Seminar Paper 2000

Kumiko Watanabe

First Created on January 9, 2001
Last revised on January 9, 2001

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The Great Gatsbyの女性たち」
強く儚い女性たち

    The Great Gatsbyの中に登場する女性たちは、作中において男性たちに劣らぬ活躍ぶりをしている。男性登場人物に負けず劣らずの明確さでもって描かれている女性たち。作者フィッツジェラルドは、どのような思いでこの女性たちを創造していったのか、考えてみたいと思う。

    The Great Gatsbyに登場する主要女性登場人物と言えば、語り手ニックのまたいとこであるデイズィ・ビキュナン。ニックと良い雰囲気を醸し出しているジョーダン・ベイカー。そして、ニックの学友で、デイズィの夫トムの愛人であるマートル・ウィルソンである。この三人の女性たちを分析していきたいと思う。 まずは物語の中核を担っているデイズィから見ていきたいと思う。彼女について目に付くのは、男性と向かい合う時の姿勢だ。過剰な演技とも思える動作により、自分の魅力を男性に強調するのである。それは、最初の登場シーンから既に行われている。最初に登場するシーンで、ニックの訪れに気付いた彼女は"made an attempt to rise―she leaned slightly forward with a conscientious expression―then she laughed, an absurd, charming little laugh, and I laughed too and came forward into the room."(P. 13)と、ニックに女性である自分をアピールするかわいらしい仕草をしている。その後も、更にニックを喜ばせるような動作を行う。そして、ニックはデイズィのこれらの仕草を冷静に分析しながらも、"an irrelevant criticism that made it no less charming."(P. 13)と、彼女の魅力を認めている。 この演技とも思える、仕草の数々。デイズィは果たして、意図的に行っているのか、そうでないのか。そうでないとしたならば、無意識の内に男性に媚びを売って愛を求めていることになり、心が弱いのかもしれないと思える。しかし、私は彼女はそれほどには、弱くないと思う。なぜならば、かわいいと思わせるだけでなく、デイズィはとても強かであるからだ。特にトムの浮気に関しての反撃は見事としかいいようがない。彼女は色々と遠回しに不満を示している。

Before I could answer her eyes fastened with an awed expression on her little finger.
"Look!" she complained. "I hurt it."
We all looked―the knuckle was black and blue.
"You did it, Tom," she said accusingly. "I know you didn't mean to but you did do it. That's what I get for marrying a brute of a man, a great big hulking physical specimen of a―" (P. 16)

ここでデイズィは、客人を前に表立ってトム責めることができないので、別の話題を出して、トムを責めている。また、トムがニックとベランダで何を話してきたか尋ねた時、彼女はこのように答えている。

"Did I?" She looked at me. "I can't seem to remember, but I think we talked about the Nordic race. Yes, I'm sure we did. It sort of crept up on us and first thing you know―" (P. 24)

これは、トムが食事の席で、"It's up to us who are the dominate race to watch out or these other races will have control of things."(P. 17)と話していたところからきている。この話をしていた時、トムは支配的人種である自分たち北欧人種の中にためらいながらもデイズィを含めた。これは彼が、人種以前の問題で、デイズィに支配権を握られることを警戒しているからである。それほどまでにデイズィは賢いということである。そして、デイズィはこのことにも気付いていて、自分に対して支配的に振る舞うトムにちょっとした意趣返しをしているのだ。
 以上のことから、彼女の過剰なまでの仕草は演技だと考えられる。では、なぜそのようなことをする必要があるのか。これに関しては、彼女の賢さが伺い知れる記述がトムの浮気に対する恨みつらみであることに注目したい。デイズィは明らかにトムの浮気に対して、不満を示している。けれどもトムは一向にそれに取り合わない。そのような中で、デイズィは昔の恋人ギャッツビーに出会う。そして、夫同様に浮気をするようになる。彼女の浮気は、明らかにトムの愛情に飢えるさまからきている。例えば、ギャッツビーの邸宅を訪れたデイズィが色とりどりのシャツを見て、泣き出す場面がある。彼女はそのわけを、"It makes me sad because I've never seen such―such beautiful shirts before."(P. 98)と語っている。彼女には、シャツがギャッツビーと共にあった頃の楽しい思い出を象徴しているように見えたのかもしれない。トムと結婚してからは哀しいことの方が多く、華やかな色シャツなどなかったのだろう。
 ギャッツビーとの仲を深めていたデイズィだが、彼女の強気な行動の数々は結局は、トムと自分は夫婦であり、特別な繋がりがあるからというところからきていることが分る。デイズィとトムとギャツビーとニックとジョーダンの五人で昼食会が開かれ、その席において、ギャッツビーはとうとう、トムにデイズィとの仲を明かす。その時に、ギャツビーがデイズィにトムを愛していなかったと言いたがらせる。彼女は焦り、ニックやジョーダンに救いを求めるように視線を投げかけたり、会話を終わらせようとする。続いて、ギャツビーの本当の姿を知り、彼に対する愛が揺らぐ。

"Please, Tom! I can't stand this any more."
Her frightened eyes told that whatever intentions, whatever courage she had had, were definitely gone.
"You two start on home, Daisy," said Tom. "In Mr. Gatsby's car."
She looked at Tom, alarmed now, but he insisted with magnanimous scorn.(P. 142)

そして、ギャツビーが自分の拠り所となりうる人でないと分った途端に、彼女は自分を守ってくれる対象を再び夫のトムへと持ち直すのである。

    次はディズィの友人であり、一時はニックと恋人となるジョーダンを見てみたい。 ジョーダンからもまた、デイズィのように演技をしている感じを受ける。しかし、彼女の場合はデイズィとは違って、男に媚びを売るような演技ではない。むしろ、男を撥ね付けるような仕草が目立つ。

At any rate Miss Baker's lips fluttered, she nodded at me almost imperceptibly and then quickly tipped her head back again―the object she was balancing had obviously tottered a little and given her something of a fright. Again a sort of apology arose to my lips. Almost any exhibition of a complete self sufficiency draws a stunned tribute from me. (P. 13)

ここでジョーダンはニックに謝罪の気持ちを起こさせるまでに完璧に尊大な態度を示している。では、演技をしていない本当の彼女はどのような人なのだろうか。彼女の姿の描写を取り上げてみる。

She was a slender, small-breasted girl with an erect carriage which she accentuated by throwing her body backward at the shoulders like a young cadet. Her grey sun-strained eyes looked back at me with polite reciprocal curiosity out of a wan, charming discontented face. (P. 15)

ニックがジョーダンの顔を虚無的と感じるのは、実はジョーダンがこの演技に疲れているからではないだろうか。第一印象とは変な先入観が働かない分、真っ白な気持ちで相手を見ることができる。ニックが受けたこの感じがジョーダンの真の姿だったのだと思われる。他に、ニックがジョーダンの欠点を取り上げている点を見てみたい。

Jordan Baker instinctively avoided clever shrewd men and now I saw that this was because she felt safer on a plane where any divergence from a code would be thought impossible. She was incurably dishonest. She wasn't able to endure being at a disadvantage, and given this unwillingness I suppose she had begun dealing in subterfuges when she was very young in order to keep that cool insolent smile turned to the world and yet satisfy the demands of her hard jaunty body. (P. 63)

ジョーダンは、自己の確立を必死にしようとしているが、適わないので、自分を騙してでも、実現しようとしているように思える。トムがジョーダンを"How you ever get anything done is beyond me."(P. 15)と評するように。

    最後は、トムの愛人であり、取り上げた三人の中で唯一のウェストエッグ側の人間である、マートルを取り上げる。
 デイズィやジョーダンと比較するとマートルは二人の美しさには及ばないが、圧倒的な活力を誇っている。そして、彼女はまた、上流意識を強く追い求めている。その現われが、トムの愛人としての地位なのである。
 彼女の動作にはそれが如実に表れている。"Throwing a regal homecoming glance around the neighborhood, Mrs.Wilson gathered up her dog and her other purchases and went haughtily in. "(P. 32) しかし、所詮かりそめのものに過ぎない。それは、彼女のアパートの部屋の様子からよく分る。

The apartment was on the top floor―a small living room, a small dining room, a small bedroom and a bath. The living room was crowded to the doors with a set of tapestried furniture entirely too large for it so that to move about was to stumble continually over scene of ladies swinging in the gardens of Versaillies. (P.33)

小さな部屋に似合わぬ調度品。上流階級には入り切れない部屋の持ち主と同じである。マートルは、衣装の力を借りてより上流階級に近づこうとする。けれども、そのことによって、彼女が本来持っていた個性が消え去り、変わりに残ったのは、演技過剰で、部屋に入り切らない家具のような彼女の姿であった。
 トムと結ばれることによって上流階級の地位を得ようとしていた彼女だが、最後には、地位への欲望よりも、トムへの愛の方が勝っている。
 不倫が夫に知れてしまったマートルは、ニューヨークに遊びに出掛けるニックたちが店に来た際に、窓からその様子を伺う。"her eyes, wide with jealous terror,"とあるように、トムの妻デイズィに対する嫉妬心を露わにしている。そして、デイズィの運転していた車の前に飛び出し、轢き逃げをされて一命を落とすのだ。

    彼女たちの強気な行動のみを見ていると、何と強かであるのだろうと感じる。しかし、その強かさは、彼女たちの弱さを隠すために用いられているのである。デイズィは、トムと離婚して、新たなる道を切り開くことができなく、ジョーダンは決まった枠の中でしか彼女の特徴である尊大さを発揮することができない。マートルも、自分の個性を殺してまで得ようとした憧れの上流階級に馴染めず、最後にはトムに対する愛に捕われてしまっている。作者フィッツジェラルドは、女性たちは積極的に行動しているが、それは何かの支えがあることによって成り立っている弱いもので、その支えがなくなった時にはあっさりと崩れてしまうようなものだと考えていたのではないかと思う。


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