Seminar Paper 2005

Yuko Kokubun

First Created on January 27, 2006
Last revised on January 27, 2006

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The Cider House Rulesにおける「父と子」のモチーフ
親子の絆

   この作品の主題を登場してきた人物のそれぞれの家族との繋がりから論じてみる。始めに私個人がこの物語を通して読み終えてみて感じたことを簡潔に述べようと思う。お父さんがいてお母さんがいて、そして自分がいるという私の中での当たり前の家族像。しかしこの家族像に当てはまらない人々が大勢いる。片親しかいないから、実際は血が繋がっていないからなどという理由で勝手に同情してしまう傾向にある今日であるが、それは大きな間違いであることに、この本から教わった気がする。 孤児院の責任者と、そこで生まれた一人の孤児。この二人の間には、血縁よりももっと深い何かで結ばれていた。その何かとは「愛」に他ならないだろう。

    @ 孤児、堕胎
     この物語を読む上で外せないこれら二つのテーマから始めようと思う。孤児とは何か?広辞苑によれば“両親を失った幼児。身寄りのない子。みなしご。”である。しかしこれはあくまでも一般論である。この物語における孤児の定義とは?以下、本文から引用しつつ私なりにまとめてみる。

    まずは孤児自らが考える孤児とは?三番目の養子先であるドレイパー一家で、ホーマーは孫の少年にからかわれ、泣いてしまう。しかしマムは少年の嘘を信じホーマーのことを何度も殴る。“Homer, who was struggling to get his legendary howls under control -to send them back to history-did’nt know that grandchirdren are believed before orphans. ”(p. 19)この場面でホーマーは、孤児は信用されにくいということを身に沁みて学んだ。一方もう一人のこの物語の主要な孤児であるメロニーの発言からは、孤児という立場とはどのようなものなのかということが痛いほど痛烈に伝わってくる。その中からいくつかピックアップしてみる。メロニーは自分を捨てた実の親を探したがり、ホーマーに書類を捜してくるよう頼む。もし、自分の親が分かったらどうするかというホーマーの質問に彼女は次のように答える。“‘ To kill her, ’Melony had said without hesitation. ‘ Maybe I’ll poison her, but if she’s not as big as I am, if I’m much stronger than she is, and I probably am, then I’d like to stragle her. ’” (p. 97) もうひとつのシーンは、書類が存在しないこと知ったメロニーがどうすることもできない感情をぶちまけるところである。“‘ Sunshine, we’ve got nobody. If you tell me we’ve got each other, I’l kill you.’”(p. 98) 自分にはもはやだれもいない、この感情をぶちまけた相手にすらすべてのことを委ねることはできない、彼女が唯一信じられるのは自分自身だけなのだ。

     次にラーチが考える孤児とは?

“And St. larch would say, ‘ Tomorrow, same time, same place. ’There would be groans of disappointment, but Larch knew that he had made a promise; he had established a routine. ‘ Here St. Clouds, ’ he wrote in his journal, ‘ security is measured by the number of promise kept. Every child understands a promise- if it is kept- and liiks forward to the next promise. Among orphans, you build security slowly but regularly. ’” (p. 13-14)

   孤児というものは毎日予定通りに起こることを大事にし、長続きするものにだまされやすいのだ。そのためラーチは食事は毎日同じ時間に、そして毎日同じ時間に同じページだけ本を読んで聞かせていた。私たちには当たり前のことが当たり前でない孤児にとって、一歩先が見えず、何が起こるかわからない彼らにとって次に起こることが確実であるということは何よりも安心できるのだ。  

   次にこの物語の中で語られる堕胎を受ける母親、そしてその女性の相手(父親)は堕胎を行う立場のラーチはどう考えるのか引用してみる。  “ the villainous father of the unwanted babies, ” (p. 4)“I help them have what they want . An orphan or an abortion. ”(p. 74) 前者は父親、後者は母親に対するラーチの考えであるが、いかにこの物語において父親が堕胎に関して軽視されているかがわかる。

    A真の「親子」
     この物語に出てくる血のつながった実の親とその子の関係はどう描かれているのだろうか。まずはじめにウォーリーと母親のオリーブをみてみる。“ But Olive had a mother’s wish to keep war out of her mind. ” (p. 144) “   

“ Olive fumed to herself. She felt that typical contradiction a parent so often feels; completely on her son’s side-she even wanted to warm him, to help his cause-but at the same time Wally could stand to be taught a lesson.Just maybe not this lesson, Olive thought. ” (p. 357)

   自分の息子には出来ることなら戦争に行ってほしくないという気持ちや、自分の息子の恋愛事情で葛藤する気持ち、まさに一般的な母親の持つ感情である。次にキャンディと父親のレイについてみてみる。    

“‘ I don’t like not knowing what you’re doing something for, ’Candy told her father when they were alone. ‘ It’s like this, ’Ray said slowly. ‘ I’ll tell you what it’s like-a torpedo. It’s like Wally, comin’ home. You know he’s comin’, you can’t calculate the damage. ’” (p. 444)
自分の娘には隠し事をしてほしくないと思うレイの発言、行動からも一般家庭によく見られるような親の気持ちが読み取れる。最後にミスタローズとローズローズの関係も見ておく。“‘ I did’nt hurt her, ’Mr. Rose went on. ‘ I did’nt touch her, Homer, ’ he said. ‘ I just love her, was all. I just wanna see her-one more time.’” (p.574) “‘ My doughter run away, ’Mr. Rose told all of them. ‘ And I so sorry that I struck myself. You better say that what happen. Let me hear you say it! ’He raised his voice to them. ”(p. 576) 近親相姦という問題をかかえるローズ親子、最後には娘に刺されて死んでしまう。しかし、この事件はミスタローズの自殺ということで片付けられる。しかしそれはミスタローズ自身が望んだことなのだ。自分を妊娠させた相手(真の父親)を公表したがらなかった娘に、自分の娘を妊娠させ、最後にはその娘に殺されてしまう父親、一見ない状況に思われるかもしれないが、ここにもしっかりと親子の絆が見受けられる。

   B ホーマーとラーチ
    実際に血のつながっていないこの二人の間に築かれてきた愛とはいったいどういうものだったのだろうか?本文から引用しつつ考えてみる。 “That was when Dr.Larch said that Homer could stay at St.Cloud’s for as Homer felt he belonged there. ”(p. 35)

“‘The Lord’s work, ’said Wilbur Larch, that saint of St. Clouds, because that was when he realized that this was also the Lord’s work; teaching Homer Wells, telling him everything, making sure he learned right from wrong. It was a lot of work, the Lord’s work, but if one was going to be presumptuous enough to undertake it, one had to do it perfectly. ”(p. 70)
前者は4家族もの養子先をホーマーに見つけてあげたのにもかかわらず、結局はセントクラウズに戻ってきてしまう彼をみて、ラーチが彼に養子先を見つけることを諦め、後者はラーチがホーマーにここセントクラウズで自分が行っていることをすべて語ろうとしたところであり、ここから二人の家族ではないがそれにも勝らないような愛で結ばれた関係が始まったように思われる。

   上にも示したがウォーリーの母のオリーブは息子に戦争に行ってほしくないというシーンがあったがこれと同じような感情、もしかしたらその思いにも勝ってしまうほどのラーチのホーマーに戦争に行ってほしくないという感情が表れているのが以下のシーンである。“The love of Wilbur Larch for Homer Wells extended even even to his tampering with histry, a field whrein he was an admitted amateur, but it was nonrtheless a field that he respected and also loved. ”(p. 147) そしてレイとキャンディ親子の関係と似た箇所もみうけられる。“More central to our relationship, Homer, is the issue of your deceiving me. Right? ”(p. 104)

   C 親の死
   家族との関係において何よりもつらいこととは、やはり師であろう。この物語でも、キャンディ、ウォーリー、ホーマーとそれぞれが親(または親代わり)を亡くしている。キャンディの父親は不慮の事故により目撃者が誰もいないという状況における死、ウォーリィの母親は息子が送還される前に手術不能のガンにより死んでしまう。そしてラーチは、結局自分の跡を継いでセントクラウズに戻ってきてほしいという思いに対するホーマーのOKの返事を聞くことができずに死んでしまう。こうみてみると3人とも決して幸せな死に方をしていない。それぞれが自分の最愛の息子(娘)にみとられていないのだ。わたしはこの3人の最後の描き方からも筆者が、真の親子と、そうではないがそれにも勝るような愛で結ばれているホーマーとラーチの関係に違いがないことを語りかけているように思える。

   D 未来
   この物語における主要な人物であるホーマー、キャンディ、ウォーリーがそれぞれ最後にどう描かれ、読者である私たちにどういった印象を持たせているのかみてみる。最後にはホーマーは息子エインジェルに、キャンディはウォーリーにすべてを打ち明ける。そこのところの詳しい内容は書かれていないが、“Homer told Wally and Candy and Angel when they were eating a late supper in the house at Ocean View.”(p. 582)とあるのでどうやら秘密を明かしたことでの大きなトラブルもなく収まったように思われる。 そして、ホーマーはラーチの願いであった彼の後を継いでセントクラウズに戻りファジィストーンとして生きていくことになる。キャンディがウォーリーにすべてを打ち明けたことは彼女の父親のレイも望んでいたことであったし、オリーブが死ぬ前に気にかけていたこと、“‘He(Wally)’s going to be cripped. And,he’s going to be lose me. If he loses you, who’s going to look after him?’”(p. 464) もどうやら心配はいらないことになったようで、 3人がそれぞれに親が願っていたとおりの未来を歩き始めることになったのである。 血がつながっていてもつながっていなくても親子間の絆になんら変わりはないのである。お互いが相手のことをどれだけ大切に思えるか、その気持ちが「真の親子」にも勝る何かを生み出すのだ。そのことをわたしは二人から教わった気がする。


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