Seminar Paper 2003

Kanako Suzuki

First Created on January 28, 2004
Last revised on January 28, 2004

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The Assisatantの女性たち」
〜いつでも変わらぬ女性心理〜

    今回私は、@The Assistantの主要な女性の登場人物と作者Malamudが持っている女性観、AMalamudの女性描写は類型的すぎていて、女性の描写が下手で本当の女性を描写していないという批判、について考えていきたいと思う。 The Assistantの主要な女性の登場人物は、主人公 Morris Boberの妻 Ida Boberとその娘 Helen Boberである。
    第一章において、まず初めに登場するのがIdaである。彼女は嚊天下な所があり、店が上手くいかない事でいつも夫Morrisに文句を言っている。MorrisはそんなIdaに頭が上がらない。
    IdaはMorrisについて

She shared unwillingly the grocer’s fate though she did not show it and her dissatisfaction went no farther than nagging ― her guilt that she had talked him into a grocery store when he was in the first year of evening high school, preparing, he had said, for pharmacy. He was, through the years, a hard man to move. In the past she could sometimes resist him, but the weight of his endurance was too much for her. (p. 6)
と考えている。娘Helenに対しては、ユダヤ人で学歴のある男性と早く結婚し、幸せになって欲しいと願う。法律学校に通い、学歴のあるNat Pearlという男とHelenを引き合わせようと奮闘する反面、HelenがFrankと付き合うことに大反対している。それは、Idaが結婚に関して宗教の違いを気にしているからであり、Helen=Jewish、Frank=Italianであるからだ。母親の影響によるものか、HelenもまたFrankに対して、“Don’t forget I’m Jewish. ”( p. 115 )と自分がユダヤ人であることを強調している。
また、本ばかり読んでいてあまり外出しないHelenについて、彼女は“What are you already, Helen, an old lady? What good is to sit so many nights alone upstairs? Who gets rich from readings? What’s the matter with you? ”( p. 104 )と忠告している。
    作者の考える母親像は、私達の考えるそれと変わりないように思われる。母親というものは何かしら夫に不満を持ち、自分の娘には将来有望な男性を見つけ、早く幸せになって欲しいと願うものだろう。作者の描く母親像に私はとても親しみを感じる。Idaはまさに私達の考える母親像そのものだろう。
次に登場するのが、Idaの娘Helenである。Helenは23歳という若さにもかかわらず、人生に対してすでに希望を失っている。下着メーカーで秘書をし、毎朝同じ時間に出勤しては五時になると帰宅する。そんな同じ事の繰り返し、代わり映えのしない毎日に嫌気を感じている。本当は教師や社会に貢献するやりがいのある仕事をしたいが、父親Morrisの売れないお店の稼ぎでは暮らしていけない為、自分の夢を諦め、秘書として日々働いている。彼女はまた、恋愛にも独自の信念を持っている。昔Natと付き合っていたが、別れてしまう。その事を、
She had wanted, admittedly, satisfaction, but more than that ― respect for giver of what she had wanted, simply, a future in love. Enjoyment she had somehow had, felt very moving the freedom of fundamental intimacy with man. Though she wished for more of the same, she wanted it without aftermath of conscience, or pride, or sense of waste. So she promised herself next time it would go the other way; first mutual love, then loving, harder maybe on the nerves, but easier in memory. (p. 12)
と振り返っている。
    周りの友人達は次々と結婚していき、自分だけ取り残される。大学を出た人達を羨み、自分が成し遂げてきた事のちっぽけさを恥じている。級友であるKarpとの会話の中でHelenは「自分にはもう若さがなく、毎日の生活に何も喜びを感じない。」と言っている。そして、Karpの“‘What do you wanna be―Miss Rheingold? ’”( p.39 )という問いに対し、彼女は“‘I wanna a larger and better life. I want the return of my possibilities. ’”( p. 39 )と答え、欲しい物は「教養」と「可能性」だと言っている。また、「人間はあっけなく死んでしまうものであるから、生きることには何か意味がなくてはならない。」とも話している。
    Karpは会話の後半で、「人は妥協しなければならない。」とHelenに言うのに対し、彼女は「自分は理想を変えたくない。」と頑固な一面を見せる。 また、本当にその人を心から愛していると確信するまで、おそらく結婚するまで、男性と寝ないと心に決めている。Frankが何度となく求めても、Helenは決して彼に身を捧げなかった。
    HelenはFrankに、
“I said I slept with somebody before and the truth of it is, if you want to know, I’m sorry I did. I admit I had some pleasure, but after, I thought it wasn’t worth it, only I didn’t know at the time I would feel that way, because at the time I didn’t know what I wanted. I suppose I felt I wanted to be free, so I settled for sex. But if you’re not in love sex isn’t being free, so I made a promise to myself that I never would any more unless I really fell in love with somebody. I don’t want to dislike myself. I want to be disciplined, and you have to be too if I ask it. I ask it so I might someday love you without reservations. ”( p. 132)
と自分の気持ちを語っている。
    23歳という若さにしてこのような人生の考え方をしているHelenの気持ちは、同年代の私にもあまり理解しにくい。しかし、もしも自分が彼女の様な環境に生まれてきたならば、同じように人生を考えてしまうかもしれない。今の世の中で、彼女のような深い考えを持っている女性がどれ位いるだろうか。多くの若い女性は恋愛・結婚・未来に希望を持っているはずであり、付き合っていれば結婚する前でも自然と成りいきで一緒に一夜を共にすることもある。彼女の様な境遇でなければ、作者の考える若い女性像は単に古風なお堅いものと思われるだろう。Helenの気持ちはなかなか理解しにくい。しかし、作者は女性の深い心理を的確に捉えていると思う。
    第四章では、図書館でFrank とHelenが初めてコンタクトを取る。大学へ行こうと考えているFrankに対し、Helenは徐々に興味を持ち始める。
    第五章では、Frankが大学へ行こうかと考えていると聞き、Helenは自分の好きな小説を三冊Frankへ貸す。彼女が渡した本から、彼女の考え方がうかがえる。
Madame Bovaryという本では、主人公の女性が死ぬという結末で終わる。 Anna Karenina という本では、これもまた主人公の女性が自殺して終わりを迎える話である。Crime and Punishment という本は、ある青年が世界との断絶感に陥り、老婆を殺してしまう。しかし、一人の売春婦によって救われ、生の喜びを再び取り戻すという話である。
    これら三冊の本に共通するのは、人間の惨めさ・弱さ・孤独である。Helenはいつも好んでこの種の本を読んでいた。
    前の章で、このようなHelenとFrankの会話があった。
She noticed the book he was carrying. “What are you reading? ” He showed it to her. “The Life of Napoleon ? ” “That’s right. ” “Why him? ” “Why not―he was great, wasn’t he? ” “Others were in better ways. ” “I’ll read about them too, ” Frank said. “Do you read a lot? ” “Sure. I am a curious guy. I like to know why people tick. I like to know the reason they do the things they do, if you know what I mean. ” She said she did. He asked her what book she was reading. “The Idiot. Do you know it? ” “No. What’s it about? ” “It’s a novel. ” “I’d rather read the truth,” he said. “It is the truth. ”( p. 91)
    小説は真実ではないと言うFrankに対し、Helenは小説には真実が書かれていていると言う。Helenは人間の惨めさやはかなさ、人間の内面的なものについて書かれた真実の本が好きなのだ。
    この章の後半で、HelenはNatから電話でデートの誘いを受ける。その会話でNatは、
“You’ve got some old-fashioned values about something. I always told you you punish yourself too much. Why should anybody have such a hot and heavy conscience in these days? People are freer in the twentieth century. Pardon me for saying it but it’s true. ” She blushed. His insight was to his credit. “My values are my values, ” she replied. (p. 103)
とHelenを非難している。今の時代に、このような重苦しい自制。Natにこう言わせた事は、作者自身もHelenは現代の若い女性にしては古風で時代遅れの価値観を持っていると考えているのではないだろうか。
    第六章では、Helenの人生観に変化が起こる。彼女はユダヤ人として育てられ、ユダヤ人であることに誇りを持っていた。Idaが考えるように、ユダヤ人以外の男性と結婚するということは想像したことがなかった。しかし、Frankに出会った事によって彼女の考え方は徐々に変わっていく。宗教の違いはそんなに大事なものなのかと。
    現代社会においても、同じような問題は起こりえる。男と女が結婚する時、やはり国籍・家柄というものは重要視される。国が違えば文化が違う。由緒正しい家柄の娘であれば、親の決めた由緒正しい家柄の許婚がいるものだろう。Helenが悩んでいる問題は、今の私達の社会にも大いに当てはまる。
    Helenは、これからの自分の未来について、
She postponed making any important decision. She feared most of all the great compromise―she had seen so many of the people she knew settle for so much less than they had always wanted. She feared to be forced to choose beyond a certain point, to accept less of the good life than she had hungered for, appreciably less―to tie up with a fate far short of her ideals. (pp. 126-27)
と、依然として妥協することを恐れている。
以上のような作者の女性の描き方を見てみると、私は、Malamudの女性描写が類型的であるという批判について賛成である。確かに作者の描くIdaは娘の結婚を心配し、夫に小言を言う典型的な母親であると思う。Helenに関して言えば、やや古風で時代遅れの考え方をしているものの、自分がその環境に置かれれば彼女のようにならざるおえない気持ちも分かる。
    しかし、Malamudは女性が下手で本当の女性を描写していないという批判については反対したい。作者は女性の気持ちを理解し、女性の心理を捉えていると思う。女性の気持ちを理解しているからこそ、類型的な女性を描く事が出来るのであり、私は作者の女性描写が下手だとは決して思わない。
いつでも変わらぬ女性の心理。MalamudはThe Assistantの中でそれを巧みに描いたと思う。


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