Seminar Paper 2011

Kanako Yamada

First Created on February 3, 2012
Last revised on February 10, 2012

Back to: Seminar Paper Home

LevinとGilly
多くの女性がレビンに心惹かれる理由

    私がこの物語を読んだ時、一番不思議だったのは、なぜレビンは女性にもてるのかということです。レビンは文学の専門コースを持つと思い込んでやってきたものの、実際は農・工を主体とする単科大学に来てしまうようなおっちょこちょいであるが、彼はキャスケイディアに来てからというもの、常に女性に好意を寄せられている。最後には人妻を奪う形で結婚することにまでなります。レビンは、物語の主人公としては、非常に人間味があり、親しみを持てる人物だと思います。さらにこの物語は、物語の会話の内容や話の繋ぎ方などが絶妙であり、文体も飾り気がないため、物語だとは思わずに話に引き込まれます。レビンは物語の主人公としては、臆病で、無謀でドジであるためヒーローのようではありません。しかし、人としては礼儀正しく寂しがり屋であり、ロマンチストであるため、ヒーローとして憧れるよりは泥臭い人生を歩んでいるレビンに共感し好感を抱くと思います。レビンは男の人からすると“こう言ってしまう気持はわかる”や、“こんな風にはなりたくないなあ”という自分になぞらえてレビンを解釈します。しかしレビンを女性が見るとどんな思いがするでしょうか。例えば夫と仮定してレビンを見た場合や、恋人候補としてレビンを見た場合です。カッコいいとも思わないでしょうし、頼りになるとも思わないでしょう。しかしレビンにはどことなく放っておけない哀愁漂う感じがあります。ポーリーンとレビンの会話や関係を見ていて私が感じたのはレビンが母性本能をくすぐるような存在ではないかということです。ギリーはレビンよりもポーリーンを愛し、すでにポーリーンと結婚もしています。さらにギリーは科長にもなり、その一方でレビンは大学を去り、また職探しから始めることになったがポーリーンはそんなレビンと暮らすことを決め、ギリーと決別します。普通の女性であればギリーとそのまま暮らすほうが幸せになれると思いますがレビンにはそれ以上のなにかがあるということです。彼は物語の中では道化を演じているのになぜ彼を馬鹿に思ったり出来ずその生き方にむしろ共感してしまうのか。 以上のことから私はこう仮説を立てます。マラマッドはこの主人公レビンを書くにあたって、女性の心を読んで“なぜかこんな人に心惹かれてしまいます。”と女性が思うような人物を書いたのではないかということです。マラマッドへの批判に女性描写が類型的すぎる、本当の女性を描写していない、女性描写が下手、などがあるようですが、私が思うに、マラマッドは女性描写が下手だとは思いません。マラマッドは女性描写が下手であるのではなくより女性の心を理解していたのではないかと考えました。

    私が立てた仮説はレビンは女性がなぜか好きになってしまう魅力的な人という仮説に対しての論拠を3点述べたいと思います。 一つ目の論拠はレビンの周りにいる女性はレビンに対して友好的であったり、レビンに心惹かれていたりするからです。 一番初めはラヴァーンです。レビンはポーリーンに少し興味を持ちつつも酒屋のウエイトレスのラヴァーンに興味を持ち、声をかけます。ラヴァーンは簡単に承諾し義理の兄の納屋へと誘います。

‘Look, Laverne,’ he said thickly, ‘ I like you a lot. It would give me great pleasure to be with you tonight. You’re very attractive.’ (p. 79)
このラヴァーンはあまりにも軽率であり、すぐに快諾したのはレビンがそれだけ魅力的だったということです。ラヴァーンはこの時、まだレビンとは会話らしい会話をしていなく、レビンのことを顎鬚のある人と呼んでいます。 “‘I’m never done it before with a guy with a beard.‘”(p.79) このキャスケイディアではあごひげを持つ男性は珍しいこともラヴァーンが興味を持った理由です。 次はエイヴィスです。彼女は初め、レビンの髭を怖がり、まともに髭を見ることはできませんでしたが、次第に研究室で二人は話すようにまでなります。やはりエイヴィスもレビンの顎鬚に強い印象を持ったようです。
“For awhile she was ill at ease with him, not knowing whether to confront his whiskers head on or peek around or under to uncover a fugitive from justice. her eyelids fluttered as she grips with him and before long she did. Her flutterings diminished, the voice took heart, and though coy, she addressed him to his eye.”(p. 97)
エイヴィスはある日レビンの研究室を訪れます。彼女とレビンは結ばれようとしますが、ギリーが偶然レビンの研究室にやってきたため、中断します。エイヴィスは長年ギリーのことが好きであるからかもしれません。しかしその後です。エイヴィスはギリーが出て行ったのを見計らって戻ってくるのです。ギリーが来る前は、何の考えもなしにレビンに流されてのことだと言えますが、恥じらいもなくレビンのもとへ戻ってくるのは心の底からレビンが好きだという証拠です。
“But then Avis was back, freshly made up, her orange blossom renewed. Her eyelids throbbed. ‘Shall we-go on?’” (p. 133)
さらにレビンは自分からうんと年の離れた20歳のナダレー・ハマースタッドに好意を寄せられ関係を持ちます。 “‘Because I am a woman and wish to be treated so.’‘By me?’ ” (p.141) この後、レビンはナダレーから叔母の経営するモーテルで留守番役をするからそこで二人で会おうと言われ、関係を持ったものの、レビンの気持ちが冷めてしまい、生徒と教師の関係に戻ろうとして、二人の恋は終わります。 このセリフは女子生徒が教師に言うには余りに大胆で勇気が要ります。この描写は確かに現実的ではなく、女性描写が下手とも言えますが、ナダレーが良く知りもしないレビンを好きになるほどレビンは魅力的だということです。 このナダレーも髭のことに触れています。
    ‘I bet you’d be better looking without your beard.‘ 
    ‘No, I wouldn’t.’
    ‘Anyway, the answer is you happen to appeal to me. I've always liked the intellectual type. I like the way you talk, it’s very sincere.’ (p. 142)
ナダレーはレビンのことを髭がないほうがもっと素敵になる。レビンは知的なタイプだ。等と言いますが、レビンは知的なタイプではないので、髭のおかげでそのように見えると言えます。レビンの髭は女性に興味を抱かせ、他とは違う、何か特別な雰囲気の人、というようなイメージを与えます。 また、レビンの下宿先の家主はレビンとポーリーンが浮気しているのに気付き、レビンに忠告しますがその時もレビンに友好的です。 “I’m not sure that a married woman carting on deserves much mercy. I feel sorry for Mr. Gilley.” (p.241)

    彼女はギリーに気の毒だとは言いましたが、不倫をしているレビンを責める風ではありません。しかし、同じ不倫をしているポーリーンには厳しいように思えます。 以上の理由からレビンの周りにいる女性はレビンに友好的であったり、心惹かれていたりする、ということが言えます

    二つ目の論拠はポーリーンがギリーよりレビンを選んだということです。 しかし、ポーリーンがレビンを選んだ理由の一つにはレビンがレオ・ダフィと似ていたということがあるでしょう。

She felt his beard and giggled. ‘For a minute I thought you were somebody else.’
‘ Who, for instance? ’ George said. ‘None of your business,’ said Jeannette.”(p. 191)
このSomebody を私はレオのことを言っているのだと思いました。ポーリーンの父も同じく顎鬚を蓄えていたそうなので、父のことを思い出していたと考えることもできますが、 やはり、彼女も彼の顎鬚に魅力を感じていたのだと思います。

    さらに二人はたくさん会うにつれて愛を深めていきますが、ポーリーンの中で顎鬚の存在は大きかったのだと思います。 “When they met, on a street at the southern edge of town, Pauline looks at him in disbelief then wept, though Levin it wasn’t too bad.”(p. 246) ポーリーンはレビンが髭を剃ってしまったというだけで涙ぐんだりしてしまいます。 理由のもう一つが、ポーリーンもレビンと同じく新しい生活(The new life)を求めていたということだと思います。 “‘My maiden name was Josephson,’ Pauline said. ‘Think of me as Pauline Josephson.’”(p. 361) という部分から、ポーリーンは自分の結婚前の姓をレビンに伝え、自分のことをポーリーン・ジョセフソンだと思ってほしいと言います。このことから、ポーリーンは今までの結婚生活を捨てて新しい人生を歩もうとする意志が見えます。

    さらに、ポーリーンは新しい命(The new life)を授かります。 “‘Meeting his eyes at last, she murmured, ‘I’m about two months’ pregnant.’”(p. 364) レビンはもともとこのキャスケイディアの土地に今までの人生を断ち切って新しい人生を始めるつもりで来ました。そのことをレビンから聞いていたポーリーンは自分もこの土地は恐ろしく退屈であると言っていたので、レビンとともに新しい土地で新しい暮らしを始めようとしてレビンを選んだのだと思いました。 ”’I had a terrible time my first few years here. We miss a lot through nobody's fault in particular. It’s the communal sin of omission.’”(p. 19)

    三つ目の論拠はレビンの魅力的な人柄にあります。レビンは暗い過去を抱えています。父は何度も盗みを繰り返す盗人であり最後は刑務所で死にました。母は父が死んでから気がくるってナイフで自殺しました。レビンはそれから酒に溺れ薄汚い身で生活しました。悪臭を放ち死のうとまで考えました。そんな経験があるにも関わらず、レビンは正直であり、頑固であり、間抜けです。女性たちはそんなレビンの過去に辛いおもいをしているのにまだ人生に希望を持ちやり直そうとする強い生きる力に惹かれたのではないかと思いました。

’The emotion of my youth was humiliation. That wasn’t only because we were poor. My Father was continuously a thief. Always thieving, always caught, he finally died in prison. My mother went crazy and killed herself. One night I came home and found her sitting in the kitchen floor looking at a bloody bread knife.’ (p.200)

“For two years I lived in self-hatred, willing to part with life. I won’t tell you what I had come to. But one morning in somebody’s filthy cellar, I awake under burlap bags and saw my rotting shoes on a broken chair. They were lit in it dim sunlight from a shaft or window. I stared at the chair, it looked like a painting, a thing with a value of its own. I squeezed what was left of my brain to understand why this should move me so deeply, why I was crying. Then I thought, Levin, if you were dead would be no light on your shoes in this cellar. I came to believe what I had often wanted to, that life is holy. I then became a man of principle.’(p. 201)
レビンは失敗を繰り返すが、その失敗に苦しみ、悩んだりします。またポーリーンとの恋愛では自分がひどく愛に飢えていることを自覚し、自分の信念や倫理観に従ってポーリーンとの新しい生活のために行動すします。その人間らしい挫折と成長の繰り返しはレビンが女性を惹きつける理由だと思いました。

    私のレビンは女性がなぜか好きになってしまう魅力的な人だという仮説は3つの論拠から妥当であると考えられます。一つ目はレビンの周りにいるラヴァーンやナダレーやエイヴィスなどの女性はレビンに対して友好的であったり、レビンに心惹かれていたりするからです。二つ目は結婚生活を捨ててまでポーリーンがギリーよりレビンを選んだということです。三つ目はレビンの魅力的な人柄です。 以上の3つからレビンは女性がなぜか好きになってします魅力的な人だということが言いえます。


Back to: Seminar Paper Home