Seminar Paper 2006

Sayuri Someya

First Created on January 30, 2007
Last revised on January 30, 2007

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American Dream:
Deaths and Lives inThe Great Gatsby

Introduction
 The Great GatsbyはナレーターNick Carrawayが1922年ニューヨーク市ロングアイランドでの一夏の出来事を思い返して語る形式で進む。本作は一般にJazz Ageの作品と評され、当時の社会様相が反映されていると考えられる。Nickは真実をそのまま語ることに忠実な人間ではないことが指摘され、信頼できないナレーターの一人に数えられているため、主観に左右される危険性があるが、物語中の登場人物を作り出し、事件を起こさせるのは著者であることを考えると、Nickの主観を含め、登場人物の思考や行動を考察することによって、著者が何を伝えんとしているか見えてくるだろう。本論では、登場人物の死が生き残った者あるいは生きている者の人間模様を焙り出しているように思い、作中の生と死を考察することで、著者の言わんとしていることを探り当てようと試みた。

Deaths of Myrtle
 The Idea of Order at West Eggの中でSusan Resneck Parrが言っているように、MyrtleとGatsbyは"victim of illusion" (p. 69) であるといえる。Myrtleは上流階級に憧れ、Tomと関係を持つことでその気分を味わっていた。夫のことは結婚式の衣装が借り物であったことやgentlemanでなかったことで幻滅し、冷たくあしらっていた。Myrtleは浮気に気付いた夫によって家の奥に閉じこめられており、近付いてきた車がTomのものだと思って飛び出したことで死んだ。彼女がAmerican Dreamを追いかけていなければ、このような事態にはならなかったに違いない。そして、車の持ち主がTomだというのもillusionであった。運転していたのが妻のDaisyであったことは皮肉という他に言葉が見あたらない。あたかも彼女がAmerican Dreamを追いかける中で人に対して行ったり言ってきた皮肉が全て、この事故によって自分の身に降りかかっているようである。
 しかしながら、MyrtleはWilsonのつくりだしたillusionの犠牲になったと考えられる一面もある。p. 40でMyrtleがWilsonとの結婚について述べているように、結婚前にWilsonが彼女の求めている物質的な豊かさがないことを明らかにしていたならば、彼女は初めから結婚することはなかったのだろう。"He never even told me about it, […] I gave it to him and then I lay down and cried to beat the band all afternoon." (p. 41) 物欲ばかりで人を見る目がなかったMyrtleという像も捨てることはできないが、借り物の衣装であることを隠していたWilsonにも悪気がなかったわけではないのではないか。本心を語っている部分がないので推し量ることはできないが、結果的に望まない結婚をさせられたという思いを彼女に与えたことは事実である。それを考えると、Wilsonは単純に浮気をされてかわいそうな夫では済まない。彼もまたMyrtleを死に至らしめる虚構をつくりだした一人として数えられる。

Death of Gatsby
 一方、Gatsbyは五年前に恋したDaisyにAmerican Dreamを見ており、Daisyを取り戻すためならなんでもした。彼にとってDaisyは愛とお金と地位などを全て包括した人生の目標であった。あるときは"`Her voice is full of money,' he said." (p.126) と表現して圧倒されており、そのようなDaisyに見合うため、魅了するため、経済的に成り上がり、物質的な豊かさを身につけ、上流階級のように振る舞おうと努力して大きなパーティーも開いた。
 しかし、彼が望んだことはただの遊びではない。五年前の二人からやり直すことであった。これが彼を死に至らしめたillusionである。Nickが"`You can't repeat the past.´"(p. 117) と諭したとき、Gatsbyはそれを理解しようとはせず、"`Can't I repeat the past?´ he cried incredulously. `Why of course you can!´" (p. 117) と言い張って現実を認めなかった。Gatsbyが"`You want too much.´"(p. 139) でなければDaisyを追いつめることもなかっただろう。過去は過去であると認め、Daisyの考えていたような恋愛関係で満足していれば穏やかに過ごせたかもしれない。最終的には彼女の犯した罪を被ることによって彼女の代わりに殺された。得てして自らvictim of illusionとなったのである。
 彼を死に至らしめたillusionはもう一つある。Daisyが轢き逃げしたのが自分であることを隠し通したがため、そしてTomが浮気をしていたのは自分だということを隠し通したために生じた虚構である。二人のつくりあげたillusionがWilsonをGatsbyのところに導いた。その意味でもGatsbyはvictim of illusionであるといえよう。

Death Quality of the Two
 GatsbyとMyrtleの死で決定的にことなるのは死のqualityだろう。Myrtleの場合、欲望の中に皮肉で無惨な死に方をしたが、Gatsbyは自分の愛する人を守って死んだ。Myrtleが夫に対して憎まれ口を叩きながら、利己的な欲求に突き動かされて飛び出していったのとは対照的に、GatsbyはWilsonに銃を突きつけられたとき、彼は自分の死=Daisyの無事とさえ考えたのではないだろうか。彼はDaisyが事故を起こした後、"He spokes as if Daisy's reaction was the only things that mattered." (p. 150) とNickによって語られているように、Daisyのことだけを気に掛けていた。事情を察したNickに本当のことを聞かれたときも、"`Yes,´ he said after the moment, `but of course I'll say I was.´" (p. 150) と言い、彼女を守ることを当然のこととして考えていた。Daisyの家を見守るGatsbyをNickは"He put his hands in his pockets and turned back eagerly to his scrutiny of the house, as though my presence marred the sacredness of the vigil." (p. 152) と伝えている。彼はsacredな使命感に満ちており、Daisyが必要とするならば彼女が望むように動いただろう。銃を突きつけられたとき、TomがGatsbyのところへ仕向けたのと同じ事ができたとしても、彼はそうしなかった。彼女の罪を被って死ぬことは厭わなかったということが伺える。
 Gatsbyの葬式には父親とNickとOwl-eyesしか来なかったが、神の具現化した者ではないかと考えられるOwl-eyesが"`The poor sun-of-a-bitch,´"(p. 182)と嘆き、"He took off his glasses and wiped them again, outside and in."(p. 182)と大粒の涙を流したのは、彼の正義感や誠実さや信条に神が哀れみを示しているととらえることができる。逆に、パーティーに来ていた大勢の人間がただ一人として出席しなかったのは、Gatsbyが生きた社会の一般の軽薄さ卑情さを大いに表わしている。

Death of Dan Cody
 American Dreamによって死に至った人物としてDan Codyがあげられる。Dan CodyはGatsbyの信頼する人物であり、恩師のような存在であった。しかし、ゴールドラッシュの時に巨額の富を気付いたDan Codyは、Ella Kayeに財産を狙われて殺されたと考えられる。

"It might have lasted indefinitely except for the fact that Ella Kaye came on board one night in Boston and a week later Dan Cody in hospitably died." (p.107)
"And it was from Cody that he inherited money ? a legacy of twenty-five thousand dollars. He didn't get it. He never understood the legal device that was used against him, but what remained of the millions went intact to Ella Kaye."(p. 107)
 この場面では、裏の手で財産を剥奪しようとする人がいたことと対照的に若きGatsbyの無知による純粋さが語られている。
 また、Dan Codyは生涯にわたってGatsbyの傍にあり続けた。Gatsbyの死後、彼の部屋には親の写真は飾ってなかったがDan Codyの写真は飾ってあった。"there was nothing ? only the picture of Dan Cody, a token of forgotten violence, staring down from the wall." (p. 172) Gatsbyは死の直前、何らかのimportant businessに関わっており、その筋で命の危険にさらされることもあり得る状況にいたことがpp. 172-173のWolfshiemの手紙やSlagleの電話などから推測できる。Dan CodyはGatsbyにとって先人であり、Dan Codyのように裏のある富を築いたGatsbyにとって、心の拠り所となるのも、自分の行く末を示唆するのもDan Codyだったのではないだろうか。

Death of Wilson
 Wilsonもまたvictim of illusionの一人である。Myrtleの死に気が狂っていたWilsonは"`God knows what you've been doing, everything you've been doing. You may fool me, but you can't fool God!´"(p. 166) と何かを悟ったような言い方をし、Doctor T. J. Eckleburgの目を見る。"Standing behind him, Michaelis saw with a shock that he was looking at the eyes of Doctor T. J. Eckleburg,." (p. 166) それに気付いたMichaelisが"`That's an advertisement,´"と諭しても、神との交信を深めるばかりであった。"Wilson stood there a long time, his face close to the window pane, nodding into the twilight." (p. 166) この時、彼が自分の中でつくりあげたillusionによって犯人を殺して自分も死ぬというシナリオを描き上げたと思われる。
 WilsonはGatsby同様、TomとDaisyがつくりあげたillusionの犠牲となった。彼は黄色い車をTomの物だと考えて彼らを襲ったが、そのときTomが車の本当の持ち主を教えた。そして、Wilsonが殺めたのは妻の浮気相手でも轢き逃げの犯人でもなく、彼らにぬれぎぬを着せられたGatsbyであった。"`You know what I think of you.´"(p. 185)と言い放ったNickに対してTomは彼の中の真実を語った。

"`He came to the door while we were getting ready to leave, […] He was crazy enough to kill me if I hadn't told him who owned the car. […]´" (p. 185)
"`He run over Myrtle like you'd run over a dog and never even stopped his car.´" (pp. 185-186)
この発言から、Daisyが自分が轢いたことを隠し通しており、事実を誰にも知らせていないことが判明する。
 ひとつの隠し事が、異なる真実をつくりだしている。それがつまり虚構であり、illusionである。TomはGatsbyが運転していたとして疑わなかった。Daisyはそれを都合良く利用した。TomはWilsonにMyrtleの愛人が自分であることを悟られたと思って、または轢き逃げの犯人が自分であると疑われたと思って緊張していた。車の持ち主が犯人だと直結して考えたのはWilsonの軽薄さによる誤解であろうが、周りの人間をミスリードしている責任を二人は実感していただろうか。いや、無感覚であっただろう。それをNickもこう語る。
"It was all very careless and confused. They were careless people, Tom and Daisy ? They smashed up things and creatures and then retreated back into their money or their vast carelessness, or whatever it was that kept them together, and let other people clean up the mess they had made […]"(p. 186)
そして結局、浮気をしていたのが自分であるとは証さなかった。罪のない人間が犠牲になると知っていながら、自分達が安全ならばそれに越したことはないと考える二人の在り方がここで示されている。

Daisy and Tom Survive
 先ほど引用したNickの発言のとおり、DaisyとTomは自分達の起こしたトラブルを全て他の人間になすりつけて自分達はそれまでのように生活を送る。なぜそうなったのか。作中において、Daisyは一貫して主体性のなさを振る舞っていた。主体性がなく純真無垢を振る舞うことは、全ての責任から逃れるという目的に帰着する。Daisyのその性格をTomは"`She does, though. The trouble is that sometimes she gets foolish ideas in her head and doesn't know what she's doing.´"(p. 138) と容認している。
 彼女のこの性格は本作中でしばしば顔を覗かせており、重要なのはTomのその発言があった場面と、Myrtleをひき殺した場面である。そして、彼女には主体性だけではなく実感に欠けており、自己保身が強いことが語られている。Myrtleを避けようとして逆方向からの車に面し再びハンドルを切ったことは咄嗟の出来事であったがゆえともとれるが、その後Gatsbyが説明したDaisyの様子"`I tried to make her stop, but she couldn't, so I pulled on the emergency brake. Then she fell over into my lap and I drove on.´" (p. 151) からすると、強い自己保身が働いていたと思われる。"`She'll be all right to-morrow.´" (p. 151)というGatsbyの発言は、自分がいるから大丈夫になるという彼の期待が含まれていると思われるが、実際Daisyが大丈夫になるとすれば、"she realized at least what she was doing ? and as though she had never, all along intended doing anything at all."(p. 138)でも語られたように、自分は何もしていないという感覚によって支えられるのだろう。
 そして、Tomと一緒に逃げるということは、Gatsbyに全ての罪をなすりつけて自分は無事でいるということを意味する。もしGatsbyに対して愛情の実感を持っていたならば、Tomの提案に頷けないだろう。無理強いをするGatsbyに困り、同時にTomが話して聞かせた過去の愛情によってそれまで抱いていた憎しみが僅かながら浄化された。その直後に事故を起こした。彼女はこのような自分の置かれた立場の中で、自分にとって一番危険の少ない方を選んだと見える。
 一方、Tomは一番現実的な男であるが、Daisyと同じように無感覚であった。愛人の夫と顔を合わせて話を交わす、愛人を公の場に連れて行く、Daisyの親戚であるNickに会わせるといった場面から、彼の無感覚が見てとれる。そして、Tomに愛人がいることがDaisyをヒステリックにさせていることは明らかであったが、Tomに自覚があったようには書かれていない。そして都合のいい場面で"Once in a while I go off on a spree and make a fool of myself, but I always come back, and in my heart I love her all the time."(p. 138)というような発言をする。確かに、彼にとって愛人は愛人に過ぎなかった。それはMyrtleにDaisyの名を呼ぶことを許さなかったこと"´Daisy! Daisy! Daisy!´ shouted Mrs Wilson. I'll say it whenever I want to! Daisy! Dai-!´ Making a short deft movement, Tom Buchanan broke her nose with his open hand." (p. 43) などからわかるが、別の男と争う場面になって明らかにするところに、彼の都合のよさが見てとれる。
 Tomは自己保身的である点でもDaisyと同じである。Wilsonが"`You don't have to tell me what kind of car it was! I know what kind of car it was!´(p. 147)と言ったときのTomの反応をNickは、"Watching tom, I saw the wad of muscle back of his shoulder tighten under his coat. He walked quickly over to Wilson and, standing in front of him seized him, firmly by the upper arms. `You've got to pull yourself together,´ he said with soothing gruffness." (p. 147) と語っているように、彼は自分に目が向かないよう仕向けている。
 二人で逃げることで、Daisyは轢き逃げをGatsbyのせいにでき、Tomも自分の作り出した不祥事を暗に彼に押し付けることができた。二人の頭の中にあったその考えが、Nickの"anybody would said that they were conspiring together"(p. 132)という語りに表れている。

Nick Breaks up with Jordan
 最後にふれておきたいのは、Nickが選んだJordan Bakerとの別れである。これまで登場人物の死とそれにまつわる裏表を見続けてきたNickは、最初保っていたwithin and withoutという主義を次第に捨て去り、Gatsbyのことをsacred vigilと思った時点から更にGatsbyよりの人間になっていった。Nickは、TomにOxford manなのか詳しく聞かれた際に"I was in nineteen-nineteen, I only stayed five months. That's why I can't really call myself an Oxford man," (p. 135)と打ち明け事情を説明する。Nickはそれを聞き、"I wanted to get up and slap him on the back. I had one of those renewals of complete faith in him that I'd experienced before."(p. 135) という気持ちになる。最初にOxford manだと話したときは、代々Oxford manだったと語っていたのに、そのことはまるっきりrenewalして信頼を取り戻したというのであるから、Nickの考え方にも偏りがあるが、このことがあって以来、Gatsbyの正直さ、誠実さ、正義感、一途な想いというものに尊敬の念を抱くようになる。そして反比例的にTomやDaisyに信頼を失い、無神経なJordanにも嫌気がさすようになり、最後には"Angry, and half in love with her, and tremendously sorry, I turned away." (p. 185) と言って別れを告げる。
 Jordanと付き合い始めた頃、Nickは彼女には不誠実さがあると指摘しながら、"It made me no difference to me. Dishonesty in a woman is a thing you never blame deeply ? I was casually sorry, and then I forget."(p. 65) と語っていた。しかしながら、一連の事件を経験するうちにそうとも言えなくなっていったようである。この別れは単にJordan Bakerとの別れというだけではなく、人間の不誠実さ、浮ついた心、無神経、無感覚との決別を象徴しているように思われる。

What did the Author try to say?
 The Great Gatsbyは1925年に出版され、1922年の夏の出来事を書いた作品である。物語中と同じ年、現実の世界ではT. S. EliotのThe Waste Landが発表された。その冒頭の一節"April is the cruelest month." という見方は社会に大きな影響を与え、本作も影響を受けいると指摘されている。T. S. Eliotが四月をそのように表現したのは、第一次大戦後の都市に生きたT. S. Eliotが、このような荒廃した世界に新しい命が生まれ出ることなど残酷この上ないという思いからであった。(英米文学概論後期,獨協大学, 2004年) 一方、Fitzgeraldは"Although Fitzgerald, like Nick Carraway in his novel, idolized the riches and glamour of the age, he was uncomfortable with the unrestrained materialism and lack of morality that went with it."(The Great Gatsby, Wikipedia English, 2007/1/5) と言われているように、抑制のない物質主義やそれに並行するモラルの欠如に対して居心地の悪さを感じていた。彼は本作の中で第一次世界大戦後の物質主義の蔓延した社会と人間模様を描き、Gatsbyという人間を通して現実社会に欠如しているものを伝えようとしたのではないだろうか。

参考文献
Fitzgerald´s Eras Social and Political Backgrounds of the 1920s and 1930s, by Matthew J. Bruccoli, http://www.sc.edu/fitzgerald/essays/eras.html, 2006/12/30
A Brief of Fitzgerald, University of South Carolina, http://www.sc.edu/fitzgerald/biography.html, 2006/12/30
F. Scott Fitzgerald, http://en.wikipedia.org/wiki/F._Scott_Fitzgerald , Wikipedia English, 2007/1/3
The Great Gatsby, http://en.wikipedia.org/wiki/The_Great_Gatsby , Wikipedia English, 2007/1/3
American Dream, http://en.wikipedia.org/wiki/American_Dream ,Wikipedia English, 2007/1/3
Amendment XVIII, http://en.wikipedia.org/wiki/Eighteenth_Amendment_to_the_United_States_Constitution, Wikipedia English, 2007/1/3
語り手, http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%AA%9E%E3%82%8A%E6%89%8B ,Wikipedia 日本語, 2007/1/4
信頼できない語り手, http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BF%A1%E9%A0%BC%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%81%AA%E3%81%84%E8%AA%9E%E3%82%8A%E6%89%8B, Wikipedia 日本語, 2007/1/4


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