Seminar Paper 2007

Hikari Tomino

First Created on January 29, 2008
Last revised on January 29, 2008

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The Color Purple におけるジェンダー問題
〜ジェンダー問題の第二の被害者〜

    現在、アメリカ大統領選挙が注目を集めている。ヒラリー・クリントン上院議員の勝利で初の女性大統領の誕生となるか、バクラ・オバマ上院議員の勝利で初の黒人大統領の誕生となるか。この選挙が注目を集めているということは、性別や人種に対して特別な意識があり、人種問題やジェンダー問題が今でも続いていると考えることができる。

    The Color Purpleは、人種問題やジェンダー問題とは切り離せない作品となっている。冒頭の手紙から衝撃的である。14歳のCelieが父親からレイプを受けている。自分の家庭でさえ、安心した生活などない。この時代は白人優位の社会であり、白人中心に物事が動いていた。この作品は、そんな社会の中での黒人たちの生き方や考え方に焦点をあてて書かれたものである。冒頭の場面も、黒人社会を象徴したものであろう。 読み進めていくと、Celieという女性の生き方が見えてくる。Celieはこの時代の典型的な女性の姿となっており、男性に逆らうことは出来ず、時には手をあげられることもあり、言われるがままに家の仕事をこなしていく。そんなCelieが、周りの登場人物の影響により考え方が変わり、男性の女性に対する考え方をも変える存在となるのである。  私は、「ジェンダー問題は、女性だけでなく、男性も被害者である。」という仮説を立て、この作品を論じていきたいと思う。

    まず、Celieとは対照的な女性であるのが、Harpoと結婚したSofiaである。自分の意見を持っており、男性の言いなりにはならない。"I say it cause I’m a fool, I say. I say it cause I’m jealous of you. I say it cause you do what I can’t. What that? she say. Fight. I say." (p. 40) そしてCelieは、Sofiaは自分と違って闘うことができると述べている。しかしその背景には、Sofiaが" A girl child ain’t safe in a family of men." (p.40) と述べているように、父親や男兄弟、従兄弟、叔父という男性たちに囲まれていた中で、闘って生きなければならなかったという生活があったのである。またHarpoは、最初はSofiaを誇りに思っていたが、徐々に、Mr._がCelieを従わせるように自分の言うとおりにさせたいと考えるようになるのである。Sofiaは夫であるHarpoとも闘わなければならない日々になり、家を出てしまう。ここで起きたHarpoの考え方の変化は、黒人社会の中での男性像を見ることができる。
    ジェンダー問題を考える際に重要となるのが、やはりCelieとMr._の関係の変化である。二人の関係は、Celieの成長と共に変化していくのが分かる。Mr._とは、お互いの気持ちは関係なしに結婚となり、お互いに愛情は持っていなかった。Mr._は、子供の世話や家事、畑仕事、髭剃りなど、家の仕事とMr._の身の回りの世話をさせるために、女性を必要とした。Celieが、手紙の中で"Mr._"と書き、彼の本名を書いていない理由は、Mr._自身に愛着などなく、恐れを感じているからであろう。そんなMr._であるが、Shugと付き合っている頃は、

And funny. Albert was so funny. He kept me laughing. How come he ain’t funny no more? she ast. How come he never hardly laugh? How come he don’t dance? she say. Good God, Celie, she say, What happen to the man I love? (p. 121)
And another thing, I used to put on Albert’s pants when we was courting. And he one time put on my dress. ” (p. 147)

などとあるように、女性と共に笑う生活があった。彼が変わってしまったのは、彼の父親や兄、そして彼が生きてきた社会の影響によるものだろう。女性より男性が上の立場にいることが当たり前で、女性を服従させることができないことは恥ずかしいことだと考えるようになったのである。そして、Mr._自身も、黒人社会の男性像をHarpoへ植えつける存在になっていた。  

    この作品の中で、Celieを始めとする女性たちが大きく変化したことがはっきり分かるのが、p. 198からの手紙である。この場面は衝撃的で、印象的である。今まで自分の気持ちを閉じ込めて生きてきたCelieが、初めてMr._に反抗する。そんなCelieに驚き、動揺する。ここで、男性と女性の立場が逆転したと考えることができる。男性は女性に命令ばかりしていたが、実際女性が離れていってしまったら一人では何もできず、男性には女性が必要であることに対し、女性は男性が絶対的に必要だとは思っていないのである。これは、Mr._やHarpoが変わっていくきっかけの出来事になったのである。 また、Celieはpants作りに没頭する。pantsは、" Mr._ not going to let his wife wear pants." (p. 146) というように、男性を象徴する服である。何本ものpantsを、改良を加えながら作っていくことは、男性から自立したいというCelieの気持ちの表れであり、ジェンダー問題に向き合い、ジェンダーの違いを乗り越えようとしていると考えることができる。さらに、Celieの心境の変化が比較できる文がある。

I don’t say nothing. I think bout Nettie, dead. She fight, she run away. What good it do? I don’t fight, I stay where I’m told. But I’m alive. (p. 21)
I’m pore, I’m black, I may be ugly and can’t cook, a voice say to everything listening. But I’m here. ” (p. 207)

p. 21では、闘うこともせずに、言われた通りの場所で生きていると、自分の意思は関係なく、受け身で生きていると感じる。それに対しp.207では、私はここにいる!と、主体的に、人間として存在していることを宣言している。男性とも闘い、自分の意思で存在している。そして、一人の女性として強くなり、女性という立場の価値観が変わったと感じることができる。そして、Mr._の心境の変化を感じ取ることができる文もある。

…I’m satisfied this the first time I ever lived on Earth as a natural man. It feel like a new experience. (p. 260)
And men sew in Africa, too, I say.
They do? he ast.
Yeah, I say. They not so backward as mens here.
When I was growing up, he said, I use to try to sew along with mama cause that’s what she was always doing. But everybody laughed at me. But you know, I liked it. (p. 272)

Mr._はCelieと人間として向き合うようになり、今まで一方的だったが、対等に話ができるようになった。上記の引用文から、縫い物をすることを笑われたことも男性像を作り上げる一つのきっかけとなったのであろう。Mr._とHarpoに共通して言えることは、自分の意思とは反している男性像を作り上げていったということである。男女の区別をつけることが当たり前だった社会で、女性だけがその社会の被害者であるように思われがちであるが、男性も被害者であったと考えることができるのである。

    この作品でポイントの一つとなるものが、quiltである。quiltは、「連帯」を示し、主に女性たちの団結を暗示していると考える。

Let’s make quilt pieces out of these messed up curtains, she say.
And I run git my pattern book.
I sleeps like a baby now. (p. 42)
What the world got to do with anything, I think. Then I see myself sitting there quilting tween Shug Avery and Mr._. Us three set together gainst Tobias and his fly speck box of chocolate. For the first time in my life, I feel just right. (p. 57)

連帯によって、Celieには仲間ができた。p. 57の場面では、Mr._の兄であるTobiasが社会の象徴であり、chocolateという女性を誘惑するものを持ち、女性の敵と考えることができる。それに対し、CelieとShugとMr._が連帯し、向き合っていく。Celieは一人ではないと感じ、また、連帯して社会に立ち向かうことが正しいと考えた。Celieは、ここで初めて世の中のことや女性の存在のことを考えたと言える。ジェンダーの意識がほんの少し芽生えた大切な場面であると考えることができる。

    Celieにとって、大きかったのはNettieとShug Averyの存在である。なんと言っても、NettieはCelieの心の支えであった。Nettieの手紙では、Celieの知らない世界があり、OlinkaでのNettieやOlivia、Adamたちの生活や、Olinkaの人々の考え方や伝統から、考えさせられることも多かった。Shugは、仕事も生活も華やかであり、男性を惹きつける女性である。Shugを“a real person”(p. 6)と考え、恋焦がれ、連帯する。よき理解者となり、Celieの成長に欠かせない人物となっている。そして、Mr._との仲介役にもなっていた。上記で書いたCelieの変化やpants作りも、Shugの影響があってこそのものである。 この作品の終わりで、Celie自身の中でMr._がAlbertに変わった。Mr._が自分を必要としてくれることやMr._の考え方の変化で、お互いの存在を認め合うことができるようになった証である。また、Shugに依存しなくても生きていけるようになり、Celieが自分というものを見つけ、自分の居場所を見つけることができたと考える。自立することができたのである。

    以上のことから、男女という性にとらわれない考え方が、男女の立場や周りの考え方を変えたと考える。しかし、性にとらわれない考え方を持っていても、生きている社会の影響で徐々に変わっていってしまうのである。むしろ、変わらざるを得ない社会であると考えることもできる。それを乗り越えるためには、quiltが必要であり、強い心が必要なのである。 この作品の登場人物ように、次々とジェンダーに対する考えが変わることは、現実の社会の中では難しいと考える。冒頭で取り上げたアメリカ大統領選挙で、性別や人種に対してまだ特別な意識があるから話題となると記したが、大統領選挙に女性や黒人が出馬することができ、大統領になることができる可能性があるという事実は、確実にジェンダーや人種の問題が小さくなっていると考えることができるのではないだろうか。 結論として、黒人社会でのジェンダー問題を、客観的に見ると、弱い立場にいる女性が被害者であると考えるのが一般的であるが、実際は女性の問題だけでは留まらないのである。男性は、男性像に合う自分を作り上げており、つまり女性も男性も、本当の自分を閉じ込めて生きてきたのである。そのことから、私が立てた仮説が妥当であり、ジェンダー問題において、男性も被害者であるということが証明できるのである。


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