Seminar Paper 99
YUKI MORI
First Created on January 9, 2001
Last revised on January 9, 2001
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「The Great GatsbyとAmerican Dream」
Gatsbyの夢とその崩壊
「
The Great Gatsby
とAmerican Dream」:Gatsbyの夢とその崩壊
FitzgeraldのThe Great Gatsby は、American Dreamとその崩壊を描いた作品である。この作品で、主なテーマとなっているAmerican Dreamが本来意味することは、アメリカが、ヨーロッパの様に、伝統的社会のような固定した身分、階級制度を持たず、広大な土地や豊かな資源を持っていたため、富を得る条件を備えていた。このことから、アメリカという民主主義国では、どんな人でもチャンスと才能と努力さえあれば、一攫千金をものにすることができることもあるということである。Gatsbyも、努力をすれば、金持ちになり、Daisyを自分のものにする事ができると信じ、その夢を追い、その夢の実現にむけて生涯をかけた。しかし、その夢は実現されず、悲劇的に終わってしまった。なぜ、Gatsbyの実現しようとしたAmerican Dreamは悲劇的な結末をむかえてしまったのか。 The Great Gatsbyの主人公であるGatsbyと、Fitzgeraldには、相似点が多くある。Gatsbyは、甲斐性の無い敗残の百姓の息子であり、金持ちになることを夢見てきた。Fitzgeraldの家も貧しく、金持ちの子供の学校で一番貧乏な少年であった。また、彼も幼少の頃から、「夢」を持つことを好んでいた。また、彼らは、恋愛においても、同じ様な困難を乗り越えていた。それは、自分自身と好きになった女の身分の差である。その経験から、Fitzgeraldは、この作品において、「金の無い男は、金のある娘と結婚することができないという世の中の不公平さ」というものを訴えている。無一文のGatsbyは、良家の娘であるDaisyの漂わす、富とロマンティックな状況や雰囲気の魅力に惚れてしまった。しかし、無一文の自分とDaisyがつりあわないと解っていたGatsbyは、金持ちの家庭も娘であるDaisyを得るために、軍服を隠れ蓑とし、自分を偽り、Daisyの家に踏み入った。 he let her believe that he was a person from much the same strata as herself―that he was fully able to take care of her. As a matter of fact he had no such facilities―he had no comfortable family standing behind him and he was liable at the whim of an impersonal government to be blown anywhere about the world.(p.156) このようにGatsbyは、自分を偽り、Daisyを獲得したが、大戦後、Daisyは、Gatsbyの帰還を待てず、Tomの堂々とした容姿や地位に虚栄心をくすぐられ、結婚してしまったのである。Fitzgeraldもまた、アラバマ・ジョージア二州にわたって並ぶ者なき美女であるZeldaと結婚する際、同じ様な経験をしている。1919年に、Fitzgeraldは、入隊していた陸軍から除隊になり、ニュー・ヨークに来て、Zeldaと結婚するために金を儲けようと、「スマート・セット」に短編を売り、30ドルの金を得たが、それだけでは、金持ちになれないと、Zeldaは、彼との結婚に応じてくれなかった。そして、処女作のヒットにより、やっと結婚にたどり着いたのである。つまり、この作品でいう、American Dreamとは、富と名声と美女が、未分化なまま抱き合わせになっている、男性中心的な整理構造を持つものである。 Gatsbyは、DaisyがTom Buchananと結婚してからも、Daisyの事があきらめ切れなかった。努力をすれば、一攫千金を必ずものにすることができ、そうすれば、かつて貧しいが故に結ばれることのできなかったDaisyを自分のものにすることができると信じていたのである。Daisyを手に入れるという目的だけのために、彼は、裏の世界に入り、巨大な富を築きあげ、Daisyの邸宅の狭い海峡を隔てたすぐ向こう側の家を買った。そして、夜になると恋に焦がれて一人で対岸の灯火を眺めていた。また、Daisyがひょっこり姿を現すことを期待し、毎晩のように気違いじみた豪壮なパーティーを開催していた。しかし、Daisyは来なかった。そこで、Gatsbyは、色々な人にDaisyを知らないかと尋ね、Daisyと親しかったJordan Bakerを見つけ、Daisyとの再会の場をつくるように頼んだ。そして、GatsbyはDaisyを自分の家に招くことができた。そのときの様子をNickは次のように語っている。He hadn't once ceased looking at Daisy and I think he revalued everything in his house according to the measure of response it drew from her well-loved eyes.(p.96-97) 彼は、この日のために自分の邸宅を建て、その中を美しい物で埋め尽くしたのである。Daisy's face was smeared with tears (p.94)や、Suddenly with a strained sound Daisy bent her head into the shirts and began to cry stormily.(p.98)この文からは、浮気をしている旦那のTomに対し、自分のためだけに努力を重ね、富を得て、すばらしい邸宅を自分の家の近くに建ててくれたGatsbyの思いや、その心遣いに感動し、Gatsbyに心を奪われているDaisyの女心が覗える。この再会により、GatsbyとDaisyは再び恋に落ちた。この時は、Gatsbyの愛は報われたかのように見えた。しかし、彼の幸福も長くは続かなかった。Nickは自分がDaisyとGatsbyを二人にし、Gatsby邸を去る時に見たGatsbyの表情を次のように表している。 As I went over to say goodbye I saw that the expression of bewilderment had come back into Gatsby's face, as though a faint doubt had occurred to him as to the quality of his present happiness.(p.101) これは、Gatsbyが、自分の思い描いた夢通りには、物事は進まないということを少し察したことが覗える。つまり、Daisyが彼の期待を裏切ったのである。 また、一人で遊びまわっているDaisyを快く思っていないTomは、次の夜のダンスパーティーにDaisyと共にやってきた。その時も、Gatsbyは、Daisyに裏切られたのである。彼は、DaisyがTomの所に行って、愛していないということを伝え、5年前に戻り、自分と結婚することを期待していたのである。しかし、現実的であるNickは、ダンスパーティーの後、Gatsbyに忠告をしている。“I wouldn't ask too much of her,”I ventured.“You can't repeat the past.”(p.116)Nickは、過去をくり返すことができないと言うことをこの時から知っていたのである。それに対し、まだGatsbyは、“Can't repeat the past?”he cried incredulously.“Why of course you can!”(p.116)とNickの忠告を否定した。この文からは、Gatsbyが、Daisyに裏切られていることを気づきながらも、必ず自分の夢は努力をすれば報われると信じていることがわかる。つまり、彼は、5年前に必ず戻れると思っていたのである。 次にGatsbyがDaisyに裏切られた時は、NickとGatsbyがBuchanan邸に行った時であった。その時、Gatsbyは、TomとDaisyとの間にできた子供Pammyに会ってしまった。彼には、TomとDaisyの間に子供がいるなんて思ってもいなかった。彼は、DaisyはTomの事を愛していないと信じていたのである。Gatsbyは、Daisyに、“It doesn't matter any more. Just tell him the truth―that you never loved him―and it's all wiped out forever.”(p.139)この台詞は、DaisyにGatsbyが過去を消し去れる事を伝えている。つまり、Tomとの結婚を取り消し、五年前に戻り、また二人一緒になれると言っているのである。彼は、Tomに対し、次のように言っている。“She only married you because I was poor and she was tired of waiting for me."(p.137)この台詞には、自分の女を金持ちの男に奪われてしまった貧しい人の怨念がつまっている。 主人公のAmerican Dreamが、開拓期の単純で壮烈な威力を持つものに対し、その対象であるDaisyの人格は、時代に病んだものであった。彼女は、甘やかされて育てられたため、責任感に欠けていた。彼女は、Gatsbyに、Tomの事を愛していないという事を伝えるように言われたときに、“Oh, you want too much!”“I love you now―isn't that enough? I can't help what's past.”“I did love him once―but I loved you too.”(p. 139-140)このようにDaisyは責任感がなく、TomかGatsbyどっちを選ぶかという決定を下すことができなかったのである。しかし、Gatsbyは強引にDaisyにTomのもとを去ると言わせた。しかし、Tomにはアメリカの資産を独占しているとだけあって自信があった。彼は、Gatsbyのしてきた悪い事をすべてDaisyに伝え、非難した。Gatsbyを非難することによってDaisyに自分は本当の富を持つ男であり、Gatsbyは、そうでないということをDaisyに説得しているようであった。 非難されたGatsbyは、懸命に自己弁護した。しかし、彼が話せば話すほど、Daisyは内へと引きこもっていくばかりだったので、Gatsbyもついには断念してしまった。ここで、Gatsbyの夢は死滅したも同然であった。しかしGatsbyは、その絶望を知らずにDaisyのために、苦悩を続けるばかりであった。Gatsbyは、Daisyが自分の車でMyrtle Wilsonをひき殺してしまった時も自分が罪をかぶり、車を自分の家のガレージに隠し、Daisyをかばった。Mr. Wilsonは、Gatsbyが自分の妻と不倫し、その上ひき殺したと勘違いし、Gatsbyを殺してしまった。Daisyが自分の罪を認める事は無かった。TomとDaisyは、Gatsbyが殺されたとき、手荷物をもち、行き先も告げずにどこかに消えてしまった。TomとDaisyのことをNickは、次のように語っている。 They were careless people, Tom and Daisy―they smashed up things and creatures and then retreated back into their money or their vast carelessness or whatever it was that kept them together, and let other people clean up the mess they had made…(p. 187-188) TomはMyrtleと浮気をしてMr. Wilsonを苦しめ、DaisyはMyrtleをひき殺し、その責任もとらずすべてをGatsbyに押し付けた。結局彼らは、Wilson夫妻とGatsbyの人生をめちゃくちゃにしてしまったのである。それにも関わらず、自分たちはその後何も無かったように暮らしていた。 結局GatsbyはAmerican Dreamに過剰に取り憑かれてしまい、破滅してしまったのである。Gatsbyの達成しようとしたAmerican Dreamの問題点は、彼の想像力が生み出す幻想にあると思う。つまり、彼の幻想は極めて現実から離れていたのである。彼は、絶対的な距離が相手を絶対的な幻想の対象としたに過ぎないことを知らなかった。彼は、現実を踏まえて夢を築くのではなく、現実や事実を夢の上に載せてしまい、「現実を非現実化し、世界を妖精の世界としてしまった。」(武藤修二、『一九二〇年代アメリカ文学:漂流の軌跡』(研究社1993)p.13)結局どんなに努力しても、現実をしっかりと受け止めていない過去に戻り、Daisyをまた自分のものにするというGatsbyの夢は達成されなかったのである。 |
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