Seminar Paper 99

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Yukiko Satomi

First Created on December 31, 1999
Last revised on January 17, 2000

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Adventures of Huckleberry Finnにおける黒人問題」
Mark Twainは人種差別主義者じゃない

    Mark Twainの少年時代、南部では奴隷の保有は自然なことであった。北部では奴隷廃止運動が推し進められていたが、大人の世界では家畜を飼育するのと同じように奴隷の保有が行われいた。しかし、少年であったTwainにとっては"黒人は友であって、大人の黒人に対する態度は到底理解できなかった"(吉田弘重『マーク・トウェイン研究:思想と言語の展開』(南雲堂,1972),p. 12)とある。そんな気持ちを持っていたTwainのこの作品には、白人であるHuckと黒人奴隷であるJimとの心の交流や、Jimの暖かい人間性やそれに触れたHuckの姿が描かれている。これらを垣間見ることにより、Twainが差別主義者ではないということを確かめてみようと思う。

    Papから逃れJackson Islandに住み着いて平和で安全な生活を楽しんでいたHuckであるが、この島での生活が次第に単調なものになり、Huckはlonesomeを感じるようになる。そこでHuckは島を探検し、まだぬくもりの残った薪火に足を踏み入れ、無人島だと思っていたHuckは驚きと恐怖を感じる。しかし、その薪火をしていたしていた人間の正体Jimだと知ると大喜びする。"It was Miss Watson's Jim! I bet I was glad to see him…I was ever so glad to see Jim."(p. 53)と言い、そして"I warn't lonesome now."(p. 53)と安堵する。しかし、Huckは逃亡したJimと始めて島で会った時は、Jimの自由州に逃げ込む手助けをするということは全く考えていなかった。それどころか、Jimとのやりとりの末、仕方なく彼の所在をMiss Watsonに知らせないという約束を守る事になっただけであった。

   Jackson IslandのHuckとJimは、嵐の後で流れてくる木造家屋(frame-house)を見つける。二人は朝早くその木造家屋を探検する。部屋の向こうに男が寝そべっている。声をかけるが返事がない。死人と分かるとJimが先に入ってその男の顔をのぞき込む。とっさにその顔に布をかぶせると"Come in, Huck, but doan't look at his face-it's too gashly."(p. 62)と忠告する。この作品の最終章でこの男がPapであったことをJimが告白するのであるが、彼がそれをHuckにふせたことは、たとえPapがHuckを虐待したにしても、また背後から撃たれて最後を遂げたにしても、彼がHuckの父親である限り、その悲惨な姿を子供のHuckに見せまいとするJimの父親としての感覚と温かい配慮がそうさせたのであろう。

    Jackson Islandで数日を過ごした後、Huckは自分の偽装殺害とJimの逃亡が町でどうなっているのか聞き出そうと郊外の家をたずねる。Loftus夫人の巧みな誘導尋問によってあっさりと正体を見破られるが、彼女の夫たちがJackson IslandにJimが隠れていることをかぎつけて今夜探しに来ると知る。Huckは急いで引き返す。

There Jim laid, sound asleep on the ground. I roused him cut and says, "Git up and hump yourself, Jim! There ain't a minutes to lose. They are after us." Jim never asked no question, he never said a word; but the way he worked for the next half an hour showed about how he was scared,…Then we got out the raft and slipped along down in the shade, past the foot of the island dead still, never saying a word.(pp. 72-73)
Huckの切迫感がみなぎっている。HuckはJimを見るなり"They're after us."と叫ぶが、終われているのはJimであると分かっているはずなのに、"us"という言葉を発している所に、HuckのJimに対する連帯感が感じられる。このHuckの言葉に反応するJimの姿を"Jim never asked no question…showed about how he was scared." と述べていることから、Huckには差別意識などと言うものはなく、HuckがJimのことを考え心配している様子がうかがえる。

    Tomを意識して、Huckはめったにみせない冒険への好奇心から、今度は洪水で座礁した難破船を探検する。そして、そこから持ってきた小説をJimに読んで聞かせ、王様や公爵などの話をする。JimにSolomon王が二人の母親に一人の子供を奪い合わせた話をすると、妻子と離れ離れにさせられたという苦悩を胸に秘めたJimは、Huckの"King Solomon was the wisest man, because the widow she told me so, her own self."(p. 87)という評価に真っ向から食い下がる。さすがのHuckも"He was the most down on Solomon of any nigger I ever see."(p. 89)と舌を巻くが、Jimは一般的な評価がどうであろうと、彼なりに事実から判断し、良心にしたがって結論を出すことのできる人間である事が分かる。それはJimの特徴であり、妥協を許さないJimの姿勢である。Solomon王に対する議論に関して、Huckの意見はWidow Douglasのうけうりであるだけに、Jimの言葉にHuckは改めて感心する。また、客観的にみると、Jimの説明にはHuckより説得力があり、この議論はJimの勝ちである。白人より黒人のほうが勝っていると言う状況をTwainは作り出した。

    さて、難破船から悪党どものカヌーを盗み、逃げ延びたHuckとJimは幸いにもミシシッピを漂流するいかだを見つける。あと三晩でCairoの町に着くと言う時、ものすごい濃霧に襲われ、Huckはカヌーに、Jimはいかだに乗ったままはぐれてしまう。急流を下る恐怖とカヌーの困難な操作のため疲れ果てたHuckは眠り込んでしまう。真夜中になって目を覚ましたHuckはいかだのJimを見つける。Jimを見つけた安堵感からか、HuckはJimをだまそうとする。"Hello, Jim, have I been asleep? Why didn't you stir up?"(p. 93)と言うHuckのからかい半分の台詞にJimは次のように答える。

"Goodness gracious, is dat you, Huck? En you ain' dead-you ain' drownded-you's back again? It's too good for true, honey, it's too good for true. Lemme look at you, chile, lemme feel o' you. No, you ain' dead! You's back agin, live en soun', jis de same ole Huck-de same ole Huck, thanks to goodness!"(p. 93)
Huckが水死したのではないかと悲しんでいたJimはHuckに再会して、chileとあるように、それまでHuckにそそいだ父親にも似た愛情と、白人少年への深い信頼を素直に表現する。しかし、HuckはJimの喜びにあふれた言葉を無視し、次のようにしらをきる。"What's the matter with you, Jim? You been a drinking?"(p. 93)と言ったり、"Well, I think you're here, plain enough, but I think you're a tangledheaded old fool Jim."(p. 94)と言ったり、"I hain't seen no fog, nor no island, nor no troubles, nor nothing. I been setting here talking with you all night till you went to sleep about ten minutes ago."(p. 94)などと、別にJimのことが嫌になったとかそういった意図もなくHuckは執拗にJimをだまそうとする。Huckに絶大な信頼を寄せているだけに、Jimも遂に"Well, den, I reck'n I did dream it, Huck."(p. 95)と折れる。Twainが黒人に対して差別意識を持っていたら、このエピソードはHuckが見事、Jimをだますということで終わっていただろう。しかし、HuckはJimの様子から、自分の行為を考え直し、"I didn't do him no more mean tricks, and I wouldn't done that one if I'd a knowed it would make him feel that way."(p. 95)と自分の軽薄な行為に厳しい自責と後悔を感じている。ここではHuckには軽い遊びのようないたずら心が働いていたが、Jimは心からHuckの再会を心から喜んでいた。したがって、JimがHuckにだまされたと知った時、彼が語る怒りの言葉は厳しく、白人Huckを寄せ付けない威厳を感じさせるものであった。JimはHuckがいなくなって胸が張り裂けそうになり、Huckと再会した時はHuckの足にキスをしたいと思ったほどだと言った。だからJimは"Dat truck dah is trash; en trash is what people is dat put dire en de head er dey fren's en makes'en ashamed."(p. 95)と言ってJimを責める。Jimの真摯な抗議にHuckの胸はえぐれれる。純粋で無垢な人間性の前には理性や差別意識と言う習慣は消えている。Huckは当時の白人としては、想像もつかないような言葉を吐く。"It made me feel so mean I could almost kissed his foot to get him to take it back."(p. 95)これまで意識しなかったJimとの心の交流と言うものをHuckはここで改めて深く認識したのである。Huckのいう"I could kissed his foot.'は清純な魂に対するHuckの謙虚な心の姿勢を表現したものであろう。

    HuckとJimがいかだでミシシッピを下っていると、追手からの救助を懇願されて、二人の男をいかだに乗せる。彼らは自分たちをKingとDukeと決めこみ、町の人をだましたり、人の遺産をだましとろうとしたりと非道な悪巧みをはたらく。こんな二人からHuckとJimは愛想をつかして逃げ出す。しかし、ふたたびKingとDukeが追って来て、自分たちの酒代のために、Jimを売り飛ばす計画をする。そうとは知らないHuckは上陸した際、町でKingとDukeをうまく巻いていかだに逃げ帰ったと思い、"Set her loose,Jim; we're all right now!"(p. 220)と叫ぶが返事がない。HuckはJimのことを大声で呼び続け、近くの森を探すがJimは見つからない。HuckはJimという友人を失ったと思い込み、悲しみから"I set down and cried; I couldn't help it."(p. 220)と泣く。そして、Jimが船の番を代わってくれたとか、霧ではぐれて自分が帰ってきたのを喜んでくれたとか、自分に対して親切にしてくれたとか、更に自分を"only friend"(p. 223)として信頼してくれるとか、とらわれているJimの身の上を思う切ないまでのHuckの気持ちは、Jimがこれまでに言葉や行動によって表した愛情表現を思いだし、それを再認識させた。そしてこの後、少しの間考えてからHuckは心の中で次のように言う。"All right, then,I'll go to hell"(p. 223)自分が地獄に落ちてでも、自分の唯一の友人であるJimを助けたいという思いから、Huckはこのような結論に至った。Miss WatsonやWidow Douglasに教えられた社会的なものの考え方も一応できるし、時にはその考えからなかなか抜け出せずにいたが、Jimの愛情を再び思い出し、Huckは自分の良心に従い、神の教えにそむく黒人奴隷のHuckを助ける事に決めたのだ。社会的に見れば"It was awful thoughts, and awful words."(p. 223)であると知りながら、会えて地獄に落ちるといいきった時、一人の人間のかけがえのない生命を守り、白人と黒人という関係を超えた自分が得た尊い友情を守ろうというHuckのめざめがあった。

    その後も二人はさまざまな事に遭遇するが、最終章でJimは自由を手に入れる。Jimの素直で率直で愛情深い人間性にいかだ下りの旅を通して触れつづけたHuckは、Jimに触発され変化していく。そして、社会の掟ではなく自分の自然な気持ちによって物事を判断するようになり、Jimを助けたいと強く思い、それを実現させた。そういったHuckとJimの、白人と黒人奴隷と言う関係を超越した二人の心の交流や変化をみてくると、この作品を書いたMark Twainは差別主義者ではないと結論づけられるであろう。


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