Seminar Paper 2009

Yui Kato

First Created on January 29, 2010
Last revised on January 29, 2010

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The Great Gatsbyの女性たち
Gatsbyが本当に愛していたのは・・・?

 

   The Great Gatsbyは、1920年代のニューヨークを舞台に、Gatsbyという名の一人の男の姿について描かれた物語である。彼はその全生涯をかけて、己の夢の実現のためにひたすら生き抜いた。彼は貧しい百姓の家庭に生まれ育ったが、その心はどうしても現実を認めることが出来なかった。そして自らの生活とはかけ離れた豪華絢爛な生活に憧れを抱くようになり、いつかその夢を実現させるべく生きることを心に誓う。そんな彼の夢の実現に不可欠な存在として描かれているのが、Gatsbyが生涯愛したDaisyである。Daisyとの愛しあった過去を再び取り戻すこと、それが彼にとっての理想であり、夢の実現とイコールの関係にあった。しかし、物語が進むにつれ、GatsbyのDaisyに対する愛が、徐々に歪んでいく様子がわかる。そしてDaisyは彼の中で、己の夢の実現のための、単なる一要素へと変化してゆく。

   “When I came opposite her house that morning her white roadster was beside the curb, and she was sitting in it with a lieutenant I had never seen before. They were so engrossed in each other that she didn’t see me until I was five feet away. ” (p. 81)
 

   実際のところ、彼らには本当に愛し合っていた頃があった。このときのGatsbyは、既に貧しい現実の自分の姿を偽り、当時の彼とはかけ離れた身分に身を置くDaisyに想いを寄せていた。しかし、彼が戦地に赴いている間に、Daisyは金持ちのTomに心惹かれ、結婚してしまう。裕福な立場にあるTomに愛する人を奪われたことで、Gatsbyは自分の夢に執着して生きていくことの必要性をますます感じたはずだ。やがてGatsbyはTomやDaisyに引けを取らない金持ちになり、豪華な家に住み、夜な夜な多くの人を招いてはパーティーをひらくようになる。それも全てはDaisyに再び出会うきっかけを作るため、そしてお金の力で昔の彼女との輝かしい愛の日々や、彼女の心までも取り戻せると信じるがゆえのことだった。そしてある夜、ついにDaisyが彼のパーティーに初めて姿を現す日がやってきたのだが、Gatsbyの予想に反して、Daisyはその夜のパーティーを気に入らなかったのだった。

   When he came down the steps at last the tanned skin was drawn unusually tight on his face, and his eyes were bright and tired.
   “She didn’t like it, ” he said immediately.
   “Of course she did. ”
   “She didn’t like it, ” he insisted. “She didn’t have a good time. ” (p. 116)

   Gatsbyはお金の力によってDaisyの気持ちを取り戻せると信じていた。そして過去はもう一度繰り返すことが出来るのだとNickに語る場面がある。“Can’t repeat the past?” he cried incredulously. “Why of course you can!” “I’m going to fix everything just the way it was before,” (p. 117) 己の夢の実現のためならば、自分次第で、過去や人の心までも変えることが出来ると信じて疑わないこの発言からも、彼が愛ということの意味を履き違えていることが分かる。愛の意味を履き違えている、というよりはむしろ、彼にとってDaisyの愛を取り戻すことは、自分の夢へ向かう道の中で必要なものとして見なされている。つまり、彼はDaisyへ愛を注いでいるかに見えて、実は自らが理想とする夢へと、ひたすらに愛を注いでいるのである。

    His heart beat faster and faster as Daisy’s white face came up to his own. He knew that when he kissed this girl, and forever wed his unutterable visions to her perishable breath, his mind would never romp again like the mind of God. So he waited, listening for a moment longer to the tuning-fork that had been struck upon a star. (p. 118)
 

   これは、理想の実現に向けてひた走るGatsbyが、目の前に現れた美しいDaisyを、受け入れるか否かの狭間で、悩み、決意する場面である。Daisyを受け入れ、愛するということはつまり、これまで自分の夢のためだけに注いできた情熱や愛の心を分散させることを意味する。決して妥協を許さなかったGatsbyだったが、自分の夢よりもDaisyを選ぶというこの大きな決断は、彼の壮大な夢の一部にDaisyという存在が、この瞬間に組み込まれたことを意味する。つまりこの場面で彼が下した決断によって、Daisyは彼の愛する人という立場に立ったと同時に、Gatsbyの想い描く夢の地図の中の一つの点となったのだ。

   ある暑い日の午後、Gatsby、Daisy、Tom、Nick、Jordanの五人は気晴らしにニューヨークへ出かける。到着後彼らは、ホテルの一室で休憩をとることにするが、そこでTomは、Daisyとの関係についてGatsbyに問いただし始める。”What kind of a row are you trying to cause in my house anyhow? ” (p. 136) するとGatsbyは唐突に、”Your wife doesn’t love you, ” “She never loved you. She loves me. ” と、皆の前で自信ありげに言い放つ。これには当の本人であるDaisyも驚き、当惑してしまう。確かにDaisyも、かつてはGatsbyを愛していたし、今こうして五年ぶりに再会したことによって、かつての思い出がよみがえり、また恋心が芽生えていたのは事実だった。しかし、彼女のGatsbyに対する感情と、彼が自己認識している感情との間には、大きな差があったようだった。”Oh, you want too much!” she cried to Gatsby. “I love you now--isn’t that enough? I can’t help what’s past. ” She began to sob helplessly. “I did love him once--but I loved you too. ” (p. 139) 彼女の抱いていた懐古的感情と昔の淡い恋心とは異なり、Gatsbyはより大きく真剣な気持ちを求めていたし、そうであって然るべきだと考えていた。Daisyの気持ちはお構いなしに。彼は彼女を愛しているとしながらも、実際は自分の理想の実現のために、自分本位な事柄の押し付けとなっていったのだった。

   ホテルでの騒動のあと、GatsbyとDaisyは同じ車で家路についていた。そのとき、突然、Mrs. Wilsonが車の前に飛び出し、命を落としてしまった。このとき車を運転していたのはDaisyだったとはいえ、Gatsbyは後にNickとの会話の中で、

   “Did you see any trouble on the road? ” he asked after a minute.
   “Yes.” He hesitated.
   “Was she killed? ”
   “Yes. ”
   “I thought so; I told Daisy I thought so. It’s better that the shock should all come at once. She stood it pretty well. ” (p. 150)

   と、事件の当事者とは思えないほど、奇妙なまでに落ち着き払った返答をしている。更に続けて、”but of course I’ll say I was.” (p. 150) と、Daisyの罪を自ら被るつもりでいることを明かした。そして、”You see, when we left New York she was very nervous” (p. 150) と彼女を気遣う面を見せたり、”She’ll be all right tomorrow.” (p. 151) と発言したりと、事故でなくなった Mrs. Wilson のことは気にも留めていない様子が伺える。この章の最後では、”I want to wait here till Daisy goes to bed.” (p. 152) と、Daisyを優先、つまり言い換えれば、理想の実現を最優先させる、彼の執着心の強さが見られる。極めつけは、ホテルでの言い争いについてNickと対話しているときにGatsbyが言ったこの台詞である。

   ”Of course she might have loved him just for a minute, when they were first married--and loved me more even then, do you see? ” Suddenly he came out with a curious remark. “In any case, ” he said, “it was just personal. ” (p. 158)

   つまり、このとき既に、GatsbyにとってTomやDaisyはjust personalな存在であって、それより彼はもっと大きな夢に向かって進んでいたのだ。 この物語は一見すると、自己中心的なDaisyを一途に愛し続けるGatsbyの、悲劇的な結末を描いたものと思われがちだが、実はGatsbyからDaisyに向けられていた愛の形は物語の進行と共に変化が露呈されてゆき、最終的には彼の愛が向けられていた先は、彼自身の理想だったということが分かる。彼のDaisyに対する愛は決して愛と呼べるものではなく、自分よがりで身勝手なものだったのだ。


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