Seminar Paper 2004

Atsuko Furusawa

First Created on January 27, 2005
Last revised on January 27, 2005

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A New Life の女性たち
Levinを悩ませる4人の女性たち

    A New life の中で主人公Levinは様々なタイプの女性たちと出会うが、作者Bernard Malamudはこの物語の中で彼女たちをどのように扱っているのだろうか。ここではLevinと関係を持ったLaverne、Avis、Nadalee、Paulineの4人の女性をそれぞれ分析してみることにした。

    まずLevinが新学期の前にシリア人留学生Sadekと立ち寄った酒場のウェイトレスであるLaverne。途中でSadekの邪魔が入るためLevinは結局彼女とはうまくいかなかったが、納屋の中で二人はこんな会話をしている。

“Your breasts, ” he murmured, “smell like hay. ”
“I always wash well, ” she said.
“I mean it as a complement. ” (p. 81)

    この会話は、この二人の性格、価値観の違いを最も良く表していると言える。Levinは納屋を “My first barn”(p. 80) などと表現して、ロマンチストな側面を見せているが、Laverneの方は彼よりも現実的でしたたかなところがあると言えるだろう。

    次にAvisだが、彼女はこの物語の中で実に複雑な男性遍歴を持っている。以下はLevinがAvisの部屋で見つけたLeo Duffyからの手紙である。

The first, dated 18 October, 1948, read: “Dear Avis―I am most grateful for last night. Yours, Leo. ” The second, 3 April, 1949, said: “Dear Miss Fliss: I’ll thank you to keep your nose out of my business. Leo Duffy. ” (p. 321)

    この2通の手紙から、AvisとDuffyが深い仲であったことがわかる。そしてAvisの呼称が1通目は “Dear Avis” だったのに対し2通目は ”Dear Miss Fliss” になっていることから、この2通の間にDuffyのAvisに対する気持ちがなくなったのが読み取れる。Avis自身はLevinに“貞節を守った”と話しているが、1通目の内容から考えると、本当にそうだったのかは謎である。彼女は世話になったGilleyに好意を抱くが彼には不満ばかり言う妻がいて、やがてDuffyに惹かれるようになるがDuffyまでもGilleyの妻Paulineに誘惑されて失う。またLevinとは詩を読んだりしていい雰囲気になるが、胸のことでLevinに “poor dame” (p. 133) と表現されたのにもかかわらず、後にこう言うのだ。

“Mr. Levin―I mean Seymour―I shan’t allude to this again, but I do want you to know I am most sincerely grateful to you for―for your self-control that time. It isn’t often a gentleman will assist a lady to preserve her virtue. ”
Levin laughed badly. (p. 261)

    何と痛々しく前向きな捕らえ方だろうか?そして彼もまたLevinに横から持って行かれてしまう。そしてそんな彼に対し、またこんなことを言っている。

“I was thinking of no more than the welfare of our department, as I’ve said. If you knew Dr. Fabricant as well as some of us, you’d understand he is not the most suitable person for head of department. He may indeed be a scholar, and I personally have nothing against him, but he’s barely civil to other people. I’m not asking you to support Gerald―I wouldn’t presume to―however, I thought it wasn’t fair for you to go around with a wrong impression. ” (p. 264)

    もちろんこの時点でもまだLevinに感情はあるのだろうが、ここまで来てしまった彼女に最後に残るのはやはりGilleyへの愛なのである。彼女はこの物語の大きなテーマの一つである“愛”を求めるが得ることが出来ない、ある意味登場人物の中で最も“不幸”な女だと言えよう。

    NadaleeはLevinの生徒で、他の学生達とは違い銀行で勤務した経験があり、服装も大人びている。研究室で自分の胸をLevinの腕に押し当てたり、しきりに親密そうに話しかけたり、香水を匂わせるなどして、それがLevinをひきつけたのだろう。彼女の性格の特徴は、Levinが彼女の評価をCにしたことに異議を唱えたときに表れている。

Now she tells me.
“I can’t do it, ” Levin sighed.
“Doesn’t how close we once were mean nothing at all to you? ” Nadalee asked.
“It does, but not to make me dishonest.”
She looked at him bitterly. “Weren’t you dishonest in sleeping with me? ”
“How so?”
“To your obligations?”
“Yes.”
“Then would it make you any more so to raise my grade just a teeny, to a B minus?”
“Yes.”
Her eyes brimmed. He found her a tissue but she flung it away, shot him a cold look, and left the office. (p. 159)

    NadaleeとしてはLevinと懇ろな仲になったのだから、当然良い評価をもらえると思っていたが、Levinはそれとこれとは別で、採点は公正にしたいと考えている。また物語後半で彼女は自分の婚約者となった学生にLevinとの事を暴露してしまっているなど、ちゃっかりした面も見せている。

    最後にLevinの上司Gilleyの妻であり、最終的にLevinと結ばれるPaulineである。彼女は前に挙げた3人の女性たちよりもさらに強烈な人物である。Paulineの夫であるGilleyは、物語の後半で彼女のことをこう言っている。

“I’ve already told you she is never contented, but I don’t think you understand what that means. She was born dissatisfied, as some people are―Fabrikant comes to mind, and I could mention others―or maybe she was brought up that way.” (p. 352)

    GilleyはPaulineが生まれつきの不満屋で、家事もへたくそ、自分を過大評価し、いつももっと良い自分になりたいと訴え、彼が彼女の良さを引き出せていないことを責めるような女だと言う。そしてGilleyに思いを寄せるAvisは、Paulineのことを、”’She strikes me as the sort of person who can’t always be depended on to strengthen a man’s rear when he’s on the march.’” (p. 128) と批判している。

    確かにAvisがそう言った少し前に、LevinがGilley夫妻の家に連絡なしに立ち寄ったとき、こんな事件も起きている。

Gerald and Pauline facing each other across a table loaded with dirty dishes.
“We’ve got to get started entertaining again,” he was saying with emotion. “It’s hurting me in the department.”
She was grabbed the butter dish and flung it at the wall. (pp. 126-127)

    ここでは突然の来客に気付かないPaulineがLevinの前に下着姿で降りて来てしまい、恥をかいた彼女が「選挙活動のため」にLevinを上げてしまったGilleyに腹を立てるシーンである。良妻賢母を求める政治家であるGilleyには、彼女のようなタイプは確かに相性が悪いと言えるだろう。

    恋愛に関して言えば、彼女は実にわかりやすいやり方でLevinの気を引いている。Levinが風邪で寝込んでいるときに薬や本などを持ってやってきたPaulineは、突然 ”’The children aren’t our own,’” (p.165) ともらす。更にその後Bullockの家でのカクテルパーティの後で、酔ってLevinに家まで送らせ、子供をほったらかし、”I married a man with no seeds at all.” (p. 193) と夫の欠点まで告白してしまう。こうして夫はあるが報われない孤独な妻の一面を見せ、Levinは深みに嵌っていくのだろう。

    もちろん本人は悪気があってこんなことばかりしているわけではない。以下はLevinとPaulineが初めて関係を持った森の中で交わした会話である。

“I sensed it. I knew who you were.”
“I felt a new identity.”
“You became Levin with a beard.”
“What was new were my plans for myself.”
“I won’t interfere with them,” she said fervently. “We shan’t meet again.” (p. 202)

    彼女はLevinの新しい生活への決意を聞き、もう二度と会わない方がいいと提案する。そう言っただけで、結局2人は心の誘惑に勝てずその後密会することを続けているのだが、Paulineにとってはかなり悩んだ末のことだったのだろう。彼女の行動は考えも浅はかで、夫がいるのにも関わらず未婚男性を誘惑するという倫理に背く行為だが、彼女のその、人間なら誰でも持つ弱さや苦悩を見ると、共感せずにはいられない。

    Malamudの女性描写は類型的過ぎるという批判もあるが、確かにFairchildやGilleyといった癖の強い男性登場人物達と比べると、田舎の女らしいLaverne、可哀想なオールドミスのAvis、都会じみてませたNadalee、寂しい人妻のPaulineと、ありふれた単純な個性のようにも感じる。しかしそのどこにでもいるような単純な描写が、かえってリアルに感じられ、私たち読者は共感を持ち、親しみを覚えられる愛すべきキャラクターだと感じられるのではないだろうか。


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