Seminar Paper 2003
Maki Miyazaki
First Created on January 28, 2004
Last revised on January 28, 2004
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「FrankとMorris」
assistantからgrocerへ〜人間の成長〜
The Assistantのテーマを語るにあたって私が着目したいのは、息子を亡くした父親Morrisと孤児院で育った青年Frank、この二人の関係である。FrankとMorrisの言動、性格、感性には共通点がいくつか見られる。もっと正確に言うと、この物語を通してFrankがMorrisに似てきている。FrankはMorrisや他の周囲の人々との交流を通じ、最終的にMorrisの意思や価値観を引き継いでいると思うのだ。その共通点やFrankがMorrisから引き継いだものを明らかにしながら、この作品のテーマについて考えていきたい。
まず、彼らが持って生まれたもの、運命について見ていきたい。"He labored long hours, was the soul of honesty―he could not escape his honesty, it was bedrock"(p. 14)とあるように、groceryの店主、Morrisは正直者で働き者だ。しかし金にも運にも見放され、貧乏から抜け出せないでいるのも事実である。そして、そんな彼を娘のHelenは次のように述べている。"It was, she thought, surely a talent."(p. 14)才能、つまりそれは天性の生まれ持ったもの。言い換えれば、他人から見たら不幸だと思われるような人生を歩むことが運命として定められているということである。
"I've been close to some wonderful things―jobs, for instance, education, women, but close is as far as I go....Don’t ask me why, but sooner or later everything I think is worth having gets away from me in some way or other. I work like a mule for what I want, and just when it looks like I am going to get it I make some kind of a stupid movie, and everything that is just about nailed down tight blows up in my face....With me one wrong thing leads to another and it ends in a trap. I want the moon so all I get is cheese."(pp. 32-33)Frankは全く運がないというわけではない。しかしながら、運に近づくと、何か馬鹿なことをして台無しにしてしまうというのが彼の性だという。一生懸命働き、誠実であっても運に見放されているMorrisとは少し異なるものの、自分の求めるものが手に入らないという点では共通していると思う。そして自分の理想とははるかにかけ離れた、むしろ対極にあるともいえるような結果になるのである。Morrisは薬局を開くために勉強をしていたし、Helenを大学へ行かせてあげたいという考えを持っている。しかし現実は"dark tunnel"(p. 2)、"prison"(p. 30)のような貧しいgroceryを経営し、娘を大学に行かせるどころか、彼女が仕事をして稼いだお金を生活費にあててもらい、罪悪感すら抱いている。物語の後半でMorrisの運は一時好転したかのように思われたが、店が売れると思った矢先に彼を待ちかまえていたのは死という結果であった。Frankはその貧しい店でassistantとして働き、最終的にはその店を継ぎ、Helenを大学へ行かせてあげることになる。もっともFrankの場合は自分で選んだ道でもあるが。いずれにせよ、FrankはMorrisの意思を引き継いだのである。 このような運命を背負った彼ら2人はたどってきた人生(そしてFrankがMorrisの死後たどるだろう人生)にも共通点がある。新しい生活、人生を求めてロシアの軍隊からアメリカへ逃れ、groceryを開いたMorris。他方で、より良い仕事を求めて西部からやってきたFrankは将来自分の店を持ちたいと考えている。そんなFrankにMorrisは自分の姿を照らし合わせ、また幼くして亡くなった我が息子のEpraimを重ねていることがうかがえる。"A young man without a family is free. Don’t do what I did."(p. 78)というMorrisの言葉はそれを明確にしていると思う。彼は自分の人生に後悔しており、Frankには自分の人生を歩んでほしくはないだ。それは息子を想う親心ではないだろうか。そしてMorrisは見ず知らずのイタリア系青年を店に置くのであり、親切にするのである。この頃から、MorrisとFrankが親密になり、父と息子という親子の関係が作品中に垣間見られるようになる。"The grocer got along well with his assistant."(p. 75)という文で、これまでclerk、helperだったFrankに対して、ここで初めassistantという言葉が使われていることからもわかるだろう。 次に、"suffer"という言葉に着目したい。この作品には"suffer"という単語が多用されている。"The world suffers. He felt schmerz."(p. 4)というMorrisの言葉があるが、この"suffer"がMorris、そしてユダヤ人の物事に対する考え方の基盤となっているものだと私は考える。世界が人を悩ませているのであり、彼らは常にその苦労を抱え、苦しみながら生きていくのである。また、他の場面では "If you live, you suffer. Some people suffer more, but not because they want. But I think if a Jew don’t suffer for the Law, he will suffer for nothing....I suffer for you." (p. 118)と彼は言う。ユダヤ人であるMorrisは律法(Torah)を重んじる。そして他人のために苦しむのである。そんなユダヤ人をイタリア系のFrankは批判的な目で見ている。 That’s what they live for, Frank thought, to suffer. And the one that has got the biggest pain in the gut and can hold onto it the longest without running to the toilet is the Jew. No wonder they got on his nerves.(p. 82) "To be truthful to you, Morris, once I didn’t have much use for the Jews....But that was long ago,...before I got to know what they were like. I don’t think I understood much about them."(p.118)これらの部分はそれがよく表れているといえる。重い病気を患っているにもかかわらず、働きつづけているAl Marcusと貧しい行商人として苦労しながら生活するBreitbart。Morrisを含め、苦しみを抱えて生きるユダヤ人がFrankにとっては気に障り、嫌悪感さえ覚えているようにみえる。しかし、彼は次第にユダヤ人に対する見方が変わっていく。MorrisやHelenとの交流を通じて、Frankは徐々にユダヤ人のこと考え始め、単なる外見だけでなく、内面にも目を向けていくことになる。 He read a book about the Jews, a short history....one day he checked it out to satisfy his curiosity. He read the first part with interest, but after the Crusades and the Inquisition, when the Jews were having it tough, he had to force himself to keep reading....He also read about the ghettos, where the half-starved, bearded prisoners spent their lives trying to figure it out why they were the Chosen People. He tried to figure out why but couldn’t. He couldn’t finish the book and brought it back to the library.(p. 181)今までは見過ごしていたユダヤ人についての本をある好奇心から手にとったが、それを全て読み終えることは彼にとって苦痛だった。苦しんでいるにもかかわらず、Chosen Peopleとしての運命を受け入れるユダヤ人の考え方は彼にとって理解しかねた。しかし、この本を読むという行為は、彼がユダヤ人について考え始めたことを意味しているといえる。Frankの中で何らかの心境の変化があったことになる。 それが明らかになってくるのがMorrisの死後である。FrankはMorrisの意思を継ぐべく店を切り盛りし、Helenを大学に行かせるために寝る暇も惜しんで働き、彼自身が"suffer"することになる。そしてMorrisのように他人のために生きることを選んだFrankは、最終的に割礼を受け、ユダヤ人になるのである。この点でもMorrisと類似し、継承しているといえる。 第3に、St. Francisに注目したい。FrankにとってSt. Francisは唯一の尊敬すべき人物であるが、彼の名前も作品中に多く登場する。そして彼の像はしばしばMorrisとFrankに重ねられるのである。例えば、 When the man rose, the pigeons fluttered up with him, a few landing on his arms and shoulders, one perched on his fingers, pecking peanuts from his cupped palm.Another fat bird sat on his hat. The man clapped his hands when the peanuts were gone and the birds, beating their wings, scattered.(p. 112)このFrankの描写は"His skinny, hairy arms were raised to a flock of birds that dipped over his head"(p. 27)というSt. Francisの描写を連想させる。また、"He found two quarters in his pocket and left them on the table"(p. 199)というMorrisの描写は貧しいことを愛し、自分の財産全てを貧しい人に与えたという献身的なSt. Francis像を彷彿させる。しかも、FrankもMorris同様の行為をしているのである。彼もまたお金の取立てに行った際、ひもじい思いをしている子供達を見て、お金をあげたのである。ここでもまた、Frank=St. Francis=Morrisという式が成り立つのである。HelenはMorrisについてこのように考えている。"He was no saint; he was in a way weak, his only true strength in his sweet nature and his understanding."(p. 219)しかしFrankにとっては、盗みを働いた自分のことを想い、息子同然に扱ってくれたMorrisは第2のSt. Francisであり、尊敬すべき人であったのかもしれない。
そして第4の着目点は"coffin"である。"his descent into Bober’s grave marks Frank’s death as an uncommitted wanderer and his rebirth as Bober’s spiritual son"(Peter L. Hays, The complex pattern of Redemption, pp. 221-222)ともあるように、葬式でバランスをくずしてMorrisの棺に落ち、そこから這い上がるFrankの姿は、Morrisの生まれ変わりとしてよみがえったことを暗に表している。
この作品のタイトルはThe Assistantである。Assistantとは一体何を表しているのだろうか。これは一つだけの意味に限定することはできない。Groceryの点から考えると、MorrisのAssistantがFrankということになる。また、強盗に入った時のFrankはWardのAssistantであるともいえる。しかし、逆のこともいえる。物語を通してMorrisはFrankの成長をassistしたAssistantであったではないか。そして、最終的にMorrisの死後、生まれ変わったFrankは初めて"grocer"となるのである。何も分からない青年Frankは、Morrisとの親子ともとれるような交流を通して、他人のために苦しい思いをすることを学ぶ。人生は思い通りにいかないことも多い。理想とは違う現実にあったとしてもそれを受け入れ、誠実に生きることも一つの生き方である。この作品はそんなことを伝えてくれているのかもしれない。 |
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