Seminar Paper 2004

Takeo Sato

First Created on January 27, 2005
Last revised on January 27, 2005

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Levinの多面性
過去からの変化、そして成長

    この物語、"A New Life"は、主人公であるSeymour Levinを中心に、彼の周りをGeraldGilley(キャスカディア大学英語学科教授。アウトドア派で、釣り、猟、ゴルフ、写真が好きという多趣味。物語の中で、学科長となる。)Pauline Gilley(背が高く、乳房が小さい女性。最終的にはLevinと恋に落ち、彼と新しい生活を始める)夫妻をはじめ、LevinがInstructorとして授業を持つこととなる場となる、イースチェスターにあるキャスカディア大学で出会う人々を交え、ストーリーは進んでいく。この中で、私は、過去から比べた「Levinの変化」、特に「内面的な面での変化」に焦点を置き、その点に着目していきたいと思う。まず、キャスカディア州に来るまでのLevinについて述べておこう。彼の父親には、手におえないほどの盗み癖があった。最後には牢屋に入れられ、獄中で死んでしまった。それを知ったLevinの母は、気が狂い、自殺したのである。そして当時の恋人とも別れてしまった。これ以来、Levinは酒に溺れ飲んだくれになり、職にも就かず、孤独な日々を過ごすようになった。しかし、ある朝、壊れた椅子の上に置いてあった自分の靴を見、生きていることに喜びを感じたのだ。Levinの孤独については、こう書かれている。“never before had he lived where inside was so close to out. ”(p. 57)

Mold memories, bad habits, worse luck. He recalled in dirty detail each disgusting defeat from boyhood, his weaknesses, impoverishment, undiscipline-the limp self entangled in the fabric of a will-less life. a white-eyed hound bayed at him from the window-his classic fear, failure after grimy years to master himself. He lay in silence, solitude, and darkness. More than once he experienced crawling self-hatred. It left him frightened because he thought he had out distanced it by three thousand miles. (pp. 163-164)

   また、こう書かれている。

“I mourned them but it was a lie. I was in love with an unhappy, embittered woman who had just got rid of me. I mourned the loss of her more than I did them. I was mourned myself. I became a drunk, it was the only fate that satisfied me.”
“I drank, I stank. I was filthy, skin on bone, maybe a hundred ten pounds. My eyes looked as though they had been pissed on. I saw the world in yellow light.”
“I awoke under burlap bags and saw my rotting shoes on a broken chair. They were lit in dim sunlight from a shaft or window. I stared at the chair, it looked like a painting, a thing with a value of its own. I squeezed what was left of my brain to understand why this should move me so deeply, why I was crying. Then I thought, Levin, if you were dead there would be no light on your shoes in this cellar. I came to believe what I had often wan- ted to, that life is holy. I then became a man of principle.” (pp. 201-202)
    この様に、レビンの過去は明るい、生き生きとした生活では全くなかったのである。この過去の染み付いた自己を忘れ、新しい生活を始めようと、長旅に出発し、キャスカディアのマラソン駅に辿り着いた。そこでLevinは、初めてGilley夫妻と会う。過去の自分に苦しめられていたLevinは、当然のごとく、何事にも神経質、慎重になるだろう。それはもしかしたら、Levinがこの西部での生活に賭けている気持ちの大きさからなのかもしれないと私は考える。ここで成功して、過去を水に流せるような、そんな安堵を得たいと思う気持ちの強さが、「慎重」という態度に表れたのではないかと思った。その態度は随所に見られる。そのひとつとして、Gilleyの家に行くまでの車内での会話に表れている。ゴルフをするのか?という質問に対して、一度はしないと答えたにもかかわらず、沈黙になると、いつか習いたいと苦笑いで答えるシーンがある。これは、会話が途切れることを恐れ、Gilleyに話を合わせて発した言葉ではないのかと私は思った。“The new instructor carried in his valise and Pauline’s clubs; Gilley, the suitcase and his new clubs. Imagine me carrying golf clubs, Levin thought. Already he had done things he had never before done in his life.”(p.23)と本文にも書かれている。ゴルフバッグすら持ったことのない人が、ゴルフに興味を抱くだろうか?話を合わせないと、この二人と上手くやっていかないと、という気持ちが強さがLevinをこうさせたのではないか。新しい生活を成功させたい想いとして、こう記されている。
He dreamed he had caught an enormous salmon by the tail and was hanging on for dear life but the furious fish, threshing the bleeding water, broke free: “Levin, go home.”He woke in a sweat.“I can’t,” he whispered to himself. “I can’t fail again.”(p.24)
    Levinの多面性として、これも言えるだろう。Levinには、何かをしようと決めてそれにむけて行動しようとすると、運が悪く、災難にみまわれたり、いつもヘマやドジを踏んだり、とにかく一筋縄ではいかないという面を持ち合わせていると私は思った。まず一つ目に、Levinが初めてGilley夫妻の家にいった時のこと。Paulineが料理をLevinの膝に落としてしまい、着替えるはめになったシーンがある。このときLevinは“I’ll change in a minute once I have my suitcase”(p. 10)と言っているが、Paulineの“Gerald’s pant will be less trouble”(p. 10)に丸め込まれてしまう。このときのLevinの心境としては、Gilley夫妻に迷惑をかけてはいけないという思いもあっただろうが、ここでは「早く1人になって落ち着きたい」という気持ちが強いのではないか。長旅での疲労もだが、それより、これ以上神経を使って二人と居たくないのではないだろうか。しかも、Levinは、Gilleyの異変を察してしまう。本文には、“Gilley looks restless, he thought. I’d better give him back his pants and find some place to sleep.”(p.11)“I could be wrong, Levin thought.”(p. 11)と書かれている。Levinの下宿先である、Mrs. Beatyの家に向かいたい気持ちをもてあそぶかのように、今度はGilley夫妻の子供(養子)であるErikとMaryがLevinにおもしろい話をしてほしいと要求する。Levinは素直に受け止め、話すのだが、彼は膝の上で話を聞いていたErikに尿をかけられる。しかも、よりによってGilleyに借りたパンツを汚してしまう。この一日で二回もパンツを汚してしまったLevinは、結局Gilleyの家に泊まることとなってしまうのであった。

    この後、Levinは無事に学校での講師生活を始めるのだが、彼が教えるクラスにNada- leeという色気のある女性がいた。Levinは彼女に魅かれてしまう。そして、彼女に会う為、Nadaleeの母が経営しているモーテルでおちあう為、Levinが車で向かうシーンがある。この場面でも、Levinを様々な災難が襲う。(ラジエーターから煙があがることから始まり、車の右後輪が溝にはまったりなど。)Levinはこのことをこう表している。“A sense of doom infected him and he fell brooding.”(p. 149)また、その直後の文に、霧がたちこめ、先が見えないという表現があるのだが、私はこのfog「霧」を、Levinの現在の心境、もしくは、人生を表しているのではないかと考えた。「霧はますます濃くなるばかりで、抜けられるかどうか分からない。」これを、過去の自己に悩まされ、苦しんでいるLevinの心境にも当てはめることは出来ないだろうか。西部に脱出してきて、暗い過去を捨ててきたものの、どうしても昔も自分がでてきてしまう、そんなLevinが完全に新しい「Levin」として生きていけるのかを表した文章だと思った。

   ここで、Nadaleeという女性がでてきたが、Levinは、キャスカディア大学に就いてから様々な女性と肉体関係をもつといったようなシーンが多々ある。酒場のウェイトレスのLaverne、Levinと同じく英文科の講師であるAvis Fliss、Levinの担当しているクラスの生徒であるNadalee、そしてGilleyの妻であるPauline、この4人である。そう、Levinは性的欲求が強く、理性を保とうとしても自分の意志を貫けない性格だと私は思う。そうする度に痛い目を見、後で後悔するといったものだ。Laverneのシーンでは、納屋で性行為をしているときにSadek(シリア人で、Mrs. Beatyの他の下宿人)に入られ衣類などを盗まれてしまう。極寒の中、二人は意見の相違で言い合いをしながら長時間歩き、やっと彼女の家に着いたのだが、

He was immensely relieved, at the same time fatigued and chilled. Only his overworked nerves had kept from him how bad he had been feeling, But on the porch, as Laverne took off his pants, the sight of her body aroused his desire.(p.85)
と感じる。この後Levinは当然Laverneに傷つくような言葉を浴びせられる。

    その他のLevinの性欲の強さなどを象徴する表現として、Desire butchered him.(p. 138)Levin resisted every sentences but his imagination was whipped to forth. Who could resist Eden?(p. 142)He read a lot, sometimes putting down his book to think of Nadalee, often with desire.(p. 163)It wasn’t easy to be helpful while enjoying the fruits of another man’s wife.(p. 210)などがある。Levinは、危険なことをしているという認識はあるが、欲情に負けてしまう。Nadaleeと会うのが無理と分かると、昔抱いたLaverneを探しに酒場に立ち寄ったりと、自分の欲情を発散することしか考えていなかったのではないか。

    しかし、Levinは物語の中盤で「愛する」という感情を知ることとなる。相手はGilleyの妻、Paulineであった。その時の気持ちとして、

As Levin walked the streets under a pale moon he felt he had recovered everything he had ever lost. If life is not so, at least he feels it is. The world changed as he looked. He thought of his unhappy years as though they had endured only minutes, black birds long ago dissolved in night. Gone for all time. He had made too much of past experience, not enough of possibility’s new forms forever. In heaven’s eye he beheld a seeing rose. (p. 217)
と記されている。

     この後Levinは、最終的には大学を強制的に辞めさせられ、追放されるが、教科書問題においてGilleyと討論したり、他の教授や講師に批難を浴びるが、学科長選挙に立候補(1票も得ずに負けるが)したり、学部長に読書会を提案したりと、このキャスカディア大学を変えようという動きをたくさんしたと思う。Levinは理想的な主人公ではないが、物語の初めと比べ、精神的、人間的に大きく成長し、幸せを掴んだのではないだろうか。Malamudは、孤独という暗闇から脱出したLevinの新天地での奮闘、そしてPaulineと恋に落ち、彼女と結婚するために講師を辞め、また新しい生活をし始めるという物語の終わりを、A New Life「新しい生活」というタイトルで、かけているのではないかと考える。 そして、生きる意味を見つけることの重要さを、物語を通じてMalamudは伝えたかったのではないか。


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