日本語助詞『と』

0.はじめに

本ペーパーでは、『空間と移動の表現』で扱われておらず、尚且つ英語前置詞と幅広く対応しているのではないかと私が感じた日本語助詞の「と」を扱う。

まずは、日本語助詞の「と」の助詞と対応している英語の前置詞表現を見てゆく。尚、引用先の文献を表記していない例文は、自ら作成した例文である。

with

・Come with me. (ジーニアス英和辞典) 私と共に来なさい。
・He had a quarrel with Tom. (ibid.) 私はトムと口論した。
・Compare the translation with the original. (ibid.) 翻訳を原文と比べなさい。
・The tie goes with your jacket. (ibid.) そのネクタイは君の上着とよく似合っている。
・With the switch on RESET, both the timer and the load are disconnected from the power line. (岡地 1989:139)スイッチをRESETにすると、タイマー及び負荷が電力線から切り離される。
・Remember, however, that something is sacrificed with each stretch of a rule.(ibid.)ただしルールを拡大すると何かが犠牲になることを忘れてはならない。

to

・Billy got married to the first girl he went out with. (LDCE) ビリーは、一番始めにデートした女性と結婚した。
・The push button is pressed to start the operation. (岡地 1989:143) 押しボタンを押すと動作が始まる。
・The total came to $50.(ジーニアス英和辞典) 総計は50jとなった。
・The drizzle changed to rain.(ibid.) 霧雨が雨となった。

after

・I go swimming every day after work.(LDCE) 仕事が終わると、毎日水泳に行く。
・After the cutting operations, a slide unit advances.(岡地 1989:134)切削作業が終わると、スライドユニットが進む。
・Saburo really takes after his father.(長島 1988:83) 三郎は、本当に父親と似ている。

as

・I regard Jim as my friend. (ジーニアス英和辞典) 私はジムを、友人と考えている。
・I accepted the report as trustworthy. (ibid.)私はその報告を、信頼できるものと認めた。
・She announced herself to him as his mother. (ジーニアス英和辞典)その人は彼に、母親と名乗った。

by

・By turning the pinion, the relative position of the two halves is changed.(岡地 1989:141)ピニオンを回すと、一次二次両半分の相対位置が変化する。
・The washdown cycle is initiated by excessive flow. (岡地 1989:142)洗浄サイクルは流量が過大になると開始される。

その他の前置詞

・At the end of the timing period, the timer trips. (岡地 1989:140)限時期間が終わると、タイマーが発動する。
・On arriving at the door, he opened it soundlessly. (ジーニアス英和辞典)ドアのところへ着くと、彼は静かにドアを開けた。
・During the drying cycle, the cake shrunk. (岡地 1989:141)乾燥過程に入ると、ケーキが収縮した。
・There is a point beyond which this heat damages the device. (ibid.)或る点を超えると、装置は熱で損傷されてしまいます。
・The sleet changed into snow.(ジーニアス英和辞典)みぞれが雪となった。
・Man is different from animals.(ibid.)人間は動物と違う。
・fight against the enemy (ibid.) 敵と戦う
・struggle against the poverty (ibid.) 貧困と戦う

 以上見てきたように、助詞「と」は、英語の前置詞と非常に幅広く対応している。次に、以上の日本語例文に新たに例文を加え、助詞「と」について今までなされてきた研究を見てゆきたい。



1.助詞「と」についての研究

 本章では、助詞「と」についてどのような意味分析が行われてきたのかをまとめてゆきたい。
「と」がどのような働きを持つかを知る一環として、まずは有名な辞書での助詞の定義を見て、それから「と」に入ってゆきたい。


「助詞」

『広辞苑』では

品詞の一。常に他の語のあとに付いて使われる語のうち、活用しない語。前の語が他の語とどのような関係にあるかを示したり、話し手の心情など一定の意味を添えたり、文を完結したりするなどする働きがある。

とされている。

次に、『新明解国語辞典』では

助動詞と共に日本語の付属語として用いられる、重要な語類。自立語相互の関係をしめしたり文の陳述に関係したりする。活用はしない。

とされている。

 以上のように、助詞は定義されている。語同士の関係を示すと言えそうだが、では「と」がどのような関係を示すのかを知るために、「と」についてどのような意味分析が行われてきたのかをまとめてゆく。
例文は参考文献からの引用と自作のもの、また用法名は自作。


格助詞「と」の分析

1. 動作、作用の相手、共同者

・友達と話す。(松村 1971:538)
・妹は友達のお兄さんと結婚した。(ibid.)
・私は友達と行きます。(長島 1988:83)
・先生と相談する。(森田 1980:328)
・彼はトムと口論した。(ジーニアス英和辞典)


2. 比較の対象をあらわす

・昔と違って、大学は大衆化した。(松村 1971:538)
・高等学校卒業と同等の資格を持つ者。(ibid.)
・彼は父と似ている。
・友達と英語力を比較する。
・これはあれと同じです。


3. 動作、作用、思考、状態の内容・変化結果

・夜半から雨は雪となった。(松村 1971:538)
・無罪と決定。(ibid.)
・彼も賛成すると言った。(ibid.)
・帰ろうとしていた時だった。(ibid.)
・心配事が事実となる。(森田 1980:329)
・教師を天職と考える。(森田 1980:330)
・名を太郎と改めた。


4. 動作、作用の行われ方

・二度、三度と回を重ねるうちに(松村 1971:538)
・山と積まれた乾草 (ibid.)
・ころころと転がる。(ibid.)
・ゆっくりと歩く


補足:「と」と「に」の使い分け 

「友達と/に会う」(森田 1980:539)、「彼は父と/に似ている」(長島 1988:83)、など「と」と「に」が交代可能な例は多い。
しかし「麻衣と/*に結婚する」、「父と/*に喧嘩する」のように交代不可な例も存在する。
この違いは、「と」と「に」の用法の違いによる。「と」を使った場合、「動作の共同者」を表すため、動作の向けられる方向は相互方向である(松村 1971:539)。例えば、「AはBと話している」という場合は動作が相互方向に向けられているため「AとBは話している」とパラフレーズする事が可能になる。

しかし、「に」を使用した場合、その動作は片方からもう片方へ向けられるのみの一方的なものである(松村 1971:539)。結婚、喧嘩という動詞はそれぞれ「動作の共同者」を必要とする性質をもつ動詞であるので、「と」から「に」への交代を行った場合に非文法的となる。

以上のことから、「親と/に相談する」のように「と」と「に」を交代出来る表現であっても、それぞれ発想が異なる。
「と」を使った場合は主語と親の両者で話し合うという相互行為を表す。「に」の場合は、主語が親に対して相談を持ちかける一方的行為を表す。

 他にも「と」と「に」が交代可能な例はある。
「空き部屋を物置と/にする」(森田 1980:330)「先生と/になる」(森田 1980:331)などの動作の結果を表す場合である。
これも、前述のケースと同じように「と」と「に」の用法によって発想が異なる。
「空き部屋を物置とする」の場合、空き部屋の使用法として物置として用いるという事を意味するが、一方、「空き部屋を物置にする」の場合、空き部屋を工事、改造するという意味になる(森田 1980:330)。
「先生となる」のでは何かを教える師の立場に立つだが、「先生になる」は教職に就くという事態を表す(森田 1980:331)。
「に」を使用した場合はA→Bへの変化を表し、「と」を使用した場合はAが変化せずに存続しBと一つになる(A→←B)、と区別できる。

 森田(1980:331)はまた以下のように、動作の結果を表す場合でも「と」と「に」の用法の違いから、両者の交換が不可能な文も存在するとしている。
「氷を水にする」「車をスクラップにする」など変化を表す表現では「と」は使えない。
逆に「禍を転じて福となす」(森田1980:331)の場合、禍は変化せずに続くが、それを活用してかえって幸せになれるようにするという意味なので、禍→←福が一つになるのを表現できる「と」を用いる。



接続助詞「と」の分析

1. ある事態の直前の事態

・ハガキを出すと彼は走って戻ってきた。
・彼が倒れると審判が駆け寄ってきた。
・待ち合わせをしていると偶然旧友に出会った。

2. ある事態が必ず起こるための条件を提示する

・中田がボールを持つと攻撃陣が動き出す。
・夏になると食中毒が増える。
・兄は出掛けると必ず外食してくる。

3. 仮定

・この単語をフランス語に訳すと、どういいますか。
・この本を読むと睡眠不足になるよ。
・左へ行くとトイレだ。
・君が何と言おうと僕は行くよ。
・どんなに劣勢であろうと勝機はある。


補足:「と」と「て」の交替 

森田(1980:397)では「彼は電気を消すと/消して、すぐに目を閉じた」(ibid.)の様に、「と」の用法で「て」と交替可能な例が扱われている。
しかし、「Aが〜するとBが〜する」型の構文(主語が替わる場合)では「て」との交替は不可能になる。

部屋に戻ると/*戻って、電話が鳴り始めた。(森田 1980:397)
走っていると/*走っていて、車が飛び出してきた。


補足:「と」と「ば」 

森田(1980:397)では、条件を表す助詞として「と」の他に「ば」が挙げられる。

「酒を飲むと、顔が赤くなる。」(森田 1980:398)
「酒を飲めば、顔が赤くなる。」(ibid.)

一見すると同じに見える両者だが、内容の流れが異なる。
「酒を飲むと、顔が赤くなる。」の場合、課題(酒を飲むと)→解答(顔が赤くなる)の順に内容が流れている。
「酒を飲めば、顔が赤くなる。」の場合は、この流れが逆になっていて、解答(酒を飲めば)→課題(顔が赤くなる)の順に内容が流れている。
両者を答えとする疑問文を考えると、この事がハッキリする。

疑:「酒を飲むと、どうなるか?」→「酒を飲むと(課題)、どうなるか(解答を求める  疑問)」
解:「酒を飲むと(課題)、顔が赤くなる(疑問に対する解答)」

疑:「どうすれば、顔が赤くなるか?」→「どうすれば(解答を求める疑問)、顔が赤くなるか(課題)」
解:「酒を飲めば(疑問に対する解答)、顔が赤くなる(課題)」

このように、疑問文でもその解答文でも、「と」では課題→解答の順に、「ば」では解答→課題の順に内容が流れるという両者の違いがある。


並立助詞の「と」の分析

1.事物を対等の関係で並立させる

・北朝鮮と韓国との間で話し合いが持たれた。
・勉強とクラブをいかに両立させるか。
・投手と捕手ががっちりと握手した。


補足:「と」と「や」の違い 

松村(1971:540)では並立助詞の「と」と同じように事物の並立には「や」も用いられるとしている。
「肉と/や卵を買う」という文がある。「と」を使った場合、肉と卵以外の事物の存在は認められない。
しかし、「や」の場合は肉と卵以外の事物の存在が、言語化されていなくとも、暗示されていると言える。




2.「と」の操作子機能を求める

本章では、従来までの「と」の分析から脱皮し、『空間と移動の表現』で著者が挙げている助詞の操作子機能の観点から「と」の意味を探ってゆきたい。
前章で扱った分析では、「と」の用法、機能を分析するまでにとどまっているが、本章では格助詞、接続助詞、並立助詞それぞれの「と」の操作子機能とそれらを簡潔化した操作子機能を、今まで挙げた例文の中から定義してゆきたい。


格助詞「と」の操作子機能

1.動作、作用の相手、共同者を表わす「と」

・友達と話す。(松村 1971:538)
・彼はトムと口論した。(ジーニアス英和辞典)


「と」は、動作を含むイベントにおける動作主チャンク(言語化されている場合もそうでない場合も)と、
イベントに必要な共同者チャンクとを結ぶ。



2.比較の対象をあらわす「と」

・彼は父と似ている。
・昔と違って、大学は大衆化した。(松村 1971:538)


「と」は、動作を含むイベントにおける動作主チャンク(言語化されている場合もそうでない場合も)と、
イベントに必要な比較対象チャンクとを結ぶ。


ここで、動作、作用の相手、共同者や比較の対象をあらわす「と」の操作子機能を定義しておく。


格助詞「と」の操作子機能.1
「と」は、イベントの明示的/非明示的な動作主を表わすチャンクと、イベントに必要なチャンクとを結ぶ。


3.動作、作用、思考、状態の内容・変化結果

・心配事が事実となる。(森田 1980:329)
・教師を天職と考える。(森田 1980:330)
・彼も賛成すると言った。(松村 1971:538)
・ころころと転がる。(松村 1971:538)

 動作や作用等の内容・変化結果を分析する為に、森田(1980:329)の「合一化」という用語を借用したい。
 森田は「「と」によって結び付けられる事物・人・行為などは、異なるものとして存在しながら、それぞれが「と」によって合一の立場にまとめられる」と述べている(尚、『広辞苑』では合一の定義は「一つに合わせること」)。
私は合一化を「同じ性質を持つグループ(カテゴリー)にあると仮定する」と定義して以下の例文を見ていきたい。

「心配が事実となる」では、心配と事実が合一化されている。
事実と異なって、心配とは現実に起こった事ではなくあくまで思うだけの仮想現実なので、心配と事実は同じ性質を持っては(同じカテゴリーに入っては)いない。
しかし助詞「と」によって、これら二つが同じ性質を持つと仮定する合一化が行われる。ここでは思考の変化結果(心配→事実)があらわされている。

「教師を天職と考える」では、合一化されているのは教師と天職である。
教師というのは具体的な職であるが、天職というのは具体的な職ではなくその人に最も適した職を意味するので両者は同じ性質をもつとは言えない。
しかし「と」による合一化で、教師=適した職という、思考の内容が示されている

「彼も賛成すると言った」では「彼も賛成する」という出来事と、動詞「言った」の内容が合一化されている。
「彼も賛成する」というのは実際に起こった事実だが、「言った」の内容は必ずしも、事実とは限らないので同じ性質を持つとは言えないが、「と」によって同じ性質を持ったと考える事が出来る。ここでは動作の内容(言った→彼も賛成する)があらわされている。

「ころころと転がる」の場合、ころころと転がるが合一化されている。
ころころというのは状態、転がるは動詞で動きを表わすので、両者の性質は異なる。
しかし、「と」によって同じ性質をもつと考えることで、転がる=ころころという合一化が成立、動作の内容(転がる様子がころころしている)が表わされる。


以上の分析から、動作、作用、思考、状態の内容・変化結果をあらわす「と」の操作子機能を求めたい。


格助詞「と」の操作子機能.2
「と」は動作、作用、思考、状態を含んだイベントを表わすイベントチャンクと、イベントの内容・変化を含む上位カテゴリー、イベント変化(状態=ゼロ変化とする)を表わすイベント変化チャンクを合一化することで結ぶ。


ここで、「と」の操作子機能.1と.2を簡略化して、格助詞「と」の操作子機能を定義する。


格助詞「と」の操作子機能
「と」は、イベント関連チャンクと、そのイベント記述に必要なチャンクとを結ぶ。


接続助詞「と」の操作子機能

・ハガキを出すと彼は走って戻ってきた。
・彼が倒れると審判が駆け寄ってきた。

・夏になると食中毒が増える。
・兄は出掛けると必ず外食してくる。

・この本を読むと睡眠不足になるよ。
・左へ行くとトイレだ。
・君が何と言おうと僕は行くよ。
・どんなに劣勢であろうと勝機はある。

例文群における「と」は上から、イベントとイベントを結ぶ、条件を表わす、仮定をする、とそれぞれ意味的には異なっているが、イベントを呼び込むチャンクとイベントを結んでいると言える。
ここから判断して、接続助詞「と」の操作子機能を定義したい。

接続助詞「と」の操作子機能
「と」は、イベント誘因チャンクとそれに続くイベントとを結ぶ。



並立助詞「と」の操作子機能

・北朝鮮と韓国との間で話し合いが持たれた。
・投手と捕手ががっちりと握手した。

それぞれ、同一カテゴリー(国、野球選手)にある事物を結び付けている。
ここから、並立助詞「と」の操作子機能を導ける。

並立助詞「と」の操作子機能
「と」は、同一カテゴリーにあるチャンク.1とチャンク.2とを結ぶ。



助詞「と」の操作子機能

今まで、格助詞、接続助詞、並立助詞といった三種類の「と」の操作子機能を定義してきた。最後にこれらを統合し、助詞「と」に固有の操作子機能を定義しておこうと思う。

 まず、イベントと関係のある格助詞・接続助詞「と」の操作子機能を統合したい。

格助詞「と」の操作子機能
「と」は、イベント関連チャンクと、そのイベント記述に必要なチャンクとを結ぶ。

接続助詞「と」の操作子機能
「と」は、イベント誘因チャンクと、それに続くイベントとを結ぶ。


それぞれの操作子機能の前半部分、格助詞との「イベント関連チャンク」と接続助詞との「イベント誘因チャンク」とをイベントチャンクと呼ぶ事にする。

格助詞・接続助詞の「と」の操作子機能.1
「と」は、イベントチャンクと、Xとを結ぶ。

Xの部分を求める為に、まずは格助詞との操作子機能の後半部分「イベント記述に必要なチャンク」を考えたいが、森田(1980:329)の「合一化」という概念をもう一度借用する。

格助詞「と」の例文で先程は合一化で説明しなかった、共同者を表わす「彼はトムと口論した」と比較対象を表わす「彼は父と似ている」を、格助詞「と」の操作子機能を統合するため更には格助詞と接続助詞の操作子機能を統合するために、「合一化」の概念で説明する(格助詞の「と」のその他の例文は既に合一化で説明済み)。

共同者を表わす例文の場合、「トム」がイベントチャンク「彼」と合一化される、つまり同じカテゴリーにあると考える。
口論という相互動作の動作者というカテゴリーに入れられる。

比較対象を表わす例文の場合、父が別個の存在であるイベントチャンク「彼」と合一化されて、比較という作業の作業者という同一カテゴリーに入れる。


「合一化」の概念で格助詞「と」の操作子機能を考え直すと次のようになる。

格助詞「と」の操作子機能(合一化)
「と」は、イベントチャンクと、そのイベント記述に必要なチャンク(イベントチャンクと同一カテゴリーに所属する/すると仮定される)とを結ぶ。


Xの部分の続きで、接続助詞「と」の操作子の後半部分「(イベント誘因チャンクに)続くイベント」を合一化で考える。
「(ハガキを出す)彼は走って戻ってきた」「(夏になる)食中毒が増える」「(この本を読む)睡眠不足になる」は、例文のそれぞれ後半部分が(イベント誘因チャンクに)続くイベントで、前半部分は事態、条件、仮定にそれぞれなっている。
しかし、事態・条件・仮定と用法は異なるが、条件でも仮定でも条件・仮定を表わすイベントと考えられる。
その条件・仮定を表わすイベント(前半部分)からそれに続くイベント(後半部分)という流れであると考えれば、「と」は厳密に言えば異なるイベント同士を同一カテゴリーにあるイベントであると仮定して(合一化して)結ぶと考えられる。


「合一化」の概念で接続助詞「と」の操作子機能を考え直すと次のようになる。

接続助詞「と」の操作子機能(合一化)
「と」は、イベントチャンクと、それに続く同一カテゴリーにある/あるとされるイベントとを結ぶ。


以上、「合一化」で考え直した格助詞・接続助詞「と」の操作子機能を統合すると次のようになる。

格助詞と接続助詞「と」の操作子機能.2
イベントチャンク.1と、同一カテゴリーに所属する/すると仮定されイベントチャンク.1に要求されるイベントチャンク.2とを結ぶ。


上の、格助詞と接続助詞の操作子機能を統合したものを並立助詞の操作子機能と統合させて、助詞との操作子機能を求める。

並立助詞「と」の操作子機能
「と」は同一カテゴリーにあるチャンク.1とチャンク.2とを結ぶ。

これら二つの操作子機能を統合して助詞「と」の操作子機能を定義する。

助詞「と」の操作子機能
同一カテゴリーに所属する/すると仮定された、名詞を含むイベントチャンク.1と名詞を含むイベントチャンク.2を結ぶ。



助詞「と」の操作子機能について

助詞「と」に関して、操作子機能は私が今まで考えてきたものが存在すると私は考えるが、他にも助詞「と」は空間辞化できるか、また操作子機能の他に固有の意味をもつかを考えたい。


まず、「と」が空間辞化出来るかどうかを、田中・松本(1997:24)と同じ方法で調べる。
そこには、空間辞判定テストとして次の例文が出ている。

「山の中に洞窟がある」
「山の中で遊ぶ」
「山の中から出てくる」
「山の中まで進む」
「山の中へ入っていく」
「山の中を捜索する」

「に」「で」「から」「まで」「へ」「を」は、これらの文が非文法的でないので空間辞として認定されている。同じ事を「と」で行ってみる。

*「山の中と洞窟がある」
*「山の中と遊ぶ」
*「山の中と出てくる」
*「山の中と進む」
*「山の中と入っていく」
*「山の中と捜索する」

これだけの種類の動詞と組み合わせたにも拘わらず、全て我々の日常生活では使われないため非文である。
よって、助詞「と」は、空間辞であるとは言えない。


次に、「と」が固有の意味を持つかを、私が考えた方法で検証する。
田中・松本(1997:62)では、「から」「へ」「まで」がそれぞれ具体的な意味「出所」「方向」「限界点」をもつとしている。
例えば、次のような例文があったとする。

「千葉県から」
「千葉県へ」
「千葉県まで」

これら三つの文は名詞+助詞という、非常に短いものだが、「千葉県を出所とする」「千葉県の方向」「千葉県が限界点」と意味を容易に取ることが可能である。
また、会話の中で三つの例文を使った場合でも十分な情報を相手に伝えることが可能で、聞き手が他の情報を想像する必要がないので、短いながらも一つの情報ユニットとして機能している。
これらは、各助詞が具体的な意味を持っているという証拠であると私は考える。
今と同じ事を「と」で行ってみる。

「千葉県と」

これを聞いた場合、おそらく普通では聞き手は千葉県以外の何かを無意識の内に想像すると思う。
「千葉県と何?」という疑問文が返ってくる事が十分に予想される。
つまり「と」の場合、千葉県だけでは十分な情報を相手に伝達できないのである。
具体的な意味を助詞が持たないから、聞き手はその助詞の後に情報を求めるのだと考えられる。もちろん、情報が不足しているから意味も判別できない。

また、「千葉県と」と聞いた後に他に何かを想像すると思うが、このことは、先程私が定義した助詞「と」の操作子機能「同一カテゴリーに所属する/すると仮定された、名詞を含むイベントチャンク.1と名詞を含むイベントチャンク.2を結ぶ」が、我々が意識しない内に頭の中で発動している証拠だと言える。
「名詞を含むイベントチャンク.1」と助詞の「と」が出てきた時点で「名詞を含むイベントチャンク.2」の構成、意味付けが始まるのである。

本章では、助詞「と」を空間辞化、具体的意味という観点から見てきた。
ここでの結論は、「と」は「に」「で」「から」等と異なり空間辞化する事が出来ない、また助詞「と」自体は具体的意味を持っていないという事である。


3.参考文献

岡地宋 1989 『助詞助動詞から引く辞典 和英てにをは発想辞典』 アイピーシー
金田一京助 1994 『新明解国語辞典 第四版』 三省堂
草薙裕 1991 『日本語はおもしろい』 講談社
田中茂範・深谷昌弘 1998 『<意味づけ論>の展開』 紀伊国屋書店
田中茂範・松本曜 1997 『空間と移動の表現』 研究社
寺村秀夫 1991 『日本語のシンタクスと意味V』 くろしお出版
長島達也 1988 『日本語文法ハンドブック』 パナリンガ出版
松村明(編) 1971 『日本文法大辞典』 明治書院
森田良行 1980 『基礎日本語2』 角川書店
---1984 『基礎日本語3』 角川書店
---1990 『日本語学と日本語教育』 凡人社
山中桂一 1998『日本語のかたち 対照言語学からのアプローチ』 東京大学出版会
電子辞書版『広辞苑』岩波書店、『ジーニアス英和・和英辞典』大修館書店
LONGMAN (1995): "LONGMAN DICTIONARY OF CONTEMPORARY ENGLISH" LONGMAN

 
 
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