Seminar Paper 2007

Mari Watanabe

First Created on January 29, 2008
Last revised on January 29, 2008

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The Color Purple におけるジェンダー問題
SofiaとShugの存在と女性の連帯

    The Color Purpleは、女性であるが故に自由を強いられ、自分ことさえ愛せなかったCelieが、1人の人間として経済的にも、精神的にも成長していく作品である。Celieが自己を確立していくにあたり、それを支えたSofiaとShugの存在は大変重要なものである。そしてこの作品は女性の「連帯」が大きなテーマとなっており、連帯を通じ女性はよりたくましく成長する。ここでは、Celieが自立するに至り、彼女たちからどのような影響を受けたのか。そして連帯の必要性について焦点を当て、Celieが成長する過程と共に論じていきたい。

    最初に、Celieについて述べたいと思う。Celieは義父からの強姦を受け、夫に服従する生活を強いられ、男性に対する恐怖心を抱いていた。男性からの抑圧に耐えるだけの人生に何の希望もなかった。” I don’t fight, I stay where I’m told. But I’m alive.” (p. 21) とあるように命令通りに働くことがCelieにとって生きていく手段だったのである。

    そのような中で、SofiaはCelieの意識に変化が生じるきっかけをもたらした存在だ。Celieとは全く反対のキャラクターとして、肉体的にも精神的にも強い女性として描かれている。HarpoとSofiaの関係は対等の立場で、それはCelieにとって信じ難いことだったに違いない。彼らはお互いに愛し合い幸せであったのにも関わらず、次第にSofiaの自己主張の強さにHarpoは不満を持ち、自分に従わせようとする。しかし、Sofiaは真っ向からHarpoと闘う。そんな姿を見てCelieはHarpoに”’Beat her.’” (p. 36) と言ってしまう。Celieは枠にはまらないSofiaの強さに憧れを持ち、自分にはできない姿を見てそれとは裏腹に気づかぬうちに嫉妬心も抱いていたのだ。

I say it cause I’m a fool, I say. I say it cause I’m jealous of you. I say it cause you do what I can’t. What that? She say. Fight. I say. She stand there a long time, like what I said took the wind out her jaws. She mad before, sad now. (p. 40)
ここでCelieがSofiaに嫉妬していることを自覚する。また、自分のしたことに対する愚かさを恥じたのである。そして、自分もSofiaのように強い女性になりたいというCelie成長を感じることができる。一方、SofiaもCelieの姿を服従するしかできなかった自分の母親と重ね合わせ彼女を理解し、彼女たちの間に友情が芽生えたのである。CelieはSofiaを頼もしく身近な存在に感じたのである。そして、SofiaはCelieの現在の自分の生き方に疑問を抱かせる重要な役割を果したのである。

   “Boy big and strong too, but all the girls stick together.“(p. 41) Sofiaは幼少期のころを語っているシーンである。Sofiaの家庭においても男性が優位な状態に置かれ、弱い立場にある女性は助け合う必要があったのだ。強いSofiaであっても、Celieの置かれている環境と同じであったことがわかる。女性が生きていくために、連帯の必要性があることが理解できる。

    次にShugについて論じたい。Shugは、Celieが1人の人間として成長するために直接的に影響を与えた存在だ。Celieが初めてShugの写真を見た時、“The first one of a real person I ever seen.” (p. 6)と感じている。これまでCelieが見てきた女性は、男性に服従する姿であった。もちろん自分もその1人であった。煌びやかなShugに対し、強い憧れを持ち、自分の理想像となった瞬間である。そしてShugと出会い、CelieはShugを献身的に看病することによって、ShugはCelieに心を開くようになる。Mr._の父親やTobiasの非難からMr._と共にShugを守るシーンでは、Celieは以下のように感じ、彼女の意識の変化が読み取れる。

First time I think about the world. What the world got to do with anything, I think. Then I see myself sitting there quilting tween Shug Avery and Mr._. Us three set together gainst Tobias and his fly speck box of chocolate. For the first time in my life, I feel just, I feel just right. (p. 57)
Shugという愛する者を守ろうとする姿から、彼女の変化が理解できる。このように感じた背景には、彼女との友情の成立がある。ここでCelieはSofiaの闘うという憧れていた生き方を実際にやってのけたのである。Shugのために闘ったことで、ShugそしてMr._を含め連帯が生まれた。連帯の必要性を強調しているシーンである。

    また、ShugとMr._の関係に注目してほしい。Mr._は男性優位主義の象徴として表現されている。しかし、Shugを愛しているため、彼女の言うことに従うのである。Shugの前では、女性を尊重する一面を見せている。また”’I won’t leave, she say, until I know Albert won’t even think about beating you.’” (p. 75) とあるようにShugはCelieをMr._の暴力から守ろうとする。このようにShugは、男性優位を否定する役割も担っているといえる。

Well say Grady, trying to bring light. A woman can’t git a man if peoples talk. Shug look at me and us giggle. Then us laugh sure nuff. Then Squeak start to laugh. Then Sofia. All us laugh and laugh. Shug say, Ain’t they something? Us say um hum, and slap the table, wipe the water from our eyes. (p. 201)
こうしてCelieは友情を通じ自己の価値を知り、Nettieの手紙を隠していたMr._に初めて反発できるまでに成長する。女性たちは自分たちにとって男は必要でない、男に従う必要はないのだと感じるようになった変化がわかる。この引用部は女性たちの存在価値が確立し、彼女たちの強さ、結束力が表れている。Celieは初めて男性に逆らったことで、精神的な自立を果たしたと考えられる。
Like what? I ast. Well, she say, looking me up and down, let’s make you some pants. What I need pants for? I say. I ain’t no man. Don’t git uppity, she say. But you don’t have a dress do nothing for you. (p. 146)
最終的にCelieは経済的な自立を果たし、1人で生活ができるようになる。上記のように、Celieが経済的に自立するきっかけとなったズボン作りは、Shugの勧めである。Celieは仕事を得たことで、女性が家庭に入ることが当たり前であるという考えや風潮を否定した。今までの男性や女性といった固定概念から解放されたのである。Celieは女性も男性も分け隔てなく、個々にあうズボンを作った。ズボンは男性の衣服として考えられてきた価値観を排除したのである。このようにズボン作りはジェンダーの違いを乗り越えるための象徴として描かれているのだ。

    また、Shugは愛する大切さを教えている。“She say, I love you, Miss Celie. And then she haul off and kiss me on the mouth.” (p. 113) とあるように、男性から道具のように扱われてきたCelieはShugから初めて心と心、体と体で通じ合い、愛すること、性の喜びを知るのである。この2人の関係は、女性同士の愛を描いている。それと同時にここでも、女性同士の結びつき、すなわち連帯関係を表現していると捉えることができるのではないだろうか。

But I’m a woman. I love you, I say. Whatever happen, whatever you do, I love you. She whimper a little, lean her head against my chair. Thank you, she say. (p. 251)
しかしながら、最終的には女性同士の恋愛は結ばれない形となっている。これは、作者がハッピーエンドに向けての作者の意図である。ここでのCelieの愛しているという言葉には、家族的な要素が含まれている。あくまでも彼女たちの友情、連帯を強調したかったからだと考えることができる。 このようにShugはCelieが精神的にも経済的にも自立するための支援をしてくれた存在であり、よき理解者である。また、Celieにとって愛することを教えてくれた人物である。Shugの自由奔放で、思うままに生きる姿に惹かれ、Celieもそれを求めたのである。そしてShugと友情を深める上で、Celieは過去の自分を壊し、自分に自信を持つことができたのである。Shugが教えてくれた最大のことは、自己の価値を自覚させてくれたことであると考える。そして、女性同士の連帯は、男性優位主義に立ち向かうために必要不可欠なものであり、女性は強く優れていることを証明した。

    これまでCelieが自立するにあたってSofiaとShugの役割、そして彼女たちには連帯が必要であることについて述べてきた。最後に、女性の連帯の象徴とされるキルトについて論じたいと思う。この作品にはズボンやキルトなど裁縫にまつわるものが多く登場する。その中でキルトは果たす役目は極めて大きい。キルトは小さい布をつなぎ合わせて作られる。小さい布は、黒人女性の地位の低さを示しているのだと思った。つなぎ合わせるという行為が、彼女たちの連帯関係を象徴している。

    “Let’s make quilt pieces out of these messed up curtains, she say. “(p. 42) とあるようにCelieとSofiaの仲直りにもキルトが使われている。キルトを一緒に作ることで、連帯関係 の成立を示している。”Me and Sofia work on the quilt. Got it frame up on the porch. Shug Avery donate her old yellow dress for scrap, and I work in a piece every chance I get. It a nice pattern call Sister’s Choice. ” (p. 58) ここでも、キルトはCelie、Sofia、Shugの連帯を象徴している。またこのSister’s Choiceは、Celieが自立することを選択したという意味も含まれているのではないだろうか。このように、キルトは彼女たちの連帯意識を実際に形にしたものとして表現されている。

    更にキルトはNettieとCorrineを結びつけた。”She traced the patterns with her finger, and slowly her eyes filled with tears.” (p. 187) このキルトは、Celieも連帯の対象になっているのではないか。そして、キルトは過去の思い出を結び付け、現在に受け継ぐ役割も果たしていると思う。またこの作品は、何枚もの手紙が合わさって構成されている。これはキルトの構成と重ね合わせることができる。そして、離れ離れであるCelieとNettieを結びつけているのである。このようにキルトには、さまざまな人を結びつける力を持ち、女性同士の連帯意識を高める重要な役割があるのだ。

    CelieはSofiaの闘う強さ、Shugの自由な生き様を通じ、Celieは自己主張ができるようになったのである。そして、彼女たちとの連帯のもとで自分の存在価値を見いだし、人は変われるということを証明したのである。現在においてもジェンダー問題は根強く残っている。Celieの姿を通じて、弱い者へ強く生きるために闘おうという強いメッセージを感じ取れる。

    参考文献 加藤恒彦、『アメリカ黒人女性作家の世界』(創元社、1986年)


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