Seminar Paper 2006

Ryota Suzuki

First Created on January 30, 2007
Last revised on January 30, 2007

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The Great Gatsby の女性たち
The Great Gatsby の悪女

  アメリカン・ドリームを最期まで求め続け、そして滅んでゆく一人の男の悲劇を描いた作品、”The Great Gatsby”。この物語には二人の上流階級に属する女性が登場する。主人公ギャツビーがその人生の全てを捧げて愛した女性デイジー、もう一人の主人公ニックの恋人ベイカーである。この物語の中で、筆者であるフィツジェラルドが描いた女性とはどのようなものであったのだろうか。この二人の女性の性格を中心に分析していくことで、フィツジェラルドが抱いていた女性観について探っていくことにする。

  デイジーは生まれながらにして上流階級に属しており、その美貌からか、若いうちから周囲にもてはやされる存在であった。デイジーと出会った当時、地位も名誉も持ち合わせていなかったギャツビーにとって、彼女は高嶺の花のような存在でしかなかった。そのような女性となぜギャツビーのような男が付き合うことができたのかというと、そこにはある理由が隠されていた。
He might have despised himself, for he had certainly taken her under false pretences. I don’t mean that he had traded on his phantom millions, but he had deliberately given Daisy a sense of security; he let her believe that he was a person from much the same strata as herself ? that he was fully able to take care of her. (p. 155)
  このようにデイジーは、ギャツビーのことを自分と同じような階級に属する人間であると信じたのである。そして、ギャツビーと恋に落ちるのだが、その恋は決して長くは続かなかった。原因はデイジーによるものが大きいであろう。戦争に行ったきり、いつアメリカに帰ってくるかもわからないギャツビーのことを、ただ待っていることしかできない自分の状況に耐えられなくなったのである。
- there was a quality of nervous despair in Daisy’s letters. She didn’t see why he couldn’t come. She was feeling the pressure of the world outside, and she wanted to see him and feel his presence beside her and be reassured that she was doing the right thing after all. (p. 157)
  デイジーは常に何らかの大きな力によって自分を支えてもらわなければ生きてゆくことができなかった。それが愛の力によるものなのか、金の力によるものなのか、彼女にとってはどんな力でもよかったのかもしれない。ただ何らかの大きな力に依存することによって、自分自身を精神的に安定させたかったのであろう。彼女はギャツビーとの関係では安定を得ることができなかったのである。そのため、金の力によって安定を得ることができるトムとの結婚を選択したのではないだろうか。

  デイジーはギャツビーと五年ぶりに再会を果たすと、再びギャツビーを愛するようになる。しかし、ギャツビーとは違い、デイジーにとって二人の関係はあくまで浮気でしかなかったのである。ギャツビーがトムにデイジーとの関係を告白した場面で、デイジーはギャツビーに向かって、”Oh, you want too much!” (p. 139) と泣き叫んでいる。ギャツビーの願いは、”I’m going to fix everything just the way it was before,” (p. 117) と述べているように、デイジーと過ごした過去を取り戻すことであった。しかし、この願いが叶うことはなかった。デイジーにはトムと別れてギャツビーと一緒になることが現実的ではなかったのである。彼女は今の生活を全て捨てることなど、とても想像することができなかった。それは今現在手にしている安定を失うことになるからである。彼女がマートルを車で轢き殺しておきながら、自分が犯人であると名乗り出ずにギャツビーにそのまま罪を被せてしまったのは、彼女のこのような性格が表れた結果ではないだろうか。

  デイジーの性格を最もよく表しているのが、彼女の声である。そしてニックは、何度も彼女の声の魅力について語っている。また、ニックが”I think that voice held him most, with its fluctuating, feverish warmth, because it couldn’t be over?dreamed ? that voice was a deathless song.” (p. 103) と述べているように、ギャツビーもデイジーの声に魅了されていたのである。これほどまでに男を魅了する声とは、いったいどのようなものだったのだろうか。ギャツビーはデイジーの声を”Her voice is full of money,” (p. 126) と表現している。これには様々な意味が込められていると考えられる。まず、デイジーの育ちの環境である。彼女は幼いころから金に溢れた生活を送ってきた。それが彼女の声に表れているのではないだろうか。次に、彼女の願望である。金に溢れた生活を送ってきた彼女は、もはや金のない生活など送ることができなかったのである。彼女がギャツビーの家を初めて訪問した際、大量のシャツを見た途端に泣き出す場面がある。これも、彼女の金に対する執着が表れているのではないだろうか。

  次にニックの恋人、ジョーダンについて述べていくことにする。彼女はデイジーと同じように上流階級に属している。また彼女は、雑誌に載るほどの有名なプロゴルファーでもあり、ニックが一緒に歩いていて誇らしく思うほどであった。そんな彼女の性格は、デイジーとは対照的にあまり感情を表に出すことはなく、常に周囲の状況に対して冷静な態度を取っていた。そして全ての状況を客観的に見ているような印象さえ感じられる。
The younger of the two was a stranger to me. She was extended full length at her end of the divan, completely motionless, and with her chin raised a little, as if she were balancing something on it which was quite likely to fall. If she saw me out of the corner of her eyes she gave no hint - indeed, I was almost surprised into murmuring an apology for having disturbed her by coming in. (pp. 14-15)
  これはニックがジョーダンと初めて出会ったときの、彼女に対して抱いた印象である。このように初めて出会った人間が謝ろうと思ってしまうほど、彼女の態度は堂々としたものであったのだろう。彼女はデイジーとは違い、男に依存して精神的な安定を図るようなことはないかもしれない。しかしながら、彼女は他の方法でやはり精神的な安定を望んでいるのである。
Jordan Baker instinctively avoided clever, shrewd men, and now I saw that this was because she felt safer on a plane where any divergence from a code would be thought impossible. She was incurably dishonest. She wasn’t able to endure being at a disadvantage and, given this unwillingness, I suppose she had begun dealing in subterfuges when she was very young in order to keep that cool, insolent smile turned to the world and yet satisfy the demands of her hard, jaunty body. (pp. 64-65)
  ジョーダンは、自分にとって不利な立場に立たされた状況において、その状況から逃れるためなら平気で嘘をつく”dishonest”な女である。その性格が災いして、以前にもゴルフのトーナメントで不正行為をしたことが新聞に載りかけたことがあるほどである。そのため、彼女は”clever”で”shrewd”な男を避けるようになる。そのような男に自分が”dishonest”であることを見抜かれることを恐れているのであろう。彼女はそのような男を避けることで不安を取り除き、精神的に安定していたと考えられる。そのような性格の彼女が、ニックと親密な関係になったのは大変興味深い。
‘You’re a rotten driver,’ I protested. ‘Either you ought to be more careful, or you oughtn’t to drive at all.’ ‘I am careful.’ ‘No, you’re not.’ ‘Well, other people are,’ she said lightly. ‘What’s that got to do with it?’ ‘They’ll keep out of my way,’ she insisted. ‘It takes two to make an accident.’ ‘Suppose you met somebody just as careless as yourself.’ ‘I hope I never will,’ she answered. ‘I hate careless people. That’s why I like you.’ (p. 65)
  これはジョーダンが車を運転しているときの、ニックとの会話のやりとりである。一人の労働者のそばを通りかかるとき、彼女が運転していた車のフェンダーがその男のコートのボタンをひっかけるといった、ジョーダンのとても不注意な運転に対して、ニックが文句を言ったのである。しかし彼女は、自分ではなく相手が注意すれば事故に遭わなくて済むと言い張り、ニックの文句をまるで相手にする素振りを見せない。そして、自分は”careless”な男のことが嫌いであるとニックに語るのである。   このように、ジョーダンは”clever”で”shrewd”な男を避けるのと同時に、”careless”な男も避けていることになる。これは一見矛盾した考え方のように思える。それは、”clever”で”shrewd”な男の正反対に位置する存在が、”careless”な男であると言えるからである。しかし、彼女にとってはこの二つの存在に大差はなかったのである。”clever”で”shrewd”な男と”careless”な男は、同じように彼女にとって不利な存在でしかなかったのである。それでは、彼女にとってニックは”careless”な男ではなかったにせよ、”clever”で”shrewd”な男でもなかったのだろうか。ニックはジョーダンの不正直さに気づいており、その点では”clever”で”shrewd”な男であると言えるだろう。おそらくジョーダンは、ニックが自分の不正直さに気づいていることに、気づいていなかったのだろう。それは、ニックがジョーダンの不正直さに関して、大して気にしていなかったせいもあるかもしれない。しかし、それに気づかなかったという点について言えば、ジョーダン自身が”careless”であったと言えるであろう。

 “I’d had enough of all of them for one day, and suddenly that included Jordan too.” (p. 149) と述べられているように、ニックがジョーダンの存在を煩わしく感じてしまったのは、ジョーダンの”careless”が原因であったと考えられる。ニックはマートルの死を目撃した直後で精神的に疲弊しており、とにかく一人でいたいと思っていたのにもかかわらず、ジョーダンはそんなニックの気持ちを理解することができなかった。そしてニックに対して配慮に欠ける発言をしてしまう。これも彼女にとって”careless”であったと言えるであろう。

  ジョーダンがニックと交わした最後の会話の中でも、彼女の性格がよく表れている。
‘You said a bad driver was only safe until she met another bad driver? Well, I met another bad driver, didn’t I? I mean it was careless of me to make such a wrong guess. I thought you were rather an honest, straightforward person. I thought it was your secret pride.’ (pp. 184-185)
  ここでジョーダンはニックのことを”bad driver”と表現しているが、これはジョーダンが、二人の関係がうまくいかなかったのはニックに非があると感じているからであろう。また、ニックは”honest”ではないと述べているが、”dishonest”である彼女の口からこのような言葉が出るのは大変興味深い。このように最後まで責任を相手に押し付け、自分を守ろうとする姿勢は、彼女の性格をよく表している。

  デイジーとジョーダン、この二人の女性を通じてフィツジェラルドが描いたのは、女性の弱さ、そして怖さではないだろうか。デイジーは精神的弱さから、何らかの大きな力によって支えてもらわなければ生きてゆくことができなかった。そして安定を得るためなら、昔の恋人ギャツビーですら犠牲にしてしまう怖さも併せ持っていた。ジョーダンも、自分が不利な状況に耐えることができず、その状況を避けるために不正直になってしまう。一見自分勝手な考え方しか持っていない二人だが、そうしなければ生きていくことができない彼女たちの弱さに対する同情的な目を、フィツジェラルドは持っていたのではないだろうか。そしてフィツジェラルドの女性に対するこのような考え方が、彼自身の私生活にも深く影響していたと予想される。


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