上司の妻に手を出してしまった罪悪感のはざまで葛藤し、苦悩する。Paulineと関係を持ってしまったことをGilleyに秘密にしていることに気がとがめられ、うしろめたさを感じる。Levinは、大学を改革し、liberal artsを推進しようとする人間が不倫などしてはいけないと考え、自分を戒める。

Morality‐awareness of it‐perhaps in his reaction to his father’s life, or in sympathy with his mother’s, or in another way, had lit an early candle in Levin’s. He saw in good beauty. Good was as if man’s sprit had produced art in life. Levin felt that the main source of conscious morality was love of life, anybody’s life. Morality was a way of giving value to other lives through assuring human rights. As you valued men’s lives yours received value. You earned what you sold, got what you gave. That, if not entirely true, ought to be. Our days are short, thought Levin, our bodies frail. The universe is unknown, remorseless. We have no certain understanding of Nature’s intentions, nor God’s if he intends. We know the meagerness, ignorance, cruelty of too many men and too many societies. We must protect the human, the good, the innocent. Those who had discovered their own moral courage, or created it, must join others who are moral; these must lead, without fanaticism. Any act of good is a diminution of evil in the world. To make himself effectual Levin must give up Pauline, or what was principle for? The strongest morality resists temptation; since he had not resisted he must renounce the continuance of the immoral. Renunciation was what he was now engaged in; it was a beginning that created a beginning. (p. 258)
Levinは、父親と母親の生き様を見てきたため、道徳に対し敏感なところがある。道徳的な人間は、他の人にも影響を及ぼすため、他の人がより良く生きるたすけとならなければならない。自分も他の人も道徳的であることによって、よりよく生きられるのである。道徳的な人間であるために、LevinはPaulineをあきらめる決意を固め、ひげをそり、本当の自分を隠さず出して、再び新しいスタートを切ろうとする。 しかし、Paulineをあきらめようとした夜、大学を追放されたLeo DuffyとPaulineが深い仲にあったという衝撃的な過去をAvisから聞かされる。LevinはPaulineが自分をDuffyの身代わりにしていたことにショックをうける。Duffyとの関係を隠していたPaulineに不信感を抱くと共に、Duffyと全く同じ運命をたどろうとしている自分に失望する。結局Levinには、Paulineを選んでしまったshlemielの部分と、Paulineに選ばれてしまったshlimozelの部分と二つの面を持ち合わせているのである。

   学科長選挙に立候補するという無謀な挑戦は失敗に終わり、同時にPaulineとの関係がGilleyにばれたLevinは、大学を追われてしまう。最終的に、Levinは社会的成功を得られなかった。その代わりに得たのが、病気がちな二人の養子と、自分の子供を宿したPaulineであった。男としてのけじめをつけたLevinだが、30歳のLevinが背負うにはあまりにも大きいものである。これからLevinは妻と3人の子供を支えるために"I suffer for you."の人生を送らなければならい。今までよりもさらに厳しい試練がLevinを待ち受けているだろう。実際、Levinは無職であり、子供の治療費、GilleyとPaulineの離婚訴訟など問題は山積みである。しかし、その試練を乗り切った先にLevinの本当のNew Lifeが始まるのではないだろうか。人は背負うものが大きければ大きいほど、その分苦労して、人間的に成長することができるのである。また、その苦しんだ経験が、人をよりよい生活へと導くのである。


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