Seminar Paper 2000

Ikumi Nagatake

First Created on January 9, 2001
Last revised on January 9, 2001

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The Great GatsbyとAmerican Dream」
夢を夢見たGatsby

1920年代という第一次世界大戦後のアメリカは、空前の繁栄をみせていた。このThe Great Gatsbyは、出世欲と挫折感、夢と現実、上流社会の非情さ、この時代のアメリカの夢、可能性、切望、そしてその崩壊を描いた作品である。そして、西部からでてきて、ロングアイランドの社会的ステータスとしてはイースト・エッグに劣るウエスト・エッグの豪邸に暮らすJay Gatsbyがこの作品の主人公であり、Gatsbyも夢を求め続けたうちの一人である。Gatsbyは貧しさゆえに失った恋人Daisy を取り戻すために努力に努力をかさね、ついに毎晩Gatsbyの豪邸でパーティーを催すほどのお金持ちになった。挫折感をばねにして這い上がってきた男Gatsbyは、ひとつの「夢」の実現に向けて突き進んできた。ここでいうGatsbyの「夢」とは、失った恋人Daisy Buchananとの愛を取り戻すことであり、1917年秋のある晩、GatsbyがDaisyにキスをした瞬間、彼の夢はDaisyの姿に具体化されることになる。"Then he kissed her. At his lips' touch she blossomed for him like a flower and the incarnation was complete." (p. 117)

ここで、このThe Great GatsbyにみられるAmerican Dreamのモチーフについて少しずつ述べていきたいと思う。小説全体を通してみられるAmerican Dreamのモチーフとは、1920年代という時代のアメリカの夢とその崩壊、作者であるフィッツジェラルドの考えが中心になっている。そして、この作者の考えはGatsbyのAmerican Dreamに大きな影響を与えていると思える。富を得ることによって成功をおさめるということが、フィッツジェラルドのいう作品全体をとおしてみられるAmerican Dreamである。そしてこのフィッツジェラルドの考えをモチーフにし、Gatsbyには二つのAmerican Dreamがあげられる。その二つのAmerican Dreamとは、上にも述べたように、富を得るということと、昔の恋人であるDaisyとの愛を取り戻すということである。

Gatsbyはこの二つのAmerican Dreamを叶えるために、様々な努力、つまり富を得るために裏の仕事をしてきたことがわかる。GatsbyはDaisyを取り戻すためにはまず富を得なければならないと考えた。なぜならDaisyは上流階級の娘であり、Gatsbyとは住む世界が違ったからである。Gatsbyは法の網をすり抜けながら財を成し、最終的にはロングアイランドに豪邸を構えるまでの成功を納めたが、上り詰めていく詳しい過程やこの過程における幾多の苦難の足跡といったものはここではあまり語られていなかった。自由の国アメリカにおける多くのサクセスストーリーがそうであるように、持ち前の能力と人並み外れた努力で、与えられたチャンスを確実にものにした結果であり、Gatsbyの成功もそんなひとつだったのかもしれない。しかし、Gatsbyの悲報を知ってシカゴからやってきた彼の父親の登場により、Gatsbyの不遇であった生い立ちが明らかになってくるのだが、華麗な顔を持っていたGatsbyの過去には「栄光」という名の「夢」を追い続けた貧しいアメリカ青年の「想い」といったものを感じることができる。

このように経済的には裕福になったGatsbyではあるが、彼の心には満たされないものがあった。彼の空虚感は、第一章の終わりの彼の奇妙な仕草によって形を与えられた。

I decided to call to him. Miss Baker had mentioned him at dinner, and that  would do for an introduction. But I didn't call to him for he gave a sudden intimation that he was content to be alone――he stretched out his arms toward the dark water in a curious way, and far as I was from him I could have sworn he was trembling. (p. 25)

この空虚感こそが、Gatsbyのもう一つのAmerican Dreamである貧しさゆえに失った昔の恋人Daisyをを取り戻すことであった。Gatsbyの想いが、作品の展開につれ、青春時代の恋人であるDaisyに向けられていることがわかる。しかしそのDaisyは、Gatsbyが軍役に服している間に、お金持ちのTomと結婚してしまった。あの時十分にお金があれば、Daisyと結婚できたのではないか、という思いがGatsbyの成り上がりへの原動力となったのである。これをばねにして、Gatsbyは自分の夢を現実のものにしようとしていた。このようなGatsbyの姿が作品の多くの箇所でみられる。"He wanted nothing less of Daisy than that she should go to Tom and say: "I never loved you." (p. 116) ここでGatsbyは、Daisyに「一度もTomを愛したことはなかった」とTom本人に対して言わせようとしているが、GatsbyはDaisyにこのように言わせることによって、自分が思い描いていた夢を現実のものにしようとしていた。また、この他にもGatsbyのDaisyに対する思いが様々なかたちで描かれている。例えば、GatsbyはDaisyがおこした車の事故を自分がやったかのようにして、ひたすら最後までDaisyのことをかばっていた。これもGatsbyのDaisyへの思いが強かったゆえにできたことであると思う。しかし、"Oh, you want too much!" (p. 139)とDaisyがGatsbyに対して言っているように、GatsbyはDaisyに何もかもを求めていたことがわかるとともに、Daisy自身も少女の頃のような誠実な心は失ってしまっていたのである。そして、GatsbyのDaisyとの愛を取り戻すという夢は少しずつ崩れていったのである。

Gatsbyが実現しようとしたAmerican Dreamが叶わなかったことにはいくつかの問題点があった。その問題点とは、Gatsbyは過去を繰り返すことができると思っていたこと、富を得れば、そのお金でDaisyの愛をも取り戻すことができると思っていたこと、空想すれば現実になると思っていたこと、などがあげられると思う。ここからは各問題点について述べていきたいと思う。

6章でGatsbyは夜中、未来を夢見て空想にひたっている。

Each night he added to the pattern of his fancies until drowsiness closed down upon some vivid scene with an oblivious embrace. For a while these reveries provided an outlet for his imagination; they were a satisfactory hint of the unreality of reality, a promise that the rock of the world was founded securely on a fairy's wing. (p. 105)

Gatsbyはあまりにも強く理想を思い描いている。したがって、しだいにGatsbyの夢のほうが現実感を帯び、現実と非現実が反転してくるといえる。そしてこの反転が、"the rock of the world was founded securely on a fairy's wing. "(p. 105)という比喩を用いて表現されている。

次の問題点は、富を得れば、GatsbyはDaisyとの愛を取り戻すとことができると思っていたことであり、テキストのPrefaceにおいても次のように書かれている。

Gatsby, who makes his fortune in ways never envisioned by Benjamin Franklin, does not understand how money works in society. He innocently expects that he can buy anything――especially Daisy. She is for sale, but he doesn't have the right currency."(Matthew J. Bruccoli. Preface. p. xi)

このように、Gatsbyは社会でお金がどのように働いているかということを知らなかった。彼は無邪気にお金があれば、Daisyも手に入ると思っていたのである。しかしDaisyの愛をお金で買うことはできず、結局Gatsbyの思いは最後まで届かなかったのである。

最後の問題点は、Gatsbyが今は過去となってしまったDaisyと共に過ごした楽しい日々を繰り返せると思っていたことである。そこでGatsbyは次のように述べている。

"And she doesn't understand," he said despairingly. "She used to be able to understand. We'd sit for hours――"
He broke off and began to walk up and down a desolate path of fruit rinds and discarded favors and crushed flowers.
"I wouldn't ask too much of her," I ventured. "You can't repeat the past."
"Can't repeat the past?" he cried incredulously. "Why of course you can!" (p. 116)

この引用文はGatsbyがようやくDaisyとの再会を果たして求婚した後、彼女の態度をNickに語る場面である。Gatsbyは、「過去は繰り返すことができる」と言っている。Nickは"the green light at the end of Daisy's dock."(p. 189)を、かつてオランダの船乗りたちの眼に花のように映った"a fresh, green breast of the new world." (p.189)と結びつけながら、"Gatsby believed in the green light, the orgastic future that year by year recedes before us."(p.189)と作品の結末において説明している。アメリカに渡った多くの人達を魅了した"a fresh, green breast of the new world." (p.189)を手に入れるというアメリカの夢。それは歴史的に見れば1890年の未開の地の消滅とともに、すでに過去のものとなってしまっている。そうしたことから、Daisyとの愛をとり戻そうとしたが、悲劇的な結末を迎えるGatsbyは、かつてのアメリカの夢の運命と同じ道をたどっているといえる。つまり、このことをモチーフにしているとも言えるだろう。

結局そこから、Gatsbyが生涯をかけた恋とはGatsby自身の幻影でしかなかったという、作品の主題ともいえる1920年代という時代そのものが浮かびあがってきているといえる。「過去」をとり戻そうとするJay Gatsbyは、時間という絶対的な権威を敵に回して「失った愛」を勝ちとろうとした。しかし、それはあまりにも感傷的で理不尽な「夢」へのこだわりでしかなく、結果的には現実という巨大な力に押しつぶされてしまうことになったのである。


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