Seminar Paper 2002

Miki Matsumoto

First Created on January 29, 2003
Last revised on January 29, 2003

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Adventures of Huckleberry Finnと人種差別問題」
Twainの黒人差別意識

    Adventures of Huckleberry Finnでは、少年Huckと黒人奴隷Jimの逃亡の旅という設定の中で、黒人奴隷に対する様々な扱いが描かれている。それは、逃亡を助けるHuckのJimに対する態度や気持ち、他の登場人物の言動を通して見ることができる。はたして、作者Twainはこの物語の中で黒人を書くことによって、読者に何を伝えたかったのだろうか。また、Twainは奴隷制度について、どのように思っていたのか。そして、Twainは人種差別主義者であるのかを考えていきたい。

    Twainは自伝の中で、次のように述べている。"われわれは、忠実で愛情深い親友、味方、指導者として、中年の奴隷「アンクル・ダンル」を尊敬していた。彼は黒人としては最高の頭脳の持ち主であり、ひろい、あたたかい同情心と、実直で、素朴で、しかも悪賢いところのない心で知られていた。" (渡辺利雄訳『マーク・トウェイン』(研究社,1975),p. 47)この文からは、Twainは黒人奴隷アンクル・ダンルに対して、いい印象をもっていて、また、彼を人として認めているということがわかる。Adventures of Huckleberry FinnでもTwainのそのような黒人観が描かれている。その一つが、9章のJackson Islandに流れてきた家の中で、死体を見つけたときのJimの対応にあらわれている。実はその死体はHuckの父親であったが、JimはHuckにはそれを見せなかった。これは、どんなにひどい父親であっても、あわれな姿で死んだ父親を見せてはHuckがかわいそうであるというJimの気遣いであろう。黒人であろうと、白人と同じように人の悲しみや気持ちを考えることができるということを、ここでは示しているように思える。

    さらに、黒人奴隷Jimのよさを引き出そうとしている部分がある。HuckとJimがソロモンについて話している場面で、次のことをJimが言った。

'Blame de pit! I reck'n I knows what I knows. En mine you, de real pint is down furder - it's down deeper. It lays in de way Sollermun was raised. You take a man dat's got on'y one er two chillen ; is dat man gwyne to be waseful o'chillen? No, ain't ; he can't 'ford it. He know how to value 'em. But you take a man dat's got 'bout five million chillen runnin' roun' de house, en it's diffunt. He as soon chop a chile in two as a cat. Dey's plenty mo'. A chile er two, mo' er less, warn't no consekens to Sollermun, dad fetch him!' (p. 86)

    HuckはWidow Douglasに教わったとおり、ソロモンは賢い人であると思っている。一方、Jimはそれに対して、的外れなことを言ってHuckをあきれさせている。しかし、Jimの言っていることは、決して間違っていないことに読者は気づくであろう。Huckの持っている知識は白人社会での一般的な教養であり、Huckもそれを抵抗せずに受け入れているだけであり、よく考えるとJimの言っていることの方が人間らしい答えであることがわかる。子供と離れ離れになってしまったJimだからこそ、子供の価値を理解しているのであって、教育されている白人が必ずしも正しい考え方を持っているわけではないということを、Twainはここで伝えたかったのではないだろうか。

    次に、Huckの言葉や行動から、Huckの視点から見た黒人奴隷Jimに対する意識を考えてみようと思う。HuckとJimの冒険はJackson Islandから始まったのだが、この島から抜け出すときにHuckはこう言った。 " 'Git up and hump yourself, Jim! There ain't a minute to lose. They're after us!' " (p. 69) ここでは、追われているのは逃亡し、Huckを殺害した疑いがかけられているJimだけなのに、Huckは自分も含めて追われているとしている。この時点から、HuckはJimのことをこれから一緒に旅をする仲間として意識し始めたのではないだろうか。しかし、この言葉からだけでは、Jimを一人の人間として、白人と同等に扱っているとは言えない。

    そんなHuckが、Jimは自分と同等であると位置付けることとなる出来事が起こる。深い霧の中でHuckはJimとはぐれた後、やっとの思いでJimを見つけることができたのだが、Jimをからかって騙そうとする。そんなHuckの態度にJimは心底腹をたてる。申し訳なく思ったHuckは反省をする。" It made me feel so mean I could almost kissed his foot to get him to take it back. It was fifteen minutes before I could work myself up to go and humble myself to a nigger - but I done it, and I warn't ever sorry for it afterwards, neither." (p. 95) Huckは遊びのつもりでJimをからかったのだが、本気でHuckのことを心配していたJimはふざけているHuckのことを許せなかった。これは、JimはHuckを仲間だと思っていたからこそとった行動であると考えられる。一方、JimのHuckに対する思いを聞いたHuckは自分は下劣であると感じる。この時、Huckは黒人奴隷であるJimを仲間であると意識しているのである。ただ、謝罪に行くのまでの時間15分がHuckの迷いを表している。黒人に頭を下げることに抵抗がなかったわけではないのだ。しかし、その抵抗を乗り越えたHuckは、Jimは自分と同等の仲間であるという意識が芽生えることとなる。その証拠に、その後この謝罪を後悔することはなかったとHuckは言っている。この出来事を通して、HuckはJimという友達を得たのである。 

    次に、旅の途中でJimが離れた家族のことを思いだし、うめき悲しむ場面がある。そこでHuckは次のように思うのだ。

I went to sleep, and Jim didn't call me when it was my turn. He often done that. When I waked up, just at day-break, he was setting there with his head down betwixt his knees, moaning and mourning to himself. I didn't take notice, nor let on. I knowed what it was about. He was thinking about his wife and his children, away up yonder, and he was low and homesick; because he hadn't ever been away from home before in his life; and I do believe he cared just as much for his people as white folks does for their'n. It don't seem natural, but I reckon it's so. (p. 170)

    最後の文にあるように、当時の一般的な白人は、家族の愛情をもつのは白人だけと思っていたので、黒人も同じ気持ちであるとは少しも思っていなかった。Huckもこの時まで一般的な白人と同じ考えだったのであろう。しかし、Huckは苦しんでいるJimを見て、家族を想う気持ちは白人も黒人奴隷Jimも同じなのだと理解している。ここで、Huckが他の黒人もJimのような心を持っていると考えているのかはわからないが、少なくとも今自分の目の前にいるJimは自分たちと同じであると感じているのだ。この部分では、HuckのJimに対する意識の変化がはっきりとわかるであろう。

    そして、HuckのJimに対する意識の変化を決定的なものとする場面がやってくる。Huckは旅の間、幾度かJimをこのまま自由にしていいものか悩んだ。その一つが、カイロが近づき、自由になれるとJimが騒ぎ出したとき、Huckは自分が黒人を逃がしてしまうのだと意識させられた時である。それは、白人のつくり上げた良心がHuckの中に存在し、その良心がHuckを縛っているからであった。ここで言う白人のつくり上げた良心とは、黒人を逃がすことを見過ごすことは大きな罪であるということである。Huckは良心とJimの自由に挟まれ、悩み、葛藤した結果、この時は流れにまかせることにした。しかし、JimがDukeとKingに売られてしまったときに、Huckはまた考えさせられるのである。容易にでる答えではなかったが、Jimとの旅を振り返るとHuckの頭にはJimの良さばかりが頭に浮かんできて、最終的にHuckは言う。" 'All right, then, I'll go hell' " (p. 235)と。これは、Huckにとって命をかけた決心なのだ。Huckをそうさせたのは、Jimを一人の人間として認め、彼を自由にしてあげたいという気持ちであろう。同時にJimにも白人と同じように自由に生活する人間として、白人と同等の権利があると考えているのではないかと思う。また、Huckにこのような行動をとらせた作者Twain自身も、自分をHuckに重ねて、黒人の自由について考えさせられているのではないかと思う。

    これまであげてきたことから、Twainは人種差別を否定しているように思えるが、この作品の中には黒人奴隷Jimを差別的に、おもしろおかしく、愚かな黒人として描いている部分もある。また、登場人物の白人の黒人奴隷に対するひどい扱い方も見られる。

    黒人の性格を、白人がつくりあげたイメージで書かれた部分がある。HuckがJimとフランス人が話す言葉について討論しているとき、Jimは決して自分の意見を曲げようとはしなかった。それに対して、Huckはこう言っている。" I see it warn't no use wasting words - you can't learn a nigger to argue. So I quit." (p. 88) この言葉からは、黒人は強情であり、議論の仕方も教えられないほど無能であるということを暗に示しているように思える。また、Jimは自分は800ドルの価値があると言って喜んでいるが、白人にしてみればそんな額はたいしたことないだろう。こんな小さなことで満足しているJimは単純な黒人として読者の目に浮かぶであろう。

    Aunt SallyとHuckの会話からも黒人差別意識が見られる。" 'Good gracious! Anybody hurt?' 'No'm. Killed a nigger.' 'Well, it's lucky; because sometimes people do get hurt.' " (p. 243) Huckが黒人が死んだと言っているのにもかかわらず、Aunt Sallyはそんなことも気にしていない様子だ。Aunt Sallyが言う'people' には黒人は含まれていないことがここではわかる。Aunt Sallyは逃亡奴隷Jimをかなりいい待遇で扱っていたようだが、やはり黒人に対する意識は他の白人と同様に、奴隷としてしか見ていなくて、自分たちと同じ人間とは思っていないようである。

    このような黒人差別的な表現や描写から、Twainは人種差別主義者としていいのだろうか。私はそうであったとは思わない。前述した「アンクル・ダンル」の話のように、Twainは黒人に対して嫌悪感を抱いていなかったし、逆にそれなりの人柄と能力を持つ黒人は人として認めていたのは確かである。また、これまであげてきたようにHuckの黒人奴隷Jimに対する意識の変化からも黒人を否定しているようには思えない。ならば、なぜ黒人を白人と同等の人間として書かなかったのか。それは、Twainが当時の人々や情景をありのままに書くことによって、人種差別のそのままを読者に伝え、人種差別というものを見つめ直し、この問題を考えてほしいというのがあったからではないかと私は考える。事実を隠して書くよりも、事実そのものを伝えることに意味があると考えたから、差別的な表現も書かれているのだと思う。しかし、Twain自身は非人種差別主義者であったとは私は思わない。これまで述べてきたことと矛盾しているようだが、私がそう考えるのは、Twainは黒人の価値は白人と同じであると気づいているが、黒人を奴隷として扱うことに関しては完全に否定しているわけではないのかもしれないと考えるからである。Twainは、幼い頃から周りに黒人奴隷がいる環境で育ってきた。その中で、黒人であっても白人のように立派な人もいることを知るが、黒人を奴隷という枠からはずして考えることのできる環境ではなかった。生きてきた環境というのは、その人の人生や考え方に大きな影響を与えるものである。そんなことを考えると、Twainは完全な非人種差別主義者であったとは言えないと思う。Adventures of Huckleberry Finnの中のHuckはTwain自身なのではないだろうか。旅の中で、Huckが黒人奴隷Jimが人間として価値があると気づく一方、白人がつくり上げた良心に悩ませられたように、Twain自身も、黒人を人として認めながらも、自分が生きてきた人生の中での経験によってつくれた「黒人は奴隷である」という考え方に頭を悩ませ続けたのだと思う。そして、このAdventures of Huckleberry Finnを書くことによって、読者にだけでなく、Twain自身にも人種差別という問題を提起したかったのだと私は思う。


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