Seminar Paper 2004

Tomoka Terada

First Created on January 27, 2005
Last revised on February 21, 2005

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Levinの多面性
〜彼が築いた人生〜

                      

Levinはとても多種多様な特性というべき個性を1個人の精神に抱え込んでいる。それは、普通の、ごく一般的な、大衆の中に自然に交じって、平均的に事を成し遂げる、あまり目立たない、凡庸な人々では到底成せない技を、自らも気づかないうちに編み出し、とても風変わりな人生を、彼に歩ませている。 そのような性格はなぜ形成されたのかというと、ひとえにLevinの生い立ちにあると思われる。

"The emotion of my youth was humiliation. That wasn’t only because we were poor. My father was continuously a thief. Always thieving, always caught, he finally died in prison. My mother went crazy and killed herself. One night I came home and found her sitting on the kitchen floor looking at a bloody bread knife." (p. 200)
"I mourned them but it was a lie. I was in love with an unhappy, embittered woman who had just got rid of me. I mourned the loss of her more than I did them. I was mourning myself. I became a drunk, it was the only fate that satisfied me." (pp. 200-201)

彼は、NYという大都会で、幼いころから、泥棒の息子だと近所中に噂されながら育ち、いつも父親は盗みつづけ、毎回捕まり、最後に父親は刑務所で亡くなるのである。いつも捕まるのだから、家に父親の存在はしばしば不在であったのだろうし、また母親も、父親に代わって稼いで、たくましく生きて、Levinを育て上げるという気丈さも強さも持ち合わせていなかった。彼女は気が狂ってしまい、自殺を図るのである。というわけで、Levinは家庭の中に、暖かいぬくもりも、守ってもらう安心感も、感じることができずに、殺伐とした家庭環境の中で、生きてきたのである。この家庭環境自体が、もうすでに変わっている。普通の、ごく一般的な父親は、盗みを生計としないし、母親は自殺を図ったりしないのである。当然、周囲からは、好奇と非難の眼で見られ、家の内にも外にもよりどころはなかったのであろう。そして、ちょうどそのころ、彼女にも振られる。つまり、恋愛も家庭も崩壊してしまったのである。そしてLevinはアル中となった。どう考えても、これだけの悪条件がそろった中で、人生に躓いてしまうのは不可抗力であり、また、アル中にならないほうが不思議というものであろう。

"For two years I lived in self-hatred, willing to part with life. I won’ t tell you what I had come to. But one morning in somebody’s filthy cellar, I awoke under burlap bags and saw my rotting shoes on a broken chair. They were lit in dim sunlight from a shaft or window. I stared at the chair, it looked like a painting, a thing with a value of its own. I squeezed what was left of my brain to understand why this should move me so deeply, why I was crying. Then I thought, Levin, if you were dead there would be no light on your shoes in this cellar. I came to believe what I had often wanted to, that life is holy. I then became a man of principle." (p. 201)

彼は風変わりな、若干恵まれない環境に育ったのである。そのなかで、凡庸な人々と同じように、あまり深く考え込まずに地味に生きていては、身を滅ぼしてしまう境遇にあったのである。そこで、感受性豊かに、いろんな事象に敏感になって、前向きに明るい方向を目指して、自分の意志を強くもって生きるしかなかったのである。その、人生はすべて自分次第だと身にしみて悟ったのが、2年間のアル中時代を経た後の、この、壊れた靴を光の中で見たときだったのではないだろうかとおもうのである。人生は、誰にとっても、自分次第で、大きく変わる。しかし、人生の、深い、深い、谷の底に落ちてしまったLevinにとって、その意志は、のほほんと生きてきた大多数の人々の何千倍も強く持たなければ、Levinの人生を、あらゆる宗教(ユダヤ教、キリスト教、仏教など)の根本として謳われているように、holyとは捕らえることができなかったのではないかと思う。よって、そのことを、屋根裏の光の中でLevinは、一般人の何千倍も強くタフになり、さまざまな人生経験をしっかりと自分の糧にしてきたからこそ、 悟ることができたのだといえる。それで、西部の未知の土地、Cascadiaで、新たな人生を切り開いていくことになる力を持つのだ。そしてこの、光の中での靴を見た体験は、作者Malamud自身の体験でもあり、また彼の母親もまた自殺していることから、彼自身の体験をLevinを通して、読者に、意志を強く持つこと、あきらめないことが、Levinのような風変わりだが、かなり手ごたえのある、充実した人生を歩む糧となることを伝えたかったのであろうと思う。 だからといって、Levinがしっかりしているのかというと、そうではまったくない。Levinはドジである。

His students were already in class but Levin wasn’t so he galloped to get there, his first hard running in years, heart whamming, throat parched, rain coattails flying in the breeze. “Bounding up the steps into the old wooden building he went two at a time up the inside stairs. (pp. 87-88)

彼はものすごい勢いで、慌てて教室へ駆けているが、それは折りしも、教師として就任後の、記念すべき第一回目の授業だからである。彼は最初の授業に遅刻する間抜けな人なのだ。さらには、”As if inspired, Levin glanced down at his fly and it was, as it must be, all the way open. “ とある。つまり、Levinは、初めての授業に、社会の窓を全開にして臨んでいたのである。これはLevinが本当に間抜けであると同時に、彼の下半身が弱いことも象徴している。これは、物語冒頭のところで、LevinがPaulineの家に招かれた際、ズボンを飲み物でぬらされてしまったというエピソードにおいても、彼の下半身の弱さ、または、彼が女性に翻弄されやすい男性だということを示唆している。また、社会の窓があいているという失態により、生徒や先生みんなから笑われるという事件は、その後のドタバタ劇も示唆しており、Levinが平穏無事には生きられない、とても個性的な事件を起こす人であることをも象徴している。またこの一連の授業の様子などを、GilleyとFairchildの教授たちが監視しており、彼は変わっているから、Duffyと一緒なのか、同じように問題を起こすことがあるか疑われている時点で、Levin自身もまた、周囲のものから、一匹狼に見られており、また、その後、教授たちの権力争いに迎合できず、どちらの側につくべきか考えあぐねるところからもやはり、Levinは一匹狼なのである。

そしてまた、” ‘ Do you envy Bucket?’ ‘Him, no.’(p. 91)とあるように、Levinは家庭を持つBucketを羨ましく思っていないという点で、家庭的ではない。これは、子育てに疲れている Paulineが好ましく思っており、すでに出会った当初、物語の最初から、PaulineはLevinに好意を持っていたことも表している。 “ ‘ No need to worry, I’ve forgotten what you said. “ ‘ Please don’t. “(p. 198)

Paulineは、ここで、「私の言ったことを忘れないで。」とLevinに言っている。つまり、自分のことを絶対に忘れたりしないで、とLevinに迫っているのである。LevinはPaulineの手のひらで転がされっぱなしなのである。彼女のものすごく思わせぶりなテクニックにいつもやられている。つまり、単純なのである。自分の持っていたはずの感情も、女性の前ではすぐに変わり、Paulineの思うがままに、Levinの気持ちも動いてゆく。

しかし、これは、見過ごしてはならない重要なファクターである。 Levinは、仕事である学業に関しては、妥協を許さない。後に、不毛な教科書、The Elementsを使わないようにするし、結局他者に合わせたりはしない。” ’You got the elements kicked out after thirty years. ‘(p. 366) 仕事や、普段の日常生活に関しては、大きな自己愛ゆえに、周りに妥協しない頑固者なのである。 本当は、いつも、芯を持っていたい、自分の意見を曲げたり妥協したくない、と、大人の男としていつもは強がっているのが、恋愛になると、気が緩んで、本当の弱い自分をさらけ出してしまうのではないだろうか。今まで、自分ひとりの意志で、しっかり突き進んできたのが、よりどころが見つかって、心底ほっとしたのではないかと思う。よく、お笑い芸人のひとは、家では無口であるというが、Levinは、Paulineのところで息抜きをして、自分のすべてをゆだねて、癒されたいのではないだろうか。Levinは、仕事では強いが、恋愛では尻にしかれている。これは、Levinに限ったことではなく、人は往々にして、仕事と恋愛では、両極端な一面が出るのではないかと思う。そして、両極を出すことによって、人は心のバランスを保って、幸せに暮らしていけるのだろうとも考察される。 よって、Malamudは、人と人とのつながり、愛の尊さと、その多大なる効力、愛の大切さを伝えたいのだろうと思う。職を失っても、自分の事を見ていてくれる、支えとなってくれる人が傍らにいれば、ひとはいつでも次の仕事を見つけ、愛する人を自分も支えられるよう努力するものだ。よって、やはり、このA New Lifeも、人々の関係の中における愛の重要さをみなに説いているのだと、私は解釈した。

つまり、これからも、強い意志、未来への希望と、へこたれない強さを持って、みんなに愛を与えて、厳しい人生を乗り切っていきたいと、わたしは、この小説のテーマをくんで、強く思う次第である。


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