文化の翻訳と「物語」の問題

若森栄樹

獨協大学外国語学部フランス語学科

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

　様々な文化が世界には存在しますが、文化は互いに接触し、交流することで形成されます。そうした交流は、しばしば「文化の翻訳」という形であらわれます。ここで「翻訳」というのは他国語の自国語への翻訳ということだけでなく、外国のアイディアを自己流にアレンジすることなどを含む広い意味での転用や借用も指しています。ところで文化、少なくともナショナルな次元での「文化」はしばしば、「建国伝説」あるいは建国の理念といった形で、その起源を説明する「物語」を持っています。自己の文化の固有性を事後的に保証し、完結した構造として機能させるためです。しかしその「物語」も実は翻訳と切り離すことはできません。この発表で私は、日本文化が必要としてきた「物語」がどのような意味で「翻訳」なのか、どのような構造をもつのかを考えてみたいと思っています。

　参考文献：　吉田松陰の一君万民論、ジャック・ラカン「３つの論理的時間le temps logique」（『エクリ』所収）、拙論「天皇制の支配構造」（岩波現代社会学講座６）など。

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