Seminar Paper 2011

Aki Nakayama

First Created on February 3, 2012
Last revised on February 3, 2012

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LevinとGilley
二人の男のA New Life

    この小説は主人公Levinが、これまでの生活を捨て、新たな街で新しい生活を始めようとする様子を描いた物語である。主人公Levinは、これまでニューヨークという大都会で暮らし、酒におぼれながら日の当たらない日々を過ごしてきた。そのような辛い思い出が残る大都会を捨て、今までの街からは遠い対岸の田舎の街に来て、これまでとはまったく異なる生活を始めようとするLevin。そしてその街に到着して、まさにその初めての一歩を踏み出す瞬間に出会った人物が、その後のLevinの人生を大きく変えることとなるGilleyとその妻Paulineである。この二人は物語を通して、主人公Levinとそして彼の新しい人生に大きな影響を与えている。中でもGilleyはLevinと対照の存在として描かれていることが多い人物であるのではないだろうか。大学での仕事に対する姿勢や私生活など、様々な面で対立していく二人の関係性やそれぞれの価値観に焦点を当てながらこの物語のテーマについて考えていきたいと思う。

    まず彼らはその生活の環境から大きく異なる。Levinはこの田舎町に来たばかりで知り合いもいない。そしてPaulineに恋人の存在についてさりげなく問いかけられた際に“‘No pictures, No sweetheart.’”(p. 5) と答えているように彼は独身であり、さらには写真を持ち歩くような身近な存在がまったくいないような状態である。赴任してきたばかりの職場、大学にももちろん知人はいない。これはLevinが新しい生活を始めようとこの地にやって来たのであるから当然といえば当然である。

“I hope you won’t be disappointed in us, Mr. Levin.   In the College and the town.   Easchester can be lonely for single people--I don’t mean the college students, their world isn’t real.    Someone from a big city might be disappointed here.   You have no idea how sheltered we are, landlocked, and bland.” (pp. 18-19)

このように最初の夜にPaulineがLevinに言っていたり、加えて“‘But for someone without a wife and children, maybe you ought to try San Francisco or Seattle.’” (p.19)と言ったりしているように、彼が来た街は酷く閉鎖的で穏やかな場所であり、Levinのような独身の人間にはとても刺激のない退屈な街なのである。その後Levinは新しい土地での生活に慣れ始めた頃から、異常なくらいに異性との関係を求めるようになる。しかし、Levinは一人で過ごすのが苦手な人間という訳ではない。彼は彼なりに一人の時の楽しみ方や、都会では味わうことができなかった楽しみなどを発見し、それを満喫しながら新しい街での生活を送っている。しかし、それでも異性を激しく求めてしまうというのは、Levin自身がこの街に住み始めて、独り身の寂しさをかなり痛感したからであるといえる。一方でGilleyはPaulineという妻がおり、さらに二人の子供もいる立派な家庭を築いている。職場である大学でも、全員ではないにしても多くの同僚に慕われているようである。そして女性関係でも妻帯者ということもありLevinとは異なるように描かれている。それは決して彼自身に魅力がないというわけではなく、職場の同僚からも好意を寄せられているようである。しかしLevinのように異性を激しく求めるようなことは妻であるPauline以外にはない。

    性格の面でも二人は対照的に描かれているようである。Levinは作品中、一人で考え込むような描写が多い。愛人関係になったPaulineとお互いのことを思い一度別れてしまった時などは、“A grief without a pang, void, dark, and drear,/ A stifled, drowsy, unimpassioned grief,/ Which finds no natural outlet, no relief,/ In word, or sigh, or tear.”(p. 255) のように思考が巡り続けている。しかし、ただ巡り巡っているだけであり、決してこれからどうすればいいのかという問いに対する答えが出ることはない。ある悩みに対してこれからどうするかを考えているというより、今の状況をただ一人で悶々と考え、考えに考えた結果、特に大きな決断に至るという訳でもなく、考えただけで何も行動できずに終わるということが多いのである。作品の中で彼が何かを考え込んでいるという描写は非常に多いが中には空想や妄想の域に入ってしまうのではないかというものもある。

One day J.B. collapsed at his desk and died at home.   Levin came uninvited to the wake.    The former assistant professor was laid out in the still unfinished parlor, in wool sweater and brown socks, shoeless.   He lay on a soft fir slab he had cut himself, his trusty crosscut saw at his side.   During the services, Levin, assisting wherever possible, held a dripping candle over his waxen face.    As the five Buckets prayed for their father’s return he prayed with them, but Bucket had entered his last silence.    (pp. 271-272)

これはLevinが自分の書いた論文をBucketに読んでもらおうとしたが、読んでもらえなかった時に、Bucketに不幸が訪れることを望みその情景を考えている場面である。最終的に冷静になりそのようなことを考えてしまったことに罪悪感を抱くことになるのだが、これは思案の域を大きく超えているようである。このように一人で考え込むことが多いLevinであるが、結論が出ることはほとんど無い。そして結局いざ行動しなければならないという時になって、自分の意思というより周りに流されて行動してしまっていることが多いような印象を受ける。この物語の中で大きな決断のときであったPaulineとの関係についても、彼は前日の夜まで“‘Am I in my right mind?’”(p. 361) と自分が正気であるのか疑って、さらに今からでも逃げ出せるのではないかと考えている。最終的にPaulineの押しに流されて、不安を抱えつつも街を出て行くことになったのである。一方のGilleyは作中で彼自身が考え込むような描写はほとんどない。これは彼が主人公ではないから彼自身の描写がないのは仕方が無いことである。しかしLevinのように周りに流されたりすることは無く、むしろ周りが自分の期待通りに動くように考え行動しているようである。それが顕著に表れているのが学科長選挙に関係することの時である。一見すると、周りの同僚と楽しく仲良くしているようにも見える。しかしその後の選挙に対する姿勢や学科長への執着を考えると、彼の行動は同僚と楽しく過ごすためというより、選挙での味方を減らさないために波風立てないようにしていたと考えることもできる。さらにはLevinを雇った際も、学科長選挙で味方になるだろうという考えが少なからずあっただろうということは否定できない。そして、PaulineがDuffyと関係があると疑いがたったときは、その場面に遭遇したにも関わらず直接その場で二人に対して怒ったりすることはなく、むしろその後のことを考えて現場の写真を撮っている。その後彼はこの時のことを“‘I was desperate.’”(p.343) “‘I admit that taking that picture was a mistake, although I thought I might need it for a divorce,…’”(p.344) と後悔しているが、それでもこの時彼がこの先離婚する可能性もあると考えてこの写真を撮っており、その写真を鍵付きの箱の中に厳重に保管していたことは事実である。このことからもGilleyがLevinとは違い、先を見据えて自分の意思で考え、その考えに従って行動していることがわかる。

    もう一点この二人が対照的に描かれているのが、仕事に対する姿勢である。これに関しては一番はっきりと対照的に描かれているといえるだろう。当初はお互い上手くいっていたLevinとGilleyの中がこじれていく原因のひとつにもなったのがこの点である。Levinは大学講師として仕事をしていく上で、文学というものをとても重要視している。Easchesterの街に来た翌日に自分がこれから働く大学が文系の大学ではなく、理系の大学であると知った時“Though he tried to seem casual, Levin had risen from his chair.    ‘Why I thought?I was positive?this was a liberal arts college.’”(p. 26) とかなり動揺し、その後Gilleyに対して文系授業の重要さを熱く語っている。結局はGilleyに諭されることとなるが、その後もたびたび自分が働く大学の教育方針や授業内容について疑問を唱えている。物語前編にわたってLevinはとても熱意溢れる教育者であり、ただ決められた内容を学生に教えるだけということをよしとしない彼の教育精神、教育に対する理想が描かれている。それが学生にとってとても厳しい評価基準となり、結果多くの学生がLevinの授業を辞めるということになってしまっても、彼はその姿勢を変えることは無かった。自分の理想を貫き通したのである。自分の理想を持ち続け、例えそれがその大学の伝統であっても異議を唱え続けたLevinと比べ、Gilleyはとても保守的である。もともと総合大学であった大学が理系の単科大学となってしまっていることも仕方のないこととして受け止めており、それを今さら変えようという考えもないようである。だがしかし、文系科目の重要さを語るLevinの意見にも同意はしていることは次の文から読み取れる“‘Frankly, though I agree with some of you just said, Cascadia is a conservative state, and we usually take a long look around before we commit ourselves to any important changes in our way of life.’”(p. 29)授業内容に疑問を抱いていないというわけではないし、その後何度か授業内容について話したときも、Levinの意見を完全に否定することはない。だがしかし、その意見を行動に移すということまではしない。

“That’s not to say that we won’t be making some changes here, but most of us at Cascadia agree there’s no sense hurrying any faster than most people want to go.   If you push too hard you arouse resentment and resistance, and the result is the changes you are pushing for are resisted too.    We’ve seen that happen too often in the past.    Also keep in mind that a lot of very fine upstanding people in this community don’t give two hoots for the liberal arts.”(p. 29)

そしてLevinには今までも同じことを言う人はいたがその人たちは皆反感を買ってしまったのだということを伝え、あまりことを大きくしないほうが良いと釘を刺している。これは先に述べたように、Gilleyがこの先の学科長選挙を視野に入れていることも大きく関係しているのではないだろうか。確かに授業内容や教育方針を全面的に支持しているわけではないが、そこで異論を唱えても自分が反感を買ってしまうのではないかと考え、それは自分にとって良いことではないと考え、なにも行動を起こしていないのである。その後も二人は、現学科長であるFairchildが書いた文法の教科書『文法の原理』に関してや、学生Albertの盗作事件の時など、事あるごとに対立する。理想に向かってひたすら自分の信じる道を進むLevinと、疑問は抱きつつも保身のために行動には移さないGilley、それが二人の大きな違いなのである。

    このように環境・性格・仕事に対する姿勢など様々な面で対極の立場にある二人が小さな田舎町で出会い、お互いに少しずつ干渉しあいながら生活を送っていく。だがしかし、こんなにも対照的な二人にも共通点があった。それがPaulineという女性である。反対の立場にあった男達が皮肉にもPaulineという同じ女性を愛してしまったことによって彼らの生活が複雑に絡み合っていく。このたった一人の女性の存在が二人の男の人生を大きく変え、狂わせていくのだ。二人の男がとてもはっきりと対照的に描かれていたからこそ、同じ女性を愛してしまったという事実がとても皮肉なこととして残るのである。Paulineというパートナーを手に入れ不安とともに再び新たな街へと旅立つLevin、反対にPaulineというパートナーそして子供二人を失い一人での生活をこれから始めることになったGilley、この対極の立場にあった二人の男性がまったく逆の立場となって物語は終了する。この小説の題名であるA New Lifeという言葉が何を指してのものなのか、初めこそ大都会を捨て、西の街へやってきてから去っていくまでのLevinの短いが激動の日々を指すものであると思っていたが、結末まで読んだ今となっては色々な見方ができる。先ほどのようにEaschesterでの日々のことなのか、もしくは新しい街へ向かうPaulineのお腹に宿る新しい命のことなのか様々な意見があるだろう。LevinとGilleyという二人の男性を考察した結果、このA New Lifeという題名は物語終了後のこれからの二人の人生を表した言葉なのではないだろうかと私は考える。


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