Seminar Paper 2010

Kanako Yamada

First Created on January 27, 2011
Last revised on January 27, 2011

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小説Lolita のユニークさについて
Lolita はいつ死んだのか

私が小説「LOLITA」に仮説を立てるとするなら、ロリータはエルフィンストーンの病院で死んでしまったのではないかということです。ロリータが死んでしまった悲しみに耐えきれず、ハンバートはキルティーという架空の人物を作り出し、後になってから自分とロリータの逃亡生活の要所にキルティーの存在を付け加え、ロリータがキルティーとともに逃げたと思いこみ、そのキルティーを恨み、殺すことで、自分の中の悲しみに耐えていたのではないかと思います。

小説ロリータのユニークさはこの小説のいたるところに散らばっています。私がなぜ、「ロリータ」で、ロリータがエルフィンストーンで死んでしまったと考えるかというと、3つの理由があります。まず1番目は、ロリータがエルフィンストーンの病院を去ってからのハンバートの描写が非常に陰鬱で、ロリータの埋葬のようなことをしている描写があることです。2つ目は、ロリータは、幼いころにハンバートが激しく恋をしたアナベルの面影を残した2番目の存在であったからです。そのアナベルはチフスにかかって幼くして命を落とします。3番目の理由はハンバートがキルティーを殺す理由がまったくわからないし理解できないと感じたからです。

1番目の理由ですが、エルフィンストーンでの描写にロリータが死んでしまったような描写が描かれています。” (out of sight already, door on the move , closing, closed)”(p144)この描写はロリータがキルティーと逃げる前にハンバートに見せた最後の姿ですが、まるでドアがとじるのではなく、ロリータの目が閉じる最後の瞬間のような描写です。また、消え去ったドロレス・ヘイズとハンバートは言っています。”which might be called “Dolores Dispartue,” there would be little sense in analyzing the three empty years that followed. “また、消えてしまったロリータをバレチカや、シャーロットと夢の中で重なっている描写があります。夢の中で、ロリータがバレチカやシャーロットになったりするのです。

...as I saw her constantly and obsessively in my conscious mind during my day mares and insomnias. More precisely: she did haunt my sleep but she appeared there in strange and ludicrous disguises as Valeria or Charlotte, or a cross between them.”(p245)
また、ロリータが死んでしまったと暗に示していると思える箇所に、夢にでてきたロリータの体がまるでサッカーボールの内側についたゴムのように割れているという描写があります。“ with flesh ajar like the rubber value of a soccer ball’s bladder.”(p254) そして、まるでロリータを葬るための儀式のように、ハンバートはロリータの持ち物の処分を始めるのです。”One day I removed from the car and destroyed an accumulation of teen-magazines.”(p254)や”Other things of her were harder to relinquish.”(p254)ハンバートが書いたように、ロリータが本当にキルティーと逃げただけなら、ロリータが大好きだった10代向けのマガジンを捨てたり、ロリータとハンバートが大切にしてがにある孤児院の女の子に送ったりはしないはずです。”and on her fifteenth birthday mailed everything as an anonymous gift to a home for orphaned girls on a windy lake, on the Canadian border.“ロリータが15歳になったからもう10代向けのマガジンは見ないだろうとか、靴やズボンのサイズが合わなくなったのではないかというような理由ではないはずです。なぜなら、ハンバートはロリータに永遠に幼いニンフェットでいてほしいと願っているわけで、ロリータを連れ戻そうとしているのに、サイズが変わってしまっているなどとは考えもしないはずです。そのすぐあとの詩のなかでロリータのサイズが変わってないと思っていることがわかります。”Ninety pounds is all she weighs With a height of sixty inches.”(p257)ハンバートはロリータを探しつつももうロリータが死んでしまったことを心のどこかで認めており、無意識にお葬式のような儀式をしているように思えます。

2番目の理由ですが、まずハンバートが生涯をかけて愛した女性はロリータですが、しかしこの幼いハンバートが愛したアナベルはハンバートとチフスにかかって死別してしまいます。”and four months later she died of typhus in Corfu.”(p13)また、ハンバートは「Lolita」はアナベルから始まったとはっきり言っています。 “however, that in a certain magic and fateful way Lolita began with Annabel.”(p14)また、ハンバートがロリータとアナベルを重ねて見ていることが分かる描写もあります。”Oh, Lolita, had you loved me thus!”(p14) また、ハンバートがロリータをアナベルの生まれ変わりだと信じているような描写もあります。”until at last, twenty-four years later, I broke her spell by incarnating her in another. ”(p15)

また、この小説には様々な女性が出てきて去っていきます。たとえば、ハンバートの母親、ハンバートの叔母のシビル、ハンバートの1人目の妻であるバレチカ、ハンバートの2人目の妻であるシャーロットです。しかし、この女性たちはみなロクな死にかたをしていません。まず、ハンバートの母親です。

My very photogenic mother died in a freak accident (picnic, lightning) when I was three, and, save for a pocket of warmth in the darkest past, nothing of her subsists still stand my style (I am writing under observation), the sun of my infancy had set: (p10) 
さらにハンバートの叔母です。”She was poetically superstitious. She said she knew she would die soon after my sixteen birthday, and did.”(p10)さらに滑稽に描かれているのはハンバートの1人目の妻であるバレチカです。”A man from Pasadena told me one day that Mrs. Maximovich nee Zborovski had died in childbirth around 1945;” またバレチカとロシア人の夫が参加していた実験は次のようなものでした。” The experiment dealt with human and racial reaction to a diet of bananas and dates in a constant position on all fours.”(p10)さらに顕著なのが、ハンバートの2人目の妻であるシャーロットです。
...concealed the mangled remains of Charlotte Humbert who had been knocked down and dragged several feet by the Beale car as she was hurrying across the street to drop three letters in the mailbox... (p98)
このように、ハンバートの母親は雷に打たれて死に、叔母はハンバートが16歳の誕生日が過ぎたらすぐ死ぬと予言しその通りに死に、バレチカはおかしな実験に参加して死にました。シャーロットは車に突っ込んで死にました。このように、4人の女性が滑稽ともいえる死に方で死んだが、その中でアナベルだけは、病気という悲しい事情で死んでいます。これはもし、ロリータがエルフィンストーンの病院で死んだと仮定すると同じ死に方です。しかし、もし、ハンバートが記録したとおりに出産中に死んだとすると、ハンバートを裏切ってロシア人の男と出て行ったバレチカと同じ死に方なのです。あれだけ冒頭の、13,14,15ページでアナベルがロリータの生まれ変わりのようなことを描写しているのなら、ロリータがエルフィンストーンで死んだとして一緒の死に方で死んだほうがよりロリータとアナベルの二面性が出るのではないかと思いました。また、ハンバートはアナベルが死んだとき、長期間深い悲しみに暮れます。”I also know that the shock of Annabel’s death consolidated the frustration of that night mare summer,”(p14)また同じように深く愛したロリータが死んでしまったことに耐え切れず、ロリータが高熱で死んでしまった事実に耐えられず、キルティーが連れ去ったと自分に思いこませ、キルティーを殺すことを人生の目標とすることでやっと悲しみに耐えて生きることができたのではないかと思うのです。また、ハンバート出会う女性はほとんどが死んでいきますがそのことを描写するハンバートは決して悲しそうではありません。しかし、両親とはもう会うこともなく、妻も子供もいないハンバートにとって、唯一の生きがいであったロリータを失ったハンバートは現実逃避をして生きたのだと思います。

第三の理由ですが、ロリータがそのまま死んでしまったとするとロリータはハンバートに無理やり一緒に旅をさせられ、傷つけられ囚われたまま死んだことになります。ハンバートに貴重な青春時代をつぶされたまま幸せを感じることなく死んだことになるのです。その事実がハンバートには耐え切れなかったのではないかと思います。

Alas I was unable to transcend the simple human fact that whatever spiritual solace I might find, whatever lithophanic eternities might be provided for me, nothing could make my Lolita forget the foul lust I had inflicted upon her.(p283)
この描写はハンバートが妊娠して結婚するロリータに会いに行き永遠のお別れをした後にハンバートが思っていることです。ハンバートがいかに後悔して、罪の意識にさいなまれているかが伝わります。ハンバートはエルフィンストーンでロリータが不幸のまま死んだとはどうしても受け入れきれず、キルティーに連れ去られ、どこかで好きになった男の人と幸せにやっていると思いたかったのです。そして、自分の罪の意識をキルティーに押し付け殺すことで自分の罪の意識を軽くしたかったのです。”Because you took advantage of a sinner because you took advantage because you took because you took advantage of my disadvantage…”(p299)また、そのすぐ後にハンバートは昔ロリータが言っていた言葉を思い出します。この描写はロリータが死んでしまったことを表しています。”You know, what’s so dreadful about dying is that you are completely on your own”ハンバートが完全に一人っきりになってしまったからこそこのロリータの言葉を思い出したのだと思いました。また、キルティーを殺したあとも決して満足せずロリータに対しての罪の意識を更に増して感じ始めます。これは、キルティーがなにもしていないからです。“Far from feeling any relief, a burden even weighter than the one I had hoped to get rid of was with me, over me.”(P304)また、ロリータが好きな男の子供を身ごもり自分とは離れた場所で幸せにやっていると知ったなら、ロリータを自分の元から連れ出してくれたキルティーを恨みはしないはずです。ハンバートはあれだけ罪の意識にさいなまれているなら、いくら自分の元からは去ってしまったからといって殺したくなるほどキルティーを恨むはずはないのです。ハンバートは今も会ったときから永遠にロリータを愛していると言っています。ロリータはしんでしまって、ニンフェットでなくなったロリータをみることがなかったからこそ言えるセリフだと思います。

以上までに述べた3つの理由から、私はロリータはエルフィンストーンの病院で高熱を出したまま死んでしまい、そのあとの物語はハンバートが罪の意識とロリータが死んでしまった悲しみに耐えるために作り出した仮説であると考えます。第一の理由としては、ハンバートが、ロリータがキルティーと逃げてから行う埋葬の儀式のような描写、第二の理由としては、アナベルとの生まれ変わりのような存在をロリータだとした場合、ロリータのアナベルと同じように、病気で死んで、バレチカと同じ出産中の死という設定はしないのではないかという考察です。第三の理由としては、ハンバートがキルティーを殺す理由もメリットも見えないということです。以上のことが仮説の根拠です。


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