Seminar Paper 2004

Sachiko Usuda

First Created on January 27, 2005
Last revised on January 27, 2005

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Levinの多面性
愛と理想の狭間で〜そして再出発へ

    このA New Lifeという物語は主人公であるSeymour Levinが自分の過去に悩み、苦しめられながらも新しい生活を求めて、自身の価値を求めて周囲の人々、環境にぶつかりながら成長していく物語である。東部からやってきたLevinはこのCascadiaの地に過去との決別を図る為にやってきた。大学教師としての自分、男としての自分、一人の人間としての自分を模索しながら生きていく姿は、人生において私のみならず誰しもがぶつかる壁といってもいいだろう。新しい環境に飛び込む時、誰もが期待とともに不安を持つものだ。Levinの場合、この不安が夢となって現れてくる。

 “He dreamed he had caught an enormous salmon by the tail and was hanging on for dear life but the furious fish, threshing the bleeding water, broke free: “Levin, go home.” He woke in a sweat.”(p. 24)

    この “Levin, go home.”という囁きは新しい生活への不安がここに集約されていると感じる。それでも新しい環境に飛び込んだのは過去との決別を強く意識しているからだ。

    ではLevinという男にはどのような過去があり、どのような人物なのか。Levinの性格を一言で表すことはとても困難な事である。なぜならこの男は非常に色んな性質を持っているからだ。この中でどれが本当のLevinなのか?と考えてみても答えは出ない。なぜならこの要素全てを持ち合わせているのが紛れもないLevinそのものだからである。

    Levinという人物を語る上で重要になってくるのがこの男の過去である。彼は自分の過去を隠し、過去に縛られ苦しめられてきた。この過去によってLevinはどんなことを感じ学び、未来に何を求めるようになったのか。Levinは自分の過去について自らこう語っている。

“The emotion of my youth was humiliation. That wasn’t only because we are poor. My father was continuously a thief. Always thieving, always caught, he finally died in prison. My mother went crazy and killed herself. One night I came home and found her sitting on the kitchen floor looking at a bloody bread knife.” (p. 200)

    父親は盗み癖があり、盗んでは捕まり最後には刑務所で命を落とし、母親はそれによって気がおかしくなり自殺する。しかもLevinの目には母親の無残な姿が焼きついているのだ。両親の愛を十分に受けることもなく成長したLevinは、本当の愛を知らないまま生きてきた。だからこそLaverne、Avis、Nadaleeにさえも愛を求めようとしたのだ。両親が死んだ後一人の女性を愛するが相手にされず、その後の数年間Levinは自分の価値に悩み苦しんだ上ある出来事が人生に大きな転機になるきっかけをもたらすことになる。

   “For two years I lived in self-hatred, willing to part with life. I won’t tell you I had come to. But one morning in somebody’s filthy cellar, I awoke under burlap bags and saw my rotting shoes on a broken chair. They were lit in dim sunlight from a shaft or window. I stared at the chair, it looked like a painting, a thing with a value of its own. I squeezed what was left of my brain to understand why this should move me so deeply, why I was crying. Then I thought, Levin, if you were dead there would be no light on your shoes in this cellar. I came to believe what I had often wanted to, that life is holy. I then became a man of principle.”(p. 201)
この出来事がLevinに生きる希望を与え、自分の価値を見出した瞬間である。Levinは精神的再生を果たしたのだ。

     ここからはLevinの性格を交え、この物語をみていきたいと思う。 Levinは誰にも曲げることのできない理想を持っている。そして何よりも自由と変化を求めている。それらはLevinの言動からも読み取る事ができる。

“ One always hopes that a new place will inspire change--in one’s life.” (p.17)

“ I’ve reclaimed an old ideal or two,” Levin said awkwardly. “ They give a man his value if he stands for them.” (p. 18)

    ニューヨークでの過去を清算し,新たな生活を求めて自分の信念を持ってCascadiaの地にやってきた。初めLevinはこの地にとても満足していた。東部にはなかった自然、やっと見つけた仕事、与えられた地位、求めていた新しい生活を全て手に入れる事ができたように感じた。しかし教育の場ではどうだろうか。文科系の大学だと思っていたら実は農・工を主体とする単科大学だった。周囲の豊かな自然の環境に恵まれているせいなのか、教授陣たちも学生、学問のことよりむしろ自分の趣味やスポーツ観戦などに明け暮れている毎日。生きていくために必要最低限の教養しか教えていない。Levinは学芸の大切さ、大学の理想論を何度も説いているがなかなか聞き入れられない。この保守的な州CascadiaではLevinのような人間は権威に挑戦する者として扱われてしまうのだ。しかしLevinは人権をまもり、正しいと思うことはやり通す。事実に基づいた判断を下し、不公平は許さない。そして文学をこよなく愛する男なのだ。Levinは自分を信じて戦い続けた。これは学科長戦だけでなく、自分と関係を持ったNadalee、レポートの盗作疑惑を持ったAlbert、”Ten Indians”という教科書問題でもこの正義感強いLevinの性格が色濃く出ている。自分の信念は決して曲げず突き進む猪突猛進型の人間だといってもいいだろう。

    LevinはCascadiaに来てから大学内の権力争いに巻き込まれていく事になる。大学の表面的な繁栄しか望んでいないGilly、実力はあるが人と関わるのがめっぽう嫌いなFabricant。この2人の間で板ばさみになる。Levinは人間としての権利よりも生徒の都合、大学全体の都合を重視するGillyを敵視するようになる。その一方で、LevinはPaulineと恋に落ちる。Paulineの前にもこの物語でLevinは色々な女性と関わっている。バーの店員Laverne,自分の生徒Nadalee,同僚のAvis,そしてGillyの妻Paulineである。ある時Paulineからこんな質問を受けた。” Tell me what you want from life?” (p.189)その質問に対してLevinは” Order, value,accomplishment,love.”と答えている。愛という言葉を最後に出している。Levinにとって愛とは何なのか。前項でも述べたように,Levinは両親の愛情を受けることなしに生きてきた。だからこそ愛を警戒し,それでも愛を与えそして与えられたいと願っているのではないだろうか。彼は孤独を恐れ、絶えず本当の愛を探求し愛に満ちた生活を切望していると私は感じた。Paulineとの関係に悩んでいる時、”How to be, please God, not Levin? How to live loveless or not live?” (p.219)にLevinの苦悩がよく表れている。

    Fabricantへの支持を表明していたLevinも過去に事件となったLeo Duffyの件で彼に不信感を持つようになる。Duffyに少なからず憧れを持っていたLevinはFabricantがDuffyの弁護をやめたことがどうも主義にひっかかりついに支持をやめ、自分からではないものの自身も科長選挙に出馬することになる。これはあまりにも大胆かつ無謀なことではないだろうか、と私は感じた。これは私自身もGilly側の意見になってしまうかもしれないが、赴任して1年もたたない人間が科長としてうまくやっていくことができるだろうか。理想や主義も大切だが、それに少なからず経験が伴わないとうまくいくこともうまくいかなくなってしまうのではないか。私自身にも現代の社会ではなくなりつつある年功序列型の考えが頭に染み付いてしまっているのかもしれない。けれどLevinは決して諦めることなくこのCascadia大学の革命者ともなるべく最後まで戦い続けた。今でいう実力主義の考えがLevinにはあったのだろう。

    選挙戦の傍ら、LevinはPaulineへの想いを必死に忘れようとする。不倫の関係である以上自分からは何もする事が出来ない。連絡がないということはPaulineが別れを望んでいると思い自ら身を引こうとする。” It was hopeless; he had fled love to dispel her anxiety and misery. He had suffered to free her from suffering.”(p.327) このLevinはまさにユダヤ人である。「The Assistant」で出てきたMorris Boberの”I suffer for you.”のように人のために自分が苦しむという考えは高潔でもあり過去のさまざまな歴史からこのような考えになったのを思うととても考えさせられる言葉である。この他にもLevinのユダヤ人としてのシュレミール的な要素がところどころに描かれている。特にNadaleeに会いに行く場面はこれでもかという位描かれていて、読んでいて笑ってしまいそうになった。これと平行してLevinのドジなところもなんだか微笑ましく感じる。(自分の勘違いで赴任先を間違えたり、新しい目覚し時計を買っておいたにも関わらず第一日目に遅刻をしてしまったりなど)

    自分のキャリアを選ぶか?それともPaulineとの愛を貫くか?この狭間でLevinは大いに悩む事になる。新しい生活を求めてやってきたこの地で成功を得ようと努力していたにも関わらず、最後で失敗しまた初めからやり直しになってしまう。ここがLeo Duffyと決定的に違うところだ。Levinは自分を魚に喩え、Duffyを鳥に喩えている。

 “He was a lone fish poking its snoot into bursting bubbles. On the bank sat Gilly with hook, line, sinker. The poor fish fled. Levin in watery flight followed confused currents. Every way out was his way in. He fantasied self-destruction, fish hooking self, funny for a fish. (Duffy, proud bird, had blown his coop.) (p.337)

     ここでもLevinのユダヤ性が強く出ている。何度逃れようとしても自ら釣り人の針に食いついていく。自由を誰よりも求めているのに自由になりきることができない。Levinの迷っている心に決定打を打ちつけたのはPaulineの「子供ができた。」という言葉だった。本当に子供ができたかどうかは定かではないが、Levinは魚であって鳥にはなれないと実感した瞬間である。Levinはこの言葉によってPaulineとともに生きる事を決める。この決断は常に人生に変化を求めるLevinにとって良かったのかもしれない。

    最終的にLevinはまた新しい生活を求めて旅立つ事になる。新しい生活には人間誰しも不安があるが、不安があるからといってそこで立ち止まらずに勇気をもって一歩踏み出す事が大切である。私もこの一年間は将来に悩み、不安でいっぱいだった。この物語は学生生活を終え、新たな社会に飛び出す私に勇気を与えてくれた。人間先のことを不安がってそこに立ち往生していてもしょうがない。未来はわからないからおもしろいのだ。過去を乗り越え、また新たな門出を迎えたLevinを応援せずにはいられない。


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