Seminar Paper 2004

Miyuki Hirai

First Created on January 27, 2005
Last revised on January 27, 2005

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LevinとGilley
彼らの価値観

A New Lifeは、元高校講師のLevinが新しい生活を求めて北西部のCascadia大学にやってくる物語だ。そこで彼はGilleyという教授の下で英作文の講師として働くことになった。そしてその妻Paulineと不倫関係に陥ることになる。Levinは大学での仕事や同僚とのかかわりの中で何を得たのか、新しい人生をはじめることは出来たのだろうか。Gilleyとの関係を中心に見ていきたいと思う。

 まず、二人の性格から説明していこう。S. Levinは、ひげをはやし、疲れていて寂しそうな風貌の30歳の独身男性。NYから田舎の町、Cascadiaにやってきた。都会とはかけ離れた生活の中で、不便さや寂しさを感じつつも、自然やそこでの暮らしに感激することが多々あった。リベラルアーツに傾倒し文学を教えたいと願っていたが、間違った大学に応募してしまったドジな一面をもつ。昔大酒飲みだったからか、あまり自分の過去を語りたがらない。一方、GilleyはCascadia大学英語学科で密かに学科長の座を狙う、野心家だ。社交的な性格で、ほかの講師たちをまとめている。Paulineという年下の妻と2人の子供をもつ45歳。自然の中での釣りや狩り、山歩きが趣味のアウトドア派だ。若い頃は論文が学術誌に掲載されたり、熱心に研究したりと学者らしかったが、今では自然の方に心を奪われ、執筆活動をしていない。

 @出会い:この対照的な二人が出会ったのは、Levinがマラソンの駅に到着した日だ。Gilley夫妻は彼を迎えにやってきた。“They [Gilleys] stared at Levin …. the man almost in alarm.”(p. 3) 彼は初対面のLevinに驚いた。何かありそうな雰囲気だ。その後Gilleyの家で、彼をもてなすのだが、歓迎しつつも密かに様子を観察していたり、どこか見張っているようなところがあった。そして同様にLevinも彼の様子を窺っていたりと、ギクシャクした感じがあった。

 AGilleyの作戦:Cascadia大学で、Levinは新人なのに教授たちと同じ階の個室を与えられた。夢が叶ったと感激していたが、次期学科長選挙で自分を味方につけるために、色々なものを用意してくれたり、息抜きにとドライブや釣りに誘ったりと、やけに親切にしてくれていたことに気付いた。そして、英語学科には改革が必要だと説き、協力を促したのだった。Levinは彼のビジョンに同調したが、自分の採用にcampus politicsが絡んでいたことを知り、がっかりもした。

 Levinが大学での仕事に慣れてきた頃、Nadaleeという女子学生と恋愛関係になった。学期末の成績をつけ終わったある日、彼女がC評価をつけられたことを反論しにLevinのオフィスにやって来た。彼はどうしても変えられないと説明したが、関係をもってしまった罰としてCをつけたのだろうと彼女は詰め寄った。Levinはたとえ学生の家庭事情に同情したりかわいそうに思ったりしても、成績を変えることは出来ないという確固たる信念をもっている。しかし、彼女とのことを口外されると、せっかくつかんだキャリアを失うことになり、思い悩んだ。そして、もう一度採点し直してみると、実は足し算ミスだったことがわかり、彼女をBに繰り上げ出来ることになった。その後さらに4人のエラーが見つかり、3人訂正しなければならず、訂正カードにGilleyからサインをもらう時、彼は怒り、呆れていたが、2人は上げて、成績を下げる者に関しては、なかったことにしようともちかけた。さもないと、学長に知れ、泣くことになると脅すのだった。

Levin, mopping his face, answered, “I would show him [president] the evidence.”
“It would still reflect on our good name.”
“Still, if two changes are going to be made, why not the third? It’s only logical.”(p. 161)
そしてGilleyは渋々了承するのだが、ここにGilleyの日和見主義のような、問題を大きくならないうちに解決してしまおうというずるさや、保身のための世渡り上手さが表れているといえる。一方、Levinには正しいことをしたいという誠実な面がある。そもそも彼が文学を志し教師になったのは、苦悩の日々から脱出し、高潔な男になったからなのだ。

 新学期にLevinのクラスから数人がいなくなっていた。LevinがGilleyに確認すると、別のクラスに移したという。彼は、学生が教師とうまくいかないときは、二人を引き離すのがベストな方法と考えているのだ。しかし、Levinは学生の態度や自分に敬意を払わないことが問題であり、まずは自分と話し合った上で対策をとってほしかったと不満を抱いた。この頃からLevinとGilleyの考えの相違が見えてくる。 

ある時、Levinが担当する英作文のクラスでAlbertという学生に盗作疑惑が浮上した際、彼らの価値観の差が際立ってくる。他の講師も手伝い、盗作の原本を探すが、どうしても見つからず、Levinは証明するのを諦めてしまった。

“In that case, why don’t you leave his paper with me and I’ll give it some more attention in a day or two?”
“Thanks, Gerald, but the case is closed.”
“What grade did you give him?”
“An A.”
“Are you crazy?” Gilley stared at him sternly.
Levin was startled. Yet when he looked again, the director of composition was smiling.(p. 176)
ついつい本当の気持ちが出てしまい、厳しい表情になってしまったGilleyだったが、次に彼を見ると笑顔だったというところに象徴されるように、実際GilleyはLevinに嫌気がさしているのだ。しかし彼は、そこで終わらせなかった。“An hour later he met Gilley, in good humor, in the men’s room. ‘Sy, something a lot more pleasant. Pauline asked me to invite you to dinner for Friday night. Can you make it?’”(p. 177) 

成績訂正や盗作のことで、険悪になってしまったLevinとの関係を修復しようというGilleyの企みがあった。彼のしたたかさが最も表れている部分だと思う。以前GilleyがLevinの生徒を勝手に別のクラスに移したように、今回もAlbertをそうした。Gilleyは、学生が頼みに来たからだと説明したが、Levinとの関係はどんどん悪化していく。

“Don’t you see you are destroying my authority?”
“….I respect your point of view but it’s psychologically a bad thing to have a kid in the class of an instructor he says he hates. The student shows his disrespect in his attitude. He might spread all kinds of rumors or lies about you and it would be bad for class morale.”(p. 178)
彼らの学生に対する姿勢や考え方の違いから、ついにLevinは“This man is my enemy”(p.178)と、Gilleyの下では自分のしたいことが出来ないことに気付き、敵としてみなすようになる。

 さらに、女子学生の父親からテキストのある部分について抗議をうけたことに対しての二人の対応から、理想主義的なLevinと、現実的なGilleyの対立が顕著になる。“My policy with complaints is to hear them out, not antagonizing anybody further.”(p. 225)とあるように、Levinは文学的に価値があるのだから見直すことはない、しかし、不満を聞き入れ、対立することを避けるという理想主義的な傾向がある。それに対してGilleyは、とても現実的だ。“The reputation of an institution of higher learning is sacred. That’s why I did everything I could to pacify the man instead of antagonizing him, as you suggested.”(p. 226) 敵に回すよりも鎮圧するという考えをもっている。州立大学だから予算などが心配なのだ。このように、教育に対して信念をもっているLevinと、学生や教師たちをうまく管理し、教育以外の部分にも目を配り、問題が大きくならないようにテクニックとしての教育に長けているGilleyの関係は確実に険悪化していく。

 B選挙での敵対関係:険悪ムードになった二人をさらに敵対させることが起こった。Levinは同僚のオフィスでアスリート関係の資料を見つけた。そこには、運動ばかりしている学生が単位を取りやすい教師のリストだった。その存在をGilleyにつきつけると、シラをきり続けた。Levinは、学生を平等に見ているため、運動の出来る学生の勉強だけを大目に見るのは間違っていると考えている。そしてGilleyは、アスリートのお陰で地域の住民も楽しめ、寄付も集まるので大切な存在であり、感謝しなければならないのだとLevinに説く。ここでも彼の現実的で実用的な教育観が表れており、世間体や評価ばかり気にしていて、学生を第一に考えていないことが窺える。

 そんなGilleyに嫌気がさしたLevinは、次の選挙で彼ではなく、対立候補のDr. Fabrikantを支持すると告げた。彼は自分を支持してくれるものと思っていたため、ショックを受けた。Levinを味方につけるために親切にし、気に入らないことにも目を瞑ってきたのに、完全に裏切られたのだ。そしてこれまでの恩や、大学のことをどれだけ知っているのか、NYの目で馬鹿にしていると批判し、学生や同僚に対する忍耐弱さなどまで非難した。しまいには、Gilleyが選挙に勝ったらLevinの居場所はなくなるとまで告げたのだった。

 Fabrikantを支持していたLevinだったが、自分が思い描いていた彼と実際の彼は違っていたことに失望し、支持をやめてしまった。そして、選挙にインストラクターでも出馬できることを知り、LevinとGilleyは本当に敵同士になってしまった。

 その後、選挙では結果的にGilleyが勝利し、LevinのPaulineとの不倫も知られてしまったこともあり、大学を去ることになった。そしてPaulineとの人生を選んだLevinが彼女に頼まれ、子供を引き取るため、Gilleyを訪ねるところで、これまでの二人の関係がしばしの間、逆転したように思う。二人は上司と部下という仕事上の上下関係だったが、選挙という権力争いを境に、本格的に敵同士となり、Paulineという女性を挟んで、立場が少し変わってきた。私がこの小説でいちばん気に入っているのはこの場面だ。“Why did you have to pick on me? I’ve worked doggone hard in my life and don’t know why I shouldn’t be allowed to live in peace with my wife and kids and enjoy the fruits of my labor.”(p. 351) これまで威厳を保っていたGilleyが初めて弱音を吐いた。しかも、自分の妻を奪い取った部下のLevinに対してだ。そして、こうも言っている。“I can’t blame you entirely, I suppose. I know darn well it wasn’t all your fault.”(p. 351) そして彼は、妻や子供のことを事細かに説明し始めた。 Paulineにはたくさん欠点があり、感情の起伏が激しく、自分でないと扱いきれないことや、忍耐強くないと彼女とはやっていけないこと。また、ずっと若くはいられないということなどを切々と話し続けた。わたしは、こうしてアドバイスをするようなふりをして、実はGilleyは、どんなに彼女が面倒な女性でも、愛しているからどうか自分から奪わないでくれと頼んでいるようにも感じた。思いとどまってほしいと願っているのだ。しかし、結局Gilleyは、今後大学での仕事を諦めれば子供を引き渡すという、Levinにとって究極の条件を突きつけ、それを受け入れる結果になった。

 これまで、二人の関係をいくつかの出来事や問題を通して見てきたが、LevinはCascadia大学に来てから、Paulineとの新しい人生を選択するまでに何を見つけ、何を得たのだろうか。Levinが探していた"a new life"とはこのようなものだったのだろうか、私には疑問が残る。作者はLevinのような生き方もあるということを示したかったのかもしれないが、不倫という道徳的に間違っている状態のまま、物語が終わってしまったことが少し残念だった。悲観的だが、この小説を通して、結局人は根本的に変わることは出来ないと言っているようにも感じた。確かにLevinは仕事やCascadiaの自然から学んだことはあったと思う。しかし、女性へのだらしなさや、ズルさは変わらなかった。また、Gilleyは最後にLevinとPaulineを許したのかどうかわからないが、“Got your picture!”(p. 367)に私は晴れ晴れしさを感じた。そこにはLevinのような人生を認めてはいないかもしれないが、受け入れたGilleyがあったように思う。そしてふたりの関係は、過去にこだわらず同等になったような気がした。


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