Seminar Paper 2006

Mariko Ehara

First Created on January 30, 2007
Last revised on January 30, 2007

Back to: Seminar Paper Home

The Great Gatsby におけるMoneyの意義
華やかさの裏にあるむなしさ

    The Great Gatsby は、誰にでも成功してお金持ちになれるチャンスを与えてくれる地、アメリカを舞台にした物語である。一人の百姓の息子James GatzがJay GatsbyになりMoneyを手に入れ、Daisyの愛を取り戻すという夢を追いかけるが、夢は破れ、命を落としてしまう。まさにアメリカンドリームがテーマといえるこの作品ではMoneyが重要な要素となっているように思う。そこで、登場人物たちとMoneyとの関係を見ながら、この作品におけるMoneyの意義を考えてみたい。

    まずはGatsbyとMoneyについて。Gatsbyが少年の頃に持っていた本の裏表紙には、自分を向上させるためのスケジュールが書いてあった。彼は少年の頃からJay Gatsbyという理想の人物を思い描き、アメリカンドリームの達成を夢見て努力をしていたのだ。スケジュールの中にはこんな項目がある。“Practice elocution, poise and how to attain it.” (p. 180)この項目からは、お金持ちにふさわしい上品な振る舞いを身につけようとしていたことが分かる。貧しい百姓の両親を見て育ち、貧しく味気ない生活を送ってきた彼にとって、Moneyこそ楽しく幸せな人生をもたらしてくれる最高のもののように思えたのだろう。

    成功してMoneyを手に入れることを目標にしていたGatsbyだが、Daisyとの出会いによってそれは変わる。五年前はお互い愛し合っていたが、Gatsbyが戦争に行ってなかなか帰って来られないでいるうちにDaisyは大金持ちのTomと結婚してしまう。

‘She never loved you, do you hear?’ he cried. ‘She only married you because I was poor and she was tired of waiting for me. It was a terrible mistake, but in her heart she never loved any one except me!’ (p. 137)

    これはGatsbyがTomに向かって言い放ったセリフである。Tomと張り合えるほどお金持ちになった今ならDaisyと結婚できるという自信に満ちている。GatsbyはMoneyさえあればDaisyの愛を取り戻せると思いこんでいた。Daisyを失った時から、彼の目標はDaisyを手に入れることになり、今までの目標Moneyはそのための手段となったのだ。そのMoneyを稼ぐために、Gatsbyは裏社会の違法な仕事にも手を染めるのである。そこには何をしてでも夢を実現しようとする強い思いが感じられる。

    GatsbyがDaisyをこれほどまでに愛するようになった理由は何だったのであろうか。

‘Her voice is full of money, ’ he said suddenly.
That was it. I’d never understood before. It was full of money ― that was The inexhaustible charm that rose and fell in it, the jingle of it, the cymbals’ song of it… High in a white palace the king’s daughter, the golden girl… (p. 126)

“She was the ‘nice’ girl he had ever known.” (p. 154)

    Daisyは貧しかった彼が今まで知り得なかった良家の娘であり、お金持ちとして生きていけるということを感じさせるような魅力的な声の持ち主だった。そう考えてみると、そもそもGatsbyがDaisyを好きになったのは、少年の頃から抱いていたMoneyに対する憧れ、アメリカンドリームを達成したいという願望があったからなのかもしれない。

    彼の死後、彼の葬式にはほとんど参列者がいなかった。彼の開くパーティーにはあれだけ多くの人が来ていたのに。みんなGatsbyがお金持ちだから寄り付いていただけで死んでしまえばもう興味がないのだ。彼の父は息子の死を悲しんではいるが、百姓の息子から立身出世した息子を自慢している。才能があってまともな仕事をしてお金持ちになったと思っており、Gatsbyの上辺しか見ていない。DaisyもGatsbyを裏切って逃げたまま何の連絡もよこさない。このように、GatsbyはMoneyを通してしか人とのつながりを持てない人物であったことが分かる。

    Gatsbyの生涯を見てみると、Moneyが大きく関わった人生のように思える。Moneyに始まりMoneyに終わった人生と言えるのではないだろうか。

    次にMyrtleとMoneyについて見ていきたい。MyrtleとGatsbyには共通点がある。二人とも夢を追いかけて命を落としてしまったということだ。“‘I married him because I thought he was a gentleman,’ she said finally. ‘I thought he knew something about breeding, but he wasn’t fit to lick my shoe.’” (p. 41)これはWilsonと結婚した理由をMyrtleが語る場面である。彼女は彼を家柄も良く、Moneyも教養もあるgentlemanだと思って結婚した。しかし実際は結婚式に着る服さえ持っていない男で、そんな夫に嫌気がさしている。このことから、Myrtleはお金持ちと結婚したかったということが分かる。お金持ちと結婚することが女性にとってのアメリカンドリームなのだ。そんな彼女のつまらない夫との貧しい生活に希望を与えてくれたのがTomであった。大金持ちのTomと出会って、Myrtleは再びお金持ちと結婚するという夢を抱くのである。

    Tomの愛人として過ごしている時のMyrtleは非常に滑稽である。派手なドレスを着て、まるで階級の高いお金持ちであるかのように振舞っているが、上品さに欠けているのだ。

With the influence of the dress her personality had also undergone a change. The intense vitality that had been so remarkable in the garage was converted into impressive hauteur. Her laughter, her gestures, her assertions became more violently affected moment by moment, and as she expanded the room grew smaller around her, until she seemed to be revolving on a noisy, creaking pivot through the smoky air. (p. 36)

    また、犬をgirlやboyと言ったり、appendixとちゃんと言えなかったりとお金持ちの真似をしても教養の無さがちらほら見える。これらの場面から、実際は教養もなく階級も低いが、自分をお金持ちに見せたいという気持ちがあり、Moneyに対する強い憧れが読み取れる。

    Myrtleにとって、現在の夫と別れてTomと結婚し、Moneyと社会的地位を手に入れることが理想であり夢であった。Wilsonに部屋に閉じ込められていたMyrtleは車にTomが乗っていると勘違いし、飛び出していったのである。Tomが夫から救ってくれると思っていたのだろう。つまりMyrtleはMoneyを追い求めたばかりに命を落としてしまったと言えるのではないだろうか。

    次にDaisyとMoneyについて。前述のとおり、DaisyはMoneyに溢れた声を持つnice girlである。お金持ちの家に生まれ育った彼女もMyrtle同様、高い階級のお金持ちの男性と結婚することが幸せだと思っていた。彼女はそのとおりの男性Tomと出会って、GatsbyがまだOxfordにいるうちに結婚してしまう。しかし実際に結婚してみるとTomは浮気ばかりしていたのだ。DaisyはNickにこう語る。“‘I’m glad it’s a girl. And I hope she’ll be a fool ― that’s the best thing a girl can be in this world, a beautiful little fool.’” (p. 24)なぜなら美しくて少し馬鹿な女の子なら、お金持ちの男性と結婚して夫の浮気にも気付かずに幸せに生きていけるからだ。娘に浮気しない人と結婚することを望むのではなく、浮気に気付かない馬鹿な子であることを望んでいる。ここからはDaisyのMoneyに対する強い執着ぶりが分かる。

    DaisyのMoneyに対する強い関心は、成り上がり者になったGatsbyの邸宅を訪れた場面でも明らかだ。

Suddenly, with a strained sound, Daisy bent her head into the shirts and began to cry stormily.
‘They’re such beautiful shirts,’ she sobbed, her voice muffled in the thick folds. ‘It makes me sad because I’ve never seen such ― such beautiful shirts before.’ (p. 99)

    これはその中でも特に印象的な場面である。Gatsbyの“‘I’ve got a man in England who buys me clothes. He sends over a selection of things at the beginning of each season, spring and fall.’” (p. 99)といういかにもお金持ちだということ示すようなセリフを聞いてとった行動だ。お金持ちになったGatsbyを惹きつけたいために計算で泣いているように思える。

    かつての恋人Gatsbyを再び愛するようになったかのように見えたDaisyだったが、TomにGatsbyの正体をばらされ、Myrtleを轢き殺し、罪をGatsbyに擦り付けて、Tomとさっさと逃げてしまう。これらのDaisyの行動をみてみると、Gatsbyと再び会うようになったのは、正当な仕事で成功をしてお金持ちになったGatsbyに興味があったのであって、本当のGatsbyに対する愛情があったからではなかったということが分かる。もし本当に愛しているのなら、Gatsbyが裏社会の仕事に手を染めているという事実を知っても、Tomと別れてGatsbyと結婚する道を選ぶはずだし、事故を起こしてしまっても、彼を見捨てずに自首するはずだ。Tomとの結婚生活がうまくいっていなかったDaisyだったが、Gatsbyを裏切り、結局今までどおりのTomとの生活を選ぶのである。そこにはMoneyや名声、社会的地位を失いたくないという汚い欲が表れている。

    最後にTomとMoneyについて見ていきたい。

His family were enormously wealthy ― even in college his freedom with money was a matter for reproach ― but now he’d left Chicago and come East in a fashion that rather took your breath away: for instance, he’d brought down a string of polo ponies from Lake Forest. It was hard to realize that a man in my own generation was wealthy enough to do that. (p. 12)

    Nickがこう表現しているようにTomは大金持ちの家系に生まれ、Moneyを自由に使いまくる生活を送ってきた。Daisyと結婚してからもそれは変わらず、愛人までいる。Daisyとの結婚生活がうまくいっていないことはNickが夫妻の家に招かれる場面で明らかである。それなのにTomはDaisyと離婚して愛人Myrtleと結婚する気などさらさらない。それは次の文から分かる。

‘It’s really his wife that’s keeping them apart. She’s a Catholic, and they don’t believe in divorce.’
Daisy was not a Catholic, and I was a little shocked at the elaborateness of the lie. (pp. 39 - 40)

    結婚できないのを人のせいにして、Myrtleとの都合のいい関係を続けるというずる賢さが見て取れる。Tomにとって階級の低いMyrtleは元から結婚できる対象ではなかったのだ。よって、社会的地位を落としたくないTomは世間体のために良家の娘Daisyと結婚生活を送っていることが分かる。

    Gatsbyの死後のある日、Nickは偶然Tomに会う。彼は宝石店に入っていく。そこからはGatsbyを死に追いやっておきながら悪びれもせず、以前と変わらない生活を送っているTomが描かれている。

It was all very careless and confused. They were careless people, Tom and Daisy ― they smashed up things and creatures and then retreated back into their money or their vast carelessness, or whatever it was that kept them together, and let other people clean up the mess they had made… (p. 186)

    Daisyと同様にMoney、名声、社会的地位を失いたくない汚い欲のために、WilsonがGatsbyを殺すだろうと分かっていながら車の持ち主を教え、逃げてしまったのだ。

    以上四人の登場人物とMoneyの関係を見てきたが、この四人には共通点があるように思う。それはMoney=幸せをもたらすものと考えていたのではないかということだ。GatsbyはMoneyがあればDaisyを手に入れることができると思っていたし、Myrtleはお金持ちと結婚することが幸せだと思っていた。Daisyもそれは同じで、Tomに浮気され結婚生活に不満があっても離婚せず、お金持ちのTomについていくことが幸せであると考えた。Tomは結婚当初から浮気をしており、夫婦仲も良くはなかったが離婚しなかったのは世間体を気にしていたからで、富と名声を失って幸せがなくなることを恐れていたからだ。しかしThe Great Gatsby を読んでみて、これほどまでに皆が憧れ執着したMoneyとは、本当に幸せをもたらしてくれるようなすばらしいものなのだろうかという疑問がわく。むしろMoneyを求めたゆえに命を失ったり、人を平気で裏切って死に至らしめたりするような非人間性を持たせる恐ろしいもののように思える。

    Moneyは贅沢や華やかさはもたらすが、幸せをもたらすものではない。むしろ人を惑わせ、執着しすぎることで人をむなしいものにさせるということを、物語を通してFitzgeraldは言いたかったのかもしれない。


Back to: Seminar Paper Home