Seminar Paper 2006

Tsubasa Minegishi

First Created on January 30, 2007
Last revised on January 30, 2007

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The Great Gatsby におけるMoneyの意義
〜金の力〜

    The Great Gatsby が私に残した最大の印象は女の恐さであり、金の恐さである。これは男の目線から見た見方だが、女と金というものがいかに大きな力をもっており、それらが男の人生に与える影響は量りしれないということが、作品を読み終えた今、私の中に強く残っている。

    そこで今回、私は金の恐さに焦点を置いて作品を振り返ってみたいと思う。作品の中の主要人物として挙げられるのは、ギャッツビー、ニック、デイズィ、トム、ジョーダン、マートル、ジョージ・ウィルスン、ダン・コウディなどであろう。この主要人物たちは皆、物語の中で、金の力による何らかの影響を受けていると私は考える。そこで私は「人間の人生は金の力で大きく変わりうる」という仮説をたて、それを実証していきたいと思う。

    この論文では各主要人物の発言や行動、生い立ちが記述されている人物についてはそれも追いかけ、彼または彼女らの人格形成と生活に金の力がどのように影響を与えているのかを明らかにしていく。

    各主要人物たちは大きく3つのグループに分けられる。グループ1は「貧乏から富豪になった者」、グループ2は「生まれたときからずっと富豪だった者」、グループ3は「生まれたときからずっと貧乏な者」。この3グループに登場人物を分別して、各グループ同士、さらには各グループ内同士を比較することで金が人の人格形成にどのように影響を与えるかを明らかにできると私は考える。

    グループ1に分けられる人物としてまず考えられるのはギャッツビーである。彼は言うまでもないが「貧乏から富豪になった者」だ。中西部の貧民層の家の生まれで、彼の父親は ”Of course we was broke up when he run off from home” (p. 172) と言っていることから、彼の実家がいかに貧乏だったかがわかる。その後、デイズィのために彼は富豪になった。

    ダン・コウディも「貧乏から富豪になった者」に分類できる。

Cody was fifty years old then, a product of the Nevada silver fields, of the Yukon, of every rush for metal since seventy-five. The transactions in Montana copper that made him many times a millionaire (p. 99)
という文から、彼は生まれつき富豪であったわけではないということが推測できる。
  グループ2の「生まれたときからずっと富豪だった者」に分類できる人物は、ニック、デイズィ、トムの3人である。トムは莫大な金持ちの家で育ち、その恩恵を受けて現在も大富豪の生活を送っている。

    デイズィも金持ちの家で育った。8章でギャッツビーが初めてデイズィの家に行ったときの場面でギャッツビーがデイズィの家の美しさに驚いている場面から、彼女の実家が金持ちであることがわかる。ニックもトムほどの富豪ではなかったが “My family have been prominent, well-to-do people in this Middle Western city for three generations.” (p. 3) という文からそれなりにいい生活をしてきたということが推測できる。

    グループ3の「生まれたときからずっと貧乏な者」にはマートルの夫のジョージ・ウィルスンとその妻、マートルが当てはまる。ジョージ・ウィルスンは灰の谷で自動車整備店を経営しているが、トムに車を売ってくれと媚びるほどの経営難の中、生活している。また、マートルとの結婚式の際には友人から衣装を借りるほどの貧乏だった。

    マートルは中間階級であるにも関わらず自分の階級を過信していて、“I married him because I thought he was a gentleman. I thought he knew something about breeding, but he wasn’t fit to lick my shoe” (p. 34) と言い放ち、自分はもっと上の階級の人とつりあっていると勘違いしている。そしてジョージ・ウィルスンでは満足できなくなり、富豪のTomと浮気をする。

    ここからはグループごとに、金がそのグループに属している人物の人格や生活にどのような影響を及ぼしているのかを考えていく。

    まずはグループ1のギャッツビーから分析する。彼の生まれは貧乏な家庭だったが、自己啓発意欲は人並み外れたものがあった。第9章に出てくる、彼が本の裏表紙に書き残した生活の誓いを見れば自己啓発力に優れていたことがわかるだろう。また、起床時間から就寝までのサイクルをぴっちり決めていたところをみると、自己統制力も優れていたに違いない。そんな彼は東部の魅力に誘われて家を出た。そしてダン・コウディと出会い軍隊に入隊し、ついにはデイズィと出会ってしまった。初めてデイズィの家に行ったとき自分とデイズィの間のギャップに気づいたギャッツビーは、そのギャップを埋めるべくウソをつき、あらゆる努力をした。具体的には、彼女に同じ社会層の人間だと思い込ませて安心感を与えたのだ。しかしそのギャップは埋まらなかった。

 Gatsby was overwhelmingly aware of the youth and mystery that wealth imprisons and preserves, of the freshness of many clothes, and of Daisy, gleaming like silver, safe and proud above the hot struggles of the poor. (p. 150)
デイズィとの付き合いの中で、上に引用したように、貧乏人と富豪との差を痛感させられたギャッツビーは、金の力を獲得するために奮闘することとなる。

    金の力を獲得するために彼が選んだ道は、法律を犯して酒の密売をすることであり、さらには人には言えないようなことまで手を出すことであった。金を稼ぎ出すことに必死になり、デイズィを振り向かせるために不法に稼いだ金で豪邸を購入し、いい車に乗って、いい服を着た。彼はステータスを獲得した代わりに人間としての心を失ったように思える。だから最後の葬式には、誰も来なかったし、デイズィも自分のものにできずに死んでいったのだ。人並み外れた自己啓発力と統制力があった素晴らしい人間だったにもかかわらず、一人の女性のために金を追いかけた結果、結局は空っぽの人間になってしまった。

    ダン・コウディはギャッツビーとは違った方法で金持ちになった。ネヴァダ州の銀山、ユーコン河の金、ゴールドラッシュ、モンタナの銅の取引などを利用して正当な手段を使って富豪になったのだ。しかし大富豪になりすぎたコウディは、その噂が広がってしまい、最終的には新聞記者のエラ・ケイに財産を全て持っていかれるという結果になった。エラ・ケイはどこからかコウディの死の知らせを聞いて、その後すぐにコウディの船に乗り込んできて、財産をねこそぎ奪っていったのだ。また、コウディは “soft-minded” (p. 99)な精神の持ち主だったため、たくさんの女が彼から金をひき離そうと試みた。

    金の力を持った者は、常に誰かにその財産を狙われながら生きることとなる。その金を守ることができるのは自分だけであるので、強い精神の持ち主でないとそのプレッシャーに耐えられなくなる可能性もある。ダン・コウディを見ていると、金に押しつぶされそうになりながら、その人生を送っていたように思えてならない。

    ここからはグループ2の「生まれたときからずっと富豪だった者」の分析に入る。トムは大富豪の家に生まれた。そのため金銭感覚が周囲とは、ずれているということが書かれている。大学時代にはその金の使いぶりに非難が集中したとか、シカゴから東部に越してきたときには、ポロのための馬を連れてくるといったような贅沢ぶりであったとか、ほかにもフランスで意味もないのに1年間すごしたりしていたといった具合だ。
  デイズィもトムと同じような階級の生まれであった。まさにお嬢様というような生活を送り、物欲の塊といっても過言ではないような女性である。ウエスト・エッグのギャッツビー邸に行ったときには彼の家にうっとりして、純金色の化粧セットのブラシを手にして嬉しそうに髪を撫でたりしていた。その他にも、ギャッツビーの美しいワイシャツの山やヨットに感激していた。こんな彼女を見てギャッツビーは、”Her voice is full of money,” (p. 120) と彼女の声を表現したのだろう。
  ニックはデイズィやトムと比べると金持ちな家庭に生まれたわけではなかったが、それなりには金持ちの家庭に生まれた。彼と金の関係を考えようとしても、『The Great Gatsby』の中のニックは傍観者のような第3者的な立場であったため、あまり詳しく書かれていない。

    グループ2に属しているこの3人は元から金持ちだったため、金の力による影響で性格や生活に大きな変化は見られないことは言うまでもない。しかしトムとデイズィは大富豪出身ということが共通しており、2人とも自分勝手ということが共通しているように思える。金持ちの家庭は自由にお金が使えて苦労を知らないためなのか、わがままに育つことが多いような気がする。彼らはわがままで自分勝手だったために、マートルをひき殺して、ギャッツビーの人生をめちゃめちゃにして、その他周りの人々の人生も混乱させて、そのまま事を放置して、自分たちだけは逃げていってしまったのだろう。

    グループ3の「生まれたときからずっと貧乏な者」にはマートルの夫のジョージ・ウィルスンとマートルが属している。

    ジョージ・ウィルスンはマートルとの生活と自動車整備店を守るために、自分の体にムチを打って、トムにゴマをすって暮らしていた。このことからわかることは、貧乏人は、生きて行くために金持ちに媚びながら、お金にならない仕事を続けなければならないということだ。ギャッツビーのように自分を犠牲にして、法を犯してまでも金を稼ぎ出すか、ダン・コウディのように取引やビジネスのための優れた才能をもったものしか、この貧乏の悪循環からは抜け出せないのだ。マートルに犬を売った、あのニューヨークの路上にいた男も貧乏の悪循環から抜け出せない一人といえるのではないだろうか。

    マートルは貧乏な自動車整備店のジョージ・ウィルスンと結婚して、貧乏な生活をしていた。彼女はジョージとの貧乏生活に疑問を感じ、大富豪のトム・ビュキャナンとの浮気にはしった。彼女を見ていると、人間の3大欲といわれる食欲・性欲・睡眠欲の次に物欲とか金欲などの第4の欲があってもいいように思えてくる。トムと一緒にいるときはセレブ気分になって、日ごろのストレスを発散しているように見える。トムと一緒にニューヨークのマンションにいるときは態度が大きくなり、さらには見栄っ張りになる。アパートに到着すると、衣装を着替えて金持ち気分を味わい、マッキー婦人にそのドレスを褒められれば、 “It’s just a crazy old thing,” she said. I just slip it on sometimes when I don’t care what I look like.” (p. 31) と見栄を張り、仕舞いには、そのドレスを着終わったらマッキー婦人にあげると言っている。

    可愛げのない女性だ。自分の夫を見捨てて、金に目がくらんでトムと浮気をし、わがままぶりを発揮している。マートルのような女性がお金のない生活を続けていると、第4の欲、物欲と金欲のために家庭から逃げていってしまうのだろうか。金があれば誰でもいいといったような感じがする女性である。

    この3つのグループの比較からわかることは、この論文でとりあげた人物全員が金に価値を置きすぎているということだ。特にマートルとギャッツビーはこの傾向が強い。マートルは金そのものに憧れを抱いていて、ギャッツビーはデイズィを自分のものにするために金を餌にしようとしている。この二人は他の誰よりも金に執着心がり、他の誰よりも金に振り回されている。二人に共通していることは、貧乏出身で金に執着心があるということだ。これまで説明してきた通り、他の人物も全員が多少は金の力の影響を受けている。しかし、この二人ほどではない。

    以上のことから、金の力に振り回されやすい人は、もともと金持ちではないのに金に異常な執着心をもっている人であると推測できる。


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