Seminar Paper 2007

Yumi Noguchi

First Created on January 29, 2008
Last revised on January 29, 2008

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The Color Purple におけるジェンダー問題
Pantsで変わったCelieたちの女性のイメージ

    この物語では、Celieが思う女性の立場やイメージが、彼女の成長とともに変化していく様子が描かれている。彼女の周りの人々に関しても、それぞれ徐々にイメージが変化していく。彼女は物語の初めでは、父親やMr._に好き放題にされ、自分の考えを表に出すことはなく、神に対して手紙を書き続ける、どちらかといえばおとなしい女性であった。しかし、後半になると、Shugの勧めでpantsをはくようになり、自分でそれを作ることを仕事にし、ただの女性としてではなく、一人の人間として自信を持って、生き生きと活動している。Celieはpantsと出会う前、Nettieの手紙をMr._が隠していることを知り、怒りの気持ちだけを持っていた。しかしpants作りをはじめた彼女は、そこに怒りはあるものの、冷静にかつ対等な立場でMr._と話をしようとしている姿勢がうかがえる。これはCelieがpantsと出合ってからの変化である。Pantsが変化のきっかけとなり、変化を表すそのものとなっている。そこで、Celieがpantsを作ることで、彼女自身や周りの人の性に対する考え方が変化した、ということについて考えていこうと思う。

   まず、Celie自身についてである。彼女は唯一信用している妹のNettieからの手紙をMr._に隠されていたことから、彼に腹を立てて、Shugに対して“Naw, I think I feel better if I kill him, I say”(p. 144)と不満を漏らしている。また、彼女は実父だと思っていた男に犯され、ずっとその悲しい記憶をもって生きてきた。それまで誰にもそれを話すことはなかった。しかし、Shugだけに語ることはできた。

My mama die, I tell Shug. My sister Nettie run away. Mr._ coming git me to take care his rotten children. He never ast me nothing bout myself. He clam on top of me and fuck and fuck, even when my head bandaged. Nobody ever love me, I say.(p. 112)

   Celieは自分の考えをまったく表現できないのではなく、このように、女性であるShugには語ることができる。これはCelieが女性と男性を対等に考えておらず、女性同士では自分達の考えていることを話したりしているのに、男性に自分の考えを話している場面はほとんどないといえる。Mr._に対してCelieが心の中で考えていることはあるが、それをMr._に直接話すことはなく、最初から自分の考えなど通るわけはないとあきらめているようにもみえる。 ところが、Shugからpantsを作ることを提案されたあとからCelieは変化を始める。

For the first time in my life I wanted to see Pa. So me and Shug dress up in our new blue flower pants that match and big floppy Easter hats that match too, cept her roses red, mine yellow, and us clam in Packard and glide over there.(p. 178)
 Celieはこれまで会いたいとは思っていなかった自分の育ての父親に会いに行こうと思い、新しいpantsをはいた。CelieがはじめShugにpantsを勧められたとき、Shugは“You do all around here.”(p. 146)と言っている。Shugは、Celieはこの家のすべての仕事をこなしているのだから、男がはくpantsをはいてもなんの問題もないことを彼女に伝えたかったのだ。ここではpantsが女の仕事も男の仕事も関係なくこなせるという象徴となっている。つまり、pantsによって男女の間にあった壁が取り払われたのである。女であるからとか、男であるとかいう意識が彼女の中で平らになったのである。Pantsをはいたことで、彼女は自信を持つことができた。Celieが義父に対して毅然とした態度で自分の本当の両親について質問している様子は、それまでのCelieとはまったく違う。以前であればまともに義父と話をすることなどできなかったのに、冷静に質問をしているのだ。義父はまともに答えることはせず、Celieをあいかわらず上からみているが、そんな腹立たしい態度にもかかわらず、Celieは一人の人間として質問をしているのである。これは彼女の中で、かなりの変化が起こったと言うことができる。

    次にCelie以外の人についてである。Celieはpants作りにぼっとうし、色や大きさもさまざまなものを作り始める。そしてCelieはShugやNettieなど自分の周りの多くの人にpantsを作ってあげるようになるが、中でもSofiaのpantsは独特なものである。“I’m busy making pants for Sofia now. One leg be purple, one leg be red. I dream Sofia wearing these pants, one day she was jumping over the moon.”(p. 216)このようにSofiaのpantsは片足ずつで色が紫と赤で違っている。さらにCelieはそれをはいたSofiaの行動まで夢見ている。

   ここでの片足ずつ色の違うpantsはどういった意味をもつのか。Celieは、以前にMr._の姉妹のKateと一緒に服を買いに言ったときに、“Naw, he won’t want to pay for red. Too happy lookin.”(p.21)と言っていたことを記憶していて、redは幸せの色と認識しているのである。一方、purpleは高貴であることを象徴する色であるので、この二色が使われているpantsにはCelieのSofiaに対する幸せを願う気持ちと、高貴な態度で堂々と生きてほしいという意味が隠されているといえる。また、moonは女性を象徴するもので、Sofiaがこれまでの女性像を乗り越えて、今の状態から抜け出してほしいという願いがこめられていると考えられる。このときのSofiaは、Harpoに対しての気持ちは冷めてしまっているのだが、願いのこめられたpantsをCelieが作ることで、Sofiaの気持ちは再びHarpoのところに戻ってくる。

Harpo went up there plenty nights to sleep with him, say Sofia. Mr._ would be all cram up in a corner of the bed. Eyes clamp on different pieces of furniture, see if they move in his direction. You know how little he is, say Sofia. And how big and stout Harpo is. Well, one night I walked up to tell Harpo something−and the two of them was just laying there on the bed fast sleep. Harpo holding his daddy in his arms. After that, I start to feel again for Harpo, Sofia say. (p. 224)
と言って彼女はHarpoに惹かれていく。Harpoの考え方からすると、世話をすることは女の仕事ということになっている。しかしそれにもかかわらず、それを自分でやっている姿を見て彼女の気持ちが動いたのであろう。Celieが作ったpantsによって、SofiaやHarpoの性に関する概念が変わって、Celieの夢がかなえられたと言える。これはpantsの影響によるものであると言える。  

   最後に、Mr._に与えた影響についてである。CelieはMr._は、女にpantsをはかせるなんてことはしないだろうと思っていたが、Shugによれば彼はpantsをはいたShugの姿が好きなのだと言う。Mr._にはもともと繊細なところがあり、Shugが自分の前からいなくなったり、別な男をつれてきたりすると、ショックを受け、すぐに元気がなくなる傾向がある。そんな彼の繊細な面は女性的であり、この彼の女性的な面がはっきりと現れているのが次の場面である。

When I was growing up, he said, I used to try to sew along with mama cause that’s what she was always doing. But everybody laughed at me. But you know, I liked it. Well, nobody gon laugh at you now, I said. Here, help me stitch in these pockets. But I don’t know how, he say. I’ll show you, I said. And I did. Now us sit sewing and talking and smoking our pipes. (p. 272)

   これまでMr._は、縫い物が好きで、やりたいと思っていたのだが、周囲の人に笑われてきた。これは彼の周りの人たちが縫い物は女性がやるものだという固定観念を持っていたからである。Celieがいうには、今ではもうそんなことを笑う人はいないといっているが、これが本当かどうかは定かではない。Mr._が縫い物をしやすいように、このようなことを言ったのかもしれない。そして彼はCelieの話に説得されて、pantsのポケットを縫い始める。これは彼の中にあった女性的な面が、Celieの話も手伝って、pantsという作品の形で表現されている。彼の女性に対する考え方に変化が起きているのだ。

   今までであれば、周囲の人にも笑われるし、自分自身も自信を持って縫い物をすることはできなかったのだが、アフリカの人々はそれをやっていると聞かされ、さらに、pantsは男でも女でもはけるということに気がつき、彼は自分が縫い物をすることを肯定されていると感じたのだ。そこで彼の中に閉じ込められていた気持ちを、自信をもって外に出すことができたのである。

   女性に対する考え方が変わった彼に、Celie自身も気づき、次のように、以前よりも親しみを感じられるようになった。“He ain’t Shug, but he begin to be somebody I can talk to.”(p. 276)確かに、CelieとMr._はいつの間にか話をする時間が長くなり、男女の差の中で会話していた以前と比べると、むしろ、一人の人間として会話をしているのだ。最初に書いたように、Shugには自分自身のことを話すこともでき、過去を話したことでCelieのその後の成長につながる場面もあった。彼女にとってはShugが一番の話し相手であり、彼女以外に自分のことなど話すことができなかったのに、彼女のpantsがきっかけとなってMr._がShugに少し近づいた存在になったのである。この変化はCelieとMr._の両方の考え方が変わらないと実現することができなかったが、ようやくここでそれを実現することができたのである。

   Celieのpantsがもたらした登場人物たちの変化は共通して、自信をもって、自分達の女性というものの考えを捨てたり、新しい考え方を受け入れ、表現できるようになったりした点にある。Pantsの存在によって、それぞれの心の中にあった、性に関する壁が取り除かれて、平らになったのである。Celieのpantsは人々の性に対する考え方が変化するきっかけとなり、また、それを表現する方法そのものになっているのだ。


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