Seminar Paper 2004
Rie Ikenoue
First Created on January 27, 2005
Last revised on January 27, 2005
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Levinの多面性
多面性と新しい生活
Levinは学科内の改革において芯の通った理想を持っていると思えば反道徳的なことをしてしまったり、慎重に色々考える割にドジな失敗をおかしてしまう。そんなLevinの多面性について論じていきたいと思う。 1. 理想主義
Levinは赴任当初、おとなしくしていたが次第に学科の改革をしたいと考えるようになる。作文主任であるGilleyは文学に対して熱心ではなく、むしろ学科長になることに興味をもっていて、改革よりも学科内の和や世間体を気にする現実主義者である。そんなGilleyとは反対にFabrikantは学科の改革をしたいと考えている。彼は給料や昇格、休日、定年などの制度の改革やThe Elementsの使用廃止を唱えている。LevinはFabrikantがLeo Duffyの弁護を途中でやめてしまったことから彼の応援をやめてしまうが、The Elementsの使用廃止に関しては賛同している。またテストのための授業ではなく心を豊かにする教育を目指し、Great Books programを提案し、分野の違う人々でも本を通して互いに理解しあうことが大事だとした。このようにLevinは新任であるにも関わらず大胆な改革案を掲げ、あろうことか学科を変えられるのは自分しかいないと考え、学科長選挙にも出馬する。 “-But one morning in somebody’s filthy cellar, I awoke under burlap bags and saw my rotting shoed on a broken chair. They were lit in dim sunlight from a shaft or window. I stared at the chair, it looked like a painting, a thing with a value of its own. I squeezed what was left of my brain to understand why this should move me so deeply, why I was crying. Then I thought, Levin, if you were dead there would be no light on your shoes in this cellar. I came to believe what I had often wanted to, that life is holy. I then became a man of principle.” (p. 201)そしてこのロマンチストに感激して涙を流す、A New Lifeに登場するもう一人の理想主義者としてGilleyの妻Paulineがあげられる。彼女は現状に満足することなくいつも”she felt she should have done better.” (p. 352)と考え、自分ができたはずのことを悔やむのではなく自分がすべきだったことを悔やんでいる。そんなPaulineが現実主義者であるGilleyに愛想をつかして理想主義者であるLevinに惹かれるのは納得できる。さらにはLevinの前任者であり、Paulineと不倫関係にあったLeoも指定以外の教科書を発注するなど過激ではあったが自分の理想に忠実であったことも明らかである。想像ではあるがPaulineが学生時代に思いを寄せていたユダヤ人青年も理想主義者であったかもしれない。 一方、物語の冒頭に登場しその後がわからないLaverneは現実的であるといえる。“ ‘Why not in the hayloft? Nice and soft.’ ‘The hay prickles my skin and makes me laugh in the wrong places. I’ll be right back with Buster’s blanket. You better be getting your pants off.’ “ (p. 81) とLevinがhayloftを魅力的という意で使ったにも関わらずロマンチストのかけらもないことを言ってみせる。また ’ “Your breasts,’ he murmured, ’smell like hay.’ ‘I always wash well,’ she said.” (p. 81) とことごとくLevinのロマンあるユーモアを無視する。私はA New Lifeに出てくる女性の中で唯一現実にいそうなLaverneが好きでもう少し活躍してほしかったと思い、彼女のその後も気になるものである。 2. 反道徳的
まずLevinはPaulineへの思いを募らせるあまり、写真屋から彼女の写真を盗んできてしまう。またBullockが作成した運動選手に非協力的な教師のリストを見つけ彼の研究室に忍び込みコピーしてしまう。さらにGilleyのオフィスに忍び込みLeoに関する書類を探したりAvisのオフィスを物色する。もっともAvisの場合はそれ以前にAvisがLevinの研究室に忍び込み、PaulineがLevinにつづった手紙をコピーしたという事実があるが、いずれにせよ教育に従事する者にあるまじき行為である。Levinはよりよい学科のために大胆な改革案を掲げ、文学を通して心を豊かにする教育を目標にし、よき教師であろうとするにも関わらずなぜこのような盗みを繰り返してしまうのか。それはLevinの父親に原因があると考えられる。Levinの父親は盗みを繰り返し、刑務所の中で一生を終えた。Levinは悲しくもそんな父親の影響をうけているのである。
3. 慎重さ、臆病さ、間の悪さ、お人好し
Levinは最初、様子をうかがうようにおとなしくしていた。Leoを詮索する際にも様々な人を訪れる慎重さがうかがえた。しかし最初の授業に遅刻しそうになり、パンツのチャックをあけたまま授業を行ってしまうという間抜けさもある。彼の間抜けさは恋愛において最もよく見られると思う。Laverneに” ‘Do you love me any?’ “と聞かれ” ‘I love your body. I love your breasts and am grateful to be near them.’ “(p. 82) とこたえるばか正直なところがある。また彼はNadaleeとの密会の後、“a fear that troubled him all along, not that she[Nadalee] would slit her throat under the cherry tree in the backyard; but that if news of their affair leaked out, it would end his career at Cascadia with a backbreaking thump.”(p. 155)
におそわれる。しかしNadaleeの心配をしているのかと思えば自分の教師としての人生が終わってしまわないか心配している点に自己中心的な臆病さが見られる。そうかと思えばLevinは時に人の良さを見せることもある。Bullockの家でのパーティーで、気分の悪くなってしまったPaulineを気分の悪くなってしまったGilleyにかわって家に送りとどける。もちろんLevinがPaulineに好意をもっているゆえの行動であるが、さらに彼らの子供の面倒までみてあげる。そして眠っている子供たちを見て”The poor orphans. He[Levin] burst into tears.”(p. 193)
母親としてのPaulineは決して合格点ではないし、自分のことばかり考えているように見える。Levin自信も母親が自殺してしまい、親にはめぐまれていなかったのでErikとMaryを心からかわいそうに思い涙を流したのである。そして彼の人の良さは物語の最後にもあらわれる。Paulineと一緒になることを決意したLevinにPaulineは子供たちの親権がほしいと相談する。Levinは半ばPaulineのこともあきらめかけていたのにさらに子供なんてとやけになっているように見える。” ‘they[Erik and Mary] both need me. They’re still babies.’ ‘Suppose I said I didn’t want them?’ “(p. 349) という会話からもLevinが心から2人の子供をひきとりたいと考えているようには見えないのに、LevinはPaulineのお願いを聞き入れ、Gilleyに直談判しに行く。
4. まとめ Levinは大学での教師人生を奪われ、町を追い出されはしたが偶然にも奥さんと子供を手に入れ、かわいそうに思っていた2人の養子も引き取り、彼の提案したGreat Books programが採用されるなど、この新しい生活はすべてが失敗であったわけではない。だから彼は町を去るとき、” ‘Beautiful country.’ “(p. 366)と言いまた新たな生活に向かって出発したのである。 レヴィンの内側には、正邪・真偽・美醜・善悪と二股にわかれる分別心の奥に輝く、すべてを包摂してなお余りある、ヒューマニズムの真髄としての真の人間の心珠が光っていることを見逃してはならないであろう。この心珠こそ、魂を浄化する苦悩を背負って生きるユダヤ人を’universal man’ と見るマラマッドがその作家活動を通して人類救済の可能性の一つとして示そうとする、彼の理想主義的ヒューマニズムの核心となるべきものであると言うことができるであろう。(佐渡谷重信編『バーナード・マラマッド研究』(泰文堂、1987)、p. 100)人間誰しも多面的なところはあり、Levinのそれもヒューマニズムである。Levinがこの町で勝ち得たわずかな成功は上に論じたように彼が様々な場面で様々な性格を発揮したからである。人生の様々な出来事において人間の多面性が表れるのは当然であり、逆に言えば多面性がなければ同じことのくりかえしであるかもしれない。Levinは間が悪くても子供ができたことで失敗だらけの人生から少し脱却するであろう。 |
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