Seminar Paper 2011

Kaori Yasui

First Created on February 3, 2012
Last revised on February 3, 2012

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Levinの多面性
変わらないものと変わっていくもの

A New Lifeの主人公であるLevin(以下レビン)は非常に多面的な性格の持ち主であり、彼がどのような人物であるかを一言では言い表せない。レビンは過去に暗い経験を持ち、それを隠しながらCascadiaという新しい土地で新しい生活を送っていくわけだが、この物語を通して彼の本質や暗い過去からくる性質を垣間見ることが出来る。そこで、彼が新しい土地に来て、そこを去るまでに彼の本質がどのように現れ、どのように変化していったかを見ていきたい。
レビンの性格について、以下の3つの面からそれぞれ違った特徴を見ることが出来る。第一に彼の講師としての一面、第二に恋愛面、第三にPauline(以下ポーリーン)と出会ってからのレビンである。  

第一に、レビンは教育に対して理想主義的な一面を持っている。彼の赴任してきた大学ではリベラルアーツに関して消極的であり、実用的な職業訓練に関する授業を重視している。レビンはこの事にショックを隠せず自分の理想とするリベラルアーツについて以下のように語っている。 "The Liberal arts-as you know- since ancient times- have affirmed our rights and liberties. Socrates-"
"That's how these things go. It's best to be Philosophical about it."
"Democracy owes its existence to the liberal arts. Shouldn’t there be-er-some sort of protest?" (p. 27)

またレビンには大胆で向こう見ずな一面もある。彼の理想や意見を確固として変えずに自分を雇ってくれた上司であるGilley(以下ギリー)に反発したり、実際に大学を変革させようとしたりするのだ。例えば、選挙でレビンは同じく学校を改革したいと考えるFabrikant(以下ファブリカント)を支持するが、Duffy(以下ダフィー)とのことを知り彼の支持をやめてしまう。ファブリカントにそれでは誰を支持するのかと尋ねられたレビンはこのように答える。"His dry lips parted. ‘Myself.'" (p. 298) 赴任してきたばかりの新任講師が大胆にも、大学を変えられるのは自分だけだと考え、学科長選挙に出馬するのだ。結果的には彼に入った票は0票と惨敗するが、失敗を恐れずに自分の理想を叶えようとする姿は無謀としか言いようがない。このように、レビンは自分の中で確固とした理想を掲げながら、その理想の為ならリスクも顧みずに挑戦しようとする大胆な性格なのである。
だが一方で、レビンは少し間抜けな人物だ。 "This is the life for me," he admitted, and they broke into cheers, whistles, loud laughter. The bell rang and the class moved noisily into the hall, some nearly convulsed. As if inspired, Levin glanced down at his fly and it was, as it must be, all the way open. (p. 90)

 授業に遅れてきたレビンが学生に自分の考えを語る場面である。彼は長々と大真面目に語るが、ズボンのチャックが開いていたせいで学生に大笑いされ、初授業が台無しになってしまう。真面目であるがゆえに彼の間抜けさが際立ってしまう。しかし、大胆さや真面目さの中に抜けた部分があるからこそ、彼の魅力が際立ちその人間らしさが、読者に共感を与えレビンを応援したくなるのだ。  

第二に、恋愛面ではレビンは女性に飢えているように見える。この事は、"Levin, unwed instructor, famished for love and willing to marry." (p. 75)という文から分かる。この話の中で、彼はポーリーンを除いた3人の女性と一時的な関係を持つことになる。彼は一人目の女性であるLaverneをSadekから横取りしようとしている。 Excitement boiled up in Levin as he foresaw adventure, although he warned himself not to be tempted. The battle he fought was short, nor would he admit he had lost, for adventure was adventure and how much of it had he had in his life? (p. 78)

 レビンは自分の学生が迷惑行為で捕まった事を好機ととらえている。彼は自分の望んだ女性を手に入れる為だったら手段を選ばないのだ。Avisの場合には、彼らは本や詩など、二人で共有し共感し合えるものを持っている。しかしながら、ギリーに"Avis is a very nice gal, but if I were you I’d keep in mind that women her age who aren’t married can be upset pretty easily." (p. 132)と言われ、彼女を諦め直ぐに別の女性であるNadaleeと関係を持ってしまう。彼女に関しても、レビンは"only then would he admit he had felt no true affection for the girl." (p. 154)と考えている。このようにレビンは、この三人に本当の愛情は持っていない。彼は、ただ女性と関係を結ぶことで自分の孤独を癒そうとしているのだ。"Levin envied them[everyone in the department who was married] the years of loneliness they had escaped." (p. 99) とあるように、レビンは誰かが側にいるという、孤独でない状態を望んでいるのだ。自分の孤独を埋めるために、ひたすら拠り所を求め、必死に女性と関係を持とうとしているのだ。

 第三にレビンはポーリーンに振り回されている。彼は、ポーリーンからの愛に不安になり、過去の関係に落ち込み、彼女の頼みは断れないでいる。"He feared his fate in her hand." (p. 205)と、レビンが感じているように、彼の運命はポーリーンによって翻弄されているのだ。 "A few months after she found out Leo Duffy had bumped himself off, or however he did it, she picked your application out of pile I happened to be studying. I had my strong doubts about that but in a minute of foolishness let her. " (p. 344)  

 このようにポーリーンはレビンの事を過去の恋人ダフィーに重ね合わせて、新任講師として選んでいる。レビンはこの土地に来る前から、ポーリーンと出会い、愛することを運命づけられていたのである。
 レビンは、上で挙げた三人とは違い、ポーリーンの事をこの話の中で唯一本当に愛している。その為、人妻との恋という反道徳的な行為ゆえ、彼はやや臆病になっている面がある。レビンは尻に激しい痛みを覚え医者に行くがストレスと診断され、その原因が"Love ungiven" (p. 215)だと気付く。ポーリーンとの恋に臆病になり、自分が彼女の事を愛していると認められなかったのだ。他の女性には積極的にアプローチするレビンが、ポーリーンに対しては受け身的なのである。 "To make himself effectual Levin must give up Pauline, or what was principle for? The strongest morality resists temptation: since he had not resisted he must renounce the continuance of the immoral." (p. 258)  

 ポーリーンへの愛を認めた後でも、自分の非道徳的な行為に疑問を感じ、何としてでも彼女のことを諦めなければならないと感じている。以上のようにレビンはポーリーンへの愛と自分の道徳観の間に挟まれて悩み、臆病になっている。このようなポーリーンとの関係に対する不安は最後の最後まで続く。このことは"She seemed not to want, or be able, to look at him. A massive excitement seized Levin." (p. 364)という場面から分かる。レビンは、もしかしたらポーリーンとの関係を終わりに出来るかもしれないと期待しているのだ。 二人の間に子供が出来た事を知り一緒になることを決心するが、それまでは二人の関係に対する不安は絶えなかったのである。
 また、彼はポーリーンに対しては頭が上がらない一面もある。子供たちの親権をポーリーンに譲るようギリーのお願いしに行く場面で、レビンは以下のような事を言っている。 "Would it be so bad to leave them with him?"
"Couldn’t he take one and we’d have the other?"
"Suppose I said I didn’t want them?" (p. 349)

 レビンはそこまで子供たちを引き取りたいとは思っていないが、それをポーリーンにはっきりとは言えないでいる。最終的には彼女のお願いを聞いてギリーを説得する羽目になるのだ。これは、教育の面で自分の理想を掲げて何としてでもそれを押し通そうとする信念を持ったレビンとは全く違った一面である。

 一方で、レビンの性質には変化した部分もみられる。彼は新しい環境で過ごしていくうちに過去の自分と決別し、新しく生まれ変わる事が出来たのだ。彼が、Cascadiaに初めて来た頃は、暗い過去に囚われ悲観的で、孤独がつきまとっていた。過去の自分について彼は以下のように語っている。 "My life, if I may say, has been without much purpose to speak of. Some blame the times for that, I blame myself. The times are bad but I’ve decided I’ll have no other."
"In the past I cheated myself and killed my choice." (p. 18)

彼は過去の人生について責め続けている。また、学生会館で楽しそうにしている学生をみて、彼らの見た目や若さや未来ある姿をうらやんでいる。"My youth, my lost youth." (p. 127)レビンは、自分の失ってしまった明るく輝いていた若い頃をうらやみ、自分には未来はないと悲観している。

 このような悲観的で、孤独なレビンを新しく前向きに変化させたポイントは二つある。彼のヒゲとポーリーンだ。
 まず、彼はこれまで生やし続けてきたヒゲを剃ることで隠し続けてきた過去の自分と向き合うことができた。"It’s-er-given me a different view of myself." (p. 23)レビンはギリーに対して、自分のヒゲについて「自分を変えてくれるもの」だと言っている。ポーリーンもレビンの過去の話を聞いて"You became Levin with Beard." (p. 202)と言っている。ヒゲによって自分の本質を隠し、自分を偽って生活しているのだ。だからといって過去の辛い経験がなくなってしまう訳ではない。レビンがヒゲを剃るきっかけは、彼が双眼鏡でポーリーンをのぞいている事が学生にばれたからであるが、ただ学生に見つかって恥ずかしいからといって、これまで生やし続けたヒゲを簡単に剃るわけがない。ヒゲを剃ったのは、自分を偽るのはやめて、自分を隠すものがなくても新しい生活を始められる人間になろう、という彼の一種の決意表明だったと言える。
 また、これまで隠してきた自分の過去をポーリーンに話し、彼女と共有することでレビンは自分の過去と決別し、新しい自分に生まれ変わる事が出来た。"Yet he was glad he had told her about the past; it was a relief to share that with someone." (p. 204) 誰か他の人に話すことで心の中にため込んでいた過去を解放することができ、悲しみや辛さを軽減することができたのだ。彼自身が自分の過去と向き合い、決別して初めて新しい生活を始め、前向きに生きることができるようになったのだ。

 彼の人生は孤独や失敗ばかりではない。"Meeting his eyes at last, she murmured, ‘I’m about two months’ pregnant." (p. 364)レビンに家族が出来たのだ。既に両親を過去に失ってしまったレビンにとって、二人の間に生まれた子供は唯一血の繋がっている存在だ。職を失ってでも子供を産み、ポーリーンと暮らしていく決心をしたレビンには心のよりどころができた。また、自分の子供を産むことはギリーには出来ないことであった。この点で、レビンはポーリーンの夫であり意見の対立する者であるギリーに勝つことができたのだ。
 彼が理想を掲げて大学内で行動してきたことも無駄にはなっていない。 "You got The Elements kicked out after thirty years."
"A hell of a revolution."
"Gerald is also thinking of offering some of the instructors doing graduate work a literature class." (p. 366)

 レビンがこれまで反対していた教材を使わなくなったのだ。また、彼の作ったGreat Books Programはレビンが去った後でも存続することになった。レビンのしてきた改革が実り、彼の理想や主張が英語学科に受け入れられるようになったのだ。これはレビンにとって大きな達成である。

 レビンはこれまで暗い過去を背負って生きてきた。彼はCascadiaという新しい土地に来て、新しい生活をすることによって過去と向き合う事ができ、ポーリーンと子供たちという新たな拠り所を得ることができた。彼はまた職を失い、別の地に行くことになるが、これは彼のスタート地点と言える。これまでこの土地で過ごしてきた時間はレビンにとってはA New Lifeの為の準備期間に過ぎず、彼の過去のマイナスの出来事が清算されただけである。レビンは次の土地でA New Lifeを歩み、これまでの多面的な性格に加えCascadiaでの生活を踏まえた新たな一面をもって過ごしていくだろう。


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