Seminar Paper 1999

Kaori Yoshioka

First Created on January 27, 2011
Last revised on January 27, 2011

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小説Lolita の女性たち
ナボコフと数奇な運命をたどった女性達

この「ロリータ」には、多くの女性たちが登場する。そして、彼女たちはみな個性があり作者はこの女性たちに何らかの意図をもたせて登場させているのだろう。私は、その意図を自分なりに分析してみようと思う。ハンバートの周りを取り巻く女性たちや作者の女性観を作品のテーマに関連付けて、登場する女性は作品の中で、どのような役割を担っているのかを結び付けたいと思う。また、私は、ナボコフは国籍に関しても意識してこの女性達を描いているのではないかと思ったので分析してみようと思う。

まず、ハンバートの母親と母親の姉について記述したい。彼の母親は、美しい人で、ハンバートが3歳になる頃死亡した。母親の姉は、ハンバートの父のいとこと結婚していたがのちに捨てられてしまってハンバート一家を面倒見ていた。厳しいしつけをしていた。彼女もまた、ハンバートが16歳を過ぎた頃死んでしまった。ハンバートの父親の事が好きだった。

続いて、ハンバートが生涯で初めて愛した女性、アナベルリーについて述べてみよう。

“Half-English, half-Dutch, in her case. I see Annabel in such general terms as ; ‘ honey-colored skin’ ‘thin arms’ ’brown bobbed hair’ ’long lashes’ ‘big bright mouth’”

彼女は、イギリス人とオランダ人の混血である。はちみつ色の肌をしており、腕は細く、茶色い髪と長いまつげ、大きい口、これがハンバートが思い出せるアナベルの外見である。ハンバートはアナベルの事を愛していたが、彼女は病気で亡くなってしまった。歳は、ハンバートが幼少期に恋をしていた女の子なのでハンバートより数か月遅く生まれた子である。ハンバートはアナベルの事をとても愛していたのだが、死んでしまいロリータが現れるまで忘れられなかった。彼女がロリータの前身である。年は離れていないので、正式なニンフェットではない。ハンバートはロリータと出会う前の彼女の事が忘れられなくて、当時の記憶のまま成長してしまったのだと思う。アナベルは、この物語の中で必要不可欠なキーパーソン役であると言える。アナベルは、ハンバートにとって永遠の恋人であった。

次に、ヴァレリアについて述べる。ヴァレリアはポーランドの医者の娘である。また、ハンバートの最初の結婚相手である。ハンバートが彼女と結婚すると決めた決定的な理由は、20代後半にもなるのだが、ぽっちゃりしていて明るい陽気な顔だち、足をだしたり、飛んだり跳ねたりと子供のような仕草や行動をするといったような少女のような真似をしたからだ。しかし、その可愛らしい行動や見た目も翌日には、全く別人なようになっていたのだ。(やはりニンフェットではないのだと実感。)ヴァレリアは、無口で結婚当初は良かったのだが、突然離婚を言い渡す。ヴァレリアは自分から行動を起こさない比較的おとなしい女性。また、ヴァレリアの新しい夫になる旧ロシアの元陸軍大佐はハンバートとは正反対に近いくらいの男性でハンバートはとても嫌っていた。ナボコフ自身もロシアをあまり気に入っていないので、ヴァレリアとロシアの元陸軍大佐の記述をあまりよく書かなかったのではないか。ヴァレリアには、身分証明に問題がある。ナンセンパスパートという非合法のパスパートでややこしい問題である。このような、国籍に関係するような話題が入る。ヴァレリアは、一見とても純粋そうに見えニンフェットに近い部分があると思ったが、ヒステリーになりハンバートにとってはとても取り扱いにくい存在だったのではないだろうか。

次に、シャーロット・ヘイズについてである。彼女は、30歳半ばである。アメリカ人で、地味な顔をしているのだがきれいである。だが、内面については、ユーモアに欠けている。上品な話し方であるが、心がこもっていないような話し方をする。ロリータの母親であり、ハンバートは、ロリータの近づくため、下宿人からシャーロットの夫になる事に決める。シャーロットの性格は、自分の意見をはっきりと述べる人。とても強引に自分の発言とおりにしたがる傾向がある。ハンバートが下宿人としてやってきた時から、ハンバートの事を気に入っており、自分のものにしようとして、「もし、結婚しないのならこの家を出て行きなさい、居るなら結婚する」と半ば強制に結婚した。また、キリストの信者で信仰深い。自分が愛されている事を常に認識していたいので、ハンバートがロリータと仲良くしている所を見るだけで、自分の娘にまでやきもちを焼く。とても、嫉妬深く独占欲が多い性格である。また、ハンバートに過去の恋愛について全てを知りたがった。シャーロットの場合は、ロリータの母親という事もあり、やはりニンフェットではなく、ハンバートにとっては、ロリータと生物学的に一番近い存在でなければやっていけないという状態であった。彼女は、この物語で、ロリータに出会う前に必ず必要となる人物である。また、彼女の子供であるロリータはハンバートから逃げたいという形になり、ハンバートはシャーロットから逃げるというような連鎖のようであり、追いかけごっこのようになっているところがおもしろい。また、シャーロットと出かけた浜辺でのシャーロットとの会話が後々重大な意味をもたらしたり、ロリータの行動のふとした時(居るはずのロリータがテニスコートに居なかった時)、シャーロットを思い出したりと、シャーロットという存在は物語のところどころにちりばめられている。国籍の事について言えば、シャーロットは常にハンバートに愛を求めている。これは、ヨーロッパの結婚に対する考え方とアメリカの考え方を対比しているのではないか。

次にリタについてである。彼女は、ロリータの年齢の2倍の女性で、華奢な体つきをしている。黒髪で、不均等な目をしている。スペイン人かバビロン人の血を幾分かひいている。彼女は、酔っ払っていて酒場でハンバートが声をかけた。彼女は思いやりがあり、気の聞いた女。恋愛遍歴がある。いたずら好き。肌や背中の曲線が少女っぽくてハンバートの悩みを忘れさせてくれた。彼女は、ハンバートにとってロリータの一時的代わりになった、仕草や笑い方も子供っぽかったので、ハンバートからキルティー探しを一時的にやめさせた。また、リタがここで登場した意味には、ハンバートと似た者同士であるということが挙げられると思う。リタは、7人のお付きの紳士に捨てられ、3番目の夫とは離婚したばかりである。これと同様に、ハンバートも恋愛遍歴という意味では似た者同士である。その二人が、傷の舐めあいをしている様な印象を持った。

最後に、ロリータについてである。 ロリータは、ハンバートと出会った当時は13歳であり、ハンバートと13歳の年の差であった。彼女は、アメリカの少女。とても、おてんばで元気のよい少女。ハンバートからしてみれば、究極のニンフェット(無邪気さ、小悪魔力を兼ね備えた少女)である。ハンバートは一目でロリータを気に入り、記憶の中で一番愛していたアナベルを超えてしまった。最初は、ハンバートに対して、恐怖心や嫌悪感はなくむしろ気に入っていた。幼いころから、ニンフェットぶりを発揮していた。

“ ’It’s right there’ she said,
‘I can feel it.’ ‘Swiss peasant would use the tip of her tongue.’
‘Lick it out?’
‘Yeth. Shly try?’
‘Sure,’ she said. Gently I pressed my quivering sting along her rolling salty eyeball.
‘Goody-goody,’ she said nictating.‘
‘It is gone’’Now the other?’ ‘You dope,’ she began, ‘there is noth-‘ but here she noticed the pucker of my approaching lips.
‘Okay’ she said co-operatively, and bending toward her warm upturned russet face somber Humbert pressed his mouth to her flattering eyelid.”
これは、ロリータの目の中にゴミが入ってしまった場面でハンバートが舌で目のゴミを取ってあげる場面なのだが、このように、ロリータはハンバートの下心を察して、持て遊んでいたのかもしれない。もしくは無邪気にただ単に気持ちよかったからなのかもしれない。 この「ニンフェット」という部分が年齢を重ねるにつれ徐々になくなってゆきわがまま少女になっていく。更に、ハンバートから逃げるためにキルティーの助けを借りながら逃げる。

このように、4人の女性について細かい分析をしてきたが、最初にも述べたように、私は、作者であるナボコフは女性達の性格と具体的に本と結び付けて考えてみようと思う。それぞれが物語の大きなテーマの歯車(ヒント)となっているように思える。また、それぞれの女性がとても個性豊かに描かれている。国籍もとても気になる部分があったのが、ロリータやシャーロットのアメリカ女性の自由さや、男性に愛を求めるところは、ナボコフも国を意識して描いたのかなと思った。また、反対にヨーロッパの国は、女性が積極的にいかないので、ヴァレリアの様な性格の女性を描いたのだと思う。これは、ナボコフが、この時代の女性を象徴的に描いているのではないかと思う。彼自身、ロシアで生まれ、アメリカやヨーロッパに渡り生活をしていた。彼が生活していた時代の女性達の性格、考えをこの作品では反映させているのではないか。 4人の女性の共通の点を挙げるとすれば、生涯をあまりいい形で終わらないという事だ。つまり、みな、幸せな形では死んでいない。ハンバートの母親も母親の姉も死んでしまっている。アナベルはハンバートの事が好きだったが、若くして病気で死んでしまい、ヴァレリアは自らハンバートの元から去っていき、次の夫と結婚したが、分娩中に死亡した。シャーロットはハンバートとロリータをめぐる喧嘩をした後、家から出た時、車に引かれ死んでしまった。そして、ロリータの生涯も病気になってしまい死亡。リタに関しては、ハンバートの元を去ったあと、刑務所に入っていた事がわかった。これは、物語全体の結末として、いい終りではない。つまり、誰もハッピーになって終わる事が出来ないという事を暗示しているかのように感じられた。結末は、ハンバートがキルティーを見つけ出し、殺害し、ハンバート自身は強姦罪で逮捕されたならば納得が出来ただろうが、のぞみとは別の殺人罪として逮捕され、牢獄に入れられる事になる。

この物語全体がナボコフの生涯と少し似た部分もあり、自伝的的な要素も含まれている作品だと思う。この物語は、重箱の隅をつつくような部分までも意味をもたせているので、解釈もそれぞれだと思う。とても、皮肉っぽくもあり、おもしろい小説である。


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