Seminar Paper 2000

Maiko Tanino

First Created on January 9, 2001
Last revised on January 9, 2001

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The Great Gatsby」と「American Dream」
〜成功と挫折〜

  The Great Gatsbyという物語は、まさに「アメリカン・ドリーム」とその崩壊の物語であるといわれる。Jay Gatsby という主人公が中西部の貧しい家庭で生まれ、大富豪となり成功していくが、しかしやがて彼の人生に挫折が訪れるという話である。「アメリカン・ドリーム」というのは、成功、名誉、財力の象徴であるといえるであろう。そこでまずこの主人公がどのような時代背景に「アメリカン・ドリーム」を獲得したのかを考えてみようと思う。

  この物語の時代は、1920年代。アメリカ国内では、禁酒法がしかれ、禁酒が世論を背景としているかに見えたが、裏をくぐることが行われ始め、密輸入者や酒密売店がはびこり、密造酒が人気となった。Gatsbyもbootleggerであったとされ、これで巨大な富を得たと考えられる。

  そして舞台はニューヨーク。最先端で、神秘的な雰囲気の漂う街である。"As we crossed Blackwells Island a limousine passed us, driven by a white chauffeur, in which sat three modish Negroes, two bucks and a girl." (p. 73) にあるように、この時代にはまだ珍しく黒人が白人を使用人として使っているシーンがある。このように普通ではありえないようなこともありうる街である。また、"Anything can happen now that we've slid over this bridge," I thought; "anything at all. . . . " (p. 73) で、語り手である中西部出身のNick Carraway が言っているように、ニューヨークというところはどんなことでも起こりそうなのである。彼もまた活気にあふれ、スリルに満ちたこの街に次第にひかれていく。

  そんなニューヨークでGatsby は、自分は中西部の貧しい家庭で生まれたということを隠し、

"I am the son of some wealthy people in the middle-west―all dead now. I was brought up in America but educated at Oxford because all my ancestors have been educated there for many years. It is a family tradition." ........."My family all died and I came into a good deal of money." (pp. 69-70)
と自分はもともとの富豪の息子であるといったように、自ら語っているのである。いかにも真実であると思わせるために、右手を挙げて"I'll tell you God's truth."とわざわざ言っている。そしてWest Eggの入り江の豪邸に住み、毎晩の豪勢なパーティーの描写がある。 
There was music from my neighbor's house through the summer nights. In his blue gardens men and girls came and went like moths among the whisperings and the champagne and the stars. At high tide in the afternoon I watched his guests diving from the tower of his raft or taking the sun on the hot sand of his beach while his two motor boats slit the waters of the Sound, drawing aquaplanes over cataracts of foam. On week-ends his Rolls-Royce became an omnibus, bearing parties to and from the city, between nine in the morning and long past midnight, while his station wagon scampered like a brisk yellow bug to meet all trains. (p. 42)

  そして邸の内部の豪華さもNick の従妹であるDaisyが、Gatsby宅を訪れた時の様子で、"inside as we wandered through Marie Antoinette music rooms and Restoration salons"(p. 96)や、We went upstairs, through period bedrooms swathed in rose and lavender silk and vivid with new flowers, through dressing rooms and poolrooms, and bathrooms with sunken baths (p. 96)のところで、とても豪勢な邸ということが分かる。  

  このようにGatsbyは、お金にものをいわせてこれだけの巨大な財産を築き上げ、富を誇示し社会的ステータスを獲得してきたのは、昔の恋人であったDaisyを取り戻そうとしたからであった。Gatsbyにとってはじめての「良家の娘」であったDaisyは、彼が若い頃はお金持ちでなかったために結ばれることはなかった。Gatsbyにとっては富を得ることはただの手段であって、その目的はDaisyという1人の女性に具現化された彼の夢の現実なのである。豪勢な邸をWest Eggに建てたのは、Daisyの家が入り江を挟んで反対側にあり、夜な夜な豪壮なパーティーを開いていたのも、Daisyがそこのひょこり姿を現すかもしれないという期待からであった。そして5年という長い年月を経て、やっと自分の夢であるDaisyに再会し、至福のときを実感する。GatsbyはDaisyが彼女の夫であるTom Buchananとの生活に不満があり、Tomに"I never loved you" (p. 116)と言ってもらいたく、ルイビルに戻り、結婚することを望んでいた。

  しかし彼の幸福はそう長くは続かないのである。次第に幻想が崩れて厳しい現実に直面していくのである。Daisyが家で昼食会を開いた時、TomとDaisyの娘を見た時Gatsbyは、"he kept looking at the child with surprise. I don't think he had ever really believed in its existence before." (p. 123)であった。彼にとってTomとDaisyの子供を見せつけられるということは、受け入れがたい現実なのであった。そしてプラザホテルでのやり取りで、TomがGatsbyとDaisyの関係の核心を迫る時、GatsbyがTomに "She never loved you, do you hear?" he cried. " She only married you because I was poor and she was tired of waiting for me. I t was terrible mistake, but in her heart she never loved anyone except me!" (p. 137)と言い放つが、"Oh, you want too much!" she cried to Gatsby. " I love you now―isn't that enough? I can't help what's past." She began to sob helplessly. " I did love him once―but I loved you too." (p. 140)というようにDaisyは甘やかされて育ち、責任感に欠けるので決定を下すことができないのである。Gatsbyは自分の思っていたものと違うということが次第に分かるにつれて、現実に直面し、愕然となってしまう。

  そしてその後、DaisyがTomの愛人であるMyrtle Wilsonを車でひき逃げする事件を起こしてしまい、その罪をGatsbyは負うが、Tomが犯人はGatsbyだとMyrtleの夫であるWilsonに言ったために、WilsonはGatsbyを射殺してしまうのである。結局Gatsbyは自分の夢であったDaisyに見放され、破滅への結末を迎えるのである。貧乏人はたとえ財産を築いたとしても、永遠に本物の金持ちにはなれず、金持ちの女とは結婚できないという不当さが現れている。Gatsbyは1人の女性に翻弄されてしまったのである。  

  Gatsbyを含め登場人物は、「幻想」に基づいて意図的に「演技」をしていて、それぞれの人生の意味や秩序をもたらそうとしているのである。その「幻想」というのは、過去に根をもっている幻想である。しかし幻想の中で演じるというのはとても危険なことで、人間の行動をパフォーマンスにしてしまい、ゲームのプレイヤーとなってしまうのである。考え、感情、道徳的な行動を犠牲にして、演じることに価値をおき重要視しすぎてしまっている。幻想に目を向け、演技をするということはGatsbyにとってまさに、活気と青春時代の期待を取り戻そうとする一部なのであった。そしてまさにその部分が現れているところが、GatsbyがNickに向かって言う "Can't repeat the past?"(p. 116) という発言である。Gatsbyには過去は繰り返せるものなのである。ここに現実に目を向けず受け入れようとしていないGatsbyの、よく言えば純心さであるが、幼児性というものが現れている。しかし結局、悲劇的な結果をもたらしている。

 またこの物語では、東部と中西部という二つの場所が関連している。もともとの富豪であったTomやDaisyは東部の人間でDaisyの声は "full of money," (p. 127) とGatsbyは表現している。東部社会というのは、彼らの生活やGatsbyのパーティーに典型的に現れているような、絢爛豪奢に見える外側があるが、その裏に潜む空虚な洗練さや腐敗がある。東部の人間というのは自分中心的な考え方をしている。それとは対照的に、西部の社会は素朴な道徳を代表するものとなっている。周りとの繋がりを大切にし、最後まで裏切らないといったような雰囲気がある。そして最後に五番街で偶然Tomに遭ったNickは、

"I couldn't forgive him or like him but I saw that what he had done was, to him, entirely justified. It was all very careless and confused. They were careless people, Tom and Daisy―they smashed up things and creatures and then retreated back into their money or their vast carelessness of whatever it was that kept them together, and let other people clean up the mess they had made. . . ."(p. 188)
と思うのである。そして宝石店に入っていくTomを見ながら、真珠の首飾りかあるいはカフス・ボタンでも買うのだろうと考えるNickの目には、相も変らぬ生活を送っているTomとそこに象徴される東部の「文明社会」(かつてのNickが西部の田舎町から憧れて出て来たものであるが)が映し出されている。そしてNickはTomのことを"rid of my provincial squeamishness forever. "(p. 188)といっているのは、つまり「西部のモラル」なのである。同じものを東部の文明人の立場から見る余裕とともに西部の積極的な価値を認めた自信の気持ちが感じられるところである。

  過去は繰り返せないものであるが、人はその過去に根ざして生きている。まさに"we beat on, boats against the current, borne back ceaselessly into the past. "(p. 189)だ。過去の圧迫感にとらわれながらも、前へ前へと進んでいくのである。

  「アメリカン・ドリーム」というのは、華やかなものに見えるけれども、それぞれの過去に脈をもっていてなかなかそこから抜け出すことができないものなのである。そして破滅という悲劇的な結果をむかえてしまうこととなるのである。


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