Seminar Paper 2004

Asami Umezu

First Created on January 27, 2005
Last revised on January 27, 2005

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Levinの多面性
──素顔のLevin──

    ユダヤ人である主人公Levinは、過去を捨て、”a new life”(新しい生活)を求めて、New Yorkから大学の講師としてCascadia(オレゴン州をモデルとした架空の州、田舎)へやってきた。彼の外見的特徴は、その顔に生やしたひげである。この小説の舞台となっている1950年代のアメリカでは、マッカーシズムにより「赤狩り」と呼ばれる共産主義者排斥が行われていたという時代背景がある。当時、ひげを生やしていることはradicalである象徴のようになっていたので、彼の上司Gilleyは、誤解されてしまわないようにと、Levinにひげを剃ることを勧めるが、Levinはそれを拒否している。なぜなら、彼は「ひげ」によって、人には知られたくない過去の自分、そして、本当の自分を隠そうとしているからだった。Levinにとって、ひげが自分を隠すためのものだったことは、彼のいくつかの発言から窺い知ることができる。“It’s--er--given me a different view of myself. “(p. 23) “ I grew it in a time of doubt, ” confessed Levin, ” when I couldn’t look myself in the face. ”(p. 188) 果たして、本当のLevinとはどのような人間なのか。作品の中ごろ、Levinはその仮面であるひげを剃り落とし、以後はひげなしで生活している。ひげを生やしていたころと、ひげの無くなった素顔のLevinとでは、どのように変わったかを見ていきたい。

    New YorkからCascadiaにやってきたばかりのLevinはとても気が弱く、遠慮がちな人間であった。例えば、初日、彼の上司Gilleyとその妻Paulineに出迎えられたLevinは、彼らの家に招かれたとき、Paulineが料理をLevinのひざの上に落としてしまい、彼のズボンが濡れてしまったので、それが乾くまでの間Gilleyのスラックスをはくことを勧められる。初めは自分のスーツケースに替えが入っているからと断るのだが、Gilleyと Paulineの両方からの申し出でもあり、結局はGilleyのスラックスを借りることにする。さらに、二人の子供Erick(実は養子)がLevinのひざの上でおもらしをしてしまい、今度はパンツまで濡れてしまう。申し訳なく思い、夫のパンツを替わりにはいてくれとPaulineに言われ、また断るが、彼女に泣いて頼まれてしまい、仕方なくGilleyのパンツに履き替えたのだった。このようなトラブルが重なり、これ以上長居しない方が無難だと判断したLevinは、帰ろうとするが、二人に泊まっていけばいいと言われ、ついに断れずに泊まることにしてしまう。 このようなLevinを、Gilley とPaulineは思慮深い人だと思い、好印象を持ったことだろう。

    ところで、彼は普段気が弱いわりに、女性関係に関しては大胆な一面がある。まず、飲み屋のウェイトレス、Laverneとはほとんど初対面にも関わらず関係を持とうとするが、彼女に思いを寄せていた同居人のMr.Sadekに邪魔されて未遂に終っている。次に、大学の同僚であるAvisと、こちらも初対面ではないが、以前から恋心があったわけでもなく、突発的にそういう流れになり、しかし途中でAvisの胸の病気のことを知り、彼女を傷つけてしまい、こちらも未遂で終ってしまった。次は、compositionの授業を受け持っているクラスの学生Nadaleeだ。彼女に関しては、彼女が以前からLevinに興味を抱いており、Levinも彼女を気にしていたことから、前の二人ほど急な展開ではなく、途中車で道に迷いながらもなんとか彼女の伯母の別荘にたどり着き、関係を結ぶことができた。しかし、その後二人の仲が続くことは無かった。むしろLevinは彼女との関係が大学にばれることを恐れ、また、以前、大学の教授に裏切られた女学生がその教授のベッドルームの窓の外で喉をかききって自殺したという、Fairchildから聞かされたエピソードを思い出し、彼女とは疎遠になる。Nadaleeに対しては、自分はもしや彼女を好きなのではないかと思ったこともあるが、結局、一時的な欲求不満からの行為だったことがわかる。大学に赴任してきたばかりのころに、Fairchildから「学生や同僚の妻とに 個人的に親密になってはいけない」と注意されていたにもかかわらず、この一連の行動は軽率としかいいようがない。

    これに対し、教員としてのLevinは、さまざまな面を持ち合わせている。

    まず、Levinは、liberal artsを教えたくて大学の講師になったが、赴任してきてみるとcompositionの授業の担当にされてしまう。彼を採用したCascadia collegeは、もともと実用的な農学部やエンジニアなど理系の学部中心としており、liberal artsには力を入れていなかったのである。しかも、compositionのテキストは学科長であるFairchildの著書で、可も無く不可も無くといった出来のそのテキストを何年間も使い続けている。Levinはこれを怠慢と感じ、このぬるま湯的な英語学科に対して改革の必要性を感じるようになる。教員としてのキャリアが高校での2年間しかないにもかかわらず、大学に赴任してきていきなりこのような考えを抱くLevinは、野心家、夢想主義的かもしれない。

    また、BirdlessというLevinのクラスの学生に剽窃の疑いが出たとき、Gilleyは学生を軽んじているところがあり、頭から剽窃だと決め付けるが、Levinは学生を信じ、Albertと話し合う。そのときの彼の挙動不審な行動から、明らかにLevinに対して何かうしろめたいことがあると見られるにもかかわらず、証拠がないとして、成績に不可とはつけなかった。学生を信じたいと考えているLevinは理想主義的というか、少しお人好しに見える。 選挙に関しては、Levinの慎重な一面を垣間見ることができる。このCascadia大学の英語学科長Fairchildが今年で定年するため、英語学科では、次期学科長を学内選挙で決める可能性があること、すでにGilley とFabrikantが有力な候補者であることを知り、Levinは、Gilleyが自分を採用し、親切にしてくれているのは選挙に利用するためではないかと考え始める。しかしGilleyは人付き合いがうまく、上司としてはふさわしいタイプではあるものの、Fairchildのやり方を受け継ぐつもりのようで、特に改革はせず、Fairchild の著書”The elements”もそのまま使いつづけるつもりでいる。Levinは、Gilleyのやり方に疑問を持ち、考え方の違いを感じ始める。

    ある日、大学で扱っているテキストの一つ、” Ten Indians “について、内容に問題があるとして、学生の保護者からテキストとしての使用をやめるようにと抗議があった。その問題とは、性表現に関するものであった。作品中で、少年がインディアン(ネイティブ・アメリカン)の少女と性交渉を持つエピソードがあるのだが、そのみだらな性描写に問題があると言うのである。問題の個所に関し、Levinはこの作品の文学的価値は重要なものであり、性描写があるからといって大学の教材からはずすほど不適切なものではないと考えている。しかし一方Gilleyの考えは、その保護者からの要求どおり、“Ten Indians”の教材としての使用をやめようというものだった。彼にとっての判断基準は、その抗議内容そのものや ” Ten Indians “の文学的価値ではなく、学生の父親が、「“ Ten Indians “のテキストとしての使用をやめなければ、学長に、ひいては理事に直訴する」と言っていることだった。また、学生の中にネイティブ・アメリカンやその血筋の者がこの作品を読んだ場合、ネイティブ・アメリカンへの侮辱として抗議してくるのではないかとも懸念している。彼の後半の意見は一理あるものの、Levinは、問題が起こることを避けるために抗議内容を受け入れようとするGilleyの考え方に反発を感じるが、結局、自分の主張を押し通すことができずに、Gilleyの意見にいやいやながら合わせてしまう。Birdlessの一件もあり、LevinはGilleyに対し不信感を募らせるようになる。

    一方、Fabrikantは偏屈で社交的ではないものの、論文を発表したり、Levin同様、学生には文法よりも考え方を教えたいと思い、liberal arts programの復活を目指している。また、自分が学科長になったあかつきには、 “The elements”のテキストとしての使用をやめようとも考えており、Levinと同じものを目指している人である。しかし、Fabrikantは自分が社交的でないことを自覚しており、そのために自分が実際に選挙で選ばれることはないだろう思っている。選挙運動を積極的に行わないFabrikantに対し、次第にLevinの信頼感は薄れていき、彼を支持することをやめてしまう。

    こうして、二人の有力候補者の考え方をよく観察した上で支持しないとしたところには、Levinの慎重な一面を見ることができるだろう。

    次に、Levinの隠している過去とはどんなものか。Levinは、Paulineから度々過去について質問されているが、彼は過去を捨て人生をリセットするためにNew Yorkからやってきたため、決して話そうとはしない。しかし、PaulineはLevinに心を開いてもらいたいがために、自分のことを話したり、家に訪ねて行ったりと努力している。そんな彼女の気持ちに応えるように、森の中で結ばれた後、Levinは初めて自分の過去を話す。彼が隠してきた過去とは、自分の家が貧乏であったこと、父親が窃盗の常習犯で刑務所の中で死んだ人間であること、さらにそのせいで母親は発狂し自殺してしまったこと、自分は絶望して酒浸りの生活を送っていたことになったことだった。しかし、2年ほど自己嫌悪によるどん底の生活が続いたある日、誰かの汚い地下室で目覚めた彼は、自分のボロボロの靴が壊れた椅子の上に置かれているのを見る。そしてその靴窓から差し込む日光に照らされている姿を目にし、感動して更生することを決心したのだった。

    彼はPaulineに心を開き、やがて彼女を愛し始める。しかし、二人の関係は不倫であるために、Gilleyに対するうしろめたさから、Paulineは苦しみ、やつれていってしまう。そんな彼女を見て、責任を感じたLevinは自分も変わろうと決心し、自分の仮面であったひげを剃ったのである。

     しかしその後、Levinは自分へのPaulineの気持ちを疑い、また、お互いのことを考えて彼女と距離を置くことにする。それからは、大学の講師としての仕事に力を入れ始め、初めて論文を書いたり、office hourを設けて学生に対し門戸を開いたりしている。そしてついには、GilleyもFabrikantも支持しないことに決めていた彼は、誰かからの推薦を受けて、選挙に立候補までする。

     この積極性と大胆さに加え、ひげを剃って過去の自分から逃げることをやめたことで、変わった部分がある。Levinは、窃盗の常習犯で、近所にも盗みを働いていた父親のせいで人々から後ろ指を指された記憶があり、大人になった今でも自分に自信を持つことができず、堂々と自己主張することができなかった。実際、以前“Ten Indians” に関してGilleyと意見が対立したときは、自分の意見を強く主張できず、Gilleyの意見に反対し切れなかった。しかし、Gilleyが、選挙で自分に投票しなくてもいいから自分の邪魔だけはするな と、Levinとの和解を図ってきたとき、彼はこれをはっきりと拒否している。

    このように自分の考えを主張できるようになったことは、本当の自分に自信が持てるようになった証拠である。

    一方、ひげを剃ってからは、Levinの陰の部分も現れてきてしまった。つまり、窃盗犯であった父親の息子としてのLevinである。まず、Bullockのofficeに侵入し、彼の書類を密かに盗み見たこと、Avisの机をこじあけて中のものを探ったこと。さらに、Gilleyの引出しも開けてLeoのファイルを盗み見ている。この一連のプライバシー侵害行為は、相手の方にも非があるものではある。しかし、Levin自身が感じている通り、これは彼が父親の性質を受け継いでしまっている証拠である。

    しかも、Paulineに対しては、Levinは自分の意志をはっきりと表示できないでいる。Gilleyとの離婚が決まり、ErickとMaryの二人の子供を引き取りたいが、それを許さないGilleyに、自分の代わりに説得してほしいとPaulineに言われ、嫌だと言えないところや、本当はもう気持ちは冷めてしまっているのに、「愛している?」と聞かれてつい合わせてしまうところがある。そして、面と向かっては断れないがために、こっそり彼女から逃げてしまおうとすら考える。

    しかし、最後に、PaulineがLevinの子を妊娠したことを告白され、彼の気持ちに大きな変化が起きる。もし望まないなら堕胎するというPaulineの申し出に、Levinは、”I want the child. “(p. 365)と言っている。彼のこの言葉に嘘はないだろう。「自分の子供を作る」というのは、成人してからおたふく風邪になったために生殖能力を無くしたGilleyにではきなかったことだから、それを自分は成し遂げたという達成感 のようなものもあったかもしれない。しかしそれ以上に、あまり家庭的に恵まれていなかったLevinにとって、家族ができるというのは、とても大切なことだったのではないだろうか。おそらく、このときLevinにとって初めて、自分以外に守るものが出来たのだ。

    自分を隠すための仮面であったひげを落とし、次第に本当の自分に自信を持っていったLevinは、自分の家族という守るものを手に入れたことで、もっと強くなっていくことができるだろう。


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