Seminar Paper 2004

Maki Miyazaki

First Created on January 27, 2005
Last revised on January 27, 2005

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Levinの多面性
重たい荷物の重たい訳

    何をするにもついていない、ドジで消極的で不器用な男。これが最初にLevinに対して私が抱いた印象だった。しかし物語が進むにつれてそのイメージは変化していった。彼は簡単に一言では言い表せない性質を持ち合わせていたのである。いや、周囲の人たちとの関わりによって性格が変わってきたと言ったほうが良いかもしれない。いずれにせよ、読み進めるうちに彼に魅力を感じるようになったのは確かである。そこで、私は彼の持つ性格の多面性と彼の生き方に焦点をあてて、この作品のテーマについて考えていきたいと思う。

    Levinの性格を語るには、まず彼の髭(beard)について触れる必要がある。なぜなら彼の髭と心境の変化は、密接に結びついているからだ。そしてそれが性格の多面性や変化に関係していると考えられるのだ。Levinにとって髭は新しい自分に生まれ変わるために過去の自分を隠すためのものである。このことは本人の"I have for the past year. It’s−er−given me a different view of myself."(p. 23)という言葉からも読み取れるだろう。つまり、新たな生活、職、愛、希望を求めてNew YorkからやってきたLevinにとって髭は過去の自分と今の自分を区別する仕切りであり、過去を隠すためのマスクなのである。しかし、ある時、彼はその髭を剃り落としてしまう。そして、その行動をとった前後では、目立って見られる彼の性格が変化しているように私には思えてならない。何が違うのだろうか。髭を剃る前と剃った後のLevinの性格を比較して彼の多面性について分析していきたい。

    まず、物語前半に見られるLevinの性格を彼の過去と合わせて述べていこうと思う。Levinは貧しく惨めな幼少時代を過ごした。泥棒の父親は刑務所で亡くなり、母親は発狂して自殺。彼は満足に親からの愛情を受けることができなかったのだ。そして孤独な思いを紛らせるために酒におぼれる日々。このつらい過去は人生を新しく始めるためにCascadiaへやってきた後もLevinを苦しめる。例えば、このような描写がある。

He had dragged through the past a weight of shame and sense of exclusion from normal life, engineered by his father, Harry the goniff, misfit turned thief … Levin had his whole life felt imperiled. In recent years he had come to pity his father but was still influenced by his distortions.(p. 229)
これは"Ten Indians"が文学の授業で扱う作品としてふさわしくないと抗議を受けたことに関してGilleyと口論になった場面であるが、ここからは泥棒の父親から受けた影響が色濃く現れていることが分かる。父親のせいで不名誉で屈辱的な思いをしていた経験から、彼は大多数の人間と異なる行動をすることや輪から外れることに恐怖を抱いている。ゆえに言い争いの時でも、ここぞという時に自分自身を主張できなくなってしまう。ここでも最終的にGilleyに諭されてしまうのである。  また、別の場面で彼はこんなことを言っている。
"My life, if I may say, has been without much purpose to speak of. Some blame the times for that, I blame myself. The time are bad but I’ve decided I’ll have no other."(p. 18)
彼は父親だけでなく、drunkerになった過去の自分も恥じ、責め、悔やんでいるのだ。そして"A few minutes later he was soberly conscious of this figure within−an old friend with a broken nose warning him against risking his new identity."(p. 204)という文からも読み取れるように、何か良いことがあっても、今までの苦い経験を思い出し、手放しで喜ぶことができないでいる。前半でLevinの内面に見られる臆病、慎重、消極的といった性格。これはつらい過去の産物といえるのではないだろうか。

    では、髭を剃った後のLevinはどのような性格が強く出ているだろうか。物語が進むにつれて、彼はしばしばGilleyと敵対していくようになる。しかし、明らかに彼は前半よりも積極性が増し、強気で生気を帯びているのである。教育観の相違で口論になった時も、前半の"Ten Indians"の時のようにGilleyに言い含められるのではなく、強く批判している。また、学科長選挙に関しても一念発起して大胆な行動に出る。なぜか。それは彼が貫くべきもの、理想や信念を見つけたからではないだろうか。Levinは自身の持つ教育方針について述べている箇所を見てみよう。

"We ought to introduce some literature into the course so the students know that good writing means something more than good report writing. … Just enough lit for inspiration, to liven it up, to ease the heart."(p. 287)
"If you know anything about educational trends you’d know that pure liberal arts programs are dying out all over the country."(p. 288)
学校全体を組織として捉え、生徒を管理的に見ているGilleyに対して、Levin反論を唱えている。彼にとって学校は教育の場であり、その目的は心を和らげ生活を豊かにすることにあるという。ここに彼の理想主義的な価値観が見て取れる。理想ばかりを述べ、実際の行動が伴っていないのが事実である。しかしそんなことはお構いない。彼が重要としているのは、理想や目標の達成に向けて何かをすることなのだ。 そして彼にはまた、ひとたびその夢や理想を見つけると、それに向かってまっしぐらに突き進む一面がある。
...a bull aiming at a red flag (Levin’s vulnerability, the old self’s hunger) charged from behind and the Manhattan matador, rarely in control of any contest, felt himself lifted high and plummeted over violet hills toward an unmapped abyss.(p. 216)
という描写があるほどだ。また、Duffyの"A good cause is the highest excitement."(p. 190)という言葉を紙に書き留めたのは、主義を通そうという彼の気持ちの表れではないだろうか。 このことから、Levinは信念を貫き、突き進もうとする理想主義者ゆえ、時に周りから見れば大胆で無謀と思われることをしてしまうと考えられる。 そしてこれらの積極的、強気、大胆、理想主義といった性格はPaulineとの恋愛関係についても見受けられる。
"An older woman than yourself and not dependable, plus two adopted kids, no choice of yours, no job or promise of one, and other assorted headaches. Why take that load on yourself?"
"Because I can, you son of a bitch."(p. 360)
そう簡単にいえる台詞ではない。覚悟を決めたLevinのこの言葉に全てが集約されているといっても良いのではないだろうか。

    こうして彼の性格から行動を分析してみると、髭を生やし、そして剃ったという行動について次のようなことが言えると思う。彼は髭を生やして過去を隠し、新しい生活を始めた。しかし人生は想像していたほどうまく出来てはいない。相変わらずのドジな性格。理想主義的な価値観。妄想狂。慣れないCascadiaの環境での様々な人々との出会い。上司で価値観の違いゆえ敵であるGilleyや、その妻であり恋人であるPauline、知らないうちに同じ運命をたどることになっていたという宿敵 Leo Duffy、研究ばかり進めている一匹狼のFabrikantに大家族で苦労をしながらも一生懸命働くBucket・・・。その関わり合いの中でLevinは様々な影響を受け、与え、自分自身の進むべき道や役割を見つけたのではないだろうか。そして髭を剃ることでもう一度生まれ変わった。今度は偽りの自分ではなく、過去を踏まえた本来の自分の姿になったのだ。過去を乗り越えることができたかどうか、自分の大切なものを見つけられたかどうか、信念を貫くことができるかどうか、それが髭を剃る前と剃った後のLevinの違いだと私は思う。

    人はいくつもの選択肢を経て人生を歩んでいく。その中で、良くも悪くも周りの人たちと影響を与え合いながら、自己というものを形成していくのである。時には、誰かを犠牲にしてしまうこともあるかもしれない。あるいは自分自身が他人のために重荷を背負うこともあるだろう。人生は思い通りにいかないことも多い。大切なのは、自分にとって一番大切なものは何なのか、自分の果たすべき役割は何なのか、自分がしたいことは何なのかを見つけていくこと、そしてそれを守っていくことである。もちろん、苦しみや痛みも伴うはずだ。しかし、その苦しみに耐え、乗り越えていくことこそが生きることの意味であり、喜びなのではないだろうか。

    GilleyともFabrikantとも決別したLevinは最終的に学科長選挙に立候補することに決めた。無謀だと分かっていても自分の大切な信念、主義を曲げることは譲れなかったのだろう。そしてPaulineに関しては、逃げ出そうとしたにもかかわらず、結局、彼女と新しい生活を始める道を選んだ。職もお金も将来も、なんの約束もない。先行きの不安もあるが、敢えて重荷を背負うことで自分の責任を果たそうとしているのだと思う。いや、もしかしたらLevin自身は重荷に感じていないかもしれない。それが彼にとって生きる喜びかもしれないのだ。
    私はPaulineに宿るnew life(新しい生命)と共にnew life(新しい生活)を求めて町を出たLevinにエールを送りたい。


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