Seminar Paper 01

Tomo Nannichi

First Created on January 9, 2001
Last revised on January 9, 2001

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The Great Gatsbyの女性たち」
Fitzgeraldの鏡

 The Great GatsbyはGatsbyという特異な人間の持つAmerican Dreamを叶えようとする姿を、Nickという第三者から見つめる物語である。情熱的、あるいは非常識な執着をもって、Gatsbyはかつての思い人Daisyを取り戻そうと試みる様は一種感動的であり、醜悪でもある。
しかしこの物語の中で、もちろんGatsbyは際立った人物として描かれているが、その周囲で人間関係を形成する人々もまた、普通でありながら、どこか異常あるいは背徳的な面を有している。
Gatsbyの思い人であるDaisyから、まずあたってみよう。
彼女は特権階級の娘であり、人に良い印象を与える話し方をする女性である。
どこか子供っぽく、あるいは何も知らない馬鹿のようなふりをして、相手にうまく甘えられる。
たいてい、甘えられた相手は、彼女のような無邪気で魅力的な人間に頼りにされる事を好ましく思うのである。
しかし裏を返せばそれは、Daisyは非常に依存心の強い人間である事を示している。
彼女は18の時、Jay Gatsbyと出会い、相思相愛となる。しかし、戦争で離ればなれになってしまった時、彼女は何らかの安定を求め、Tomと婚約する。

All the time something within her was crying for a decision. She wanted her life shaped now, immediately - and the decision must be made by some force - of love, of money, of unquestionable practicality - that was close at hand.(p.159)
 愛情にしろ財産にしろ、何であれ、Daisyは、彼女を安心させてくれるものを強く求めたのである。
彼女は結婚式でGatsbyからのものとおぼしき手紙を受け取り、激しく動揺して "Tell 'em all Daisy's change' her mine. Say 'Daisy's change' her mine!'"(p. 81) と、結婚式を取り止めるように叫んでいる。
しかし結婚した後、Daisyは人が変わったかのようにTomを愛する(のように見える)よう振る舞う。
これはGatsbyの事を忘れたというわけではなく、Tomを精神的安定の柱としたのである。
その為、TomがMyrtleと(あるいは、今までも何人とも)浮気をしている事が分かった後でも彼女は取り立てて騒ぎ立てない。
それは、子供も財産もある「家族」という安定した暮らしを壊すことを恐れたゆえなのだろう。
また、Gatsbyとの付き合いが彼女にとって現実味を帯びていないのは、ぎりぎりで保たれている家庭の安定、もしくは退屈に、新しい遊びを取り入れたような感覚でいるためである。
彼女にとってGatsbyは「過去の美しい思い出」であり、決して今の家庭を投げ捨てでも得たい恋人ではない。
後にMyrtleをひき殺してしまったのが自分だと名乗り出ず、Gatsbyの葬式にも姿を現さず、またTomに真相を告げなかったDaisyは、ただひたすらに「安定」を求めて沈黙する女性である。

 ではTomの浮気相手であるMyrtleはどうだろうか。
彼女はDaisyとは全く異なり、肉感的でバイタリティにあふれる下層階級の女性である。うだつのあがらない夫と、灰の山に囲まれた平凡で退屈な日常に嫌気がさしたのか、上流階級の人間で、しかも男らしく魅力的なTomと浮気する事で、Myrtleは、
"A white ashen dust veiled his(Wilson) dark suit and his pale hair as it veiled everything in the vicinity - except his wife ,who moved close to Tom."(p.30) と、灰色の日常から抜け出し、輝く事が出来るのである。
しかしMyrtleはともかく、TomはDaisyと別れて彼女と結婚する気はない。
TomにとってMyrtleは単なる「火遊び」であり、Daisyのように上流階級で同じ立場に立てるような女性ではない。
Myrtleはその事に気が付いているのかどうか、作中では読みとりにくいが、Tomに、"It's really his(Tom) wife that's keeping them apart. She's Catholic and they don't believe in divorce."(p.38)など、手の込んだ嘘を吹き込まれているので、少なくとも表面上は、Tomが結婚する気が無い事には気が付いていないのだろう(実際は女の勘で気が付いているのかもしれないが)。
 物語後半でMyrtleは夫のWilsonによって部屋に閉じこめられていたのを抜け出し、Gatsbyの車にTomが乗っていると勘違いしての接触を試みる。
そうして、彼の妻であるDaisyの手によってひき殺されてしまうという結果を引き起こしてしまったのは、皮肉な事である。
結局Myrtleが求めたのは、退屈な日常(夫)から逃げだし、彼女にとって上流階級の象徴であるTomと結婚する事だった。
 また、彼女に関する事で夫Wilsonについても併記するが、彼は最初、うだつの上がらない修理工として登場し、いつもTomに圧倒されているような情けない人物である。
しかしMyrtleの浮気に気が付いてからというもの、彼の行動は常軌を逸している。
 Myrtleを部屋に閉じこめ、Tomをせっついて金を作り西部に行こうとし、彼女が浮気相手に殺された(と信じた)後では、異様な執念を持って車の持ち主を見つけだして殺害、自分も死んでしまう。
私はこれがWilsonのMyrtleへの愛情ゆえと、単純に言い切れるものではないように思える。
Wilsonにとって、Myrtleは彼の世界の一部(あるいは全て)であり、そこに存在する事が当然で欠ける事など考えつきもしないようなものだったのだろう。Nickも次のように本文中で語っている。
"He discovered that Myrtle had some sort of life apart from him in another world and the shock had made him physically sick."(p.130) 今まで信じていた世界の崩壊というのは、人間の精神へ大きな打撃となる。Wilsonは妻の裏切りから精神崩壊し、あのような凶行に至ってしまうのである。

 語り手であるNickの近い立場にいるJordanはどういった女性だろうか。
彼女は登場持から、何やら普通の女性ではないような雰囲気をかもし出している。Buchanan家へ訪れたNickに対して非常に無愛想な態度をとるところは、傲慢、あるいは気丈な女性である事が見て取れる。
そして現在より男性優位の考えが強かった時代に、女性だてらにゴルファーをしていたのだから、実際とても自立心の強い女性だったのだろう。
NickはDaisyが自然と人を引きつける女性だと記しているが、Jordanは彼女とは全く正反対の人物といえる。
 Nickが彼女に惹かれたのは、彼女の姿勢が彼のそれと似通っていたせいだろう。
彼らは自分の中に土足で踏み込んでくるような人間を好まない。また、人間関係のごたごたに巻き込まれることにもうんざりしており、全てを客観的に見ながら、自分だけの道を黙々と進むような、そんな価値観を持っている。

"I am carefull."
"No, you're not."
"Well, other people are," she said lightly.
"What's that got to do with it?"
"They'll keep out of my way," she insisted. "It takes two to make an accident."
"Suppose you met somebody just as careless as yourself."
"I hope I never will," she answered. "I hate careless people. That's why I like you."(p.63)
以上は、Jordanの運転に文句を言ったNickに対する答えで、最後はJordanの告白で終わっている。
しかしこの会話中の"I hate careless people."というのが、「土足で踏み込んでくる」人々の事を指しているようにも読みとれる。
あるいはもしかしたら、JordanもNickのように、人間関係で嫌気がさすような事があったのかもしれない。
そう言う点で、この2人は似ており、他者との距離をうまく測る事が出来る相手だからこそ、惹かれ合ったのではないだろうか。
 しかし、ことGatsbyの話になると、2人には考えの違いが見え、それが別れるきっかけともなってしまう。
 JordanはGatsbyとDaisyに関しては一応の協力姿勢は見せているものの、それがいずれ破綻するものと分かっているのか、一貫して冷静で現実的な様子を見せている。それは女性特有のものといっても良いが、Nickは結局Gatsbyの「味方」となり、最後は彼のために葬式に参列してくれる人々を捜すほどになっている。
この差異故に、Nickから離れる事になってしまうわけだが、結局Jordanは最後まで、物語の部外者となった女性なのである。

 物語中に出てくる女性達は以上だが、彼女たちはそれぞれ何かしらの欠点があるゆえに、「不幸」になってしまう。物語中での被害者といってもいい(最大の被害者はもちろん、殺されたGatsbyとMyrtleだが)。
しかし彼女たちの特徴―我が儘気ままであり、また安定を望むDaisy、変化を求め嫉妬深いMyrtle、現実主義なJordan―は、女性によく見られるものである。これは現実のFitzgeraldの女性観が反映されているせいではなかろうか。
 実生活で、Fitzgeraldの妻Zeldaとの結婚生活は決して、順風満帆とは言えない。
彼女はFitzgeraldが売れるようになったから結婚し(たようにみえる)、しかし浮気をしたり、彼の作品を奪ってみたり、そして最後は精神を病んでしまう。
しかしFitzgeraldも映画評論家のSheilahと恋に落ちているところを見ると、Zeldaの事ばかり責められたものではないが。
おそらく、DaisyやMyrtleやJordanの見せる気質は、FitgeraldがZeldaやSheilahと接する事で得た女性観だろう。
また、Tomの愚かさやNickの"人から距離を置きたい"と思う気持ち、そしてGatsbyのように、とても叶わないような夢を持ち、それに向かってなりふり構わず努力する姿勢は、Fitzgeraldの持つ、または持ちたいと願ったものではないだろうか。

登場人物の表す気質は全て、Fitzgerald自身、あるいは彼を取り巻く環境から生まれたものである。
そういう意味で、The Great GatsbyはFitzgeraldの鏡とも言える作品だと私は思う。


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