Seminar Paper 2003

Emiko Fukui

First Created on January 28, 2004
Last revised on January 28, 2004

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FrankとHelen
--Frankの成長とHelen--

1. 作品のテーマの中でのHelenの必要性

 The assistant という作品のテーマは主人公のFrank Alpineがいかに成長していくかという部分にある。Frank以外の全ての登場人物たちは、Flankを変えていくために影響を与える存在だ。彼が恋に落ちるHelenも、Frankが成長していくために与えられた触媒である。むしろ、Frankが変わるために彼女は存在するのであると私は考える。
 ここでいう「Frankの成長」というのは、彼の精神的な成長、とりわけ対人関係においていかに他人を思いやることができるようになるかということである。多くの評論家たちが述べてきたように、The Assistantの中ではユダヤ人の哲学者であるMartin Buberの思想が色濃く投影されているように見える。このことはBober家の家長であるMorris Boberの名前が、この哲学者に酷似していることからもうかがい知ることが出来る。Buberの思想の中では、対人関係の築き方として、他者を人間(human being)として見る”I and thou”と、他者を自己が行動していくための道具( instrument )もしくは機械(mechanic)としてみなす”I and it”という二種類の分類がなされている。The Assistantの中でFrankは”I and thou”の関係を学んでいくのである。

 まずFrankの対人方法に大きな影響を与えるのはMorrisである。Morrisの口を通して語られるユダヤ人としての正直な生き方や、Morris個人の生き方そのものを通して、Frankは「他人のために生きる」という考え方を学ぶ。しかしそれは理論上の問題でしかない。例えばChapter4で質の悪いバターを普通のバター、普通のバターを質のいいバターとして客に売り利益を出す方法があるとモリスが発言した時に、Frankは”Why don’t you try a couple of those tricks yourself, Morris? ” (p. 79) と尋ねる場面がある。このときMorrisは”When a man is honest he don’t worry when he sleeps. This is more important than to steal a nickel.” (Bernard Malamud, The Assistant (NY: Farrar, Straus, and Giroux, Inc., 2000), p. 79 以下本書からの引用はページのみを記す)と答え、他人のために正直に生きることこそが自分が利益を得ることよりも大切なのだと説く。これに対しFrankはMorrisの言葉に対してうなずくが、その直後から彼は店の売り上げをごまかし始める。これは彼が店の売り上げをごまかすことによって良心の呵責を感じていない、つまりMorrisに対して申し訳ない気持ちを持っていないということになる。悪気のあるなしは別にしても、この状態ではFrankとMorrisは”I and it”に近い状態になってしまっている。
“I and thou”となるために重要なのはMorrisの言う”If you live, you suffer.”(p. 118)という台詞である。もしも他者を”I and it”という関係で見ていれば、自分が”suffer”することはない。この場合の他者はinstrumentかmechanicでしかなく、自分は他者を使って利益を得ることさえすればいいからである。しかし他者との関係を”I and thou”にしたいのであれば、thouを幸せにするために自分がsufferする必要があるのだ。

 Helenとの関係をきっかけとしてFrankをsufferさせることが、”I and thou”を実現するためには必要である。そもそも、Helenの存在がなければ、強盗に入った後で再びgroceryに近づくこともなかった。恋愛の対象であるHelenはFrankにとって特別な存在であるということがFrankの心理に大きな影響を与えている。現にFrankは物語のかなり初期の段階から、はHelenを特別な存在として捉えている。Chapter3の最後に、Helenがシャワーを浴びているところをFrankが覗く場面があるが、ここでFrankは”But in looking he was forcing her out of reach, making her into a thing only of his seeing, her eyes reflecting his sins, rotten past, spoiled ideals, his passion poisoned by his shame. ” (p. 71) というように、Helenを彼の欲望を満足させるための対象物としてしまった行為に対して強く良心の呵責にさいなまれている。FrankはHelenを愛する過程で、Helenを愛する自分を満足させるためだけの利己的な行為では、Helenも自分も幸せになれないことを学ぶのである。

2. 手に入りにくい存在として作られたHelen

 さて、FrankがHelenを通して”I and thou”の関係を築く方法を学ぶためには、Frankの思いは簡単に成就されてはいけないる。だからこそ、Helenという存在はFrankにとって手に入れにくいものとして設定されている。 第一に、二人の間には民族的な壁が存在する。Frankがイタリア人であり、Helenがユダヤ人であるということが二人には大きな障害となっている。Morrisが倒れてFrankが店で働くことになった後も、心配をしたIdaがFrankをHelenから遠ざけようと、食事の時間を別々にさせるなどの努力を続け、FrankがHelenに近づくことは困難になっている。彼はHelenの行動を予測し、少しでも多く彼女を視界に入れようと、そして彼女の視界に入ろうと努力をするが、彼に対するHelenの反応は”Caught by surprise, she half-smiled, then entered the hall.”(p. 60)というようにあまり芳しいものではない。また、ユダヤ人コミュニティーのなかで育ったHelen自身が、”Don’t forget, I’m Jewish.”(p. 115)と言ったり、”It had lately come to her that her worry he was a gentile was less for her own sake than for her mother and father.”(p. 125)と言ったりというように民族的な理由からFrankに近づくことに対して二の足を踏んでいるのである。 第二に、二人の人生観の違いである。これはFrankがHelenと”I and thou”の関係を作るために行動をするきっかけとなる。話が進むにつれて、彼はHelenを喜ばせる方法を模索し始める。非常に基本的な方法として、彼は彼女の夢である「大学で勉強をすること」に対する「自分の思い」や彼女が興味を持っている文学の話を引き合いに出して、彼女に気に入られようとする。これは一種のsufferである。例えば、Helenは文学を愛するので、彼も文学に興味がある振りをするが、そのために読みたくもない本を薦められるのである。これは”The stories were hard to get into because the people and places were strange to him…some of the sentences were so godawful complicated he forgot the beginning before he got to the end.” (p. 100) というようにFrankにとってはつらいものであったものの、彼は分厚い三冊の本を読破する。
 第三に、Natの存在がある。FrankにとってNatはHelenを取り合うライバルとして存在するが、Natとの過去があったために、HelenはFrankとの関係を進展させることが出来ないことになる。HelenはNatと肉体関係を持ってしまったことに対して強く後悔しており、その理由が”Nat Pearl….had wanted without too much trouble a lay and she half in love, had obliged and regretted. Not the loving, but that it had taken her so long to realize how little he wanted.”(p. 12)というものだったために、次の恋愛に対して積極的に動けないでいる。また、そのことが原因でHelen自身がまだNatとの思い出が忘れられず、彼のことを好きだと言う気持ちがあるために、Natに誘われたりすると心が大きく揺らいでしまう。そしてNatは最終章までHelenにアプローチを続けることになるのだ。

3. FrankをHelenから遠ざけるHelenの行動

 Frankをsufferさせるためには、Helenは簡単に手に入る存在であってはならない。したがって、HelenはFrankよりもより遠くへと追いやる必要がある。FrankをHelenから遠ざける方法として、登場人物の設定以上に影響を与えているものがある。それはHelenの行動そのものである。
Helenの行動は時として不自然な方法でFrankに苦しみを与えている。Helen自身がわざわざFrankがHelenに嫌われる行動をとるように仕向けるなどして、過度にFrankに障害を与えているような場面が何度も見受けられる。例えば、”I think I’ll take a hot shower before I go to bed.”(p. 69)というように、FrankがHelenのシャワー中に覗きをするきっかけになった一言である。これはFrankを意識するにしてもしていないにしても、言う必要のなかった一言である。しかも、まだ信頼の置けない25歳の非ユダヤ教徒を前にして言うにはあまりにも非常識な言動である。しかしこの一言を言ってしまったがために、FrankはHelenがシャワーを浴びる時間を知ることとなり、結果として覗きを働くように仕向けられたのである。また、言うべきだった一言を「わざわざ言わなかった」こともある。Frankがくれた本とスカーフを返す時にも”She should have said something of the sort; he would have saved his presents for a better prospect and she would not now be feeling guilt at having hurt him.”(p. 107)と思ったにも関わらず、そのときにそれを実行しなかった。この時点でHelenはFrankのことを愛していると感じるようになっていたものの、ちゃんとした理由を話さないでプレゼントを返してしまったがためにFrankはHelenが自分のプレゼントを迷惑だと思って返してきたのだと思い、ひどく傷つくことになってしまった。一度などはFrankの部屋にまでついて行き、”She sat up to unhook her brassiere”(p. 130)と、自ら服を脱ごうとまで下にも関わらず、Frankの手がスカートの中に入ってきたのを感じた瞬間に”Helen grabbed his hand. “Please, Frank. Let’s not get that hot and bothered.””(p. 130) と言って止めるなどという行動をとっている。これが原因でFrankの中のフラストレーションは大きくなっていくわけであるが、Helenがこのような行動をとった理由などは明確にされてはいない。
 また、HelenはFrankが自分に対して行う愛情表現を必要以上に厳しく査定することが多い。そしてまた、自分の気持ち自体に対しても常に厳しい目を向けている。現にHelenは”She felt a throb of desire for Frank”(p. 105)、”The strange thing was there were times she felt she liked him very much.”(p. 107)、”She felt herself, falling in love with Frank.”(p. 123)というように作品中に何度もFrankに対する愛情を自分の中に発見するものの、それが本物であるのか、正しいものなのかということに対して常に疑問を抱いている。
 WardがHelenを襲う場面にも、不自然な感じが否めない。この場面以前の場所でWardとFrankが知り合いであると言う話は出てきていないにもかかわらず、WardがFrankの名前を知っていたと言うだけでHelenはWardに一瞬の隙をみせてしまうことになる。また、FrankがHelenを襲った場面においても、Helenは抵抗をすることが出来たはずなのにしなかったのである。この事件の後のHelenの怒りがFrankに向けられたものではなく、”to divert hatred from herself”(p.227)という感情から来ているものであるということは後に述べられているものの、なぜ公園でHelenは力ずくでFrankをとめることをしなかったのかは疑問に残るところである。そのすぐ前にはWardに対して力ずくで抵抗をしていたのにもかかわらず。
 これらのイベントが原因となり、結果としてFrankは何度もHelenと肉体的にも精神的にも近づくことが困難になるのである。

4. 結論

 Helenの存在によってFrankは他人のためにsufferすることを学んだ。FrankがHelenのためにsufferするということは自分の幸せを生むことではないが、そうしなければHelenを幸せにすることはできない。愛するHelenの不幸は自分の不幸でもある。Helenに対する恋愛感情ががあったからこそ、Frankは"I and thou"の関係を学ぶことができたのである。
 Morrisの死後、Frankの行動はますますHelen(とIda)の幸せのためにsufferすることに注がれていく。Morrisが生きている間はやめようと思ってもやめられなかった、売り上げをごまかすという行動も一変して、Helenを大学に通わせるために、今までためていた分を銀行から下したりしてまで店に還元するようになっていく。また、それでも足りない分は夜中に喫茶店で働くようにまでなる。”Suffer for Helen”という生活に従事するFrankは次第にMorris的な正直さを持つようになる。せっかく全てが悪い方向から脱しかけた時に、Frankは強盗に入ったことをHelenに告白してしまう。このことがきっかけでFrankの幸せは遠のいたのであるが、これがHelenを通じてFrankが手に入れたものだと考えると、”It was a strange thing about people?they look the same but be different.”(p. 231)というこの物語の趣旨がよくあらわされた場面であると捉えることができる。Frankは変わったからこそHelenに正直に告白したのであり、それはFrankが善く生まれ変わったと言う証拠であるのだけれども、Helenにとってはまだ悪いFrankのイメージを引きずっているために”You criminal.”(p. 229)と言って出て行ってしまうことになる。最終的にこのHelenの感情を通じてFrankの変化を表現することになった。HelenはFrankの内面を変化させるための触媒でもあり、またそれを読者に印象付けるための媒体にもなったのだ。

<参考資料>

Buber: Mysticism Without Loss of Identity.(philosopher Martin Buber) Judaism, Wntr, 2000, by Martin A. Bertman http://www.findarticles.com/m0411/1_49/61887410/p1/article.jhtml


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