訓読の意味〜古典中国語文の「翻訳」

浅山佳郎

獨協大学国際教養学部言語文化学科

　私の報告は，「翻訳」というすぐれて対西洋的な問題について，「漢文」というやや異質な視点をもちこむことを目的とします。「漢文」は，紀元前８世ころから紀元後３世紀ころまでに成立する古典中国語のことです。当時の多様な中華世界の共通書面語という性格をもって成立します。日本文化は，その古典中国語文を「訓読」という方法によって読解していたのですが，それが実は翻訳の問題であると指摘するのが荻生徂徠です。徂徠は「訓読」を否定し，「訳」を提唱しますが，その根拠は「人情世態」というレベルにおける人間の普遍性です。徂徠にとっては，問題が人間の存在様態と意義であるので，普遍性の措定によって言語の問題が解消するのですが，では，古典中国語が潜在的に提出していた言語文化の非ローカル性の問題はどうなるのでしょうか。徂徠によって否定された「訓読」再考することで，その問題の一端をみてみたいとおもいます。

参考文献　中村春作ほか編『訓読論‐東アジア漢文世界と日本語』（2008年　勉誠出版）

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