Seminar Paper 2004

Kanako Suzuki

First Created on January 27, 2005
Last revised on January 27, 2005

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A New Lifeの女性たち
魔性の女・Pauline Gilley

    今回、私は、A New Lifeに登場する女性たちの扱いを通じ、主要な女性の登場人物やMalamudの女性観について考え、また、筆者の女性描写は類型的すぎる(本当の女性を描写していない・女性描写が下手)という批判についてどう考えるか、自分なりに結論を出してみたいと思う。

    A New Lifeにおける主要な女性の登場人物といえば、『魔性の女・Pauline Gilley』である。私は、副題にもPaulineを“魔性の女”と記した。A New Lifeには、他にも英語学科のinstructorであるAvis Fliss・Levinのクラスに在籍するとても大人びたNadalee Hammerstad・Sadekと訪れた酒場でウェイトレスをしていたLaverneという女性達が登場する。彼女らもまた、Paulineと同様に魅力的な女性であり、Levinを虜にさせた。しかし、その中でもPaulineは抜きに出てLevinを虜にさせる魔性的な力があったと私は思う。

    では、A New Lifeに登場する『魔性の女・Pauline Gilley』とはどのような女性であるか。章ごとに彼女の考え方や性格を追いつつ、Malamudの女性観についても考えてみよう。

    第一章では、PaulineとLevinの出会いの様子が描かれている。PaulineはLevinに対してとても好意的であり、夫Geraldが側に居るにもかかわらず、積極的にLevinに話しかけている。Levinは、ここでPaulineのことを“ like a lily on a long stalk ”と表現している。この他の章でも、筆者は女性を“ rose ”など花に例えている箇所がある。彼にとって、女性は花のように儚い存在なのだろうか。また、LevinはPaulineと二人きりで話している場面で彼女の容貌を、“ She had pinned a rose to her poor chest. Why not two, he thought, one for each flat side? Was this why the medievalist had gone to Europe, to escape the American prairie? ” ( p. 17 )とPaulineの胸の小さな様子を、アメリカの大草原に例えている。同じ女性として、こんな風に女性の胸の小ささを表現されると、あまり良い気分がしないものだ。

    第三章では、Levinの下宿先の女主人Mrs. BeatyとDr. Fabrikantの姉が登場する。ここで、面白いなと思った所がある。A New Lifeの中で女性が登場する時、その女性の体がいかに魅力的でセクシーであるかということがいつも描かれている。しかし、Mrs. BeatyとDr. Fabrikantの描写は淡々としていて、魅力的な所は描かれていない。Mrs. Beatyは69歳、Dr. Fabrikantの姉もおそらくかなり年配の女性であると思われる。彼女らの描写が少ないところから、Malamudは年老いた女性に興味がないのではないかと思った。もし彼が年老いた女性にも魅力を感じているならば、もっと二人の描写で魅力的な部分が描かれていてもよいと思う。それに比べ、この章の後半で登場する若いLaverneは、とても可愛く魅力的に描かれている。やはり、著者は若い女性の方が好きなのだろう・・・。

    さて、第五章に、とても印象深い場面がある。それは、LevinがGilley家へふと訪れた時のことだ。Paulineは、オムツを抱えたまま台所から出てきたところでLevinに会う。女性は、その男性に興味がなければ、わざわざ髪を梳かしたり着替えたりしない。PaulineはLevinを男として意識しているからこそ、きちんと身なりを整えたのだ。ほんの些細な場面ではあるが、筆者は女性の気持ちが良く分かっているなと感心した。

    また、他にもこの章の中で、筆者が女性の心理を理解していると感じた場面がいくつかある。一つは、GeraldがAvisとLevinの関係に気付き、Levinに忠告する場面から読み取れる。“ Avis is a very nice gal, but if I were you I’d keep in mind that women her age who aren’t married can be upset pretty easily. Well, so long. ”( p. 132 )とAvisの歳で未婚の女性は情緒不安定で、急に気分が落ち込んだりすると述べている。結婚を気にする女性ならば、年を取るにつれ、誰しもこのような状態に陥るものだ。 もう一つは、LevinのクラスにいるNadalee Hammerstadという女子生徒とLevinとのやり取りの場面である。

“ You are observant, ”he said with a sigh,‘ mature. ’
“ I’m glad you finally noticed. ”
Levin bent for a stone to scale on the water but it sank with a plop.
“ If you had any idea that I am a little-innocent, ”she sad, watching the ripples in the water, “ well, I’m not, if that’s what you’re worried about. I was once engaged to be married. ”
The wall he had so painfully built against her, against desire, fell on his head.
He asked in hidden anguish, “ Why do you tell me that? ”
“ Because I am a woman and wish to be treated so. ”
“ By me? ” “ Yes, if you must know. ”
“ But why me? ”he asked.
“ I guess you know I’m different than most of the other girls in your class? I’m tired of college boy. I want real companionship. ” ( pp. 141-142 )
自分も現在学生であるが、同年代の男の子に飽きたから先生を誘惑しようとする、Nadaleeの成熟した考え方には驚いた。しかし、大勢の生徒の中の一人としてではなく、一人の女性として自分を見て欲しい、という彼女の主張にはとても共感出来ると思った。

    さて、第七章から徐々にPaulineの魔性的な部分が見えてくる。ある日開かれたカクテルパーティーでPaulineはひどく酔っ払い、Levinに介抱してもらう。酔った彼女は普段以上にセクシーにLevinに迫る。酔って歩けなくなり、お目当ての男性に介抱してもらうことで、その男性をその気にさせるテクニック。この方法は、現代の女性でも使っている方がいるのではないだろうか。

    最終章で、GeraldがLevinにPaulineの欠点について話す場面があるが、この章や次の章でそれが分かる点がいくつもあった。一つずつ見てみよう。

1. 何事にも決して満足しない
    いつもPaulineは、「もっと上手くやれるはずだった。」「今以上の人間になりたい。」とGeraldにもらしている。最終的には、その不満の矛先が結婚相手であるGeraldに向けられ、全てを彼のせいにしてしまうのだ。 Paulineは、カクテルパーティーでLevinに介抱されている時、

“‘ Gerald suffer from my nature, ’she said, ‘ though he’s patient man. With a woman more satisfied with herself, less critical and more appreciative of his good qualities, maybe he would have been a different person. ’”( p. 189 )
と、自分自身の満足出来ない性格について話している。

2.我慢強い男の人も耐えられない気質
    これは、Paulineの気分屋な気質が例に挙げられる。彼女はその事を“‘ He’s ( Gerard ) really been very sweet to me. Sometimes I’m a moody bitch, but he’s usually patient and I’d like to be grateful. ’”( p. 209 )と語っている。

3.家事が好きではない
    Paulineの家事は、順調に進む時とそうでない時との差が激しい。また、家事が好きではない彼女は家政婦を雇っている。更に、Levinと会う時やその他で、ベビーシッターに子供たち二人を預けている。現代社会の中で、Paulineと同様に家事が好きではない女性は沢山いるだろう。

4.年を取ることを気にしている
    彼女は第八章の前半で、“‘ A woman my age is too old for a man yours. Wouldn’t you really be better off with a girl of twenty-three or ?four? ’” ( p. 212 )とLevinに尋ねている。その問いに対して彼が何も答えなかったからであろうか、その後しばらくの間、彼女は姿を現さなくなる。女性はいつでも、永遠に若さを保ちたいと思っているものだ。

   この他にPaulineの欠点として、自分勝手な所が挙げられるだろう。彼女は、自分とLevinとの関係がばれるのを恐れ、まだ関係を知らないGeraldが自分に優しくしてくれることで不倫の罪の意識を感じると、Levinの気持ちとは裏腹に急に姿を現さなくなる。そうかと思えば、自分が会いたくなればふと訪ねてくる。また、Levinが自分たちの関係をGeraldに打ち明けようと提案しても頑なに拒み、自分がGeraldと一緒に暮すことにうんざりすると、Levinの気持ちはお構いなしで、自分たちのことをGeraldに話そうとLevinに迫る。 さらに、

“‘ I’ve been thinking if only something very good happened to Gerald it would be easier to think of leaving him. ’”( p. 248 )“‘ The kid tire me, and it’s not easy to live with one man and be always thinking of another. ’”( p. 249 )“‘ but I’ve never been to unlove anyone I ever loved. ’”( p. 249 )
と自分本位なことばかりを口にする。

   第十三章では、自分の性格はGeraldと一緒にいるから悪くなり、もっとより良い生活がしたいと言う。一度Levinの元から離れたにもかかわらず、“‘ Lev, I love you. Be my love again. ’”( p. 332 )と再びLevinを惑わせる。最後には、“‘ Hold me, please hold me. ’”( p.333 )と決め台詞を吐き、Levinは彼女の言いなりになってしまう。“ Hold me. ”と言われたら、どんな男性でもノックアウトされるだろう。やはり魔性の女である。

   最終章では、さらに彼女の自分本位な所が窺える。GeraldがErikとMaryを預かると主張するのに対し、彼女は、LevinにGeraldから子供を取り返すようお願いする。何より、Paulineは自分の思い通りに事を進めたがるのだ。相手を思いやる事より自分を大事にする女性だな、と私は感じた。

   さて、今までPaulineに関する描写を見てきて、本題であるMalamudの女性描写は類型的すぎていて本当の女性を描写していない・女性描写が下手である、という批判についての私なりの結論を述べたいと思う。

   私は、A New Lifeに登場するPaulineの性格を見ると、著者は本当の女性を描写していない・女性描写が下手であるとは思わない。著者は、女性の本質を捉えていると思う。女性の心理を理解していなければ、Paulineのように男性を虜にする魔性の女は描くことが出来ないと私は思う。Malamudはもしかすると、過去にPaulineのような魔性の女に魅せられ、その虜になったことがあるのかもしれない。

   魔性の女・Pauline Gilley。いつか私も、彼女のように魔性の女になるかもしれない。


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