Seminar Paper 2002

Naoki Kano

First Created on January 29, 2003
Last revised on January 29, 2003

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Adventures of Huckleberry Finn に見られる文明観」
文明社会に対するHuckの懐疑心

    Adventures of Huckleberry Finn は白人少年Huckと黒人逃亡奴隷Jimとが文明化した社会から逃れ、何ものにもとらわれない自由を求めてthe Mississippi Riverを筏で下ってゆく物語である。HuckはJimと出会った当初、黒人は白人よりも劣る存在であるという当時の社会通念によってJimを蔑むが、筏の旅を通じてJimのことを理解していき、Jimが自分と何ら変わりのない人間であることを知る。人種差別が当然であった19世紀当時、Huckはなぜこのような考えに到ったのか。それは、Jimと一緒に筏で旅をした事と共に、Huckが関わりを持った文明社会に住む白人達の生き方や考え方に不信感を抱いたからだ。ここでは、最初にHuckとJimの関係を見ていき、次にこの物語に出てくる文明社会に暮らす白人達を取り上げ、Huckがなぜ文明化した社会に疑問を抱いたのかを書き、最終的に作者Mark Twainが白人少年Huckと黒人逃亡奴隷Jimを一緒に旅をさせることによって何が言いたかったのかを論じる。

    Huckは酒乱の父親の暴力から逃れるために筏で旅に出ることを決意する。一方、Jimは彼の所有者が彼を売ろうと画策しているのを聞いてしまい逃亡する。そんな2人は偶然、逃亡先のJackson's Islandで出会う。JimはHuckを信用して所有者から逃亡して来たことを告げる。しかし、HuckはJimと出会った当初は、Jimという存在を軽んじ、悪戯を仕掛けたりする。それは、Huckが暮らしてきた文明社会の通念によって、黒人は白人より劣る存在である、と考えていたからだ。だが、HuckはJimと一緒に筏で旅をするうちにJimへの考えを改めていく。例えば、HuckとJimが旅の途中、拾った本の内容からKing Solomonの子供の扱い方やフランス人が話す言語について押し問答をする。Huck はKing Solomonについて、"He was the wisest man, anyway; because the widow she told me so, her own self." (p. 85)と人から聞いた意見を言うのに対して、Jimは"I doan k'yer what de widder say, he warn't no wise man, nuther." (p. 85)と言い、その理由として自分の考えをしっかりと述べ、フランス人が話す言語については、Huckが「猫や牛が人間と違う喋り方をするように、フランス人も自分達とは違う話し方をするのだ」と言うのに対して、Jimは「猫や牛は人間とは違うから、人間と違う喋り方をするのは当たり前だ。しかし、フランス人は自分達と同じ人間なのに違う喋り方をするのはなぜだ」とHuckに尋問する。Huckはこの質問に答えずに、"I see it warn' t no use wasting words - you can't learn a nigger to argue. So I quit." (p. 88) とその押し問答をやめてしまう。この2つの会話を通してHuckはJimが確固とした自分の意見を持った人間であること、そして文明社会の白人優位主義の影響を受け、白人の言うことは全て正しいと考える黒人とは違うことを理解する。そして、Jimが夜明けの筏の上で、離れ離れになった自分の妻と子供たちのことを考え、"Po' little 'Lizabeth! po' little Johnny! Its mighty hard; I spec' I ain't ever gwyne to see you no mo', no mo'!" (pp. 170-71) と泣く場面では、Huckは"I do believe he cared just as much for his people as white folks does for their'n. It don't seem natural, but I reckon it's so." (p. 170) と思い、Jimが想像以上に人間的であることを知る。徐々にJimを理解し始めたHuckだが、彼らの目的地であるCairoが近づいたとき、濃霧の中でJimと離れ離れになってしまう。霧がはれ、やっとまた出会えたとき、Huckは心細かった反動のため悪戯心が働いてJimを騙してしまう。そんなことを知らないJimは自分が夢をみていたのだと思い込むが、Huckが自分を騙していたことを知ると、

    He looked at me steady, without ever smiling, and says:
   'What do dey stan' for? I's gwyne to tell you. When I got all wore out wid work, en wid de callin' for you, en went to sleep, my heart wuz mos' broke bekase you wuz los', en I didn' k'yer no mo' what become er me en de raf'. En when I wake up en fine you back again', all safe en soun', de tears come en I could a got down on my knees en kiss' yo' foot I's so thankful. En all you wuz thinking 'bout wuz how you could make a fool uv ole Jim wid a lie. Dat truck dah is trash; en trash is what people is dat puts dirt on de head er dey fren's en makes 'em ashamed.' (pp. 94-95)

と憤慨してしまう。HuckはJimの真摯な気持ちを欺こうとした自分を恥じ、"It made me feel so mean I could almost kissed his foot to get him to take it back." (p. 95) という気持ちでJimに謝る。この時からHuckはJimを、一人の黒人逃亡奴隷というものから一人の人間として、そして親友として、認識するようになったのだ。その後も2人は離れ離れになったり、筏に入ってきた闖入者のために辛い思いをしたりするが、それらの困難を乗り越え、友情を育んでいく。しかし、そんな2人に神からの試練とも言うべきピンチが訪れるのはJimが2人の詐欺師達によって逃亡奴隷として農場に売られてしまったときである。困惑したHuckはJimの元の持ち主に手紙を書いてJimを引取らせようと思うが、元の持ち主に知らせれば、Jimがその持ち主にひどい仕打ちを受けるかもしれない、また、当時の社会通念では黒人奴隷の逃亡を助けることは非人道的なことであり、自分が黒人奴隷の逃亡を助けたことが世間に広まれば、自分がどれほど蔑まされるかを恐怖し、Jimの逃亡を助けた責任をどのようにして取るのかHuckは苦悩する。そしてHuckはもうどうしようもないことだと考え、思い切って手紙を書いてみる。しかし、手紙を書き終わり、改めて考えてみると、

    And got to thinking over our trip down the river; and I see Jim before me, all the time, in the day, and in the night-time, sometimes moonlight, sometimes storms, and we a floating along, talking, and singing, and laughing. But somehow I couldn't seem to strike no places to harden me against him, but only the other kind. I'd see him standing my watch on top of his'n, stead of calling me, so I could go on sleeping; and see him how glad he was when I come back out of the fog; and when I come to him again in the swamp, up there where the feud was; and such-like times; and would always call me honey, and pet me, and do everything he could think of for me, and how good he always was; and at last I struck the time I saved him by telling the men we had small-pox aboard, and he was so grateful, and said I was the best friend old Jim ever had in the world, and the only one he's got now; and then I happened to look around, and see that paper. (p. 235)

という思いがHuckを捕らえる。Huckの心に思い出されるのは筏の旅で知ったJimの心のやさしさである。Jimは自分に対して何も見返りを求めず、親友としてやさしさを授けてくれた。このようなJimに対して自分は何ができるのかHuckは考え、ついに"'All right, then, I'll go to hell' - and tore it up." (p. 235)と手紙を破いてしまう。この瞬間Huckは文明化した社会を捨てて、Jimを親友として助けることを決意する。JimがHuckを唯一の親友と言ったように、HuckにとってもJimは掛替えのない唯一の親友になっていたのだ。

    HuckがJimは黒人だが自分と何ら変わりのない人間であり、大切な親友であると考えるようになったのはJimと一緒に旅をしたからという事と共に、Huckが関わりを持った文明社会に暮らす白人達の影響を受けたということもそう考える根拠となっている。Huckは彼らの行動を見て、決して彼らが黒人達よりも優れているとはいえないことを知ってしまう。文明社会に住む白人達の中で特にHuckにそのような考えを抱かせるようになったのがHuckの父親や「宿根」に取りつかれたthe Grangerfords、そして詐欺師として生活するkingとdukeである。

    Huckの父親は浮浪者同然の生活をし、酒を飲んではHuckに暴力を振るい、文明社会で学校に通っていたHuckを人里はなれた小屋に監禁してしまう。そして彼はHuckが預けていた大金を手に入れるためHuckのお金の管理人であるJudge Thatcherとそのお金をめぐって法廷で争う。Huckが父親と共に暮らした間に父親から教わったことは、"If I never learnt nothing else out of pap, I learnt that the best way to get along with his kind of people is to let them have their own way." (p. 138) という詐欺師たちと一緒に旅をすることになった時の対処法だけだ。こんな父親にもかかわらず酔っ払っては、黒人が選挙権を持っていることに憤怒し、アメリカの政治を罵ったりする。結局、Huckは父親の暴力に耐え切れなくなり、筏での旅に乗り出すことになるのだ。

    次に、Huckを苦しめるのが「宿根」に取りつかれた白人家族the Grangerfordsである。この家族は上流階級に属する家族であり、今まで筏での自由な旅をしてきたHuckにとっては久しぶりに触れる真っ当な文明社会である。しかし、この家族は遠い昔に始まった別の白人家族the Shepherdsonsとのいざこざによって、お互いに殺しあうことを続けている。道端でばったり会えば、銃を向けて撃ち合い、お互いに殺しあうことをなんとも思っていないし、今となってはなぜこの殺し合いが始まったのか原因さえわからない。Huckは日曜日には教会に行き、今日の説教はよかったと言いながら、平気で殺し合いをするthe Grangerfordsの姿に文明社会に暮らす人間の行動の愚かさを考えさせられるが、その殺し合いを止めることも出来ず、いつしかその殺し合いの原因を作ることになってしまう。それはこのthe Grangerfordsの娘Sophiaが、the Shepherdsonsの息子Harneyと駆け落ちをするのだ。Huckはその駆け落ちの時間を書いた紙を運ぶ役になってしまう。娘と息子の駆け落ちを知った両方の家族達は怒りをあらわに殺し合いを始め、家族のほとんどがこの決闘によって死んでしまう。Huckは、

    I was mighty down-hearted; so I made up my mind I wouldn't ever go anear that house again, because I reckoned I was to blame, somehow. I judged that that piece of paper meant that Miss Sophia was to meet Harney somewheres at half-past two and run off; and I judged I ought to told her father about that paper and the curious way she acted, and then maybe he would a locked her up and this awful mess wouldn't ever happened. (p. 127)

とこの決闘の責任を自分の責任だと感じる。文明化しているはずの陸上の社会ですっかり傷ついてしまったHuckは、もう自分が生きて行くことができるのは何ものにも邪魔をされない筏の上だけなのだと考えてしまうのだ。

    そのようなHuckの安住の地である筏に災いがもたらされる。それは、詐欺師として生きる2人組みが共に筏で旅をすることになってしまったからだ。彼らは自らをkingとdukeと名乗り、HuckとJimに自分達の奴隷のように働くことを望む。そして、旅の途中で立ち寄った町では、詐欺を働いて住民からお金を巻き上げる。Huckは彼らの行動を、自分の父親がそうであったように、やめさせようと思ってもやめさせることは出来ないと考え、意見を言うようなこともない。しかし、そんなHuckでも我慢できなかった詐欺が、彼らが遺産目的で相続人に成りすましたときだ。Huckはその遺産の正当な相続人であるMary Janeという娘の心のやさしさを目の当たりにし、彼女に心惹かれ、詐欺師達から彼女の金を奪い返す。さらに詐欺師達から逃げようとするが、失敗し、一緒に旅を続けることになる。そんな詐欺師達が行ったHuckへの最もひどい仕打ちはJimを農場に売ってしまったことである。詐欺師達はJimを自分達の奴隷であると思い込むようになり、Jimを売り、そのお金で彼らの咽の渇きを潤す。この行為に激怒したHuckは彼らから離れ、Jimを取り戻しに農場に乗り込むことになるのだ。

    ここで取り上げた白人達はみな自分は黒人よりも優れていると考えている。それは当時の社会通念としては当然であった。しかし、Huckは彼らの生き方や考え方を見ているうちに彼らに疑問を持ち、次第にその疑問は彼らが暮らす社会全体に及んでしまう。酒を飲んでは暴力を振るう父親は、文明化した社会にいながら、その社会の一員としての義務を果たさず、無意味な日々を過ごしている。そして、the Grangerfordsの「宿根」からは、文明社会の理想型のようなこの家族の行動は野蛮人がする行動と全く同じではないかということを考えさせられ、文明化した社会の中にある偽りを見つけてしまう。詐欺師達との行動ではHuckは完全に文明化した社会に嫌悪感を抱いてしまう。詐欺師達の詐欺行為を見ることによって、Huckは人間が文明社会の象徴であるお金にどこまで貪欲になれるのかを教えられ、詐欺師達が町の住民に捕まり、酷いリンチをされているのを見ては、人間は詐欺師であれ、真っ当な人間であれ、どんなに人に対して恐ろしくなれるのかを知ってしまうのだ。Huckはこれらの白人達の行動を見て、文明化した社会に嫌気が差し、筏に戻っては"We said there warn't no home like a raft, after all. Other places do seem so cramped up and smothery, but a raft don't. You feel mighty free and easy and comfortable on a raft." (p. 128) とJimとの自由な2人旅がどんなに最高なものかを実感するのだ。

    では、著者Mark Twainは白人少年Huckと黒人逃亡奴隷Jimとを一緒に旅をさせることによって何が言いたかったのか。それは、今まで述べてきたように、HuckとJimに筏という自由な社会から、陸上の文明化した社会に実際に触れさせ、文明社会に暮らしている白人達の驕り高ぶった精神を実証し、文明社会の思想や道徳が絶対ではないことを示したかったのだ。HuckはJimと一緒に筏で旅をするうちに、陸上で見てきた文明化した社会に暮らす白人達の欺瞞的行動に疑問を抱き、文明社会が本当に正しいのか煩悶する。そして、その答えが出るのがJimを奴隷から自由にする為に農場に助けに行こうと決心したときだ。Huckは黒人逃亡奴隷Jimを大切な親友として助ける為に、黒人逃亡奴隷を助けることは非人道的行為であるという文明社会と決別するのだ。文明社会に苦しめられる事のなくなったHuckはJimの救出に向かうが、努力の甲斐なく救出は失敗してしまう。しかし、最終的にはJimがすでに元の所有者の遺言によって自由になっていたことが分かり安堵するが、Jimが自由になった後も、結局Huckは文明化した社会に戻る事は拒み、インディアン居留地に向けて出発していく。Huckの冒険は、彼が文明社会を受け入れることが出来るようになるまで続くのだ。


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