Seminar Paper 2006

Miho Nomoto

First Created on January 30, 2007
Last revised on January 30, 2007

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The Great Gatsby におけるMoneyの意義
MoneyというAmerican Dreamを夢見る西部人

    この作品はAmerican Dreamの失敗を描いたものである。American Dreamは「共和制が採用され、誰にでも均等な機会が保証されているアメリカ社会では、人はその才能と努力次第で成功し、社会的・経済的に限りなく上昇できるとする考え方」(広辞苑)である。言ってしまえば、American Dreamというものは「moneyを手にする」ことである。この作品において、GatsbyはDaisyを手に入れるというAmerican Dreamを抱いているが、その1つの過程として「moneyを手にする」という目的は含まれている。言ってしまえば、American Dreamはお金を手にすることでありmoneyと同義語なのではないだろうか。

    American Dreamがmoneyと同義語だという前提を先に掲げたが、そのことから私は、American dreamとは西部の人間のみが抱くものなのではないかと考えている。なぜなら東部の人間はもとより地位(社会的成功)とお金(経済的成功)を手にしているのであり、これ以上求める必要がないからだ。私はこのことから、こういった格差がGatsbyの夢の崩壊を引き寄せた原因の1つなのではないかと考えている。

    Moneyは、東部の人間の様に先天的な要素として家系からもたらされるか、西部の人間のように自力で稼ぎだすかの2パターンに分けられる。Gatsbyはこの場合、後者に分類される。彼はDaisyとの過去をやり直すというAmerican Dreamを抱いていたが、この物語で、才能”an extraordinary gift for hope”(p. 8)を持ち、努力(その証拠として、彼はDaisyを手に入れるために5年という歳月をかけて築いた巨大な富を築いた。)もした彼のAmerican Dreamは実現されることはなかった。

    では、なぜ実現されることができなかったのだろうか。それは広辞苑の定義のように共和制が採用されたとしても、根本的・本質的な部分での平等ではなかったからではないだろうか。自由と平等を掲げるアメリカ社会において、American Dreamの理想は、人々がどのような家系、宗教、社会的な位置であっても叶えられる事であろう。だが、この物語では”His parents were shiftless and unsuccessful farm people”(p. 105)であり、卑劣な方法で大金を稼いだGatsbyに「成功」は与えられなかった。

    TomはGatsbyを”A lot of those newly rich people are just big bootleggers,” (p. 115)と偏見の満ちた目で見ている。実際、Gatsbyがいくらきらびやかな家と車を持ち、盛大なPartyをしたとしても、東部の金持ち連中の仲間にはなれないのだ。つまり、東部と西部という差は、何にしても埋めることができないということなのではないだろうか。

    そこで東部と西部の気質の違いについて考えていきたいと思う。第1に、Nickは典型的な西部気質の持ち主だといえるだろう。まずそれはTomとDaisyの家に訪ねて行った時の食事のシーンで垣間見ることができる。Nickはその食事の様子を”It was sharply different from the West,”(p. 19)と表現している。そしてその直後に、”’You make me feel uncivilized, Daisy,’”(p. 19)と告白していることからも、Nickがこの東部での空間に馴染めずにいることが読み取れる。 また、Gatsbyのpartyに正式に呼ばれるのを待ってから出向いたことや、

As soon as I arrived I made an attempt to find my host, but the two or three people of whom I asked his whereabouts stared at me in such an amazed way, and denied so vehemently any knowledge of his movements, (p. 48)
と書かれているように、partyのhostであるGatsbyに挨拶しようとする点。(同時に、それは東部の中では浮いたものだということが表現されている。)その他に、”Most of the time I worked”(p. 62)と熱心に仕事をこなしている点や、”I went upstairs to the library and studied investments and securities for a conscientious hour.”(p. 63)と、投資と有価証券について熱心に勉強している面からも西部的な努力家な気質を読み取ることが出来る。

    同様にGatsbyの西部気質も、その5年という歳月をかけてDaisyを手に入れるために莫大な富を築いたその努力や、所々に垣間見られる彼の落ち着かない言動、東部特有のmeaninglessな言い合いになじめていないところから読み取れる。 MyrtleもWilsonと結婚した理由を、”’I married him because I thought he was gentleman,’” (p. 41)と語っており、直後にその結婚を”I knew right away I made a mistake.”(p. 41)と表現している。その理由はWilsonが結婚式のときのスーツを他人から借りたものと分かったことだというのだから、彼女はお金に対して強い関心を抱いていることがわかる。また、

The apartment was on the top floor - a small living-room, a small dining-room, a small bedroom, and bath. The living-room was crowded to the doors with a set of tapestried furniture entirely too large for it, so that to move about was to stumble continually over scenes of ladies swinging in the gardens of Versailles. (pp. 34-35)
と描かれているTomとのN.Y.のアパートの様子から察しても、東部の生活に強い憧れを抱いていることが読み取れる。 この3人の共通点はAmerican Dreamを抱いているということである。Nickは証券という仕事をして東部に留まることを夢見、Gatsbyは5年前の目的(Daisyとの結婚)に執着し、すでに人妻となっている彼女との結婚を非現実的に追い求めている。また、MyrtleもGatsby同様、TomからDaisyはカットリックのために離婚ができないという嘘が仕込まれているのにも関らず、Tomとの結婚を非現実的に追い求めている。そして、物語の最後にはこれらの夢は全て消滅してしまう。American Dreamを持つ自由、その反面でモラルを欠如するAmerican Dreamに対する制裁が厳しい。

    それに対して、”Something they come and went without having met Gatsby at all, come for the party with simplicity of heart that was its ticket of admission.” (p. 47) と描写されているように、Gatsbyのpartyにその天真爛漫さを入場券代わりに押しかけていった東部の金持ち連中は、meaninglessな会話が繰り広げられGatsbyをいいように食い物にし、夜な夜なpartyに出向いてはバカ騒ぎをしては帰っていく。彼らは招待されたわけでもなく、hostであるGatsbyに挨拶もせず、partyに参加しておきながらGatsbyが”a German spy during the war”(p. 50)であったとか”he killed a man”(p. 50)であるなど、彼の不確かな噂で盛り上がっている。 Daisyは、一瞬はAmerican dreamの甘美な余韻に浸りかけたが、結局はGatsbyを一番ふりまわし、食い物にした人物である。彼女は、myrtleを轢き殺すという事故の責任をGatsbyに押し付けておきながら、Gatsbyが死んだときに何もアクションをとらず、遠く旅行に逃げていた。

And all the time something within her was crying for a decision. She wanted her life shaped now, immediately - and the decision must be made by some force - of love, of money, of unquestionable practicality - that was close at hand. (p. 157)
上記で引用したように、決断を求めていた彼女がTomとの結婚を決めたのはmoneyのpowerであるところが大きいだろう。彼女は自分を“‘I’m pretty cynical about everything.’”(p. 23)と表現しており、自分の娘が生まれた時に発した”’I’m glad It’s a girl. And I hope she’ll be a fool - that’s the best thing a girl can be in this world, a beautiful little fool”(p. 24) という発言や、娘に対する”’You dream, you. You absolute little dream.’”(p. 123) という発言は、彼女自身がAmerican Dreamを抱いてきた人間であったことを語っているのではないだろうか。

    TomはMyrtleと浮気しているが、それはDaisyと離婚を考えるような大それたものではない。その相手の選び方や相方はとても現実的である。

    Jordanはゴタゴタを避けるためか、事故後すぐにDaisyの家から出てきてしまう。特に、この事故後のシーンからは、Gatsbyにより真摯になるNickと、Daisyと疎遠になるJordanという対比が生まれており、東西のその性質の差が明らかになっていると言えるのではないだろうか。

    この3人に共通することはrealismである。現実的に物事を捉え、自分の足場を危うくするようなことはしない。 このように、東部と西部はお金の有無だけでなくdreamとrealismという形でも比較することが出来る。ただし、彼らも本来は西部の人間であるために、東部のmeaninglessな会話に混じれていない部分や、東部の異質さに恐怖を覚えたり、死に涙を流したりという感情的な部分を垣間見せる。

    この作品では第1章から多くの「比較」描写が使われている。例えばWest EggとEast Egg、Gatsbyの家とNickの家が比較されながら描かれている。こういった比較も全て「money」という一言に集約されるのではないかと思う。他にも、Gatsbyのcolorfulなシャツの描写や、東部のきらびやかな描写、西部の灰色の谷のカラーレスな印象は、貧富の差を表す一つの表現であろう。

A factual imitation of some hotel de Ville in Normandy, with a tower on one side, spanking new under a thin beard of raw ivy, and a marble swimming pool, and more than forty acres of lawn and garden. (p. 11)
このGatsbyのmansionの描写やTomが”circus wagon” (p. 127)と表現した派手な車は、彼の「成功」の表現である。Nickは隣にある自分の家を”My own house was an eyesore, but it was a small eyesore, and it had been overlooked” (p. 11)と表現しており、何かしらの劣等感を感じていることは確かである。

    つまり、人の価値を決める要素として、「お金」というものがとても高い位置にあったのではないだろうか。その為に西部の人間はAmerican Dreamを胸に抱き生きていたといえるのではないだろうか。 GatsbyはDaisyを手に入れるというAmerican Dreamの実現する手段としてmoneyを手にした。DaisyもMyrtleも、Tomと結婚または付き合うことでmoneyを手にした。だが、彼らはmoneyを手に入れたとことで彼らに幸せになれたと言えるのだろうか。東部の冷たい人間模様に、なることが本当に幸せなのだろうか。Nickが東部に適合できない欠陥をもっていると書き記しているが、それは西部気質のことではないのだろうか。しかし、これは彼らに欠陥があるのではなく、東部の人間にこそ欠陥があるのではないだろうか。葬式にも訪れず、情や愛という人間らしい感情を欠如した東部の人間。しかし、西部の人間に欠陥があると思わせるほど、東部に基準が置かれているという悲しさが浮き彫りになっている。

    このように本質的な部分が改善されない限り、American Dreamの実現はないことをこの本は私達に語りかけていたのではないだろうか。残念ながらこの物語にはその格差を埋める術は記されていない。NickはAmerican Dreamを捨て西部に戻った。彼はこれからも人間らしい感情を持ったまま生きていくだろう。しかし、人間は、東部のようにmoneyを持った冷たい人間になるよりも、西部のようにmoneyがなくても人間らしさを持って生きた方がいいのだ。


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