Seminar Paper 2003

Akie Jibiki

First Created on January 28, 2004
Last revised on January 28, 2004

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「Frank と Morris」
父と息子の関係へ

 最初に、Morrisについてみていきたいと思う。“The early November street was dark though night had ended, but the wind, to the grocer’s surprise, already clawed.” (p. 1)“ He sat in a chair at the round wooden table in the rear of the store and scanned, with raised brows, yesterday’s Jewish paper that he had already thoroughly read.”(p. 2)これらの文章からMorrisは、食料品店主であることが分かる。Morrisは、貧しい生活とユダヤ人虐殺の脅威を逃れて、ロシアからアメリカに渡ってきたのである。「約束された地」アメリカでMorrisは、薬剤師を志し夜学へ通うが、Idaと出会い、夜学を断念する。貧しい食料店を始めて、21年の歳月が過ぎるが、一向に光が見えてこない。このような状況を“Now the store looked like a long dark tunnel.”(p. 2) と表している。彼のお店は、長いトンネルのように、出口が見えない貧しい様子が分かる。アメリカンドリームを求めて、移民したが、結局彼を待ち受けていたのは、厳しい現実だった。“ His ticket of admission was his luck, which he gathered wherever he reached, at a loss, Morris thought, to somebody else.”(p. 20) この文は、Julius Karpの事であるが、誰かが運を得ることによって、誰かが運を失うことを表している。これは、KarpとMorrisのことであり、Karpが酒屋のライセンスを取得し、さらに空き家にデリカッセンを入れることにより、商売を繁盛させる一方、Morrisは、新しく出来たデリカッセンにお客を奪われ、さらに打撃を受け、厳しい生活を余儀なくされるのである。幸せになる人もいれば、苦しむ人もいるということが、Morrisには分かっており、それが自分であるというのも自覚していたのだ。  しかし、貧しい生活を送りながらもMorrisが失わずに持ち続けていたものは、善の心であった。この善の心があったことにより、Morrisは、貧しい生活から逃れられなかったのであった。つまり、Morrisは、ユダヤ人の心を持っていたのである。このユダヤ人の心というのは勤勉で正直に生きることであり、単にユダヤの法のみに見られる特性ではない。

 次にFrankについてである。“When I was a kid, an old priest used to come to the orphans’ home where I was raised, and every time he came he read us a different story about St. Francis.”(p. 27) アシスタントでは、Frankの名そのものがSt. Francisを暗示している。“ He was young, leather shoes and a long black overcoat that looked as if it had been lived in. He was tall and not bad looking, except for a nose that had been broken and badly set, unbalancing his face.”(p. 26) Frankは、幼くして母親に死なれ、父親にも見捨てられ、孤児院に育ったイタリア系の青年である。そして、養子として預けられた家から飛び出し、西部から夢を求めてニューヨークにやってきた。しかし職もなく、寝るにも食べるにも困っていたFrankはWardに出会った。以前、Morrisの住む一角に住んでいたMinogue警部の息子である。彼は、Frankを誘い、Morrisの店に強盗に入った。まぎれもなく、これがFrankとMorrisの最初の出会いである。Frankは、悪い事をしてしまったが、心の奥には善を持っていたのである。“ He rinsed the cup and placed it on a cupboard shelf.”(p. 23) FrankとMorrisの出会いは、ひどいものであったが、この出会いにより、Frankが次第にMorrisの生き方、考え方、つまり自分より他人の幸せを優先することに惹かれ、更正していくのである。

 “ Once in a while the man would walk over to Morris’s closed grocery, and with both hands shading his brow, stare through the window; sighing, he went back to Sam’s.”(p. 26) Frankは、再びMorrisのところへ戻って来たのである。Frankは、Morrisの内に潜む良心に影響を受け、Morrisの店に戻り、無償の店員になった。強盗でのWardのアシスタントから食料品店でのMorrisのアシスタントへの転身である。

 ところが、Morrisの店で働くFrankは、罪の償いからかMorrisに対して献身的であるが、店の商品であるミルクやパンを盗み食いしたり、レジから小銭を盗んだり、さらに欲望からMorrisの娘であるHelenの裸を見るなど、さらなる罪に苦しみながら生きていくのである。このような迷惑な行為をされたMorrisは、2度程Frankを追い出した。結局Frankは、Morrisの下に戻って来てしまう。この2人はお互いに離れられない運命だったのだと思う。この時点から、MorrisはFrankのことを息子として、そしてFrankはMorrisのことを父親として見始めたのではないか。

 Morrisには、Ephraimという息子がいた。彼はもう既にこの世には存在しないが。

“ Morris was standing before the faded couch, looking out of the rear window at the back yards. He had been thinking of Ephraim.”(p. 5) “ Morris tried to hard to sleep but couldn’t and grew restless in bed. After another quarter of an hour he decided to dress and go downstairs, but there drifted into his mind, with ease and no sorrow, the form and image of his boy Ephraim, gone so long from him, and he fell deeply and calmly asleep.”(p. 10)

この二度にわたるMorrisのEphraimの思い出は、息子を亡くした父親の悲しみと、今もなお息子を探し求めている様子を表していると言える。一方幼くして父親を亡くしたFrankは、どこか父親的存在を求めていたと思う。そして、Morrisを父親として見なしていたのではないだろうか。だから、強盗に入った罪悪間があったからMorrisの店に戻って来たと思う。Frankは、Morrisと生活を共にすることによって、彼の正直な生き方に感銘を受けるが、その一方でレジからお金を盗んだり、店の物をこそこそと食べたりと以前と変わらないような行動も起こしている。しかし、確実にFrankの中で少しずつMorrisに惹かれ、自分自身が変わっていっているのは確かであった。Frankは、Morrisのお陰で成長したのである。

Morrisの店で無償にて働くFrankだが、Morrisの奥さんであるIdaが彼の事を気に入らない。年が若い分、覚えが良く、仕事が速いので助かるのは確かだが、彼女には、心配事があった。“But the most important is I don’t want him here on account of Helen. I don’t like the way he looks on her.”(p. 74) 娘HelenとFrankの関係を心配していたのである。どうして、こんなにもIdaがFrankを拒んでいたかは、明確である。彼がユダヤ人ではないからだ。ところが、Morrisは、そのような事を全く気にしないとは言えないが、Frankを追い払うというよりは、むしろ受け入れていた。“This I thought about also. I think I will take off from Nick’s rent upstairs a couple dollars and tell him he should give Frank the little room to sleep in.”(p. 73) このように非ユダヤ人であるFrankを暖かく受け入れたのは、Morrisの人間性以上にFrankに対する本能的な父親愛が、そこに働いていたことが分かる。

Frankが犯した罪を知っておきながら、Frankを受け入れ、例え貧しくても他人のために自分が苦しむといったMorrisの態度にFrankは苦しんだ。“A young man without a family is free. Don’t do what I did.”(p. 78) このように、苦労しながら、家族を支えてきた姿、何事に対しても正直なMorrisに自分が以前起こした強盗事件の事を隠すことができなくなっていた。

Morrisとの生活の中でFrankは、次のようなことを尋ねた。“What I like to know is what is a Jew anyway? ”(p. 117) 法を大事にするユダヤ人であるが、Morrisは、食べてはいけないハムを食べ、休日でもお店を開店している。“Sometimes,”Morris answered, flushing, “to have to eat, you must keep open holidays.”(p. 117) “Nobody will tell me that I am not Jewish because I put in my mouth once in a while, when my tongue is dry, a piece ham.”(p. 117) Morrisは、ユダヤ人が守らないといけない法を必ず守っているとは限らない。Morrisは、ユダヤ人の法以上にユダヤ人の心を非常に大切にしている。

“But they will tell me, and I will believe them, if I forget the Law. This means to do what is right, to be honest, to be good. This means to other people. Our life is hard enough. Why should we hurt somebody else? For everybody should be the best, not only for you or me. We ain’t animals. This is why we need the Law. This is what a Jew believes.”(p. 118)

この引用文は、「他人に対して正直、善良であれ。」ということを表している。自分が他人にやってもらいたいことを、他人にやりなさい!自分が相手のために苦しみ、さらに相手も自分のために苦しむのだ。ユダヤ人はこれをするために苦しめられるのだ。“If you live, you suffer. Some people suffer more, but not because they want. But I think if a Jew don’t suffer for the Law, he will suffer for nothing.” “I mean you suffer for me.”(p. 118) ここでMorrisが言いたいのは、ユダヤ人は苦しむ宿命にあるということである。Morrisは、Frankのことで苦しめられているのだ。つまり、Frankがお金を盗んでいると疑っていることである。実際、Frankが盗んだと分かっても、彼を追い出そうとはしなかった。ここに、どこか自分の息子を守るようなMorrisの父親としての愛情が伺える。この作品を通じて、自分で自分が分からないFrankは、本当の自己を認識する。“The thing you understand is I am not the same person I was once was.”(p. 188) これは、Morrisのお陰であった。MorrisはFrankのことをきちんと人として見てくれたのだ。

 ところが、Morrisが死んでしまった。これを機にFrankは、Morrisに転身するのである。“Frank, standing close to the edge of the grave, leaned forward to see where the flower fell. He lost his balance, and though flailing his arms, landed feet first on the coffin.”(p. 220) 墓穴に落ちたFrankは、Morrisの良心を持って、再び地上に這い上がってくるのである。つまり「生まれ変わり」である。Frankは、店主になり一家の生活を支えるのでる。また、Helenの学費を出すために休みなく働いた。Morrisの貧しい生活を受け継いだのだ。

 今までの事をまとめると、MorrisとFrankの関係は、父と息子の関係に値する。この父と子の関係があったからこそ、Frankは、成長出来たと思う。罪を犯しながら放浪を続けてきたFrankが、愛するHelenを大学に通わせるために懸命に働き、貧しいお店を背負うといった大きな目的を遂行するまでとなった。我を忘れて、他人のために尽くすといった、Morrisの精神を受け継いだのだ。このFrankの生まれ変わり、つまりFrankの内部に潜んでいた本質的な自己の発見が「The Assistant」のテーマである。この自己の発見は、FrankとMorrisの2人だけにしか分からない、父と子のお互いを思いやる気持ちから生まれた。人間は、努力すれば、自らの意志で良い方に変わることが出来る。Frankもその一人である。自我を忘れて利他的になること、それはMorrisがFrankに伝えたかったことなのだ。

参考文献

「自己実現とアメリカ文学」 町田哲司・片渕悦久 編 晃洋書房(1998年)

「現代アメリカ文学」 今村楯夫 研究者出版 (1991年)


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