Seminar Paper 2009

Yuka Iida

First Created on January 29, 2010
Last revised on January 29, 2010

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The Great Gatsby とTime

    すべてのひとに唯一平等に与えられている「時間」。限られた時間だからこそ、それぞれの培ってきたものを土台に、人は違った「時間」の観念を持っている。 試験に落ちて、何がいけなかったかと過去を振り返る者もいれば、気持ちを切り替えて次の試験を考える者もいる。この微妙な意識の違いが、ときに大きなすれ違いを生むことがある。そういった「時間」の持つ力を、このThe Great Gatsby の中の登場人物のすれ違いを通して考えていこうと思う。


    “The truth was that Jay Gatsby of West Egg, Long Island, sprang from his Platonic conception of himself.”(p. 105) とあるように、まず、主人公Gatsbyは、もともと自分の境遇にコンプレックスを持っていた。そして自分が思い描いていた理想観念から新しい自分を生み出したのだ。最愛の人Daisyと出会ったことで、ますます自分を変えようとする気持ちが高まった。彼は自分を厳しく律し、目標に向かって努力する性分である。常に目標を持つことが、彼に生きる意味を与えていたのかもしれない。

    “It was one of those rare smiles with a quality of eternal reassurance in it.” (p. 54) 彼女を手に入れること、それだけを目標に5年間努力してきた彼は、巨額の富に囲まれ、今や自信に満ちていた。生まれ変わった自分なら、また彼女と美しい思い出の日々に戻ることが出来る、あのときの彼女を取り戻せると信じていたのだ。 海の向こうに見える緑の光は、すぐそばにいるDaisyの象徴、彼の希望であった。

…he stretched out his arms toward the dark water in a curious way, and, far as I was from him, I could have sworn he was trembling. I glanced seaward − and distinguished nothing expect a single green light, minute and far away, that might have been the end of a dock. (p. 27)


As I went over to say good-bye I saw that the expression of bewilderment had come back into Gatsby’s face, as though a faint doubt had occurred to him as to the quality of his present happiness. Almost five years! There must have been moments even that afternoon when Daisy tumbled short of his dream − not through her own fault, but because of the colossal vitality of his illusion. It had gone beyond her, beyond everything. He had thrown himself into it with a creative passion, adding to it all the time, decking it out with every bright feather that drifted his way. No amount of fire or freshness can challenge what a man can store up in his ghostly heart. (p. 102)

    彼はこの5年間で生まれ変わろうとしたのと同時に、現実よりも現実味のある彼女の幻影を作り上げてしまっていた。犠牲にしてきたこの5年間を無駄なものにしたくない気持ちが、より彼の幻影の姿美しく膨らませてしまったのかもしれない。 実際に彼女との再会を果たし、夢に近付いたのにもかかわらず、自分の信じてきたもの、求めてきた幸福のかたちがこのようなものなのか、何か違和感を感じてしまっているように読みとれる。 “‘I feel far away from her,’ he said. ‘It’s hard to make her understand.’”(p. 116) Gatsbyは彼女との関わりの中で、ようやく彼女の変化に気付くことになる。 “After all, in the very casualness of Gatsby’s party there were romantic possibilities totally absent from her world. What was it up there in the song that seemed to be calling her back inside?” (p. 116) 二人が5年前に共に抱いていたロマンチックで純粋な感覚は、新しい生活をしてきた現在のDaisyからは失われていた。 Daisyの変化が受け入れられないGatsbyは取り乱してしまう。

‘You can’t repeat the past.’
‘Can’t repeat the past?’ he cried incredulously.
‘Why of course you can!’ He looked around him wildly, as if the past were lurking here in the shadow of his house, just out of reach of his hand.
‘I’m going to fix everything just the way it was before,’ nodding determinedly.
’She’ll see.’ (中略)
…and I gathered that he wanted to recover something, some idea of himself, perhaps, that had gone into loving Daisy. (p. 117)

    だが、実際彼はもうとっくに現実に気付いていたのだと思う。しかし、もう後戻りは出来ない所にまで来てしまっていた。五年間という月日とその間の自分の気持ちに行き場がなくなってしまう。過去を戻せると信じ、進むほか彼には選択肢はなかった。 しかしここで、「過去は戻れない」ことを物理的に表しているような場面がある。

At least a dozen men, (中略), explained to him that wheel and car were no longer joined by any physical bond.
‘Back out,” suggested after a moment.
“Put her in reverse.’
‘But the wheel’s off!’ He hesitated.
‘No harm in trying,’ he said. (p. 62)

    思わぬ事故で、車輪と自動車はバラバラになってしまった。車輪と自動車がバラバラでは逆行することはできない。 ここでいう逆行というのはつまり、過去に戻るということを表している。GatsbyとDaisyは、もはや元の関係には戻れない。それでもなお、諦めずに信念を貫こうとするGatsbyの様子が重なってならない描写である。

    過去にこだわるGatsbyは誰よりも時間の経過を気にしていた人物ではないだろうか。‘I want to get the grass cut,’(p. 89) と言ったように、Gatsbyは自分の家の芝生を常にきれいに整えていた。時間の経過を感じさせる芝生の伸びを避けたいという気持ちが無意識にあったのかもしれない。それに対してDaisyの家の芝生は“…the fresh grass outside that seemed to grow a little way into the house.” (p. 14)というように、手入れなどはまるで気にされていなかった。これは時間の経過を受け入れたくないGatsbyと、受け入れているDaisyの様子ともとれるのではないだろうか。 Gatsbyは現在のDaisyだけではなく、彼女の過去から全てを取り戻したいと考えていた。それは結果的に彼女の変化を拒んだ。あの頃と何も変わらない彼女を求めてしまっていた。

He wanted nothing less of Daisy than that she should go to Tom and say; "I never loved you." After she had obliterated three years with that sentence they could decide upon the more practical measures to be taken. One of them was that, after she was free, they were to go back to Louisville and be married from her house - just as if it were five years ago. ‘And she doesn't understand,’ he said despairingly. ‘She used to be able to understand. We'd sit for hours-’ (pp. 116-117)

    しかしDaisyはというと、“She wanted her life shaped now, immediately--and the decision must be made by some force--of love, of money, of unquestionable practicality - that was close at hand.” (p. 157) とあるように、彼女は常に未来を求めて生きる人間であった。それは次のような彼女の言葉からも伺える。 “‘What’ll we do with ourselves this afternoon?’ cried Daisy, ‘and the day after that, and the next thirty years?’”(p. 124) Gatsbyは過去に希望を抱き、過去を見つめて生きる。一方、Daisyは未来の安定を求め、未来見つめて生きる人間なのだ。

    彼女はGatsbyと自分の観念の違いにうすうす気が付いていたと思われる。 時が経っても変わらず、ずっとそこに存在するものとして物語にたびたび登場するDoctor T.J. Eckleburgの看板がある。ある日DaisyはGatsbyに何気なく、“‘You resemble the advertisement of the man,’” (p. 125)と言っている。おそらくDaisyには、時間が止まったままのDoctor T.J. Eckleburg とGatsbyが重なって見えたのだろうと思う。

    そしてこのズレが、結果的に2人を引き離してしまうこととなる。GatsbyとTomが激しく言い争う場面でDaisyはこのように言っている。 “'Oh, you want too much!' she cried to Gatsby. ‘I loved you now -----isn't that enough? I can't help what's past.’She began sob helplessly.” (p. 139) 彼女は確かにGatsbyを愛していた、だが彼女が考える愛は過去へのものではなく、今の一瞬一瞬を感じる心であった。 “But with every word she was drawing further and further into herself, (p. 141) Her frightened eyes told that whatever intentions, whatever courage she had had, were definitely gone.” (p. 141) 結局、未来を望むDaisyは過去を望むGatsbyの想いに押しつぶされ、現実の安定に逃げ出した。夢から覚めてしまったのだ。


    Nickと再会した日に、彼女はこんなことを言っている。 “Do you always watch for the longest day of the year and then miss it? I always watch for the longest day in the year and then miss it.” (p. 18) Gatsbyとの再会は待ち遠しいものであった。しかし、1年で最も長い日を待ち望みながら、いざその時が来ると忘れてしまうように、彼女にとってGatsbyとの関係はどこか現実味を帯びない「夢」であり、結局のところ、それほど重大なことではなかったのではないかとも考えられる。

    2人がもう一度愛し合うという「夢」。同じ「夢」でも、2人の「夢」の考え方には根本的に違いがあった。 Gatsbyの「夢」は、あの頃のまま変わらないDaisyとの恋。 Daisyの「夢」は、日常の中に生まれた一時の美しい出来事。  こうしたすれ違いで、二人の夢は叶うことなく崩れていってしまったのである。

    何があろうとも、時は無情に刻々と刻まれている。こうしている間にも日々、死に近付いているのだ。たった一度きりの人生を、何の後悔もなく使いこなせる人間にはいないだろう。私たちはしばしばこの限られた時間の使い方に悩まされる。より良い人生を送ろうと、いくつになってももがいている。 この言葉は、ときに恐怖として、ときに希望として、人々の心に響くだろう。

    “All I kept thinking about, over and over, was “You can’t live forever; you can’t live forever.””(p.42)

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